古事記・日本書紀・万葉集を読む(論文集)

ヤマトコトバについての学術情報リポジトリ 加藤良平

十巻本和名類聚抄 巻第四(2/2)

2022年03月04日 | 和名類聚抄
器皿部第十二〈四声字苑云皿武𣱵反器惣名也柄音筆病反器物莖柯也衣一云賀良〉
器皿部第十二〈四声字苑に云はく、皿は武永反、器の惣名なり。柄の音は筆病反、器物の茎柯なり、衣(え)、一に賀良(から)と云ふ〉
 金器五十九 漆器六十 木器六十一 瓦器六十二 竹器六十三
 金器五十九 漆器六十 木器六十一 瓦器六十二 竹器六十三

金器五十九
金器五十九
鼎 說文云鼎〈都梃反与頂同阿之加奈倍〉三足兩耳和五味之寶器也
鼎 説文に云はく、鼎〈都梃反、頂と同じ、阿之加奈倍(あしかなへ)〉は三足に両耳あり、五味を和(ととの)ふる宝器なりといふ。
釡 古史考云釡〈扶雨反上声之重与輔同賀奈倍〉黄帝造也
釡 古史考に云はく、釡〈扶雨反、上声の重、輔と同じ、賀奈倍(かなへ)〉は黄帝、造るなりといふ。
鍑 四声字苑云鍑〈音冨漢語抄云佐加利俗用懸釡二字〉釡而大口一云小釡也
鍑 四声字苑に云はく、鍑〈音は富、漢語抄に佐加利(さがり)と云ひ、俗に懸釡の二字を用ゐる〉は釡にして大口なるをいふ。一に小釡なりと云ふ。
銚 四声字苑云銚〈徒弔反弁色立成云銚子佐之奈閇俗云佐湏奈閇〉焼器似鎢錥而上有鐶也唐韻云鎢錥〈烏育二音〉温器也
銚 四声字苑に云はく、銚〈徒弔反、弁色立成に銚子は佐之奈閉(さしなべ)と云ひ、俗に佐須奈閉(さすなべ)と云ふ〉は焼く器にして鎢錥に似て上に鐶有るなりといふ。唐韻に云はく、鎢錥〈烏育の二音〉は温むる器なりといふ。
鑊子 周礼注云鑊〈音獲此间云鑊子以爲煖頂之器〉煑肉器也
鑊子 周礼注に云はく、鑊〈音は獲、此の間に鑊子と云ふ。煖め頂く器と以為(おも)ふ〉は肉を煮る器なりといふ。
鎗 唐韵云鎗〈音楚庚反字亦作鐺阿之奈倍或說云俗云非甑而所炊之飯謂之鐺飯者音訛也〉小鼎也鐎〈即遥反〉温器三足有柄也
鎗 唐韻に云はく、鎗〈音は楚庚反、字は亦、鐺に作る、阿之奈倍(あしなべ)、或説に云はく、俗に甑非ざりて炊ける飯、之れを鐺飯と謂ふは音の訛りなりと云ふといふ〉は小鼎なり、鐎〈即遥反〉は温むる器の三足にして柄有るなりといふ。
鍋 唐式云䥫鍋食單各一〈鍋音古禾反䥫鍋加奈々倍〉
鍋 唐式に、鉄鍋、食単、各(おのおの)一つと云ふ。〈鍋の音は古禾反、鉄鍋は加奈々倍(かななべ)〉
鏊 四声字苑云鏊〈五到反今案此间云煎餅盤是也〉炒餅䥫盤也
鏊 四声字苑に云はく、鏊〈五到反、今案ふるに此の間に煎餅盤と云ふは是なり〉は餅を炒る鉄盤なりといふ。
鈔鑼 唐韵云鈔鑼〈沙羅二音俗云沙不良今案或說新羅金椀出新羅國後人訛新爲雜故雜羅是說未詳〉
鈔鑼 唐韻に鈔鑼〈沙羅の二音、俗に沙不良(さふら)と云ふ。今案ふるに、或説に新羅の金椀、新羅国より出づ。後の人、新を訛りて雑と為。故に雑羅と云ふ。是の説、未だ詳かならず〉と云ふ。
鉢 四声字苑云鉢〈愽末反字亦作盋見唐韵俗云波知〉學佛道者食器也胡人謂之盂也
鉢 四声字苑に云はく、鉢〈博末反、字は亦、盋に作る、唐韻に見ゆ。俗に波知(はち)と云ふ〉は仏道を学ぶ者の食器なり、胡人は之れを盂と謂ふなりといふ。
鋺 日本霊異記云其器皆鋺〈俗云加奈万利今案鋺字未詳古語椀爲末利冝用金椀二字〉
鋺 日本霊異記に云はく、其の器は皆、鋺といふ。〈俗に加奈万利(かなまり)と云ふ。今案ふるに鋺の字、未だ詳かならず。古語に椀を末利(まり)と為。宜しく金椀の二字を用ゐるべし〉

