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セルロイドの英雄

ぼちぼちと復帰してゆきますので宜しくお願いしまする。

【映画】明日へのチケット

2006-11-05 11:00:20 | 映画あ行

"Tickets"
2005年イタリア/イギリス
監督)エルマンノ・オルミ アッバス・キアロスタミ ケン・ローチ
出演)カルロ・デッレ・ピアーネ ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ シルヴァーナ・サンティス フィリッポ・トロジャーノ マーティン・コムストン ウィリアム・ルアン ガリー・メイトランド
満足度)★★★★☆ (満点は★5つです)
シネ・アミューズにて

ローマに向かう国際列車。
大学教授と提携先企業の秘書。将軍の未亡人と彼女に付く事になった兵役中の若者。サッカー観戦の為にスコットランドからやってきた若者とアルバニア難民。
列車をテーマに3人の巨匠が共同監督した”半”オムニバス映画。


『木靴の樹』のオルミ、『桜桃の味』のキアロスタミ、そして今年『麦の穂をゆらす風』でついにパルムドールを獲得したケン・ローチ。
このラインナップ、ものすごくないですか?問答無用の豪華さ。銀河系集団。

名のある監督があるテーマの下に短編を持ち寄るオムニバス作品は多々ありますが、各監督の力の入り具合にバラツキがあったり、思い切った冒険をしてしまう監督がいたりで全体としてまとまりの無い作品になってしまうことが多いように思います。
まあ、こういう作品の場合、観るほうも、作品の完成度なんかよりもそれぞれの監督の個性を楽しんで観たりしているわけですが。

しかし、この『明日へのチケット』は一味も二味も違う。各監督の個性を味わうのと同時に、作品の完成度も楽しめる。

老境に差し掛かった大学教授の、ある女性に出会ったことによって呼び覚まされる朧な想い出。
ナイーブだったあの頃を思い出した彼のささやかながら勇気ある行動。
決して饒舌ではありませんが、というかだからこそ深い余韻を残すオルミ編。

絵に書いたようなオバサンの図々しさを発揮する将軍の未亡人に翻弄される人々をユーモラスに描きながら、そこにしっかりと市井の人々への愛情をにじませるキアロスタミ編。

普段は地元のスーパーで働き、セルティックを応援することが唯一の生き甲斐。
そんなスコティッシュ庶民が思いがけず移民問題に直面し、アルバニア人家族の運命を決めなければならなくなる―。
移民問題は他人事ではない、という重いテーマをあくまでも爽やかに直球勝負で描くケン・ローチ編。

それぞれの監督が自分の手癖をしっかり主張しながらリレーのように次の監督につないでゆくこの作品ですが、その流れが全然不自然ではない。
静かなオルミ編からユーモラスなキアロスタミ編を経由してローチの感動編に至る。
三人三様の作風ながら、全ての作品に共通する暖かい人間賛歌が快い後味を残してくれます。

しかしケン・ローチ、絶好調ですね。
もうすぐ公開の『麦の穂をゆらす風』も楽しみになってきました。
コメント (13)
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【映画】X-Men ファイナル・ディシジョン

2006-09-18 17:41:44 | 映画あ行

"X-Men The Last Stand"

2006年アメリカ
監督)ブレット・ラトナー
出演)ヒュー・ジャックマン ハル・ベリー ファムケ・ヤンセン アンナ・パキン ジェームズ・マーズデン パトリック・スチュワート イアン・マッケラン ベン・フォスター ショーン・アシュモア アーロン・スタンフォード エレン・ペイジ ケルシー・グラマー
満足度)★★★★☆ (満点は★5つです)
スカラ座にて

前作でジーン(ファムケ・ヤンセン)を失ったX-Men。
特に結婚を約束していたサイクロップス(ジェームズ・マーズデン)は自暴自棄に陥っていた。
そんなとき、プロフェッサーX(パトリック・スチュワート)が運営する”恵まれし子供たちの学園”を訪れたミュータント省大臣ビースト(ケルシー・グラマー)は、ワージントン研究所がミュータントを普通の人間に戻すという新薬「キュア」を開発したことを告げる。
このニュースはミュータント界に大きな衝撃を巻き起こす。
そして、この新薬を人類のミュータントに対する挑戦と取ったプロフェッサーXの宿敵マグニートー(イアン・マッケラン)はミュータント達を扇動し、人類への蜂起を目論む。

監督がブライアン・シンガーからブレット・ラトナーに交代したX-Men最終作。
ティム・バートンからジョエル・シューマッカーに監督が代わった途端ペラペラな作品になってしまったバットマン・シリーズの例もありちょっと心配しつつ「まあ前2作も観たからまあこれも」ということで観にいった本作。

うむ、これ、個人的には前2作よりもむしろ好きです。
基本的にウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)を主人公にしつつも、集団劇ということで各キャラクターがどれだけ立っているか、が作品の面白さに大きく関わってくると思うわけですが、そういう点ではこの3作目が前2作よりもクッキリしていたように思います。
まあ、3作目ですから、自分が各キャラクターに慣れただけなのかもしれませんが。

