じょじょりん文庫

読書好きで雑読。ゴルフ好きでへたくそ。
気の向くままに本ネタとゴルフネタを書かせて頂いています。

凍 沢木耕太郎

2008-11-12 | ノンフィクション
凍 (新潮文庫 さ 7-17)
沢木 耕太郎
新潮社

このアイテムの詳細を見る


山野井泰史、妙子夫妻の物語である。
アルパインスタイル(酸素も使わず、自分の荷物だけを持って短期間、少人数での登山スタイル)の登山を追い求める山野井夫婦は、大規模な支度もお金も必要としないので、自由に登山をしている。
その夫妻が、エベレストの脇のギャチュンカン北壁を登ろうと計画し、夫婦二人とコックとして雇ったシェルパが一人だけの3人のパーティで挑んだ記録が本書である。

ベースキャンプでは、高度順化が主なトレーニングになるそうだ。
ベースキャンプと言っても標高は5500メートルと言うことで、プロペラ機が飛ぶような高度だ。
酸素も平地の何分の一かになってしまうので、高山病の危険性もあるため、高度順化が必要なのだそうだ。従来の大規模な支度を必要とする極地法では、荷揚げを行ううちに自然に順化ができるそうだが、短期間で登るアルパイン法では逆に順化の時間が足りないのが悩みだという記載があった。
エベレスト登頂記などを読むと、たいがい高山病で山を下りたり死んでしまったりと言うような話があるので、避けては通れない問題なのだろう。
山野井夫妻も、夫は高度に強く、妻は高度に弱いそうで、いきつくところは体質の問題らしい。

ギャチュンカン登攀は、結果的に高度順化がうまくいかなかった妙子はアタックを諦め、泰史一人が登頂したが、天候不順の中下降は困難を極め、途中では妙子が終始冷静にバックアップして、2人とも生還した。
2人とも凍傷がひどく、妙子は既に凍傷で切っていた手の指の残りもすべて切ることになってしまった(手のひらだけになったわけだ)。

しかし、この夫婦は強い。
特に奥様の強さは、並大抵ではない。
自由に山に登る、ということのために全ての生活を捧げ、夫を支え、自分も一流のクライマーとして活動している。決して表に出ようとしないし、マイペースなところも強い。
好きなことのためとはいえ、手の指が全くなくなった状態で、全く変わることなく全てを受け容れ、家事もこなし前と同様の生活を送っていくことは、本当にスゴイことだ。夫婦だからこそ頑張れるのかも知れないが。
それにしてもよくもまあ、これだけお似合いの男女が出会ったものだと思う。

今年の初めに、トレーニング中の夫の泰史さんが自宅近くで熊に襲われて怪我をしたというニュースを聞いたが、無事に退院されたそうだ。
今後もお元気で活躍されることを願っている。

にほんブログ村 本ブログ 読書備忘録へ
にほんブログ村 小説ブログ ノンフィクションへクリックお願いします~

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

自壊する帝国 佐藤優

2008-11-11 | ノンフィクション
自壊する帝国 (新潮文庫 さ 62-2)
佐藤 優
新潮社

このアイテムの詳細を見る


ラスプーチンこと佐藤優さんの文庫新刊です。
この本では、著者が外務省に入ってソビエト連邦課に配属になり、イギリス陸軍の語学学校でロシア語を学び、1987年から8年弱、モスクワで過ごすことになったその記録である。

ちょうどベルリンの壁の崩壊が89年、91年末のソビエト崩壊といった丁度激動期にソビエトで外交官生活をしていたその記録であるから、007やマンガでしかなじみのないKGBだとか、バルト3国とモスクワとの想像以上の隔たりなど、迫力のある記述ばかりだ。

著者はモスクワでサーシャという天才肌のラトビア人と知り合いになり、サーシャの紹介を始めとして後年自己に災悪をもたらすこととなるロシア中枢部に至る人脈を築いていく。
学者肌の著者が、情報のために情報源勤務の女性職員にシャンパンや口紅の付け届けをしていたことなどが述べられており、その気の回りようには驚いた。
91年のクーデターでゴルバチョフ書記長の安否が不明になったときも、著者の人脈で書記長の生存が確認されたくだりなど、諜報活動従事者の徹底したすごさを感じる。