漆器六十
漆器六十
樽〈酒海附〉 辨色立成云樽〈音尊此间云去声字亦作罇見說文〉酒樽有脚酒器也蔣魴切韵云樽酒海也〈今案此间所有樽与酒海各異故以附出〉
樽〈酒海付〉 弁色立成に云はく、樽〈音は尊、此の間に去声と云ふ。字は亦、罇に作る、説文に見ゆ〉は酒樽に脚有る酒器なりといふ。蒋魴切韻に云はく、樽は酒海なりといふ〈今案ふるに此の間に樽有る所と酒海と、各異なる、故に以て付け出す〉。
壷 周礼注云壷〈音胡都保〉所以盛飲也𠔥名苑云壷一名𢀿也〈唐韵𢀿音謹以瓢爲酒器也〉
壺 周礼注に云はく、壺〈音は胡、都保(つぼ)〉は飲を盛る所以なりといふ。兼名苑に云はく、壺は一名に𢀿なりといふ〈唐韻に𢀿の音は謹、瓢を以て酒器と為るなり〉。
酒臺〈臺子附〉 東宮舊事云漆酒臺弁色立成云臺子〈志利佐良〉
酒台〈台子付〉 東宮旧事に漆の酒台と云ふ。弁色立成に台子〈志利佐良(しりざら)〉と云ふ。
大槃木 唐式云大槃〈本朝式云朱漆臺盤黒漆臺盤〉
大槃木 唐式に大槃と云ふ。〈本朝式に朱漆の台盤、黒漆の台盤と云ふ〉
櫑子 唐韵云櫑〈音雷字亦作罍本朝式云櫑子〉酒器也
櫑子 唐韻に云はく、櫑〈音は雷、字は亦、罍に作る。本朝式に櫑子と云ふ〉は酒器なりといふ。
疊子 唐式云飯椀羹疊子各一〈楊氏漢語抄云疊子宇流之沼利乃佐良〉
畳子 唐式に、飯椀、羹畳子、各一つと云ふ。〈楊氏漢語抄に畳子は宇流之沼利乃佐良(うるしぬりのさら)と云ふ〉
合子 同式云尚食𡱈漆器三年一換供換毎節䉼朱合等五年一換〈今案朱合此间云朱漆合子也〉
合子 同式に云はく、尚食局、漆器は三年に一たび換へ供ふ、換ふ毎に節料、朱合等は五年に一たび換ふといふ〈今案ふるに朱合は此の間に朱漆の合子なりと云ふ〉。
匜 說文云匜〈初尒反一音移俗用楾字未詳〉柄中有道可以注水之器也
匜 説文に云はく、匜〈初爾反、一音に移、俗に楾の字を用ゐるも未だ詳かならず〉は柄の中に道有り、以て水を注ぐべき器なりといふ。
盥 說文云盥〈古滿反与管同俗用手洗二字已上二物具見下澡浴具也〉澡手也
盥 説文に云はく、盥〈古満反、管と同じ、俗に手洗の二字を用ゐる。已上の二物具は下の澡浴具に見ゆ〉は手を澡(あら)ふなりといふ。

