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鳩山<理系>首相の非論理性☆ゲーム理論から見た普天間問題

2010年02月04日 07時07分49秒 | 日々感じたこととか


先日、週刊『東洋経済』(2010年1月30日号)の中に、ちょっと違和を覚える記事を見かけました。佐藤優氏の連載コラム「知の技法 出世の作法」の「数学の基礎知識を持てば鳩山首相の思考もわかる」、蓋し、鳩山首相の思考様式を論じたものですが、その骨子は大体次の通りだったと思います。

・鳩山首相は実は第一級の知識人。アメリカの名門大学で博士号をとり、大学の助教授を務めた経歴の持ち主である。

・人間の思考の原型が決まる20歳前後のころ、鳩山氏は数学を勉強していた。そしてさまざまな制約条件の中から最適解を求めるという数学の演算を徹底的に行った。学者時代は軍事や経営に応用可能な決断の研究をしていたのである。

・鳩山氏は決断力が欠けるのではない。従来の政治家の決断と鳩山氏の決断は、その発想が根本的に異なるのである。

・政治の世界では「足して2で割る」とよくいわれる。例えば、普天間基地移設問題で、自公前政権は対立する主張を足して2で割って辺野古沖合という落とし所を出した。

・これに対して鳩山氏は、関数体として物事を考える。オバマ政権の国家戦略、台中関係、米朝国交正常化交渉、沖縄の世論、小沢一郎民主党幹事長に対する東京地検特捜部の捜査などがこの関数の主要な項となる。この項自体が変化するのである。さまざまな要素の変化を踏まえたうえで、5月に最適解を見出すというのが、鳩山氏の発想なのである。

・若手ビジネスパーソンが、高校数学とそれを少し超える偏微分や重積分の基礎知識を持つことで、鳩山氏の「宇宙人言語」を解読できるようになる。


正直、私は若手ではないけれど(笑)、「高校数学とそれを少し超える偏微分や重積分の基礎知識」は持っているビジネスパーソンではあるのですが、鳩山氏の「宇宙人言語」は全く解読できないし、私には鳩山氏の言説は単なる「八方美人の優柔不断」にしか思えません。ということで、本稿では、ゲーム理論風に普天間問題を捉え返してみることで、「理系首相=鳩山氏」の非論理性を浮き彫りにしてみたいと思います。


■国際政治とゲーム理論
よく「ゲーム理論」というと所謂「囚人のジレンマ」が引き合いに出されます(★)。しかし、「囚人のジレンマ」のみが「ゲーム理論」でないことは当然であり、「ゲーム理論」の核心は、①あるプレーヤーの行動選択が、相手のプレーヤーが次にどういう行動選択を行なうかに関する予想に影響を受けており、その逆も真なりという状況、所謂「ゲーム理論的状況」を定義したこと。そして、②その「ゲーム理論的状況」においては、岡目八目(あるいは神々の高見から見れば)非合理な行動選択(戦略の選択)を人間が必然的に行なう場面があることを説明したことだと思います。

更に、(これだけのことなら、実は、「ゲーム理論」などという大仰な名称を用いずとも、古来、囲碁・将棋の世界が具現していたことかもしれませんが)③有名な「ナッシュ均衡」の発見、すなわち、「ゲーム理論的状況では、すべてのプレーヤーがお互いに最適の戦略選択を行なう、戦略(支配戦略)の組み合わせが必ず1個以上存在する」ことが証明されたことにより、「ゲーム理論」は数学の枠組みから離れ、経営学・経済学、生物学・情報工学、軍事・公共政策の有力な武器になって現在に至っています。

而して、国際政治はあくまでも各国が自国の国益をできるだけ多く可能な限り安定的に具現しようとする営みであると言えるならば、国際政治の場面こそ「相手のプレーヤーが次にどういう戦略選択を行なうかに関する予想が自分の戦略の選択に影響を与え、その逆も真なりという状況」すなわち「ゲーム理論的状況」に他ならないでしょう。

