メイキング・オブ・マイマイ新子

映画「マイマイ新子と千年の魔法」の監督・片渕須直が語る作品の裏側。

アフレコ第1日目

2009年11月27日 23時36分42秒 | mai-mai-making
 アフレコ本番の初日は、2008年10月31日。この日は金曜日。
 なぜこういうスケジュール取りになっているかというと、翌日からは、土、日、文化の日と三連休になっているわけです。今回はメインどころが学校へ通っている年齢の役者ばかりなので、なるべく学校が休みの日に仕事できるようにと、配慮しなればなりません。

 収録のやり方としては、できるだけ映画トップからの順録り。ただ、いろいろな都合で、一度に全員を集合させるのは無理なので、こんなふうにブロック分けすることにしてみました。

●本線(昭和30年)パート
●平安パート
●山口オーディション組
●長子と初江(本上さんのスケジュールの都合で)
●子どもたちのガヤ

 本編は絵コンテ制作時にA、B、C、D、Eパートの5ブロックに分けて考えられるようにしてありました。Eパートは尺が短いので、実際には4.5ブロックというところでしょうか。この本線分を、金、土、日、月の4日間で録っていきます。
 ということは、初日には本線のAパート(cut#1~233)を丸々消化しなければなりません。内容的には、冒頭から貴伊子の家にたどり着いたところまで、です。起承転結でいえば「起」の部分。
          
 とはいえ、金曜日は学校がお休みではない日なので、14時開始です。一応21時までスタジオは押さえてあるとはいえ、初日からキツいかな? と思いつつ、テレビアニメ一本を半日でアフレコするのを考えればそうでもないかも、とも。まだどういう感じに展開するのかまったくの未知の道のりです。すべてはこの日の出来次第。
 今日収録するのは、「新子」「小太郎」「貴伊子」「光子」「シゲル」「絵のうまい吉岡さん」「立川一平」「江島さん」「吉村さん」という面々。初日に聞いておきたい、作品のベースとして確立してしまっておきたい部分がここにはあります。
 
 富ヶ谷の録音スタジオは、まず縦に奥行きのあるステージ(収録室)があります。一番前方にスクリーン。その手前にマイク3本。後方に椅子が並べてあって、出番待ちの役者がそこに座ります。
 普通のスタジオなら、そのさらにうしろにガラス張りの調整室があるのですが、ここのレイアウトは少し変わっていて、右手壁面がガラス張りになっていて、その向こうがコントロールルーム(調整室)になっています。演じている役者と演出家が横並びに並んでいて、お互いに横顔を見合う関係です。コントロールルームにはやはり前方に映写スクリーンがあります。
 この写真は、監督の席から見てガラスの向こう。演技陣のための空間。待機中の人の顔も全部、ちゃんと見えます。アイコンタクトだってできちゃう。

                  

 アニメーションの仕事は、専門の音響監督を立てるのがほとんどなのですが、今回は監督自ら音響演出も自分で手がけます。「声の質感表現を画面の質感と同じレベルで成立させたい」そういう思いがあります。

 このスタジオに14時入りしたのは、福田麻由子、水沢奈子、野田圭一、松元環季、中嶋和也、喜多村静枝。水沢奈子くんは、例によって名古屋から荷物を引っ張ってきていています。
 スタジオ外のロビーに少しずつ人が集まるのを待ち、マネージャーの方や、環季ちゃんや中嶋君にはそれぞれのおかあさんが付き添って来てますから、挨拶し、じゃあそろそろお時間です、ということになると、ステージへ通じるドアへ向かいます。音響制作の今西君が、重いドアを開けてくれます。おお、艦長になったみたい。
 ドアの向こうには、一同が腰掛けて待っている。
 ここで、監督としてみんなの前に立って何か挨拶したのですが、なんだかよく覚えてません。たぶん、自然な子どもらしさでお願いします、とかそんなことだったはず。

