"Dopo Mezzanotte"
2004年イタリア
監督)ダヴィデ・フェラーリオ
出演)ジョルジョ・パゾッティ フランチェスカ・イナウディ ファビオ・トロイアーノ
満足度)★★★ (満点は★5つです)
ル・シネマにて
トリノの映画博物館”モーレ・アントネッリアーナ”で夜警として働く内気なマルティーノ(ジョルジョ・パゾッティ)は秘かに近所のハンバーガーショップで働くアマンダ(フランチェスカ・イナウディ)に思いを寄せるているが、彼女にはアンジェロ(ファビオ・トロイアーノ)という薄情な恋人がいる。
ある夜、店長と悶着を起こし警察を呼ばれたアマンダがマルティーノの働くモーレに逃げ込んでくるが・・・。
一人の女と二人の男の三角関係を、トリノと映画への愛情を込めて描いた作品。
トリノには仕事で何回か行ったことがあるのですが工業都市というイメージが強かったし、実際イタリア人も「あそこはつまらない街だ」みたいなことを言っていたのであんまり観光しよう、という気にはならなかったのですが。
そうですか、こんな立派な映画博物館があったのですか!
これは至福ですよ。
古い映写機やら往年のスターのピンナップやら古典作品のフィルムやら。
その後転職して今更トリノに行く機会なんて無いので、とても残念です。
さて、この作品の主人公のひとりマルティーノはそんな映画博物館に住み込み(!)の夜警として働いており、人気の無い夜中には古いフィルムを観放題、自分が古い手回しカメラで撮りためた映像を編集し放題な、何とも羨ましい生活を送っているのです。
但しその生活は生身の人間の生活とはバッサリと切り離されていて。
ほとんど現実の人間と交わらない無口な彼から見える世界は現実と映画、しかも思いっきり古い映画がごっちゃになっている。
現代のトリノの電車を撮ってそれをリュミエール兄弟の『列車の到着』となぞらえてみたり。彼から見た現実の世界は全てカメラを通して見たかのようなロマンに溢れているわけです。
そんな彼の生活に映画のように飛び込んできたジーン・セバーグのような女性アマンダがまた映画的で。決してとんでもなく美人というわけではないんだけどそこにいるだけで絵になっています。
彼女をきっかけとして現実の世の中と接点を持ったマルティーノではあるのですが、その立ち居振る舞いはそこまでも映画的。
アマンダの彼氏アンジェロと渡り合う彼の仕草は敬愛するバスター・キートンのようだったり、現実の世界に一歩踏み込んではみたもののまだそこは映画博物館の自分の世界の延長に思える。
終盤、映画博物館を後にし現実に生きることを決意するマルティーノ。そのラスト・シーンまでが古い映画のラストのようで。
結局、最後まで映画から逃れられないマルティーノをスクリーンの向こうに見つめる自分こそが映画から逃れられていないことに思い至り、不思議な感慨を覚えたりするわけです。