しかし、現実の国際政治の場面では、ゲーム理論のタームを使えば「支配戦略」も「ナッシュ均衡」も実際にはなかなか確定できません。というか、ゲーム理論で物事を考える場合の要素、ゲームを記述するための三要素;「プレーヤー」「戦略」「利得」さえ本当はうまく定義できず、まして、数値化できないことは稀ではありません(尚、「プレーヤー」はゲームに参加する当事者、「戦略」は各プレーヤーの行動の選択肢、そして、「利得」は各プレーヤーが戦略を行使した場合得られる価値や罰のことです)。

よって、本稿の試みは、ゲーム理論の用語を使ってする単なる「お遊び」の域を大きく出るものではない、しかし、それにしても「理系首相」の非論理性と「八方美人の優柔不断さ」を確認するには十分、鴨。と、そう私は考えています。

★註:囚人のジレンマ
全体の状況が分からないプレーヤー個々にとって最適な戦略選択が(神々の高見から)全体として見れば最適な選択とはならない状況の例。ネット上に山ほど解説が出ていますので、「囚人のジレンマ」の検索でご確認いただきたいのですが、本稿で使用する用語の説明も兼ねて一つ例を示しておきます。

・プレーヤー:日本・米国
・戦略の選択:関税引き上げ-関税据え置き
・戦略の利得:【X:Y】

戦略から得られる利得の【X:Y】は、ある戦略選択の結果、日本と米国が各々得る利得が【X】と【Y】であることを意味します。而して、ここで日米の戦略と利得の組み合わせを次のような「利得行列」で表記します。

      据え置き   引き上げ  ←米国の行動戦略の選択肢  
据え置き| 【20:20】  【10:30】 
引き上げ| 【30:10】  【15:15】 

日本の行動戦略の選択肢

アメリカから見れば、日本が、据え置き戦略を選択した場合も引き上げ戦略を選択した場合でも、引き上げが最適戦略(支配戦略)になります。ちなみに、前者の場合にアメリカが得られる利得は右上の【30】、後者の場合は右下の【15】。他方、日本にとってもアメリカが据え置き戦略を選択した場合も引き上げ戦略を選択した場合でも、引き上げが最適戦略(支配戦略)になります。ちなみに、前者の場合の利得は左下の【30】、後者の場合は右下の【15】。よって、日米ともに引き上げ戦略を選択することになり右下の【15:15】が両プレーヤーの最適戦略の組み合わせになり(「ナッシュ均衡」が成立し)、神々の高見から見れば双方が据え置き戦略を選択して左上の【20:20】の利得を享受するチャンスを失うことになる。

このような合理的な戦略選択が具現する不合理な戦略の均衡が「囚人のジレンマ」と呼ばれています。冷戦期における東西両陣営の軍拡の必然性の説明や、値下げ競争による全社の倒産の説明等々、多くの「合理的な戦略選択が導く不合理帰結」がこの「囚人のジレンマ」で説明可能になります。







■普天間問題のゲーム理論的理解
前口上はこれくらいにして、早速、ゲーム理論風に普天間問題を<料理>してみましょう。<料理>の前提は以下のようなものです。

・プレーヤー
あくまでも国際政治の問題と捉え、沖縄は除き、更に、実は何かと利害が対立することも少なくないアメリカの国防省と国務省も一体と見て、「普天間問題のゲーム理論的状況」を構成するプレーヤーを日米両国政府の二者と考えます。

・ゲームのカテゴリー
現在の段階では普天間問題は(ジャンケンのような)同時選択ゲームではなく「日→米→日→・・・」と囲碁や将棋のように交互にプレーヤーが戦略を選択するタイプのゲームであると考えます。ちなみに、ゲーム理論では、前者のタイプのゲームを「同時ゲーム」、後者のタイプを「交互ゲーム」と呼びます。はい、そのまんま、です(笑)。

・戦略と利得
個々の選択した戦略から得られる日米の利得を現行の辺野古移設案が【6点:10点】、普天間基地の継続利用、要は、普天間の固定化が【4点:8点】、そして、日米ともに許容範囲を【6点】と置き、その【6点】をアメリカが得られない日本のトンデモ案の場合を【10点:4点】と置くものとします。