①冒頭から虹を見上げるまでの新子と小太郎のやり取り。福田くんの新子が心躍らせている。弾んだ声がいい感じ。すでに出来上がっている。一方、小太郎のためには、もっと演技にゆとりを持たせられる画の尺にしておくべきだったと反省しました。

②新子が麦畑に飛び込み、空想し、麦畑から走り出てくるまで。福田麻由子くんの独り舞台です。彼女の芝居如何でこの映画の演技のベースが作られてゆくことになるのですが、26日の顔合わせのときにはじっと頑ななまでに台本に見入っていた少女の口から飛び出してきたのは、今日は、陽気でゆとりを感じさせる新子そのもの声でした。声の表情や質感にも幅もある。

③ワンワン泣く光子。これもいきなり、美少女・松元環季が遠慮なく全開で泣いてくれたので、楽勝。


④少し飛ばして、朝ご飯の小太郎、新子、光子。新子は学校へ駈けてゆく。

 ここまで録って、休憩。

⑤休憩後は、声優初挑戦という水沢奈子くんが初めて挑む演技、貴伊子の登場シーン。といっても、貴伊子の父(別日収録)への返事の「うん」。それから、息のようなリアクションがいくつか。ひとりで台詞をまくし立てる新子と対極的に、最小限の意思表現しかしない貴伊子の声は、声というよりウィスパー(息)の域で出てきてほしい。奈子くんの演技は程よく沈んでかすれた質感になっていて、無事クリア。

⑥教室のシーン。ここでは、まず、子どもの役をひとりだけ大人が演じる喜多村さんの「吉岡さん」。子ども役に大人の声優を使うか全部子役でいくか、まだ決めきってなかった時期のオーディションで、喜多村さんに演じてもらった吉岡さんの落ち着いた感じがよかったもので、この配役になっています。ご本人は「あのオーディションの吉岡さんは何も考えずに喋っただけなんですが」というのですが、やはり、そうした自然体がこの作品にはいいようです。

 
 さらに、この場面ではシゲルが登場し、貴伊子の声が大きくなります。シゲルの中嶋君は、ちょっと方言でひっかかりつつも成功。よくよく考えると、自分たちスタッフにとっても、貴伊子の声をはっきり聞くのはこの時が最初です。奈子くんは地声よりも少し高めに出しています。「新子は少し低めに来るから、貴伊子はその反対であって欲しい」と、オーディションのときに注文したのを、たぶん繰り返し反芻して、ソプラノ・パートにセットした声の役作りをしてきてあります。色々な音程がいい感じで交錯して鳴るオーケストラのコンダクターになった気分。


 これは、調整室側のスクリーン。
 プロの声優でない人たちは、口パクのタイミング合わせが大変かな? と、あえて、ちゃんと完成している画面(いわゆるタイミング撮りではない)に、台詞のボールド表示を入れてきたのですが、不要でした。みんな、口パクの合わせもほぼぴったりです。シゲルのcut#165が、はじめ少しずれたけど、これは口のよく見えないロングだし、しかたないところでした。

⑦大人の男性二人が到着したので、江島さんと吉村さん。

⑧いよいよ、新子と貴伊子のやり取りが始まる。二人並んでマイクの前に立った。
 貴伊子のテンションの低さが、新子に影響してゆく。新子も気恥ずかしくなってしまい、メゾフォルテを維持できなくなってピアニッシモに下がってゆく。ふたりの少女の魔法合戦で、最初に魔法をかけるのは貴伊子のほうなのです。新子はまさしく魔法にかけられ、今までの演技とは違う質感の世界に入ってゆきます。この段差の表現も十分。

 というところまで。
 この日の収録は楽々終えて、しかも、「いい感じ」「いい感じ」の連続で、「してやったり」、の気分。明日はずっと長丁場、8時間労働の予定。明日はみんなでお弁当食べることにもなりそうです。
 腹減った。
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