特にハル・ベリー演ずるストーム。
あの人やこの人が亡くなって、リーダーたらんとする学級委員長的な佇まいが美しく。いやあ、このオスカー女優、実はこのシリーズでしか観たこと無いんですが、今作で相当好きになりました。
白目はコワいですが。

アクションもドラマもてんこ盛りなのに、上映時間も1時間45分と潔く。
最近のこのテの作品、平気で3時間近くいっちまい、疲れてしまうこともあるのですが、これだけ人が死んだり捨てられたり復活したり忙しくドラマが展開するのにキッチリ2時間以内に収めたのも好感度大。

これだけのドル箱作品、これで終わりは勿体ないということなのか最終作と言いながら続編への色気もバッチリなラスト・シーン。これがあざとく観えずにむしろイイ余韻を残してくれたように思えてしまいました。

ウルヴァリンやアイスマンのスピンオフ作も期待ですが、この本シリーズも勿体ぶらずにバシバシ作っちゃってほしいものです。
コメント (6)
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【映画】王と鳥

2006-08-14 21:59:54 | 映画あ行

"Le Roi et l'Oiseau"
1980年フランス
監督)ポール・グリモー
満足度)★★★☆ (満点は★5つです)
シネマ・アンジェリカにて

孤独な王様シャルル5+3+8=16世の支配する独裁国家タキカルディ王国。
天空高く聳え立つその居城の最上階には3枚の絵が飾られている。
美しい羊飼いの娘、逞しい煙突掃除の青年、そして意地の悪い王様自身の肖像画。
愛し合う娘と青年は王様が寝静まった夜更けに絵を抜け出すが、嫉妬した肖像画の中の王様が彼らを追いかける。 2人は城の屋根に住む鳥の助けを借りて地下に逃げ込むが・・・。
1952年に『やぶにらみの暴君』として公開された作品に納得のいかなかったグリモー監督がその30年後に大幅に修正、再映にこぎつけた作品。


高畑勲、宮崎駿が多大な影響を受けた、という枕言葉と共に紹介されるこの作品。
ジブリ作品にはあまり興味が無いし、この宣伝文句だけだったらまず観にいかなかったと思います。
じゃあその決め手はなんだったのかというと、
予告編で観た映像の美しさ、というか力強さ。
なにしろ空気感が最近のCGアニメーション作品とは全然違うんですよね。

昨今のCG作品というのは、いかに効率的にリアルなアニメーション映像を作るか、という方向にその技術を傾注しているような気がするのですが、その結果、作り出される映像に随分人間味がなくなってきてるように思います。
量産されるそんなCGアニメ作品、過剰な宣伝も相俟って最近本当に食傷気味でもあって。
『カーズ』なんて興味も無いのに観た気になってしまう位の露出量だったですもんね。

そんな気分の中観たこの作品の予告編、やけに新鮮だったんです。絵の中から抜け出す娘と青年。その動きは素朴で優雅で、この作品に対する製作陣の強い愛情が感じられて。

肝心の中身なのですが、もともとが第2次大戦の戦禍の記憶も生々しい1952年に作られただけあって独裁政治に対する隠喩に満ちたなかなか辛口の作品です。
王様の造形はチャップリンの演じた独裁者を思わせるところもあったり。
物語の最後、この王国はライオンたちの決起に端を発した革命により瓦解するのですが、そもそもライオンたちは鳥の適当な演説に丸め込まれて騒ぎ出しただけなんですよね。
そういうちょっと捻くれた革命観(ソ連の共産革命を意識?)もチャーミングな、色々深読みできる作品。

最後になりましたが、併映された小品『小さな兵士』の静かな反戦メッセージも心に沁みます。
コメント (2)
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【映画】インサイド・マン

2006-07-18 22:58:56 | 映画あ行

"Inside Man"
2006年アメリカ
監督)スパイク・リー
出演)デンゼル・ワシントン クライブ・オーウェン ジョディ・フォスター クリストファー・プラマー ウィレム・デフォー キウェテル・イジョフォー
満足度)★★★★ (満点は★5つです)
みゆき座にて

マンハッタン信託銀行に押し入った銀行強盗。
人質を取って行内に立てこもった彼らを説得するために、NY市警のフレイジャー(デンゼル・ワシントン)が現場に送り込まれる。
強盗団のリーダー・ダルトン・ラッセル(クライブ・オーウェン)の巧妙なやり口に手を焼き焦燥感を募らせるフレイジャー等警察達。そんな彼らの前に、銀行の会長アーサー・ケイス(クリストファー・プラマー)の特命を受けた弁護士マデリーン・ホワイト(ジョディ・フォスター)が現れる。
彼女の目的は?そして強盗団が本当に狙っていたモノは何だったのか?


インディーズ系の監督がメジャー映画を撮ると、途端にその人が味が消えてしまうパターンってありませんか?・・・と言って何人か例を挙げようとするとすぐに思いつくのは『X-MEN』シリーズのブライアン・シンガーくらいなんですが。
つまらないわけではないんだけど、その監督の癖を目的に観に行くと肩透かしを食ってしまう。

スパイク・リー初のメジャー作品である本作にも、そんな匂いを感じてしまい、あんまり期待しないで肩の力を抜いて観賞した訳ですが、いやいや、これはなかなかのサスペンス風味ではないですか!

