もし、マラソン関連限定の「新語・流行語大賞」なるものがあれば、今年度の有力候補は、「カンボジア代表」と「公務員ランナー」となるだろう。
「カンボジア代表」については、先月、このブログでも取り上げたので、そちらをお読みいただきたい。僕個人の興味では、日本代表と同様に応援しているのはモンゴル代表である。
「公務員ランナー」についてだが、何と言っても昨年の東京マラソンでの3位入賞以来、川内優輝の活躍は目覚しかった。東京のタイムは昨年の日本男子のマラソン・ランキングの第1位であるし、年末の福岡国際マラソンでも日本人トップの3位でゴールし、ロンドン五輪の有力候補に挙がるも、自己記録更新を目指した東京で惨敗。給水失敗という不運なアクシデントもあったが、ペースメイカーが誤って彼の給水ボトルを取ってしまったということから、彼の失速が「陰謀」という説まで飛び出したほどである。
今回の代表選考をめぐる一般紙(誌)の報道を目にして、気になったのは、川内が実業団に所属していない「市民ランナー」であるが故に、陸連が代表選考から彼を外そうとしたということが実しやかに書かれていたことである。そもそも、僕は前にも書いたが、高校、大学と陸上競技部に所属して競技を続けて、大学時代には2度も箱根駅伝に出場し、卒業後もブランク無く競技を継続しているランナーを「市民ランナー」と呼んでいいのかと思っている。少ない練習時間で結果を出したランナーと言えば、8年前の東京国際マラソンで2時間8分46秒でゴールしたものの、アテネ五輪代表からは漏れた大崎悟史は、当時NTT西日本大阪で、フルタイムで営業職に就いていた。しかし、当時彼は「市民ランナー」とは呼ばれていなかったと思う。彼の所属していたNTT西日本大阪の陸上競技部は、電々近畿時代からの歴史と伝統のある実業団チームだったし、大崎も山梨学院大の頃には箱根駅伝で区間賞を取っている。
どうも「実業団」に対して誤解があるように思う。「実業団ランナー」というのは、各地区(東日本、中部、北陸、関西、中国、九州。四国は関西に属する)の実業団陸上連合に登録しているクラブチームに所属するランナーのこと、というだけのことである。
実業団連合に登録すると何かいいことがあるのか?と思われるが、そこに登録して初めて、実業団連合が主催する競技会や駅伝に出場出来るというだけであり、実業団連合と陸連とを混同しているような書き方をしている記事もあったが、五輪の代表選考の競技会は実業団連合の登録の有無とは何の関係も無いはずである。
意外に思われるかもしれないが、3年前の世界選手権でやり投げで銅メダルを獲得した村上幸史は、実業団に登録していない。彼の所属しているスズキ浜松ACはもともと、自動車メーカーのスズキの陸上部であったが、数年前に実業団連合を脱会している。
陸上記者の寺田辰朗氏のウェブサイトで公開している日記に、五輪のマラソン代表発表記者会見での陸連幹部の発言が紹介されているが、これがなかなか面白かった。
今回の選考について、川内がどう評価されたかということについての質問に対する河野強化副委員長の回答であるが、ここで引用させていただく。
「川内選手は世界選手権の代表でしたし、陸連の強化指定競技者Bの選手です。れっきとした日本代表と評価していますので、市民ランナーというカテゴリーでは見ていません。川内選手本人とも、その中でどうやって世界と戦うか、つねづねコミュニケーションをとっています。我々の重要な競技者として成績を残してほしいと考えています。これは川内選手だけでなく、選ばれた選手、選ばれなかった選手、戦っている選手すべて同じ目線で見ています。これが強化としての立場です」
寺田氏によると、質問者は「テレビ局の報道やスポーツ担当ではなくワイドショーの関係者」のようだったと言う。この当日、川内が確定申告に行く姿を追い駆けていた週刊誌の記者はこの会見には取材していなかったのだろうか?
