英語と書評 de 海馬之玄関

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海外報道紹介☆京都の<観光開発>に見るマーケティングの欠如(下)

2010年05月16日 10時11分09秒 | 日々感じたこととか



Japan’s tourism strategy has also been driven by investment in engineering projects and theme parks rather than the protection of the country’s natural and cultural riches, an oversight that some experts say has cost the country dearly in tourism dollars.

Nowhere is Japan’s weakness in tourism more evident than in Kyoto, said Alex Kerr, a longtime resident and founder of Iori, a company that since 2004 has restored 10 old townhouses, or machiya, in the city to rent out to visitors.

In the postwar period, Kyoto has shown little concern for preserving the traditional neighborhoods that would most appeal to foreign tourists, he said. The pace of destruction gathered speed in the 1990s; more than 40,000 old wooden homes disappeared from central Kyoto that decade, according to the International Society to Save Kyoto.


日本の観光はこれまたご多聞に漏れずいまだに建設工事の投資とテーマパークの開発によって主導されている。そこには、この国の豊かな自然や文化的な資産を守ろうという志向は弱く、而して、専門家の中にはこのような考え違いによってこの国の観光はビジネス的にも大きな犠牲を払っていると考えている向きもあるのだ。

日本の観光ビジネスの脆弱さが京都よりも赤裸々に明らかな場所はない。と、そうAlex Kerr氏は語ってくれた。Kerr氏は京都に長年に亘り住んでおり、2004年以来京都で10軒の街中の住宅、すなわち、町屋を改築して観光客に賃貸している会社、庵の創業者なのだけれども。

大東亜戦争の後、しばらくの間、京都では伝統的な家屋の風情を保護しようという意識に欠けていた。而して、それらこそ海外からの訪問者にとって最も魅力的なものなのに。と、Kerr氏は語る。そして、京都を守る会によれば、1990年代に入ると伝統家屋の破壊は加速度をつけてしまい、結局、40,000軒以上の木造住宅がその10年間で消えて行ったのだ。   





Though ancient temples and gardens remain in the city, they are overwhelmed by the sprawling mass of gray buildings and neon signs that dominate the skyscape — the product of ineffective zoning policies in the city, Mr. Kerr said.

Visitors to Kyoto are greeted by the peculiar, needle-shaped, red-and-white Kyoto Tower, as well as the Kyoto Hotel Okura, a 16-floor granite building in the heart of the city that had to seek a waiver from local height restrictions when it was rebuilt in 1994. Three years later, Kyoto Station — a structure nearly half a mile long, with a glaring glass facade in its latest incarnation — opened in the city center. ・・・


もちろん、古代に立てられた神社仏閣は京都に残っている。しかし、それらは、中空の景観を左右する、無計画に拡大した灰色のビルやネオンサインに圧倒されている。而して、この状況は京都市の目的別地域区分を推進する効果の怪しい都市計画の賜物なのだ。と、Kerr氏は憤っている。
 
京都を訪れた人は、まず、一風変わった針のような形状の、赤と白で塗装された京都タワーを目にすることになる。そして、市の中心部【京都市役所の近傍、河原町二条南入】には16階建ての花崗岩で建てられた京都ホテルオークラが聳える。実は、このホテルが1994年に建てられた際には市の高さ制限規制から除外してもらわなければならなかったという曰く付のホテルなのだけれども。而して、京都ホテルオークラの竣工の3年後、これまた市の中心部に【京都駅は、要は、七条烏丸か八条烏丸、要は、洛中の外れであり日本語の感覚では「市の中心部」とは言い難いのだけれど、ここはテクストに従った】半マイルの長さでギラギラと光るガラスで覆われた京都駅の増改築もまた完成したのである。(中略)   





All the modern construction can obscure the city’s charms, especially for foreign visitors. ・・・According to Mr. Kerr, the government has long neglected investment in tourism, which it sees as an industry that supports only menial, low-paid jobs. Officials overlook the economic activity generated by architects, landscape architects and similar professions, he said. ・・・

Kyoto officials say that tourism can coexist with modern development. ・・・Local officials say that the aquarium will be especially good in attracting tourists from China, more of whom have come in recent years. The Chinese have many ancient temples of their own, Miyako Murozaki, a tourism official at Kyoto’s chamber of commerce, noted. “They like new things,” she said. ・・・


これら近代的な施設の建設は京都の魅力を一層曖昧なものにするかもしれない。就中、外国からの訪問者にとってはそう言えるの、鴨。・・・Kerr氏によれば、長らく京都市は観光ビジネスに投資することを怠ってきた。京都市は観光ビジネスを素人でもできる実入りのよくない産業としてしか見ていない。而して、京都市の担当者達は、建築家や公共空間のデザインを行なうランドスケープアーキテクトや大学教授達の活動に対して極めて物分りよく対応してきている、とも。そうKerr氏は述べている。(中略)

京都の開発と観光の担当者は観光と近代化のための開発は共存可能と述べている。・・・彼等によれば、件の水族館複合施設は、ここ数年、訪問者が増えている支那からの観光客誘致に効果絶大だろうと述べている。すなわち、京都商工会議所の観光ビジネスの担当者Miyako Murozaki氏によれば、支那自体が多くの古い寺院を抱えており、「支那からの観光客は何か目新しいものを喜びますから」ということだ。(後略)    