サーシャをはじめ、当時のソ連人には、女性に狂ったり酒に溺れたりして自己を破壊し、あたら才能を無駄にしたりする人物が多かったようであるが、著者はそういった人物とさえうまくつきあっていたのに、日本に帰ってなぜあんなことになってしまったのか、不思議な気分がする。

私も外国暮らしの経験があるが、外国暮らしが長くなると、日本人のモノの考え方や感じ方に鈍感になってしまう側面があり、著者もそうした穴にはまったのではないかという気がする。
それにしても、どこの国に行ってもすぐに現地の人とコミュニケーションを取って仲良くなってしまう著者の語学力と、精神的パワーには驚きを禁じ得ない。私は英語ですら、現地の人と話をするのは帰国間際でも気が重かったことを思うと、羨望の念を抱く。

しかし、イギリス陸軍に、ちょっと秘密めいた語学学校があることを初めて知った。
どこの国も防衛には力を入れているのだなとあらためて感じた。

にほんブログ村 本ブログ 読書備忘録へクリックお願いします♪

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

天璋院篤姫 宮尾登美子

2008-11-10 | 伝記
新装版 天璋院篤姫(上) (講談社文庫 (み9-7))
宮尾 登美子
講談社

このアイテムの詳細を見る


テレビではだいぶ話が進んできましたが……
予め読んだ本があると、どうしてもテレビが主を置く場所と原作とは微妙に違う感じを受けてしまいます。
ドラマが終わったら読んでみると良いかも知れません。

話は、薩摩藩主の分家に生まれた篤姫が、巡り合わせと自分の才覚で将軍家の御台所になり、大政奉還後の動乱を切り抜けて生き抜く話です。
本では、将軍家の御台所になるまでの紆余曲折と、後の和宮との争いから和解に至る過程がメインとなっていて、将軍家定との交流(実際は交流が成り立つ余地がなかったと言う話)や、小松帯刀との交流にはあまり頁が割かれていないように思います。
本では、小松帯刀の話題は、薩摩以降ほとんど出てこなかったのでは……(けっこうコワイ顔の人ですよね)

篤姫は体も大きく厳つい人で、あまりこう男性と縁のある人ではなかったという話です。だからこそ、孤独に強く、夫亡き後は家茂を育て、家茂亡き後は田安亀之助を育て、徳川家をどうにか守っていけたのでしょう。
晩年、気心の知れた侍女と過ごし、和宮とも仲良く交流していたというのが、少し救われる気分です。

来年の大河は坂本龍馬らしいですね。
今更という感じですが、どんな話になるのでしょうか。

にほんブログ村 本ブログ 読書備忘録へクリックお願いします♪

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

光と闇の方程式 おおにし真

2008-11-07 | コミック
光と闇の方程式 1 (1) (Be・Loveコミックス)
おおにし 真
講談社

このアイテムの詳細を見る


今週は仕事が押していて更新もまばらですが、ぼちぼち頑張りますので、よろしくお願いします。

このコミック、女性弁護士ものの先駆者的な作品かなと思います。
主人公の弁護士真島宇多子は、やり手の弁護士ですが、仕事に熱中するあまり夫の抱く不満に気付かず離婚を言い出され、一人娘の親権も夫に渡すことになってしまうというトラウマを抱えています。

読者にとって面白いモノと言うことで、取り上げられている話は圧倒的に刑事事件が多いのですが、民事事件も、自分の子と思っていたら実は自分の子ではなかったといった事例や、何気なく預かった他人の子が目を離した隙に事故で死んでしまったと言った事例も取り上げられています。
古い作品ではあるのですが、いじめとか、ストーカーといった事件も取り扱われていて、今も十分楽しめる作品だと思います。