木器六十一
木器六十一
厨子 弁色立成云竪櫃〈竪立也臣庚反上声之重〉厨子別名也
厨子 弁色立成に云はく、竪櫃〈竪は立なり、臣庚反、上声の重〉は厨子の別名なりといふ。
櫃 蔣魴切韵云櫃〈音貴比豆俗有長櫃韓櫃明櫃折櫃此等名〉似厨向上開闔器也
櫃 蒋魴切韻に云はく、櫃〈音は貴、比豆(ひつ)、俗に長櫃、韓櫃、明櫃、折櫃、此等の名有り〉は厨に似て上を向きて開き闔る器なりといふ。
檈 四声字苑云檈〈似泉反与旋同今案俗云臺是〉圎案也
檈 四声字苑に云はく、檈〈似泉反、旋と同じ、今案ふるに俗に台と云ふは是〉は円き案なりといふ。
机〈牙脚附〉 唐韵云机〈音几〉案属也史記云持案進食〈案音按都古惠〉唐式云行床牙脚〈今案牙脚此间云牙象脚也〉
机〈牙脚付〉 唐韻に云はく、机〈音は几〉は案の属なりといふ。史記に云はく、案を持ちて進食(みを)すといふ〈案の音は按、都古恵(つくゑ)〉。唐式に行床の牙脚と云ふ〈今案ふるに牙脚は此の間に牙象脚なりと云ふ〉。
𣝑 唐韵云𣝑〈音豫今案俗云中取是也〉舁食器也
𣝑 唐韻に云はく、𣝑〈音は予、今案ふるに俗に中取(なかどる)と云ふは是なり〉は食を舁(にな)ふ器なりといふ。
臼〈杵附〉 四声字苑云臼〈巨久反上声之重宇湏〉舂穀器也杵〈昌与反岐祢〉舂槌也
臼〈杵付〉 四声字苑に云はく、臼〈巨久反、上声の重、宇須(うす)〉は穀を舂(うすづ)く器なり、杵〈昌与反、岐禰(きね)〉は舂く槌なりといふ。
碓 祝尚丘曰碓〈音對字亦作磓賀良宇湏〉踏舂具也𠔥名苑云碓一名𥕐〈音的〉魯般造也
碓 祝尚丘に曰はく、碓〈音は対、字は亦、磓に作る、賀良宇須(からうす)〉は踏み舂く具なりといふ。兼名苑に云はく、碓は一名に𥕐〈音は的〉、魯般が造るなりといふ。
磑 𠔥名苑云磑〈五對反〉一名䃀〈音砌〉磨礱也唐韵云磨礱〈麻籠二音又並去声湏利宇湏〉磑也
磑 兼名苑に云はく、磑〈五対反〉は一名に䃀〈音は砌〉、磨礱なりといふ。唐韻に云はく、磨礱〈麻籠の二音、又、並びに去声、須利宇須(すりうす)〉は磑なりといふ。
甑〈甑帯附〉 蔣魴切韵云甑〈音勝古之歧〉炊飯器也本草云甑帯灰〈古之幾和良乃波𠃧〉弁色立成云炊單也
甑〈甑帯付〉 蒋魴切韻に云はく、甑〈音は勝、古之岐(こしき)〉は飯を炊ぐ器なりといふ。本草に甑帯灰〈古之幾和良乃波飛(こしきわらのはひ)〉と云ふ。弁色立成に炊単なりと云ふ。
酒槽 文選酒徳頌注云槽〈音曹佐加布祢〉今之酒槽也
酒槽 文選酒徳頌注に云はく、槽〈音は曹、佐加布禰(さかふね)〉は今の酒槽なりといふ。
桶 蔣魴切韵云桶〈徒惣反上声之重又他孔反乎介〉汲水於井之器也
桶 蒋魴切韻に云はく、桶〈徒惣反、上声の重、又、他孔反、乎介(をけ)〉は水を井に汲む器なりといふ。
杓〈瓢附〉 唐韵云杓〈音酌比佐古〉斟水器也瓢〈符霄反奈利比佐古〉瓠也瓠〈音護〉匏也匏〈薄交反〉可爲飲器者也
杓〈瓢付〉 唐韻に云はく、杓〈音は酌、比佐古(ひさご)〉は水を斟む器なりといふ。瓢〈符霄反、奈利比佐古(なりひさご)〉は瓠なり、瓠〈音は護〉は匏なり、匏〈薄交反〉は飲む器に為べき者なりといふ。
棬 陸詞切韵云棬〈音拳漢語抄云佐湏江〉器似斗属屈木爲之考声切韵云盃類也
棬 陸詞切韻に云はく、棬〈音は拳、漢語抄に佐須江(さすえ)と云ふ〉は器にして斗の属に似て木を屈めて之れを為るといふ。考声切韻に盃の類なりと云ふ。
笥 礼記注云笥〈思吏反介〉盛食器也
笥 礼記注に云はく、笥〈思吏反、介(け)〉は食を盛る器なりといふ。
衦麵杖 弁色立成云衦麵杖〈牟歧於湏紀上音各旱反〉
衦麺杖 弁色立成に、衦麺杖〈牟岐於須紀(むぎおすき)、上の音は各旱反〉と云ふ。
茶研 章孝標集有黄楊木茶碾子詩〈碾音展訓歧之流〉
茶研 章孝標集に黄楊木茶碾子詩有り〈碾の音は展、訓は岐之流(きしる)〉。