体育協会の名誉会長を務める元総理が川内について、
「恵まれない環境で可哀想だ。」
と発言したという報道があったが、少なくとも、川内の現在の練習環境は自ら選んだものである。それに、彼のことを「公務員の星」と持ち上げる週刊誌が、別のページでは地方公務員の給料や手当てや年金が高すぎると批判するキャンペーンを行なっているのがよく分からない。
さらに、河野氏の発言にある「強化指定競技者B」というのは、陸連から一年間に200万円の強化費の支給を受けている競技者のことである。
寺田氏は、
「川内選手ファンがかわいそうだな、と思ってきました。マラソンや選考事情をよく知らないばかりに、陸連と川内選手が敵対していると勘違いしています。そうじゃないんだよと、丁寧に説明してあげればいいのにと思うのですが、そこを説明したら逆に注目されなくなってしまう?」
と書いているが、まさに僕がしているのは、彼の注目度を減らす行為なのだろうか?僕は彼を貶めるためにこんな事を書いているわけではない。こんな事は、陸上競技やマラソンに少しでも詳しい人なら、誰でも知っている常識の範囲内の話である。彼を「陸連」という組織と対立するヒーローに仕立て上げたい人たちにとっては「不都合な真実」であろうが。
今年の全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)には、自衛隊体育学校と、高田自衛隊、警視庁が「公務員ランナー」として出場していた。地区の予選会には、滝ヶ原や守山などに駐屯する自衛隊のチームに大阪府警や東京消防庁などの他に、地方自治体の陸上部も出場していた。東京都庁に大阪市役所、広島市役所に平塚市役所などである。だいたい、郡市対抗の駅伝大会のある県では、市役所の駅伝チームが強い。採用にあたって、陸上の長距離経験者を優遇しているところも珍しくない。そんな中でこの数年脚光を浴びているのが、山形県の南陽市役所である。人口34000人の南陽市という町のことを僕は最近まで知らなかった。昨年の東日本実業団対抗駅伝では14位。東日本はニューイヤー駅伝の出場枠が13位までだったのだから、あと23秒でニューイヤー駅伝に出場出来るところだったのである。
その南陽市役所に、この4月から山梨学院大学のケニア人留学生、オンディバ・コスマスが加入するというニュースには本当に驚かされた。市の教育委員会のスポーツ文化部の嘱託職員という身分になるそうで、外国人の英会話教師と似たような立場なのだろう。
市の陸上部のウェブサイトの掲示板には、批判的な意見も掲載されていた。なんでも、他の陸上部員も他県の出身者がほとんどのようである。
川内を「公務員であるが故に」、アンチ陸連、アンチ実業団のヒーローと持ち上げてきた人たちは、このような自治体が存在することをどう思うだろうか?そして、高校駅伝や箱根駅伝でケニアからの留学生ランナーが独走する様を苦々しく見つめる人たちも、どう思うだろうか?
あるいは、埼玉県庁が将来、職員の陸上クラブを実業団登録させるかもしれない。東日本実業団対抗駅伝は埼玉県の上尾市で開催されているのだ。箱根駅伝に出場したランナーたちの中に、卒業後は川内と一緒にトレーニングをして、競技を続ける事を希望して、埼玉県職員の採用試験を受ける者が増えて、強いメンバーが揃うかもしれない。なんといっても、東洋大や大東文化大、早稲田大の所沢キャンパスがあるのだから。
ニューイヤー駅伝を走る川内優輝を見てみたい、と思うのは僕だけ?