強盗事件の主犯格の独白から始まるこの作品。
独房のような部屋で如何に自分が完全犯罪を成し遂げたかを語るクライブ・オーウェン。そこはどこで、どういうシチュエーションで話をしているのかさっぱりわからない。この冒頭から「むむむっ」と引き込まれました。
この俳優さん、『シン・シティ』の作りこまれた映像の中では僕はさっぱり印象に残らなかったのですが、良い俳優さんなんですね。ちょっと気だるい感じの渋い声といい、疲れた感じの渋い風貌といい、ハード・ボイルドな味。

肝心のプロットなんですが、「人質に自分達と同じ格好をさせてしまう作戦」や「盗聴器に向かってマイナー言語の録音を聞かせて混乱させる作戦」、そしてラストのオチなど、よく考えると若干ムリがある。
現実に実行するのはまず不可能でしょう。
だけど、「映画」という枠組みの中では十分納得できる仕掛けだし、編集の巧みさと相まって僕はかなり楽しみました。

スパイク・リーの特に最近の作品にはそれほど魅かれなかったのですが、本作は久々のヒットではないかと。クスッと笑える小ネタも散りばめれた良質のエンタテイメント作品でありました。
コメント (8)
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【映画】アンリ・カルティエ=ブレッソン 瞬間の記憶

2006-06-06 22:22:56 | 映画あ行


"Henri Cartier-Bresson - Biographie d'un Regard"

2003年スイス/フランス
監督)ハインツ・バトラー
出演)アンリ・カルティエ=ブレッソン エリオット・アーウィット アーサー・ミラー イザベル・ユペール
満足度)採点無し
ライズXにて

その作品集の題名「決定的瞬間(the decisive moment)」で特に知られる20世紀写真界の巨匠アンリ・カルティエ=ブレッソン(1908-2004)。「写真撮影の妨げになる」という理由で人前に出ることを嫌った彼が最晩年にはじめて公に語った写真への思い。
アンリ・カルティエ=ブレッソンと彼に関わった人々へのインタビューを中心にしたドキュメンタリー作品


あれは浪人していたときだったと思うのですが、大晦日に模擬試験があったんです。
その日は朝から雨が降っていて、ただでさえやる気の無かった僕は相当憂鬱な気分で試験に向かったのを覚えています。
さて、試験も終わりボーっとしながらの帰宅途中、夕方の4時頃だったでしょうか、僕はバスに乗っていました。
そのとき丁度雨が止み、雲の向こうからサッと陽がさして、バスに乗っていたほぼ全ての人が思わずそっちに顔を向けたのです。それは一瞬のことで、すぐに皆また読んでいた本やら雑誌やらに視線を戻したりしていたのですが、この本当に何てこと無い瞬間が何故か忘れられなくて。
平和で暖かくて、そして少し物哀しく。
受験勉強で憂鬱な毎日を送っていた僕には、すごく完璧に平和な瞬間に思えたわけです。

何が言いたいかというと、カルティエ=ブレッソンが言う「決定的瞬間」というのは、何もロバート・キャパのような兵士が弾丸を受けた瞬間を捉えたショッキングな写真やノルマンディー上陸作戦を撮った歴史的な写真のみに見られるわけではなく、若かりし頃自分が感じたような、日常の中にもピッと潜んでいるのだ、ということなのだと思います。

カルティエ=ブレッソンはそんな瞬間を執拗に待っていたんでしょうね。
そして、「ウィ、ノン、ノン、ノン、ウィ、今だ!パシャ!」なんてシャッターを押していたんだと思われます。その写真に現れるのは若いときの絵画教育に裏打ちされた完璧な構図であり、人々の素の表情や仕草であり。

すいません、この映画そのものについて何も書いてないんですが、この映画最後の3分の1くらい寝てましまいました。
映画で寝ることって僕はほとんど無いんですが、前の週に出張や飲みが重なったり、前の日にゴルフに行ったりで疲れが溜まっていたのかついウトウトと。
これではこの作品に良いとか悪いとか言うのは失礼だろう、ということで今回はあえて採点無し、ということで・・・。

コメント (20)
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【映画】美しき運命の傷痕

2006-04-09 00:39:11 | 映画あ行

"L'Enfer"
2005年フランス/イタリア/ベルギー/日本
監督)ダニス・タノヴィッチ
出演)エマニュエル・ベアール カリン・ヴィアール マリー・ジラン キャロル・ブーケ ジャック・ペラン ジャック・ガンブラン ギョーム・カネ ジャン・ロシュホール
満足度)★★★☆ (満点は★5つです)
銀座テアトルシネマにて