瓦器六十二〈瓦器一云陶器陶訓湏惠毛乃〉
瓦器六十二〈瓦器は一に陶器と云ふ。陶の訓は須恵毛乃(すゑもの)〉
大甕 弁色立色云大甕〈𫟈賀〉本朝式云𤭖〈和名同上音長一音仗見唐韵也〉
大甕 弁色立色に大甕〈美賀(みか)〉と云ふ。本朝式に𤭖〈和名は上に同じ、音は長、一音に仗、唐韻に見ゆるなり〉と云ふ。
浅甕 日本紀私記云浅甕〈佐良介〉本朝式云瓼〈和名上同今案所出未詳〉
浅甕 日本紀私記に浅甕〈佐良介(さらけ)〉と云ふ。本朝式に瓼〈和名は上に同じ、今案ふるに出づる所未だ詳かならず〉と云ふ。
甕 方言云自關而東甖〈烏莖反字亦作罌〉謂之甕〈烏貢反字亦作瓮毛太比〉
甕 方言に云はく、関より東に甖〈烏茎反、字は亦、罌に作る〉は之れを甕〈烏貢反、字は亦、瓮に作る、毛太比(もたひ)〉と謂ふといふ。
坩 楊氏漢語抄云坩〈古甘反都保今案木謂之壷瓦謂之坩〉壷也或曰甒甖〈武鸎二音〉垂拱留司格云瓷坩廿口一斗以下五升以上故知坩者壷也
坩 楊氏漢語抄に云はく、坩〈古甘反、都保(つぼ)。今案ふるに木は之れを壺と謂ひ瓦は之れを坩と謂ふ〉は壺なりといふ。或に甒甖〈武鸎の二音〉と曰ふ。垂拱留司格に瓷坩二十口は一斗以下五升以上と云ふ。故に坩は壺なりと知れり。
瓶子 楊氏漢語抄云瓶子〈賀米上薄經反〉
瓶子 楊氏漢語抄に瓶子〈賀米(かめ)、上は薄経反〉と云ふ。
游堈 唐韵云堈〈音㓻楊氏抄云游堈由賀〉甕也〈今案俗人呼大桶爲由加乎介是弁色立成云於保𫟈加〉
游堈 唐韻に云はく、堈〈音は剛、楊氏抄に游堈は由賀(ゆか)と云ふ〉は甕なりといふ〈今案ふるに俗人の大桶を呼びて由加乎介(ゆかをけ)と為るは是。弁色立成に於保美加(おほみか)と云ふ〉。
盆 唐韵云盆〈蒲奔反字亦作瓫弁色立成云比良賀〉瓦器也尒雅云瓫謂之缶〈音不訓保度歧〉𠔥名苑云盆一名盂〈音于〉
盆 唐韻に云はく、盆〈蒲奔反、字は亦、瓫に作る。弁色立成に比良賀(ひらか)と云ふ〉は瓦器なりといふ。爾雅に云はく、瓫は之れを缶〈音は不、訓は保度岐(ほとき)〉と謂ふといふ。兼名苑に云はく、盆は一名に盂〈音は于〉といふ。
罐 唐韵云罐〈音貫楊氏抄云都流閇〉汲水器也
缶 唐韻に云はく、缶〈音は貫、楊氏抄に都流閉(つるべ)と云ふ〉は水を汲む器なりといふ。
堝 弁色立成云堝〈奈閇古禾反今案金謂之鍋瓦謂之堝字或相通〉
堝 弁色立成に堝〈奈閉(なべ)、古禾反、今案ふるに金なるは之れを鍋と謂ひ、瓦なるは之れを堝と謂ひ、字は或に相通ふ〉と云ふ。
瓷 唐韵云瓷〈疾資反〉瓦器也
瓷 唐韻に云はく、瓷〈疾資反〉は瓦器なりといふ。
盌 說文云盌〈烏管反字作椀弁色立成云末利俗云毛比〉小盂
盌 説文に云はく、盌〈烏管反、字は椀に作る。弁色立成に末利(まり)と云ふ。俗に毛比(もひ)と云ふ〉は小さき盂といふ。
盤 唐韵云盤〈薄官反佐良〉器名也
盤 唐韻に云はく、盤〈薄官反、佐良(さら)〉は器の名なりといふ。
盃盞 𠔥名苑云盃〈字亦作坏〉一名巵〈音支佐賀都歧〉方言注云盞〈音産〉盃之㝡小者也
盃盞 兼名苑に云はく、盃〈字は亦、坏に作る〉は一名に巵〈音は支、佐賀都岐(さかづき)〉といふ。方言注に云はく、盞〈音は産〉は盃の最も小さき者なりといふ。