このような前提から導かれる最終的な日米の確定利得は以下の通りに推移すると思います。

◎フェーズ(1)
日本:現行案→アメリカ:現行案・・【6:10】で確定
日本:とんでも案→アメリカ:普天間固定→フェーズ(2)

◎フェーズ(2)
アメリカ:普天間固定→日本:普天間固定了承・・【4:8】で確定
アメリカ:普天間固定→日本:米軍撤去要請→フェーズ(3)

◎フェーズ(3)
日本:米軍撤去要請→アメリカ:10年程度の期限後さっさと出て行く→フェーズ(4)
日本:米軍撤去要請→アメリカ:沖縄再占領→フェーズ(4)

◎フェーズ(4)
アメリカ:10年程度の期限後さっさと出て行く→日本:了承【α:X】
アメリカ:10年程度の期限後さっさと出て行く→日本:否定→フェーズ(1)に戻る
アメリカ:沖縄再占領→日本:謝罪→フェーズ(1)に戻る
アメリカ:沖縄再占領→日本:批判【β:Y】


この「ゲーム理論風遊戯」のポイントは【X】と【Y】、【α】と【β】の値が【4】や【6】や【8】より大きいか否かですが、最大の問題は、フェーズ(4)以降、日本には実質的に選択肢がないこと。蓋し、(アメリカがその戦略を選択する限り)【X】と【Y】が6未満であるはずはないのに対して、【α】と【β】が6以上である保証はなく、また、フェーズ(4)の第2項と第3項の「フェーズ(1)への差し戻し」以降の日本は、現行案【6:10】か普天間固定【4:8】を受け入れざるを得ない。つまり、論理的には、「日本-鳩山政権」には最初から「勝ちの目」はないことなのです。よって、この事態を理解していれば、フェーズ(1)の段階にある現在、日本の支配戦略(最適戦略)は「現行の辺野古移設案」であることは自明であろうと思います。


蓋し、鳩山氏の専攻から見てゲーム理論の<理論>は十分ご存知だと思うのですが、天性のおぼっちゃんなのか、それとも、国際政治音痴なのか、あるいは、その両方なのか、いずれにせよ、鳩山氏は現実的な、日・米の各プレーヤーの行動選択の戦略の想定と各戦略毎の「利得」の算定ができていないのだと思います。

要は、白黒はっきり言えば(計画の見直しは面倒だとしても)アメリカは別に「普天間のまま」でも全くかまわない。そして、極論すれば(そんなことはアメリカも多分せんけど)日本がアメリカに全沖縄基地の即時撤去を通告した場合、「相当な期間」「適当な範囲」で、「条約上の権利」と「在日アメリカ国民の権利保護」の名目でアメリカが再度沖縄を軍事占領したとしても、全面的にアメリカが悪いとは国際法上言えないのです。

この2点を理解していないから、「名護市長選での反対派勝利=日本に有利なカード」という子供でもわかる間違いを前提にした上で先送りしたのではないか。鳩山氏にアメリカとチキンゲームをする度胸があるのかないのか知りませんが、もし、チキンゲームをするのならば、普天間の固定化と沖縄再占領という極論まで選択肢に向うは織り込めることを考えなければ「ゲーム理論」的にはすでに<北斗の拳>なのだと思います。

蓋し、保守改革派の同志からお叱りを受けることを承知で言えば、「アメリカは日本が同盟から離脱しても困るにしても生存可能であるけれど、日本はアメリカとの同盟なしには生きていけない」という非対称性の不愉快な現実を直視しなければ日本の宰相としては失格なのではないでしょうか。

而して、そのような思考ができないプレーヤーは、たとえ、理系出身で数学が堪能だとしても、とても論理的な人物とは言えないだろうし、繰り返しになりますが、私には鳩山氏は単なる「八方美人の優柔不断」にしか思えないのです。

畢竟、<北斗の拳>。

「鳩山工学博士、貴殿は既に死んでいる」、と。



と、そう私は考えます。



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