夫の浮気に苦しむ長女ソフィ(エマニュエル・ベアール)、介護施設に入院している母親を献身的に見舞う孤独な次女セリーヌ(カリン・ヴィアール)、妻子ある年上の男を激しく愛する三女アンヌ(マリー・ジラン)。
それぞれに悩みを抱える三姉妹の人生には、父親(ミキ・マノイロヴィッチ)の起こしたある事件と、彼に対する母親(キャロル・ブーケ)の仕打ちが大きな影を落としていた。
ポーランドの名匠故クシシュトフ・キシェロフスキの原案を『ノー・マンズ・ランド』のダニス・タノヴィッチがメガホンを取り映画化。


『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』が大人の男の映画だとしたら、今作は完全に大人の女の映画ですね。いや、内容もテーマも全然違うし半分以上こじつけなんですが。あえて言えば、友情に生きる(生きたいと思う)のが男なら、愛情に生きる(生きたいと思う)のが女、というか。そこから逃れられないというか。いささかステレオタイプなものの見方だし、女性からしたら「何言ってるの?」ということなのかもしれませんが、少なくとも僕は今作を観てそんなことを思いました。

なにしろ長女と三女のほとんど狂気すれすれの愛情表現合戦がすごい。夫の愛人の部屋に忍び込び眠っている彼女の匂いを嗅ぐ長女、愛人の妻と娘にあてつけのように恋愛相談をする三女。女優陣の演技がまたやけにうまいものだから、妙な説得力があって。
こういうウェットな演技はやっぱりヨーロッパの、というかフランスの女優さんはすごく合いますね。ドン引きしてしまいそうな場面なんだけど、決してエレガントさを失わない。これがアメリカ映画だったら、ほとんどサイコ・スリラーになってしまったと思います。

この映画のキモは、そんな三姉妹の行動、全て過去の家族の悲劇が遠因になっているという設定。彼女等の狂気を帯びた振る舞いには、全て異常かつショッキングなある事件が影を落としているわけです。
この事件の陰鬱なトーンがこの映画の基調を形作っているし、彼女等の狂気すれすれの行動に説得力を持たせている。

故キシェロフスキは女優の見せかたがとてもうまかったと思うのですが、今作の3姉妹を演じた女優陣もそれぞれにとても魅力的でした。動物的なエマニュエル・べアール、母性を感じさせるカリン・ヴィアール、無垢なマリー・ジラン、そして無言の演技が強烈なキャロル・ブーケ。
特に、次女を演じたカリン・ヴィアールが電車でまどろむ場面、良かったですね。この重苦しい作品の中で唯一といっていいホッとできるシーンでした。

それと、蛇足ではありますが、車掌さんには今後是非頑張ってほしいです。
どちらかいうと影の薄い男性キャストの中で、あんたがいちばん光ってた!
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【映画】アメリカ、家族のいる風景

2006-02-26 20:53:10 | 映画あ行

"Don't Come Knocking"
2005年ドイツ/アメリカ
監督)ヴィム・ヴェンダース
出演)サム・シェパード ジェシカ・ラング ティム・ロス ガブリエル・マン サラ・ポーリー フェアルーザ・バーク エヴァ・マリー・セイント
満足度)★★★★☆ (満点は★5つです)
シネスイッチ銀座にて

往年の西部劇俳優ハワード(サム・シェパード)は撮影現場を抜け出し、30年ぶりに母親(エヴァ・マリー・セイント)の住むネヴァダ州エルコに向かう。
久しぶりに会った母親から告げられたのは、駆け出しの頃付き合った女性ドリーン(ジェシカ・ラング)との間にできた子供の存在。興味を持ったハワードは、彼女と知り合った街・モンタナ州ビュートへと車を走らせる。

最近、『語るに足る、ささやかな人生』(駒沢敏器著 NHK出版)という旅行エッセイを読みました。著者はアメリカに文字通り点在する小さな街に魅せられ、そんなスモールタウンだけを気ままに辿る、という実に贅沢な旅をします。
そこに立ち現れるのは、時代の流れに取り残されたような古ぼけた町並み。目抜き通りにも人気はなく、開いているわずかな商店でも店員は手持ち無沙汰に雑誌に目をやっている。
何とも寂しい風情なのです。
だけど、そこにはしっかりと根をはって生活する人たちがいて、地域コミュニティーを形作って生きている。
強権を振りかざすパワフルなアメリカでも、覇権を目指すITアメリカでもないもう一つのアメリカ。

僕がこの旅行記を読んで感じたのは、なぜか、郷愁、といっても良いような感覚でした。どの街も行ったこともないし、聞いたこともないのに。
なぜか懐かしく、そして少し寂しい気持ち。

そしてこの、まあスモールタウンと言って良い街を舞台にした映画を観た後感じた感覚も似たような感じでした。
なぜか懐かしく、そして少し寂しい気持ち。

この映画の主人公ハワード、無軌道な人生を30年も送った末に欲しかったのは、ひとつの街に根を張って、ささやかながらも確かな生活だったのだと思います。そのために、息子を訪ね、その母親に求婚する。
だけど、息子には息子の生活があり、母親には母親の、しっかりとした生活がある。そこに余所者である自分が今更入り込む余地は無いんですよね。
それをわかってしまった主人公は、ビュートを去り、撮影現場に連れ戻されてゆく。息子と、そして娘との確かな繋がりを胸にしっかりとしまって。