竹器六十三
竹器六十三
箱筐 楊氏漢語抄云箱〈音相〉篋〈苦恊反〉筥〈居許反筥篋〉筐〈音匡〉篚〈音匪已上皆波古〉唐韵云竹器方曰筐圎曰篚也
箱筐 楊氏漢語抄に、箱〈音は相〉、篋〈苦協反〉、筥〈居許反、筥篋〉、筐〈音は匡〉、篚〈音は匪、已上は皆、波古(はこ)〉と云ふ。唐韻に云はく、竹器の方なるを筐と曰ひ、円なるを篚と曰ふなりといふ。
簏 考声切韵云簏〈音禄湏利〉箱類也
簏 考声切韻に云はく、簏〈音は禄、須利(すり)〉は箱の類なりといふ。
籠 唐韵云籠〈盧紅反一音龍又力董反古〉竹器也
籠 唐韻に云はく、籠〈盧紅反、一音に竜、又、力董反、古(こ)〉は竹器なりといふ。
笭箐 四声字苑云笭箐〈零青二音漢語抄云加太𫟈〉小籠也
笭箐 四声字苑に云はく、笭箐〈零青の二音、漢語抄に加太美(かたみ)と云ふ〉は小さき籠なりといふ。
籮 考声切韵云江南人謂筐底方上圎者爲籮〈音羅之太𫟈〉
籮 考声切韻に云はく、江南の人、筐の底の方(けだ)にして上の円(まろ)かなる者を謂ひて籮〈音は羅、之太美(したみ)〉と為といふ。
䈪 方言注云䈪形小而髙江東呼爲䈪〈呼撃反漢語抄云阿自賀今案又用簣字見史記〉
䈪 方言注に云はく、䈪は形小さくて高し、江東に呼びて䈪〈呼撃反、漢語抄に阿自賀(あじか)。今案ふるに又、簣の字を用ゐる、史記に見ゆ〉と為といふ。
箄 四声字苑云箄〈愽継反漢語抄云飯箄以比之太𫟈〉蔽甑底竹筐也
箄 四声字苑に云はく、箄〈博継反、漢語抄に飯箄を以比之太美(いひじたみ)と云ふ〉は甑の底を蔽ふ竹の筐なりといふ。
篝 說文云篝〈古侯反加々利〉竹器也
篝 説文に云はく、篝〈古侯反、加々利(かがり)〉は竹器なりといふ。
篩 說文云篩〈音師字亦作簛布流比〉除麁去細之竹器也
篩 説文に云はく、篩〈音は師、字は亦、簛に作る、布流比(ふるひ)〉は麁きを除き細かきを去る竹器なりといふ。
笟籬 辨色立成云笟籬〈楊氏抄云无歧湏久比唐韵上側教反去声之輕下音離〉麥索煑籠也以竹編爲之
笟籬 弁色立成に云はく、笟籬〈楊氏抄に無岐須久比(むぎすくひ)と云ふ。唐韻に上は側教反、去声の軽、下の音は離〉は麦索を煮る籠なりといふ。竹を以て編み之れを為る。
箕〈箒附〉 說文云箕〈音姫𫟈〉除糞簸米之器也𠔥名苑云箒〈音酒〉一名篲〈祥歳反波々歧〉
箕〈箒付〉 説文に云はく、箕〈音は姫、美(み)〉は糞を除き米を簸(ひ)る器なりといふ。兼名苑に云はく、箒〈音は酒〉は一名に篲〈祥歳反、波々岐(ははき)〉といふ。