■後記
外国人観光客誘致における日本の惨状、而して、その縮図というか象徴としての京都。マーケティングの切り口からこのことを考えるとき、私は、現在、過疎化する老人の街と化した多摩ニュータウンや千里ニュータウンを連想してしまいました。それらの都市計画がなされた時からでも100年前の英国の都市開発思想。すなわち、「田園都市構想」(広い田園地帯に民家が散在する環境こそが人間にとって理想の住環境だという主張)に基づいてそれらは設計された。

而して、私の言う「生態学的社会構造」(自然を媒介とした人と人との社会的関係の取り結ばれ方の総合連関)が異なる19世紀の英国と20世紀の日本の違いを無視したその都市計画は<顧客=次世代の住民>の拒否に遭遇して市場からの退場を迫られている。


論者によっては、多摩と千里の失敗の理由を、ほぼ同世代のほぼ同じ年収の若夫婦がほとんど同時に入居したことに求める向きもある。そうなれば、その子供たちもほぼ同時に多摩と千里を離れるのは必然である、と。けれども、その後の公共交通インフラの整備によって多摩ニュータウンも千里ニュータウンも首都圏・関西圏では最早便利な通勤圏に属している。ならば、出て行く若者がいるかわりに入ってくる若者がいてもおかしくはないのです。畢竟、多摩と千里の惨状は世代モデル論だけでは説明がつかず結局は見た目の街の美しさと対照的な住みにくさにその理由は求めざるを得ない。

蓋し、社交はお互いに田園に散在する各家庭に他の住民を呼んで行なうホームパーティが主な舞台であり、日用品のロジステイクスが未発達がゆえに、逆に、街の商店が注文を配達してことが足りた19世紀の英国と、片道2時間かけて通勤する夫と、子育てが一段落後は近所のコンビニか個別指導塾にパートに出る妻が一般的な20世紀-21世紀の日本の首都圏・関西圏では生態学的社会構造が全く異なる。ならば、何本ものペデストリアンブリッジ(道路を跨ぐ歩行者専用の橋)を超えないと最寄り駅にさえたどり着けない、無意味にだだっ広い多摩ニュータウンや千里ニュータウンが敬遠されるのも当然であろう。と、そう私は考えています。

そして、京都。京都は流石にこれら「新参者のニュータウン」とは貫禄が違う。というか、無名の人々の千数百年に亘る智恵が都市計画にも蓄積されている。而して、現在、無意味な観光開発がその智恵を台無しにしようとしている。と、NYTのこの記事は告発している。そうかもしれない。けれど、それもまた京都に蓄積していく試行錯誤の智恵の一つかもしれない。この点はそう簡単には結論は出せないと思います。

いずれにせよ、京都は過去と現在が折り重なって息づいている街。これが私が同志社大学入学後の7年間住んだ京都の印象です。

舞妓さんが闊歩する祇園の風情も、三条河原町や新京極の今風の賑やかさも間違いなく京都の一部。お金がなくておかずを餃子の王将の餃子タダ券で賄った生活や(大学時代の彼女の一人に笑われた、正確にはその高校生の妹さんに「そんな貧乏な定食があんねんね」と笑われたらしい。失敬な!)同志社大学の学生食堂での私の定番メニュー「ご飯2杯+みそ汁+豆腐+醤油大盛」も今となっては懐かしい京都の思い出であり、他方、世界的にも有名な研究者を師匠連に戴いてドイツ語や哲学、憲法や刑法を学べたことは、今でも誇りを感じる京都の記憶です。    


これら「京都=重層的な街」の経緯や京都の思い出については下記拙稿をご参照いただければ嬉しいと思います。

・京都☆保守主義の舞台としての生態学的社会構造
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/199b39baca575f644c9accc68fbc5700

・懐かしい餃子の王将
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/a5f50322919fd173483d57c0605a5ee4

・グローバル化の時代の保守主義☆使用価値の<窓>から覗く生態学的社会構造
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/3436c1fca7e8d7caadb11a7d82f62bd6


而して、日本の観光ビジネスはなぜ劣勢なのか。本編記事に書いてあった高コストと小回りの利く旅行プランの不足、そして、成田空港の不便さがゆえに日本が東アジアのハブ空港から外れたことも間違いなくその理由でしょう。特に、「小回りの利く旅行プランの不足=lack of budget-travel options」の原因たる、外国語、就中、英語が本当にでき、かつ、企画力と交渉力と真摯さを備えた人材の広い意味の<コンシェルジェ>側での不足は致命的なの、鴨。けれども、私はその本質的な理由は、


①日本の異質性
②その異質さを異文化を呼吸する人々に説明するスキルの不足 


この2点に収斂すると思います。観光が「非日常性の希求」であれば誰しも①は魅力であれこそすれその逆ではないはず。けれど誰しも(戦争やビジネスでもないのだから)「火遊びはしたいが火傷は嫌」と思うに決まっている。蓋し、圧倒的多数の外国人観光客にとって①を理解するのにかけられるコストも時間も自ずと限界があるだろうということ。ならば、ここでも観光ビジネスセクターで働く人々の、というか、日本人全体の英語力(英語で日本を説明できる能力と経験の不足)が最大のネックではないか。とにかくこの記事は考えさせられたね。と、そう私は考えています。







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