英語と書評 de 海馬之玄関

KABU家のブログです
*コメントレスは当分ブログ友以外
原則免除にさせてください。

決定! 東京オリンピック2020--筋違いの<五輪幻想>から解脱して素直に喜びませんか(下)

2013年10月16日 13時37分46秒 | 雑記帳

 


オリンピック憲章には「オリンピック競技大会は、個人種目もしくは団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない」と書いてある。けれど、この条項(Ⅰ章6-1)はこう続いています。「オリンピック競技大会では、各NOC によって選ばれ・・・」(They bring together the athletes selected by their respective NOCs ・・・)、と。

また、反日リベラルのマスメディアはしばしば「オリンピックで使われる旗や歌は、国旗や国歌ではなく、それは「NOCの旗や歌」あるいは「代表団の旗や歌」にすぎない。また、オリンピックでは国別のメダル数など公式には発表されていないし、実は、それを発表することは憲章自体が禁じている」とか述べ、あたかも、<五輪>が<国家>や<ナショナリズム>とは無縁であるかの如き--少なくとも、「五輪で国は深い意味合いを持たない」かの如き--印象を読者や視聴者に与えているように感じます。確かに、オリンピック憲章(Ⅳ章31, Ⅴ章57)はこう定めている。


31 NOC の旗、エンブレム、歌
オリンピック競技大会を含むNOC 自らの活動に関連する使用のためにNOC によって採用される旗、エンブレム、歌は、IOC 理事会の承認を要する。

31 Flag, Emblem and Anthem of an NOC
The flag, the emblem and the anthem adopted by an NOC for use in relation to its activities,including the Olympic Games, shall be subject to the approval of the IOC Executive Board.


57 入賞者名簿
IOC とOCOG は、いかなる国別の世界ランキング表も作成してはならない。・・・

57 Roll of Honour
The IOC and the OCOG shall not draw up any global ranking per country. ・・・







けれども、では、「NOC」とは一体なんなのでしょうか。

畢竟、NOCとは、


第Ⅳ章
国内オリンピック委員会(NOC)
27 NOC の使命と役割
3. NOC は、オリンピック競技大会およびIOC が後援する地域、大陸、もしくは世界的総合競技大会において、各国を代表する独占的な権限を持つ。・・・

Chapter 4
The National Olympic Committees (NOCs)
27 Mission and Role of the NOCs
3. The NOCs have the exclusive authority for the representation of their respective countries at the Olympic Games and at the regional, continental or world multi-sports competitions patronised by the IOC.・・・



そして、NOCと国家の関係は・・・。


30 国およびNOCの名称
1. オリンピック憲章の中の「国」という表現は、国際社会から独立国として認められているものを指す。
2. NOCの名称は、その国の領土の範囲か伝統を反映したものでなければならない、かつ、IOCの承認を要する。

30 Country and Name of an NOC
1. In the Olympic Charter, the expression “country” means an independent State recognised by the international community.
2. The name of an NOC must reflect the territorial extent and tradition of its country and shall be subject to the approval of the IOC Executive Board.


第V章
オリンピック競技大会
II. オリンピック競技大会への参加
40 参加資格規程
オリンピック競技大会への参加資格を持つためには、競技者、コーチ、トレーナーまたは役員は・・・自国のNOC によってエントリーされていなければならない。・・・

41 競技者の国籍
1. オリンピック競技大会に出場する競技者は、その競技者のエントリーをするNOCの国の国民でなければならない。

Chapter 5
The Olympic Games
II. PARTICIPATION IN THE OLYMPIC GAMES
40 Eligibility Code
To be eligible for participation in the Olympic Games, a competitor, coach, trainer or otherteam official ・・・must be entered by his NOC.・・・

41 Nationality of Competitors
1. Any competitor in the Olympic Games must be a national of the country of the NOC which is entering such competitor.