燈火部第十三
灯火部第十三
 燈火類六十四 燈火具六十五 燈火器六十六
 灯火類六十四 灯火具六十五 灯火器六十六

燈火類六十四
灯火類六十四
燈燭 四声字苑云器照曰燈〈音登〉竪焼曰燭〈音属和名並度毛師比〉野王案灯燭蘭膏所燃之火也
灯燭 四声字苑に云はく、器照を灯〈音は登〉と曰ひ、竪焼を燭〈音は属、和名は並びに度毛師比(ともしび)〉と曰ふといふ。野王案に灯燭、蘭膏は燃ゆる所の火なりとす。
䗶燭 唐式云少府監毎年供䗶燭七十挺
蠟燭 唐式に、少府監、年毎に蠟燭七十挺を供すと云ふ。
紙燭 雜題有紙燭詩〈紙燭俗音之曽久〉
紙燭 雑題に紙燭詩〈紙燭は俗に音は之曽久(しそく)〉有り。
炬火 唐韵云爝〈即略反与雀同〉炬火也字書云炬火〈其呂反上声之重訓与燈同俗云太天阿加之〉束薪灼之
炬火 唐韻に云はく、爝〈即略反、雀と同じ〉は炬火なりといふ。字書に云はく、炬火〈其呂反、上声の重、訓は灯と同じ、俗に太天阿加之(たてあかし)と云ふ〉は薪を束ねて之れを灼くをいふ。
庭燎 四声字苑云燎〈力照反和名迩波比毛詩有庭燎篇〉庭火也
庭燎 四声字苑に云はく、燎〈力照反、和名は邇波比(にはび)。毛詩に庭燎篇有り〉は庭火なりといふ。
𤇺燧〈火橛附〉 說文云𤇺燧〈峯遂二音度布比〉𨕙有警則擧之唐式云諸置燧之處置火臺々上挿橛〈音厥俗云保久之〉
𤇺燧〈火橛付〉 説文に云はく、𤇺燧〈峯遂の二音、度布比(とぶひ)〉は辺に警め有るときは則ち之れを挙ぐといふ。唐式に云はく、諸そ燧を置く処に火の台を置き、台の上に橛〈音は厥、俗に保久之(ほぐし)と云ふ〉を挿せといふ。
煻煨 唐韵云熾〈昌志反漢語抄云於歧比〉猛火也又盛也四声字苑云煻煨〈唐隈二音和名上同〉熱灰新火也
煻煨 唐韻に云はく、熾〈昌志反、漢語抄に於岐比(おきび)と云ふ〉は猛き火なり、又、盛りなりといふ。四声字苑に云はく、煻煨〈唐隈の二音、和名は上に同じ〉は熱灰に新まる火なりといふ。
燐火 文字集略云燐〈音隣一音𠫤於迩比〉鬼火也人及牛馬兵死者血所化也
燐火 文字集略に云はく、燐〈音は隣、一音に吝、於邇比(おにび)〉は鬼火なり、人及び牛馬兵の死ぬる者の血の化ける所なりといふ。

燈火具六十五
灯火具六十五
火鑚 内典云譬如因燧因鑚〈音賛比歧利〉而得生火〈涅槃經文也〉
火鑚 内典に云はく、譬へば燧に因り鑚〈音は賛、比岐利(ひきり)〉に因りて火を生むを得るが如しといふ。〈涅槃経の文なり〉
