大好きな山として槍ヶ岳を挙げる人は多いのではないだろうか。
私が初めて槍ヶ岳に登ったのは、高校一年生の時。
上野からの夜行列車で富山まで行き、富山地方鉄道とバスを乗り継いで登山口に降り立った時は、既に日が高くなっていたと記憶する。
駅で買った鱒寿司が印象深い。
当時の山岳部では当たり前だった大きなキスリング。
肩にずしりと食い込む。
行程は、薬師峠、黒部五郎、双六池で幕営した後、上高地までの定番縦走コース。
いずれも名峰の薬師岳、上ノ俣岳、黒部五郎岳、三俣蓮華岳、双六岳、そして槍ヶ岳が連なる。
山岳部の先輩たちに励まされ(?!)ながら、半ば諦めつつ、必死に歩を進め、自問自答を繰り返しながら、槍ヶ岳の頂に立った。
登頂した喜びよりも、これ以上登らなくて良いことが、兎も角嬉しかったように思えた。
当時は名も知れぬ北アルプスの峰々の説明を聞いたが、数多の高山植物の名前とともに記憶から一瞬にして消えた。
登山は、登りよりも下りの方がキツイことは、槍沢で身に染みるほど経験した。
歩きながらも、もう、山には二度と登らないと何度も考えた。
初めての雪渓歩きにも難儀した。
河童橋まで来ると、ハイヒールを履いた観光客から、一週間も風呂に入っていない我々に白い視線が向けられた。
俺たちは一体何をやっているのだろうか。
帰りは、松本から夜行の各駅停車新宿行きで帰った。
貧乏学生のしがない行動パターンの一つだったかも知れない。
ただ・・・
その後も幾度となく、この山の頂を訪ねることになるとは、思いもよらなかった。
どうやら、この山が持つシンボリックで精鋭的な不思議な魅力の魔法にかかったようだ。