次世代総合研究所・政治経済局

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混迷するレバノン情勢

2006年07月27日 02時32分16秒 | Weblog
イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラの拠点に対するイスラエル軍の空爆作戦が国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の施設を直撃、停戦監視要員4人が死亡、アナン国連事務総長は非難の声明を出した。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060726i102.htm

 一方、26日ローマで開催された緊急外相会議でも、未だ国際部隊派遣合意はできないとのことだ。
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060726AT2M2602V26072006.html

 理由は、会議で「即時停戦」を求める国連のアナン事務総長と、拉致やテロが再発しないようヒズボラを武装解除し「持続可能な停戦」を目指すべきだとするライス米国務長官の意見が対立したためとされるが、そもそもこれほどまでに戦闘が激しくなった要因は何なのか。

 これについてECONOMIST最新号を見ておこう。
https://www.economist.com/printedition/
 同誌では、イスラエルのオルメルト首相の強硬姿勢の原因を2つ指摘している。
①ヒズボラのロケットミサイルの武装解除の必要性を主張する軍の主張を容れた。
②オルメルト首相とペレズ国防相とも軍の出身でないため治安関係者の信頼を勝ち取る必要があった。
 ②については日経新聞も確かそのような解説をしていたようだ。

 同誌には更に面白い知見があった。
 ③イスラエル筋の情報では、ヒズボラはイラン製のFAJR3、5ミサイルを持ち、それぞれ射程は45、70キロメートル

 ④ZELZAL2弾道ミサイルは弾頭600クログラム。化学、生物兵器搭載可能で射程200キロ、イスラエルは重大関心を持っている。

 ⑤カチューシャロケットは移動可能で民家での隠匿も容易

 ⑥現在、イスラエル第3の都市ハイファでも連日攻撃にさらされ、テルアビブは常に目標となっている

 ⑦イスラエルのユダヤ人でパレスチナ側との対話に賛成は60%、ガザ撤退に賛成は45%、数年内にパレスチナとの対話による平和実現を信じるのは30%

 ⑧ヨルダン川西岸・ガザ地区のパレスチナ人で今回の発端となった拉致に賛成は77%、もっとこうした戦略を使うべきは67%

 一方、国際部隊派遣についての各国の態度についてはIHT(NYTIMES)が簡単に概観している。
http://www.iht.com/articles/2006/07/25/news/nato.php
 これによれば、
①米軍は派遣を拒否(ライス長官がすでに表明)

②NATOは派遣地域が遠く、イスラエルから正式のオファーなく、アフガンの軍を米国から引き継ぐ時期にあたるため未検討。

③ 英国は深入りを警戒しながらも独案(下記)は検討可能とし、別途アフガン、イラン、バルカンからの軍移転の可能性あり。

④ドイツは イスラエルとヒズボラの双方から要請があり、停戦合意、人質解放があれば派遣(国防相が表明)

⑤ 仏は自国軍派遣は時期早尚とする(米仏は1982年のイスラエル侵攻の時に多国籍軍に参加し、ヒズボラに悩まされた苦い経験あり=ベイルートでのヒズボラの自爆テロなどにより米軍は241名、仏落下傘部隊58名が死亡、その後撤退を余儀なくされた)

⑥イスラエルの目的は国境外にヒズボラを掃討し、レバノン政府・軍を支配下に置き、ヒズボラへの武器流入を阻止すること。

 難しいのはヒズボラはレバノン政府の正式の構成員であるということだ。

 最後にIHTへのベイルートの「デイリー・スター」編集者の寄稿(26日)の一部を引用する。
「ブッシュやライスがイランやシリアについて正しく認識していない理由は、米政府の対話しているのがサウジ、エジプト等アラブ諸国の一部の国でしかなく、これら国々はシリアへの影響力が全くないからだ。しかも上記の国々へのアラブ世論の信頼はゼロで、しかも国内においてこれら諸国政府の正当性は急速に喪失しつつあり、このことがまた反米、反イスラエル軍事行動を助長する結果となっている」

 このコメントの是非はともかく、かかる論調が堂々と掲載されることの健全性をまず認識したい。