燧 古史考云燧人氏造鑚燧〈音遂比宇知〉始出火
燧 古史考に云はく、燧人氏、鑚燧〈音は遂、比宇知(ひうち)〉を造り、始めて火を出すといふ。
油〈擣押附〉 四声字苑云油〈以周反阿布良〉迮麻取脂也迮〈側陌反字与窄通〉迫也狹也内典云胡麻熟已収子𤎅之擣押〈俗語云之路无〉然後乃得出油〈涅槃經文也〉
油〈擣押付〉 四声字苑に云はく、油〈以周反、阿布良(あぶら)〉は麻を迮(せ)めて脂を取るなり、迮〈側陌反、字は窄と通ふ〉は迫なり、狭なりといふ。内典に云はく、胡麻熟れ已り子を収めば熬りて擣き押す〈俗語に之路無(しろむ)と云ふ〉、然る後、乃ち油の出づるを得といふ〈涅槃経の文なり〉。
燈心 考声切韵云炷〈音主又去声和名火度宇之𫟈燈心音訛也〉燈心也
灯心 考声切韻に云はく、炷〈音は主、又、去声、和名は火度宇之美(ひとうしみ)、灯心の音の訛るなり〉は灯心なりといふ。
炭〈々籠附〉 蔣魴切韻云炭〈他案反湏𫟈〉樹木以火焼之仙人嚴青造也野王案𤈩〈乍下反字亦作𥰭〉炭籠也
炭〈炭籠付〉 蒋魴切韻に云はく、炭〈他案反、須美(すみ)〉は樹木の火を以て之れを焼く、仙人の厳青が造るなりといふ。野王案に、𤈩〈乍下反、字は亦、𥰭に作る〉は炭籠なりとす。
松明 唐式云毎城油一斗松明十斤〈今案松明者今之續松乎〉
松明 唐式に、城毎に油一斗、松明十斤〈今案ふるに松明は今の続松か〉と云ふ。
薪 纂要云火木曰薪〈音新多歧々〉
薪 纂要に云はく、火木を薪〈音は新、多岐々(たきぎ)〉と曰ふといふ。
燼 㔫傳注云燼〈音晉毛江久比〉火餘木也
燼 左伝注に云はく、燼〈音は晋、毛江久比(もえくひ)〉は火の余木なりといふ。
灰 陸詞切韵云灰〈呼恢反波比〉火燼滅也
灰 陸詞切韻に云はく、灰〈呼恢反、波比(はひ)〉は火の燼滅なりといふ。
炲煤 唐韵云炲煤〈臺梅二音湏々〉灰集屋也
炲煤 唐韻に云はく、炲煤〈台梅の二音、須々(すす)〉は灰の屋に集むるなりといふ。
煙〈𤓭附〉 四声字苑云煙〈於賢反字亦作烟介不利〉火焼草木黒氣也唐韵云𤓭〈音欝俗語云介布太之〉煙氣也
煙〈爩付〉 四声字苑に云はく、煙〈於賢反、字は亦、烟に作る、介不利(けぶり)〉は火の草木を焼く黒き気なりといふ。唐韻に云はく、爩〈音は鬱、俗語に介布太之(けぶたし)と云ふ〉は煙気なりといふ。
㸅 四声字苑云㸅〈子結反保曽久豆〉燭餘炭也
㸅 四声字苑に云はく、㸅〈子結反、保曽久豆(ほそくづ)〉は燭の余炭なりといふ。