・・・そう、このハワード、娘(サラ・ポーリー)もいるのです。この娘、『ランド・オブ・プレンティ』で言えばラナ的な存在。全てを許し、主人公を癒しへと誘う天使のようなキャラクターです。これをサラ・ポーリーが爽やかに演じています。
いいですね、この女優さん。どこか現実感が無いような、だけどしっかりしているような、微妙な感じがよく出ていました。

Tボーン・バーネットのカントリーを基調にしたほろ苦い音楽もまた絶妙にマッチした、素晴らしい映画です。『クラッシュ』に続いて、今年のお気に入り映画2本目!
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【映画】ウォーク・ザ・ライン 君につづく道

2006-02-19 22:00:52 | 映画あ行


"Walk the Line"

2005年アメリカ
監督)ジェームズ・マンゴールド
出演)ホアキン・フェニックス リーズ・ウィザースプーン
満足度)★★★☆ (満点は★5つです)
シネプレックス幕張にて

9月25日記)
うーむ、記事が消えてしまいました・・・。
『親密すぎる打ち明け話』に続いてです。
ということで、管理人の感想はコメント欄を見て想像してみてくださひ。
すんません。

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【映画】オリバー・ツイスト

2006-01-29 20:16:46 | 映画あ行


"Oliver Twist"

2005年フランス/イギリス/チェコ
監督)ロマン・ポランスキー
出演)バーニー・クラーク ベン・キングスレー ジェイミー・フォアマン ハリー・イーデン リアン・ロウ エドワード・ハードウィック
満足度)★★★☆ (満点は★5つです)
ワーナー・マイカル・シネマズ市川妙典にて

19世紀末のイギリス。救貧院から葬儀屋に貰われたオリバー(バーニー・クラーク)は辛い仕打ちに耐えられず家出、ロンドンに向かう。
ロンドンに着いたものの疲れきって路傍に横たわるオリバーを助けたスリの少年アートフル・ドジャー(ハリー・イーデン)は、彼をスリ団の元締めフェイギン(ベン・キングスレー)の元に連れてゆく。フェイギンの元でスリの技術を覚えたオリバーは、ドジャー等とともにロンドンの街に出るが・・・。
原作はチャールズ・ディケンズの古典的名作小説。


チャールズ・ディケンズの小説、ひとつも読んだことは無いのですが、この映画を観る限り、すごいストーリー・テラーだと思いました。当時のイギリス人が熱狂し、それが古典として現代まで残っているのがよくわかる。

オリバー少年に次々と降りかかる苦難。魅力的な登場人物達。物語の中に無理なく溶け込んでいるちょっと皮肉な社会批判。物語としての基本的な魅力がガッツリ詰まっている小説なのだろう、と想像します。

というように、原作への興味は俄然湧いてくるこの映像作品なのですが、じゃあ映画も文句なしのマスターピースになるのかというとそうとは限らない訳です、当たり前ではありますが。
この映画、確かに面白いところは沢山あります。フェイギンを演じたベン・キングスレーを始めとした芸達者な役者達、活気に溢れたヴィクトリア期のイギリスの街並みの様子、そして何よりも物語のハラハラする展開。全然悪くない。だけどどこかが物足りない。

僕にとってその物足りなさがどこから来るのか?と考えると、肝心のオリバー少年にあまり個性が感じられなかったからなのかもしれません。オリバー君は「皆を惹きつけずにおれない無垢で真っ直ぐな少年」という設定で、だからこそオリバーを巡って物語がドライブしてゆくのだと思うのですが、どうもそれほどの魅力、というか個性が感じられなかった。
結果として、魅力的な物語ではあるのですがどこか説得力の薄い映画になってしまったような気がします。

多弁でアクの強い他の登場人物と比べると、オリバーのセリフってもともと少ないんですよね。それを存在感だけで魅せることが出来る子役俳優ってそうはいないと思います。バーニー・クラーク君だって決して悪い俳優だとは思わないし、むしろ雰囲気のある子だとは思うのですが、ちょっと難しすぎたと思います。

蛇足ですが、この映画の音楽結構良かったです(音楽・レイチェル・ポートマン)。
メイン・テーマをバックにオリバーがロンドンに向かって田舎道を歩く場面なんか素晴らしかったなあ。

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【映画】ある子供

2006-01-14 12:36:38 | 映画あ行


"L'Enfant"
2005年ベルギー/フランス
監督)ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演)ジェレミー・レニエ デボラ・フランソワ ジェレミー・スガール
満足度)★★★★ (満点は★5つです)
恵比寿ガーデンシネマにて

生まれたばかりの赤ん坊を連れて退院したソニア(デボラ・フランソワ)がフラットに帰宅してみると、そこには見知らぬカップルがいた。お金に困った恋人のブリュノ(ジェレミー・レニエ)が又貸ししたのだった。
彼女はやっと街角でブリュノに出会うことが出来たが、引ったくりをするため待ち伏せをしている彼に自分達の赤ん坊を見せてもほとんど上の空、何の感興も見せない。
その日は簡易宿泊所に泊まった彼ら。ブリュノは盗品を捌くために深夜の街に出るが、そこで故買人から「赤ん坊を高い金で引き取る者がいる」という話を聞く・・・。
2005年カンヌ映画祭パルムドール受賞作。


金曜日の夜に仕事が終わってから映画館に駆け込みました。公開してから日にちも経っているし空いているのかと思ったのですが、結構人が入っていました。うーん、流石ダルデンヌ兄弟(彼らの作品初めて観たんですけどね・・・)!