要は、五輪の具体的な大会運営においても、そして、オリンピックムーブメントとオリンピズムの総体とそれに憑依する共同の幻想である<五輪>においても、国家は--よって、<国家>に必然的に憑依する<ナショナリズム>もまた--「NOC」というブラックボックスを経由して、というか、「NOC」というクラインの壺を経由して厳然と存在している。実際、オリンピックの式次第に関する公式マニュアル集「Technical Manual on ceremonies」(2005)にも、表彰式では「メダリストの属する国の国旗が掲揚され国歌が演奏される」(Raising of the National Flags and Playing of the Gold Medallist’s National Anthem)ときちんと書いてあります。

こう見てくれば、例えば、ロンドンオリンピック2012の公式サイトに次のような「Q&A:表彰式」記事がアップロードされていたことは、その大会組織委員会(OCOG:the organising committee of the Olympic Games of London Olympic 2012)の見識の高さと健全性をこそ示すものであり、けっして、<五輪>と五輪に対する認識不足によるものではないのです。

すなわち、五輪の運営現場においては、オリンピックの表彰式で掲揚される旗は「金銀銅のメダリストが属する国の国旗」(the flags of the athletes’ countries)で演奏される歌は「金メダリストが属する国の国歌」(the national anthem of the gold medallist’s nation)以外の何ものでもないということ。

Victory Ceremonies
What happens in a Victory Ceremony?
A Victory Ceremony usually takes place soon after a medal event finishes.・・・The flags of the athletes’ countries are then raised, and the national anthem of the gold medallist’s nation is played.






では、<国家>を、まして、<ナショナリズム>を五輪が排除しているわけでもないのに、なぜに、「NOC」というブラックボックスやクラインの壺をオリンピック憲章は規定しているのか。簡単です。その「解答」も憲章(II 章15-1)に書いてある。

それは、IOC自体が--川崎市新百合ヶ丘のフットサル俱楽部や浅草の神輿同好会とパラレルな--私法上の権利能力は保有するも、しかし、公法上は単なる民間の任意団体にすぎないということ。民間の任意団体がその対等な当事者として国家を--私法上の当事者となる場合の「国」ではない公法上の国家を--召集して、イベントを勧進するとか興行するとかは原理的にできるはずもないのですから。

第II 章
国際オリンピック委員会(IOC)
15 法的地位
1. IOC は、国際的な、非政府の非営利団体であり、無期限の存続期間を有する、法人格をもつ組織であって、2000 年11 月1 日付の協定書によりスイス連邦評議会により承認されている。

Chapter 2
The International Olympic Committee (IOC)
15 Legal Status
1. The IOC is an international non-governmental not-for-profit organisation, of unlimited duration, in the form of an association with the status of a legal person, recognised by the Swiss Federal Council in accordance with an agreement entered into on 1 November 2000.



而して、「オリンピックは政治から独立した存在」という主張も、憲章の数箇所に謳ってあることではありますが、それも五輪が民間の任意団体が勧進元である興行であれば当然のこと。けれども、そのことも五輪が--<作品>の意味の理解においては<作者の意図>が特権的に重要なわけではないことを看破した現代哲学の地平に言及するまでもなく--それを見る人の立場によっては<ナショナリズム>の祝祭でもありうることとパラレルに、五輪が政治性をも帯び得ることとはなんら矛盾しない事柄なのです。そして、この非政治性と政治性の両義存在としての<五輪>の性質は皇室が帯びる<政治性>と通底しているの、鴨。

畢竟、いずれにせよ、「五輪で国は深い意味合いを持たない」などの認識は--<五輪>と脱原発イデオロギーを結びつける、あるいは、集団的自衛権の政府解釈の変更と結びつけるほど酷くはないものの--憲章のⅠ章6-1の前段だけを摘み食いした杜撰なものか、または、反日リベラルの世界観をオリンピック憲章の解釈に密輸したもの、あるいは、その両方である。と、そう私は考えます。


しかし、


たかが五輪、


けれど、

けれど、


されど五輪。


五輪が「欧州と北米の運動会」にすぎないとしても、
IOCが欧州貴族の文化と美意識を根っ子に持つ民間の任意団体にすぎないとしても、
五輪の「開催権=興行権」がプラチナチケットであることは現実。

ならば、筋違いの<五輪幻想>から解脱して、もって、
東京オリンピック2020の招致成功を素直に喜びませんか。
と、そう私は考えます。


尚、<五輪>と五輪を巡る私の基本的な理解については下記拙稿をご参照いただければ嬉しいです。





・オリンピックと国家
 -バレーボールからの撤退等々、日本はその<経営資源>を傾斜配分すべきかも?
 https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/82420e41dd2635d62ad289e50c207dc6

ナショナリズムの祝祭としてのオリンピック

 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/996393535306da1e98ca58ca37c31e17











最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。