燈火器六十六
灯火器六十六
燈籠 内典云燈爐〈見涅槃經〉唐式云燈籠〈見𫔭元式〉本朝式云燈樓〈見主殿寮式今案三各皆通稱也〉
灯籠 内典に灯炉〈涅槃経に見ゆ〉と云ふ。唐式に灯籠〈開元式に見ゆ〉と云ふ。本朝式に灯楼〈主殿寮式に見ゆ。今案ふるに三つ各皆、通称なり〉と云ふ。
燈械 楊氏漢語抄云燈械〈音戒〉所以居燈盞也
灯械 楊氏漢語抄に云はく、灯械〈音は戒〉は灯盞を居うる所以なりといふ。
燈臺 本朝式云主殿寮燈臺
灯台 本朝式に、主殿寮に灯台と云ふ。
燈盞 唐式云毎城燈盞七枚〈燈盞阿布良都歧〉
灯盞 唐式に、城毎に灯盞七枚〈灯盞は阿布良都岐(あぶらつき)〉と云ふ。
油瓶 内典云尒時復有諸沙門等手自作食執持油瓶〈阿布良賀米〉
油瓶 内典に云はく、爾の時に復、諸沙門等有ち、手自ら食を作り、油瓶〈阿布良賀米(あぶらがめ)〉を執り持つといふ。
火爐 声類云爐〈音盧楊氏漢語抄云火爐比多歧〉火爐火所居也
火炉 声類に云はく、炉〈音は盧、楊氏漢語抄に火炉は比多岐(ひたき)と云ふ〉は火炉、火を居うる所なりといふ。
火筯 弁色立成云火筯〈比波之下治據反〉
火筯 弁色立成に火筯〈比波之(ひばし)、下は治拠反〉と云ふ。
竃〈𫁑附〉 四声字苑云竃〈則到反与躁同加万〉炊㸑處也文字集略云𫁑〈七紅反久度〉竃後穿也
竃〈𫁑付〉 四声字苑に云はく、竃〈則到反、躁と同じ、加万(かま)〉は炊㸑の処なりといふ。文字集略に云はく、𫁑〈七紅反、久度(くど)〉は竃の後の穿(あな)なりといふ。

和名類聚抄巻第四
和名類聚抄巻第四

更新履歴:2022年2月2日公開、3月3日訂正。⇒凡例
⇒「和名類聚抄を読む」にて全巻
和名類聚抄(村上勘兵衛、寛文7(1667)年刊、国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2555719/67)

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