新古今和歌集の部屋

光る君へ まひろが書写していた漢詩 琵琶引(行) 白居易

 

(15)おごれる者たち - 大河ドラマ「光る君へ」

(15)おごれる者たち - 大河ドラマ「光る君へ」

道隆(井浦新)は、強引に定子(高畑充希)を中宮にし、詮子(吉田羊)を内裏の外へと追いやった。二年後、一条天皇(塩野瑛久)は麗しく成長。道隆の独裁には拍車がかかっ...

(15)おごれる者たち

 

 

琵琶引 并序

(元和十年予左遷九江郡司馬。

明年秋送客至湓浦口聞舟中夜

弾琵琶者聴其音錚錚然有京都聲問其人)


長安倡嘗學琵琶於穆曹二善

才年長色衰委身爲賈人婦遂命酒

使快弾數曲。曲罷憫然自叙少小時

歡樂事今漂淪憔悴徒於江湖間。

予出官二年恬然自安感斯人言是

夕始覺有遷謫意。因爲長歌以贈

之。凡六百一十言命曰琵琶

潯陽江頭夜送客楓葉荻花秋索索

主人下馬客在船擧酒欲飲無管絃

酔不成歡惨將別別時茫茫江浸月

忽聞水上琵琶聲主人忘歸客不發

尋聲暗問彈者誰琵琶聲停欲語遅

移船相近邀相見添酒迴燈重開宴

千呼萬喚始出來猶抱琵琶半遮面

轉軸撥絃三兩聲未成曲調先有情

絃掩抑聲聲思似訴平生不得意


(まひろの読み上げ)

声を尋ねて暗に問う。弾くる者は誰ぞと

琵琶声は停(や)みて

私は一歩も前に進んでいない・・・。

 

※太字は、一般に流布されている琵琶行とは異なる字。新釈漢文大系二下(明治書院)によると、行→引が正しいとある。

※薄い字は、置いた文鎮などで映像で切れ、読めなかった字

※アンダーラインは、まひろが読み上げた部分

 


琵琶行 白居易
元和十年(815年)、予、九江郡(江西省九江市周辺)司馬に左遷せらる。
明年の秋、客を送りて湓浦口に至り、舟中、夜に琵琶を弾ずる者を聞く。
その音を聴けば、錚錚(ソウソウ)然として京都の声有り。
その人を問へば、本は是長安の倡家の女(歌姫。娼妓)にして,嘗て琵琶を穆・曹の二善才(師匠)に学び、年長じて色衰へ、身を委せて賈人の婦と為ると。
遂に酒を命じて,数曲を快弾せしむ。
曲罷(や)みて,憫黙(ビンモク)し、自ら少小の時歓楽せし事、今は漂淪(ひょうりん)憔悴し、江湖の間に転徙するを敍(ノ)ぶ。
予、官を出づること二年、恬然として自ら安んぜしも、この人の言に感じ、この夕べ始めて遷謫の意有るを覚ゆ。
因て長句を為(つく)り、歌ひて以て之に贈る。
凡そ六百一十六言、命じて琵琶行と曰ふ。
 
潯陽江(九江地域での揚子江の名称)頭、夜、客を送る。
楓葉、荻花、秋索索たり。
主人は馬より下り、客は船に在り。
酒を挙げて飮まんと欲するも管絃無し。
酔ひて歓を成さず、慘(サン)として将に別れんとす。
別るる時、茫茫(ボウボウ 果てしなく広がる)として江は月を浸す。
忽(コツ)として聞く、水上琵琶の声。
主人は帰るを忘れ、客は発たず。
声を尋ねて、闇(アン)に問ふ、弾く者は誰ぞと。
琵琶、声停(ヤ)みて語らんと欲すること遅し。
船を移して相近づき、邀(ムカ)へて相見んとし、
酒を添(クハ)へ、灯を迴らして、重ねて宴を開く。
千呼万喚して始めて出で来るも、
猶ほ琵琶を抱きて半ば面(オモテ)を遮る。
軸を転じ、絃を撥すること三両声。
未だ曲調を成さざるに先ず情有り。
絃絃掩抑して声々思ひあり。
平生意を得ざるを訴ふるに似たり。