こういうシチュエーションで映画を観るのって結構難しくて、というのは、30分位前まで仕事をしていたものだから、頭の切り替えがうまく出来ない。映画が始まって30分位は映画館の暗闇の空気感にうまくフィット出来なくて、自分だけ置いていかれてるような気がしてしまうんです。
まあ、そこからジワジワとスクリーンの向こうに引き込まれてゆく感覚も悪くないんですけどね。

僕にとってのこの映画のキモは、何と言ってもエンド・クレジットも含めたラスト・シーンです。そこまで続いてきたやり切れない展開が最後に全て正当化されてしまう、そんな静かで深い余韻を与えてくれる素晴らしい終わり方。

主人公の20歳の青年、というか少年ブリュノは毎日をほぼ惰性で生きています。そこには何の感動も無いし、ブリュノの表情も終始無表情。唯一恋人のソニアとじゃれあっているときだけは楽しそうなのですが、その楽しさというのは動物がじゃれあっているような趣で、そこには人間的な心の動きは薄いような気がします。そんな、感情が欠落した空っぽの彼だから自分の赤ん坊だって当たり前のように手放すことができる。そしてそれを平然と彼女に話すことが出来る。

ラスト・シーンが素晴らしいのは、そんな空っぽの彼に、ゆっくりと感情が宿ってゆくのが感じられるからなのだと思います。赤ん坊を売ったときにも見せなかった感情の爆発。
このシーンにパルム・ドールだったんでしょうね。

ケン・ローチがドグマ・メソッドで撮ったような映画。
地味かつ良質な社会派映画なのですがそれにちゃんと評価を与える。
カンヌ映画祭の気概を感じます。

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【映画】ウィスキー

2005-12-14 00:14:32 | 映画あ行

"Wisky"

2004年ウルグアイ/アルゼンチン/ドイツ/スペイン
監督)フアン・パブロ・レベージャ パブロ・ストール
出演)アンドレス・パソス ミレージャ・パスクアル ボルヘ・ボラーニ
満足度)★★★★★ (満点は★5つです)
DVDにて

ウルグアイで親から譲り受けた小さな靴下工場を営む独り者の兄ハコボ(アンドレス・パソス)とブラジルに渡って妻子ももうけ幸せに暮らす弟エルマン(ボルヘ・ボラーニ)。
エルマンが久しぶりに帰郷することになり、独り者であることを恥じたハコボは工場の従業員マルタ(ミレージャ・パスクアル)に弟がいる間だけ夫婦の振りをするよう頼む。


ウルグアイの映画が日本で紹介されるのは初めてのことだそうです。それだけでとても興味深いのですが、この映画はそういう興味を超えて味わい深い面白い作品です。

映画の冒頭、車のフロント・ガラス越しに見えるまだ夜も明けきっていないモンテビデオの街。やがて車は薄暗い、そしてくたびれた風情の街の中に滑り出してゆきます。運転しているのはハコボ。いつも通りの単調で冴えない一日がまた始まることが暗示されます。
冴えないレストランで冴えない朝食を摂り、冴えない女性従業員(マルタ)が待つ冴えない靴下工場に通う。いつも時間通り。その細かい仕草までが測ったように毎日繰り返される。
この感じがすごく好もしいんです。
毎日繰り返されることによって洗練の域に達しているかのごとき一挙手一投足が、ものすごく心地良い。いさぎよい。

この、ある意味調和した生活に波紋を起こすのが弟エルマン。ブラジルで成功した彼に見栄を張るべくマルタに夫婦の振りをすることをお願いするハコボ。ここからどこまでも静かな心理劇が始まります。
うきうきするマルタ。
マルタに対して感情が揺れ動くハコボ。
この静かで慎ましやかな二人の心の動きがセリフで語られることはありません。あくまでも微妙な仕草や表情から漠然と二人の心の動きを読み取るしかありません。
この慎ましやかさが、すごくチャーミングです。

余韻を残すラスト・シーンと言い、抑えに抑えた演出と言い、そこはかと漂うユーモア感と言い、僕にとっては文句のつけようのない作品です。
今年観た中では間違いなく上位に入る、素晴らしい映画。
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【映画】ヴェニスの商人

2005-11-20 00:14:13 | 映画あ行



"The Merchant of Venice"

2004年アメリカ/イタリア/ルクセンブルグ/イギリス
監督)マイケル・ラドフォード
出演)アル・パチーノ ジェレミー・アイアンズ ジョセフ・ファインズ リン・コリンズ
満足度)★☆ (満点は★5つです)
シネプレックス幕張にて