中で印象的だったのは、依頼者との関係が述べられた話があることです。
宇多子が見通しで「負け」が明らかな事件を「難しいですよ」と言って、依頼者も納得の上で処理してうまく和解に持ち込んだのに、「判決だったら勝てたのではないか」と、依頼者にうじうじ文句を言われるシーンがあるのですが、実際、こういう問題は多いと思います。

最初に納得して、お金の問題ではない、なんて言っていた依頼者が、後になってぐずぐず文句を言うというのは良く聞く話です。
弁護士という職業が難しいのは、こういう依頼者から報酬をもらわなければならないということでしょう。個人事件を受けない事務所は、こういういざこざがイヤなのだと思います(医者はその点保険制度があるので、こうしたストレスは多少少ないかも知れませんね)。

おひまがあったら是非読んでみて下さい。全30巻ですが……

にほんブログ村 本ブログ 読書備忘録へクリックお願いします♪

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて 佐藤優

2008-11-05 | その他
国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫 さ 62-1)
佐藤 優
新潮社

このアイテムの詳細を見る


2001~2年、鈴木宗男氏と田中真紀子氏の戦いに、巻き込まれたのか入っていったのか分からないが関与して、背任、偽計業務妨害で逮捕・起訴されてしまった外交官の佐藤優氏の当時の回想録だ。

私も当時ニュースで見ていて、鈴木氏と佐藤氏が癒着して、税金を使ってロシアでうまいことやっていた、なんて報道をそのまま信じたりもした。
もともと鈴木宗男氏という人が、中川一郎氏の秘書だったのに、中川氏が亡くなると息子と争って選挙に出ると言いだし、どっちが地盤を引き継ぐかといった争いになったとか、あまり上品でないとか、ごり押ししそうだとか、そういったイメージがあったことも鈴木氏を擁護する意識を持ちにくかった一つかもしれない。
佐藤氏に関しても、「ラスプーチン」というのは、インパクトが強かった。

ラスプーチンというのは、ちょっと怪しい宗教家で、ロシア最後の皇帝ニコライ二世の皇后アレクサンドラに取り入って(皇太子の血友病の発作を祈祷で治した、とされている)皇后経由で政治に口を出し、国をロシア革命に追い込む一つの要因になったと言われている人物だ。
私は、ラスプーチンと聞いたとたんに、佐藤氏という人が、鈴木宗男氏を利用して自分の意見を国政ないしは外交に反映したいと考えていると思われているから、ラスプーチンと言われるのだろう、と思っていた。

本を読んでみると、佐藤氏は、外交官というよりむしろ学者だ。
とてもラスプーチンという言葉から想像されるような、政治や外交に対する山っ気はないように思える。
チェコ語を勉強したくて外務省に入り、ロシア語を勉強することになり、旧ソ連留学中に培った語学力と人脈を駆使して北方領土問題に取り組み、やはり北方領土問題をライフワークとする鈴木宗男氏と共に仕事をするようになり、親しくなったそうだ。

結果として、当時人気のあった田中外務大臣と事を構えたことや、択捉島に進出したディーゼル機関の業者が鈴木氏や佐藤氏と懇意であった商社になったことや、交流の家に鈴木氏の名前がつけられたことなどから、一挙に国民の非難を浴びることとなっていったのだが、本当のところはわからない。

佐藤氏の本だけを読んでどうこう言えないけれど、少なくとも、佐藤氏の人間性は、私がテレビで見て感じたような名誉や出世にどん欲な感じはまったくない。鈴木氏から受ける印象と混同したのかもしれない。学者肌の人でも名誉が好きな人はいるが、本の中の言葉や思索について、そういった色気が全く感じられなかったのは、意外なことであった。

作中では、特捜検事との息詰まる駆け引きも述べられているが、一般国民には特捜検事の捜査の実態など分かる機会もないので、とても興味深い。

次は、ソ連留学時のことが主に述べられている「自壊する帝国」を読んでみようかと思う。

にほんブログ村 本ブログ 読書備忘録へクリックお願いします♪

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする