テプイは、ベネズエラのギアナ高地にある台地状の山々(テーブルマウンテン)のことで、
先住民の言葉による呼び名。
コナンドイルのSF「失われた世界(ロストワールド)」の舞台。
断崖絶壁により外界と隔絶されているため、ほかでは見られない生態系が形成されている。
また、エンジェルフォールは、ギアナ高地最大のアウヤンテプイから流れ落ちる世界最大級の滝。
落差は979mで、落下する水は滝下部に達するより前に分散してしまうため、滝壺が存在しないという。
名前の由来は、金鉱山を探してアウヤンテプイに着陸したアメリカ人探検飛行家ジミー・エンジェルに由来。
SFで描かれた場所が実際に存在することを知ったときは、
何としても、その場に立ちたいとの衝撃に駆られた。
物語のように、恐竜に出会うことはできないとしても、
異次元の空間に飛び込むことができるような気がした。
ベネズエラは、独裁政権ではあったが、有数の産油国であるため、そのオイルマネーを背景に、往訪した当時は、経済がそれなりに循環していたため政情は安定していた。
アメリカとの関係は、もちろん良くなかったが、
トランジットの時に、「何しに行くのか?」と皮肉を言われる程度で済んだ。
アメリカのダラス空港内のホテルで一泊した後、
翌日、ベネズエラの首都カラカスに飛んだ。
カラカスからは、更に小型機に乗り換えて、
テプイが広がる大平原グランサバナ(標高約1400m)の街へ向かう。
周囲を流れる川には、大きな滝が幾つもかかり、長い陸路の移動も苦にならない。
最初のお目当ては、テプイのひとつであるロライマ山へのヘリコプター遊覧飛行。
条件が良ければ、大地の上に立つことも出来る。
宿泊のロッジについた時間は予定通りであったが、
ガイドから、
「明日は天気が崩れるから、ロライマ山へは、今日、飛んだ方が良い。」
と連絡があった。
慌てて支度をして外へ出ると、何と、ロッジの前の広場にヘリコプターが着陸してきた。
びっくり仰天。
ロライマ山は、丘陵地帯の遥か先に見えるのだが、ヘリコプターでは「ひとっ飛び」。
そうこうしている内に雲が湧いて来た。
ギリギリセーフ。
テプイの台地上の名も知れぬ植物を写真に収めた。
ロッジのシャワーは、お湯ばかりか、水すら出なかった。
ホテルの従業員が大きなバケツに水を入れて持ってきた。
ベッドの下には、コオロギが飛び跳ねていた。
そんな状態でも、今日の成果は格別。
眠りにつくには時間はかからなかった。
エンジェルフォールの観光拠点カナイマへは、再び、小型飛行機に乗った。
陸上の交通網は、ほとんど整備されていないことが良く分かった。
カナイマはリゾート地であるため、立派なホテルに泊まることができるが、
エンジェルフォールの直下まで行くためには、小型ボートで川の上流まで遡り、
一泊だけではあるが、キャンプ泊が必要。
滝壺がないことを確認するのも、そう簡単ではない。
浅瀬の所では、炎天下の中、一時間ほど歩かねばならなかった。
数年前に転覆事故があったのだという。
そのため、お客さんを乗せたまま通過できないのだとか。
苦労して滝直下までアクセスしたものの、
得られた写真はガスが邪魔したものばかりであった。
残された望みは、エンジェルフォールの遊覧飛行。
晴天を祈った。
案内された飛行機は5人乗り。
チップを渡したら、パイロットは親指を立てて頷いた。
ガイドからは、必ず、事前に渡すようにと言付かった。
雲は多めだったが、滝の周辺だけ、それもその瞬間だけ、
晴れてくれれば良いのだと念じた。
願いが叶ったのか、雲の切れ間から、エンジェルフォールが顔を出した。
「ヤッホー!」とパイロットが叫んだ。
何度も何度も旋回してくれた。
コッチも、ひたすらシャッターを切った。
上手く撮れているかどうかは兎も角。押し続けた。
急上昇に急降下。
こっちがフラフラしてくる頃に、
「もう良いか?」という顔をした。
「うん。」頷くと、やおら操縦桿を切り返して、飛行場に進路をとった。
ベネズエラは、現在、経済が破綻してしまい政情は極めた不安定な状況。
いつの日か、訪問できる状況が再び戻って来てくれることを願う。
その時は、ロライマ山へは徒歩で登り、
快晴の空のもとで、エンジェルフォール直下からの写真を収めたい。