伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

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ジャコシカ91

2019-01-08 12:49:33 | ジャコシカ・・・小説
 高志は粗洗いで、隣の仕上げ槽は先輩の50歳年輩の小畑おばさんが受け持つ。

 小畑さんは時々背伸びをすることと、足踏みを繰り返すことを教えてくれた。

 小畑さんはその他にも色々のことを教えてくれる。

 一週間も経つと、厨房で働く人達の身元情報の収集は全て終わっていた。

 聴き取りは、ただ黙って耳を貸しているだけで済むから簡単だ。

 湯気と煙と匂い、それらを一緒くたに掻き混ぜた熱気の中で繰り広げられる人間模様が、ラジオ

のドラマのように耳から入ってくる。

 何が気に入ったのか小畑さんは、高志に話し聞かせ続ける。

 この店に長くいるという彼女は、自分の出番だと言わんばかりに、高志の脇のシンクで仕上げ洗

いをしながら語り続ける。

 彼女は高志の返事を必要としない。

 どうせぼそぼそとした低い高志の声など、聞こえはしないのだ。

 彼女の役目は話すこと、それ自体なのだ。

 それが分かってから高志は、時々彼女を見て話しと関係なく、肯きを返すだけにした。

 彼女は多分、視界のはずれにそんな彼の横顔を捕えているのだろう。

 二人は良い関係なのだ。

 彼女の話しは殆どが右の耳から入り、左に抜けて行く。

 最短距離ですり抜けていくせいか、同じ話しが何度繰り返されても苦にならない。

 彼女はまだボケる歳でもないし、仕事振りも手早く確かだ。

 しかし話しは同じものでも、今初めて話すのだといった熱の入れ方で話す。

 それで高志も毎回、初めての話しだと思って聞く。


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