16世紀末のヴェニス。ポーシャ(リン・コリンズ)に求婚する為にまとまった金が必要になった没落貴族ヴァッサーニオ(ジョセフ・ファインズ)は、親友である商人アントーニオ(ジェレミー・アイアンズ)に借金を頼む。しかし、所有する商船が帰港するまで自分では金を工面出来ないアントーニオは、ヴァッサーニオの代わりにユダヤ人の高利貸シャイロック(アル・パチーノ)から借金をする。ユダヤ人差別に対する積年の恨みを持つシャイロックが担保として要求したのは、アントーニオの肉1ポンドだった。
もちろん原作はシェークスピアの有名戯曲。


僕はこの映画、ただただ不快でした。

元々原作戯曲が書かれたのはユダヤ人が大っぴらに差別されていた16世紀。原作でもシャイロックは強欲な高利貸=極悪人として描かれていたそうで、それでも全然違和感が無かったのだと思います。当時の時代背景の中では、気の利いた喜劇として成り立っていたんでしょう。

そんなシャイロックが、差別に苦しむ悩めるユダヤ人として演じられるようになったのは19世紀以降のようで、この映画もその流れに沿って人物設定がされています。まあ当然ですよね。今、シェイクスピアの時代の価値観のまま映画化するのはあまりにも無神経すぎる。

ただ、そうしてしまうと、物語に無理が出てきてしまうんですよね。どう考えてもシャイロック、一方的な被害者ですよ。少なくともこの映画を観る限りは。
だいたいヴァッサーニオなんて放蕩を重ねて財産を失った挙句に金持ちの娘に目をつけた抜け目の無い遊び人に過ぎない。そんな不純な動機のヴァッサーニオの為にシャイロックに借金を頼みに行ったアントーニオにしても「お前を軽蔑してるけど金は貸せ」ですからね。上から目線。それは肉1ポンドくらい要求されますよ。

この映画の不快なところは、それでもシャイロックもアントーニオもヴァッサーニオも皆等しく、欠点はあるが良い人間として描こうとしたところ。有名なトンチ裁判のシーンなんてイライラしてました。

この有名戯曲が戦後一回も映画化されなかった理由が良く分かりました。当時の偏見を前提とした戯曲、現代の倫理観で焼き直すにはちょっと難しいと思う。

蛇足ですが、アル・パチーノのシャイロックは名演です。

名演すればするほどイライラが募る、というジレンマはありますが・・・。

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【映画】インサイド・ディープ・スロート

2005-11-18 23:47:43 | 映画あ行


"Inside Deep Throat"

2005年アメリカ
監督)フェントン・ベイリー&ランディ・バルバート
出演)ジェラルド・ダミアーノ ハリー・リームズ リンダ・ラヴレイス
満足度)★★★ (満点は★5つです)
ヴァージン・シネマズ六本木にて

1972年にアメリカで公開されたハードコア・ポルノ映画「ディープ・スロート」。社会現象化し大ヒットを記録したこの作品は、一方で性倫理をめぐる論争をアメリカで引き起こし各州で次々と上映禁止、遂には主演男優が逮捕される羽目になる。
この映画の製作関係者達へのインタヴューを中心に当時の狂騒に迫るドキュメンタリー映画。


トマス・アンダソンの映画「ブギーナイツ」でも描かれていたポルノ映画全盛期、凄かったんですね。何しろこの「ディープ・スロート」の興行収入は6億ドルを超えており、この数字は「タイタニック」以上なのだそうです。この数字が何故おおっぴらにならないかというと、その利益の殆どが興行を仕切ったマフィアの懐に入ってしまったから。
こんな大ヒット作を作った監督も出演者もほとんどその分け前に預かっていない、といういかがわしい世界です。その上裁判にまで巻き込まれ関係者は相当苦労したと思うのですが、このドキュメントを観ると意外と皆サバサバとしてるんですね。
むしろ素直に懐かしがっている。

それは、この時代にポルノを作るということが、カネもコネも無い駆け出しの映像作家にとっての手っ取り早い創造行為として機能していたからなんでしょうね。
保守的な社会に対する抗議、という気負いももしかしたら合ったかもしれない。

ただ、半ば素人が寄ってたかって作った映画ですから、クオリティーは相当低かったと思います。このドキュメントの中でも「ディープ・スロート」の一部を観ることが出来ますが、かなりヒドイ。監督のダミアーノもインタヴューの中でそれは認めています。

ヒット映画を作るのに作品のクオリティーは必ずしも必要無い、宣伝やタイミング次第だ、という好例がこの「ディープ・スロート」だったんですね。このドキュメンタリー映画を国内配給したのはトルネード・フィルムなのですが、何やら通じるものがあるような・・・。

 

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【映画】ALWAYS 三丁目の夕日

2005-11-12 23:53:56 | 映画あ行

2005年日本
監督)山崎貴
出演)吉岡秀隆 堤真一 小雪 薬師丸ひろ子 堀北真希 三浦友和
満足度)★★★★☆ (満点は★5つです)
TOHOシネマズ市川コルトンプラザにて