「カンボジア代表」については、先月、このブログでも取り上げたので、そちらをお読みいただきたい。僕個人の興味では、日本代表と同様に応援しているのはモンゴル代表である。
「公務員ランナー」についてだが、何と言っても昨年の東京マラソンでの3位入賞以来、川内優輝の活躍は目覚しかった。東京のタイムは昨年の日本男子のマラソン・ランキングの第1位であるし、年末の福岡国際マラソンでも日本人トップの3位でゴールし、ロンドン五輪の有力候補に挙がるも、自己記録更新を目指した東京で惨敗。給水失敗という不運なアクシデントもあったが、ペースメイカーが誤って彼の給水ボトルを取ってしまったということから、彼の失速が「陰謀」という説まで飛び出したほどである。
今回の代表選考をめぐる一般紙(誌)の報道を目にして、気になったのは、川内が実業団に所属していない「市民ランナー」であるが故に、陸連が代表選考から彼を外そうとしたということが実しやかに書かれていたことである。そもそも、僕は前にも書いたが、高校、大学と陸上競技部に所属して競技を続けて、大学時代には2度も箱根駅伝に出場し、卒業後もブランク無く競技を継続しているランナーを「市民ランナー」と呼んでいいのかと思っている。少ない練習時間で結果を出したランナーと言えば、8年前の東京国際マラソンで2時間8分46秒でゴールしたものの、アテネ五輪代表からは漏れた大崎悟史は、当時NTT西日本大阪で、フルタイムで営業職に就いていた。しかし、当時彼は「市民ランナー」とは呼ばれていなかったと思う。彼の所属していたNTT西日本大阪の陸上競技部は、電々近畿時代からの歴史と伝統のある実業団チームだったし、大崎も山梨学院大の頃には箱根駅伝で区間賞を取っている。
どうも「実業団」に対して誤解があるように思う。「実業団ランナー」というのは、各地区(東日本、中部、北陸、関西、中国、九州。四国は関西に属する)の実業団陸上連合に登録しているクラブチームに所属するランナーのこと、というだけのことである。
実業団連合に登録すると何かいいことがあるのか?と思われるが、そこに登録して初めて、実業団連合が主催する競技会や駅伝に出場出来るというだけであり、実業団連合と陸連とを混同しているような書き方をしている記事もあったが、五輪の代表選考の競技会は実業団連合の登録の有無とは何の関係も無いはずである。
意外に思われるかもしれないが、3年前の世界選手権でやり投げで銅メダルを獲得した村上幸史は、実業団に登録していない。彼の所属しているスズキ浜松ACはもともと、自動車メーカーのスズキの陸上部であったが、数年前に実業団連合を脱会している。
陸上記者の寺田辰朗氏のウェブサイトで公開している日記に、五輪のマラソン代表発表記者会見での陸連幹部の発言が紹介されているが、これがなかなか面白かった。
今回の選考について、川内がどう評価されたかということについての質問に対する河野強化副委員長の回答であるが、ここで引用させていただく。
「川内選手は世界選手権の代表でしたし、陸連の強化指定競技者Bの選手です。れっきとした日本代表と評価していますので、市民ランナーというカテゴリーでは見ていません。川内選手本人とも、その中でどうやって世界と戦うか、つねづねコミュニケーションをとっています。我々の重要な競技者として成績を残してほしいと考えています。これは川内選手だけでなく、選ばれた選手、選ばれなかった選手、戦っている選手すべて同じ目線で見ています。これが強化としての立場です」
寺田氏によると、質問者は「テレビ局の報道やスポーツ担当ではなくワイドショーの関係者」のようだったと言う。この当日、川内が確定申告に行く姿を追い駆けていた週刊誌の記者はこの会見には取材していなかったのだろうか?
体育協会の名誉会長を務める元総理が川内について、
「恵まれない環境で可哀想だ。」
と発言したという報道があったが、少なくとも、川内の現在の練習環境は自ら選んだものである。それに、彼のことを「公務員の星」と持ち上げる週刊誌が、別のページでは地方公務員の給料や手当てや年金が高すぎると批判するキャンペーンを行なっているのがよく分からない。
さらに、河野氏の発言にある「強化指定競技者B」というのは、陸連から一年間に200万円の強化費の支給を受けている競技者のことである。
寺田氏は、
「川内選手ファンがかわいそうだな、と思ってきました。マラソンや選考事情をよく知らないばかりに、陸連と川内選手が敵対していると勘違いしています。そうじゃないんだよと、丁寧に説明してあげればいいのにと思うのですが、そこを説明したら逆に注目されなくなってしまう?」
