どんなに怒っても、理や義を振りかざしても虚しい世界の話しなのだ。
優美さんは本当に潰されたのだろうか。
次第に自分と顔を会わすこともなくなり、ついには姿を消してしまった。
しかし彼女には類い稀な才能がある。服飾学校で築いた地歩は失われていない。
だからいずれ再び歩き始め、のし上がってくるに違いない。
何よりも彼女にはこの仕事に対する、消すことのできない情熱がある。今度のブテック「フロー
ラ」の立ち上げで、つくづくそのことの強さを知った。
気が付けば自分はその熱情に引きずられてやって来たのだ。
その彼女が眼の前から姿を消し、突然自分には何もないことに気付かせられた。
そんなはずはないと思いつつも、心の底に拡がる空虚さはどうしょうもない。
思えば自分の心根は邪(よこしま)なのだ。
力は抗いの中から生まれている。
恨みのようでもあり、憎しみかも知れない。そこから生まれる怒りは、いつも何かを攻撃してい
ないと落ち着かない。
気がつけば恋すら忌避している。
優美さんと私の決定的な違いがここにある。
彼女は人を愛し仕事を愛し自分を信じている。
私にはそれがない。
どういう訳かそんな風に出来ている。
いつも見たくもないものを見て、知りたくもないものばかりを識ろうとする。