昭和33年、夕日町三丁目。自動車修理工場鈴木オートを営む鈴木則文(堤真一)とトモエ(薬師丸ひろ子)夫妻は、修理工として集団就職で青森から上京してきた星野六子(堀北真希)を受け入れる。
一方、鈴木オートの向かいで駄菓子屋も営む三文小説家茶川竜之介(吉岡秀隆)は、酔った勢いで、憧れの飲み屋の女将ヒロミ(小雪)から身寄りの無い子供古行淳之介(須賀健太)を押し付けられてしまう。
原作はビッグ・コミック・オリジナル誌上にて連載中の西岸良平の漫画。


もう、冒頭のシーンで昭和33年の世界に一気に持っていかれます。
テレビの到着を楽しみにした鈴木家の一人っ子一平(小清水一輝)が友達と鈴木オートに駆け込む。テレビがまだ来ていないことを知って落胆するも直ぐに気を持ち直し模型飛行機を持って外へ飛び出す。一平が飛ばした飛行機は路地を飛び出して大通りへ。そしてカメラが引いてゆくとそこには建設中の東京タワーが・・・。
ここまでが(多分色々処理しているのでしょうが)ワン・カット。
このオープニングは素晴らしい。オーソン・ウェルズもびっくりです。

映画の内容も、堂々のオープニングに負けない堂々の昭和33年ファンタジー。この時代を知らない僕ですらノスタルジーを感じます。「いつか会社をでっかくしてやる」と意気込む鈴木オートの社長や、作家としての成功を夢見る駄菓子屋の主人。金は無くとも希望と人情に溢れた昭和の夢。

日本の近過去を扱った映画で時代考証もしっかりしていそうだし、CGをうまーく使った舞台装置も説得力があるのに手触りはなぜかフィクショナルです。それは多分、この映画(原作も)が指向しているのが現実の記録なのではなく、この時代の理想化にあるからなのだと思います。
だから、老若男女みんなこの映画にすっと入っていける。
横浜のラーメン博物館のような理想の昭和の中で笑ったり泣いたりすることが出来る。
箱庭の中の美しい昭和33年。

子役も含めて俳優陣もみんな好演しているし、文句なく素晴らしい映画です。
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【映画】アララトの聖母

2005-10-19 22:21:38 | 映画あ行


"Ararat"
2002年カナダ/フランス
監督)アトム・エゴイヤン
出演)デビッド・アルペイ シャルル・アズナブール アルシネ・カンジアン クリストファー・プラマー
満足度)★★★★ (満点は★5つです)
CSにて

第1次大戦中にトルコ人によって行われた域内アルメニア人への大規模なジェノサイド。
このジェノサイドを逃れてアメリカに渡った抽象画家アーシル・ゴーキーの研究をするアルメニア系カナダ人大学教授アニ(アルシネ・ガンジアン)は、やはりアルメニア系のフランス人監督エドワード・サローヤン(シャルル・アズナブール)が取り組むこの史実(トルコ政府は認めていないが)の映画化の顧問に就く。一方、撮影の手伝いをするようになったアニの息子ラフィ(デビッド・アルペイ)は、自分たちのルーツを見つめなおす為にトルコに渡る。
現在に生きる3人のアルメニア系の人物を通して、当時そこで何があったのかを告発するアトム・エゴイヤン監督(自身もアルメニア系カナダ人)の力作。


劇中、ラフィとトルコ系カナダ人アリ(エリアス・コーティアスが好演)の間で、以下のようなやり取りがあります。


アリ 「なあ、俺はここ(カナダ)で産まれた。お前もそうだろ?」
ラフィ 「そうだけど...」
アリ 「ここは新しい国だぜ。だからそんなクソみたいな歴史忘れて、うまくやって行こうぜ。誰もお前の家を壊さないし、誰もお前の家族を傷つける訳じゃない。そうだろ?だったらこんなこと記憶の奥に引っ込めて乾杯しようぜ。なあ?」
ラフィ 「ヒトラーが自分の計画について周りを説得したとき何て言ったか知ってる?『誰がアルメニア人の根絶のことなんか覚えてる?』って言ったんだよ」



緊張の2時間です。アトム・エゴイアンの、自分の民族が父祖の地で受けた仕打ちを決して忘れないし風化させてはならない、という強い決意表明。

そのストレートな怒りのメッセージが、複雑なプロットの中で展開されて行きます。複数のアンサンブル劇が積み重ねられ、最後にささやかな救済が用意される、という如何にもエゴイアンらしい映画。
アルメニア系カナダ人の母子、恋愛関係にある義理の兄妹、ゲイのカップルとその父親、映画監督、そしてその中に劇中劇として挟み込まれるアーシル・ゴーキーの物語。現在と過去。現実と虚構。各ドラマが時には離れ、時には絡みながら、ささやかな、本当にささやかな救いへと進んでゆく。
この手際、僕はいつもながら感心してしまいます。

アトム・エゴイアン、新作の「秘密のかけら」がもうすぐ公開。とても楽しみです。

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