と書いているが、まさに僕がしているのは、彼の注目度を減らす行為なのだろうか?僕は彼を貶めるためにこんな事を書いているわけではない。こんな事は、陸上競技やマラソンに少しでも詳しい人なら、誰でも知っている常識の範囲内の話である。彼を「陸連」という組織と対立するヒーローに仕立て上げたい人たちにとっては「不都合な真実」であろうが。
今年の全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)には、自衛隊体育学校と、高田自衛隊、警視庁が「公務員ランナー」として出場していた。地区の予選会には、滝ヶ原や守山などに駐屯する自衛隊のチームに大阪府警や東京消防庁などの他に、地方自治体の陸上部も出場していた。東京都庁に大阪市役所、広島市役所に平塚市役所などである。だいたい、郡市対抗の駅伝大会のある県では、市役所の駅伝チームが強い。採用にあたって、陸上の長距離経験者を優遇しているところも珍しくない。そんな中でこの数年脚光を浴びているのが、山形県の南陽市役所である。人口34000人の南陽市という町のことを僕は最近まで知らなかった。昨年の東日本実業団対抗駅伝では14位。東日本はニューイヤー駅伝の出場枠が13位までだったのだから、あと23秒でニューイヤー駅伝に出場出来るところだったのである。
その南陽市役所に、この4月から山梨学院大学のケニア人留学生、オンディバ・コスマスが加入するというニュースには本当に驚かされた。市の教育委員会のスポーツ文化部の嘱託職員という身分になるそうで、外国人の英会話教師と似たような立場なのだろう。
市の陸上部のウェブサイトの掲示板には、批判的な意見も掲載されていた。なんでも、他の陸上部員も他県の出身者がほとんどのようである。
川内を「公務員であるが故に」、アンチ陸連、アンチ実業団のヒーローと持ち上げてきた人たちは、このような自治体が存在することをどう思うだろうか?そして、高校駅伝や箱根駅伝でケニアからの留学生ランナーが独走する様を苦々しく見つめる人たちも、どう思うだろうか?
あるいは、埼玉県庁が将来、職員の陸上クラブを実業団登録させるかもしれない。東日本実業団対抗駅伝は埼玉県の上尾市で開催されているのだ。箱根駅伝に出場したランナーたちの中に、卒業後は川内と一緒にトレーニングをして、競技を続ける事を希望して、埼玉県職員の採用試験を受ける者が増えて、強いメンバーが揃うかもしれない。なんといっても、東洋大や大東文化大、早稲田大の所沢キャンパスがあるのだから。
ニューイヤー駅伝を走る川内優輝を見てみたい、と思うのは僕だけ?
一言だけ
川内の給料ですが、誤解を受けやすいですが年齢も若くかなり少なくまた、強化費は陸連が説得して受けとらせたようです。
又、人様の財布を気にするのはどうかと思います。
マスコミは、書きたい放題で首をかしげることが多いです。
学生時代から応援してますが市民ランナーとか実業団とか関係なく十分魅力的な選手なので、走りを応援したいです。
これからもブログ楽しみにしてます。
いつも楽しく読ませて頂いてます。
水泳の五輪選考会を見ていたら「川内勇輝」という名前の選手が
出場していました。
ただしこちらの水泳選手は
「かわち」と読むそうです。
聞くところによると水泳の川内選手も自衛隊体育学校所属の公務員で
しかも埼玉在住とあって
マラソンの川内選手の存在を意識しているそうです
川内選手の収入についての記述は、読み返して不適切と判断し、その部分は修正させていただきました。川内選手に対する世間の評価に、違和感を覚える部分があったのですが、言葉が過ぎたと思います。
本来、選手の本業が何かどうかは、その選手のパフォーマンスとは何も関係ないものだと思います。川内選手も、見る人の心を動かす走りが出来る選手(僕は、全盛期の土佐礼子さんに似たところもあると思っています。)として、応援していきたいと思っています。
今後もよろしくお願いします。
そのような選手がいたとは驚きです。年齢もほぼ同世代ですね。覚えておこうと思います。
今後もよろしくお願いします。
「川内優輝がニューイヤー駅伝を走っている!」
とは思わなかったでしょうか?
元旦は仕事をしていましたので、昨日やっとビデオを見終えたのですが、なるほど、言われてみれば、似てなくもないですね。
安川の北島選手、過去のニューイヤー駅伝の中継で紹介されたプロフィールによると、東洋大出身で、卒業後の進路を考えている時に、当時の川嶋伸次監督から、
「長距離をやりたいのなら、九州がいいぞ。」
と言われて、群馬出身ながら安川電機への入社を決めたのだそうです。
彼のマラソン・デビューも楽しみにしています。