眉を低(タ)れ手に信(マカ)せて続々と弾じ、
説き尽くす、心中無限の事。
軽く攏(オサ)へ、慢く撚(ヒネ)り、抹して復た挑(カカ)ぐ。
初めは霓裳(ゲイショウ)を為し、後は緑腰。
大絃は嘈々(ショウショウ)として急雨の如く、
小絃は竊々(セツセツ)として私語の如し。
嘈嘈、竊々、錯雜して弾じ、
大珠、小珠、玉盤に落つ。
閒関たる鴬語、花底に滑らかに、
幽咽せる泉流は氷下に難む。
氷泉冷澀、絃、凝絶し、
凝絶して通ぜず、声暫し歇(ヤ)む。
別に幽愁暗恨の生ずる有り。
この時、声無きは声有るに勝る。
銀瓶閉ぢ破れ、水漿迸(ホトバシ)り,
鐵騎突出して、刀槍鳴る。
曲終はりて、撥を收め心に当たりて画(クワシ)く、
四絃一声、帛を裂くが如し。
東船西舫、悄として言無く、
唯だ見る、江心に秋月の白きを。
沈吟して撥を放ちて絃中に插(ハサ)み、
衣裳を整頓して起ちて容を斂(ヲサ)む。
自ら言ふ、本これ京城の女にして、
家は蝦蟆陵下に近くして住む。
十三にして琵琶を学び得て成り、
名は教坊の第一部に属(ツラ)なる。
曲罷(ヤ)みては曽て善才をして伏せしめ、
粧成りては毎(ツネ)に秋娘に妬まる。
五陵の年少、争ひて纏頭(テントウ)し、
一曲の紅綃、数を知らず。
鈿頭(デントウ)の雲篦(ウンペイ)、節を撃ちて碎(クダ)け、
血色の羅裙(ラクン)、酒を翻して汚る。
今年の歓笑、復た明年。
秋月、春風、等閑に度る。
弟は走りて軍に従ひて、阿姨は死し、
暮れ去り朝来りて顔色故(フ)る。
門前は冷落して、鞍馬は稀となり、
老大、嫁して商人の婦と作(ナ)る。
商人は利を重んじて別離を軽んじ、
前月、浮梁(フリョウ)に茶を買ひ去る。
去りてより来(コノカタ)、江口に空船を守る。
船を遶(メグ)りて月は明らかに江は水寒し。
夜深けて忽として夢みる少年の事、
夢に啼きて、粧涙、紅、闌干たり。
我、琵琶を聞きて、已に 歎息し、
又、この語を聞きて重ねて喞々(ショクショク)たり。
同じくこれ天涯淪落(リンラク)の人、
相悲しむに何ぞ必ずしも曽ての相識らん。
我、去年、帝京を辞して、より、
謫居(タクキョ)して病臥す潯陽城。
潯陽は小さき処にして音楽無く、
終歳、絲竹の声を聞かず。
住は湓江に近くして地は低湿、
黄蘆、苦竹、宅を繞りて生ず。
その間、旦暮、何物をか聞く。
杜鵑は啼哭し、猿は哀鳴す。
春江の花朝、秋月の夜、
往往、酒を取りて還た独り傾く。
豈に無からんや、山歌と村笛と、
嘔唖嘲哳(チョウタツ)として聴を為し難し。
今夜、君が琵琶の語を聞き、
仙楽を聴くが如く、耳暫く明らかなり。
辞する莫れ、更に坐して一曲を弾ぜんことを。
君が為に翻して琵琶行を作らん。
我がこの言に感じて、良(ヤヤ)久しくして立ちしが、
却つて座し、絃を促して、絃は転(ウタタ)た急なり。
淒淒として向前(コウゼン)の声に似ず、
満座、重ねて聞きて、皆泣(ナミダ)を掩ふ。
就中、泣下ること誰か最も多き、
江州の司馬、青衫湿ふ。

 

通釈(新釈漢文大系による)

元和十年、私は、九江郡の司馬に左遷された。翌年の秋、客人を送って湓浦口までやってきた時、舟の中で夜に琵琶を弾奏するのが聞こえた。その音色に耳を澄ませば、じゃらんじゃらんと都めいた響きがする。その奏者に聞いてみる、彼女はもと長安の楽人の家の娘で、かつては琵琶を穆・曹との二人の名手に琵琶を習ったこともあったというが、年増となって容色も衰えてしまい、成り行きに身を任せて商人の妻となったのだという。かくて私は、酒を準備させ、彼女に数曲ほど存分に弾奏させた。
曲の演奏が終ると、彼女は悲しげに黙り込み、問わず語りに、少女時代の楽しかった日々、今は都から遠く離れ、落ちぶれて、やつれ果てて、ひなびた江湖のほとりを転々と漂白していることを語った。私は、都を離れ地方で任官してから二年になるが、この間、心安らかに自分の境遇に甘んじてきたつもりである。ところが、この人の言葉に心を動かされ、この日の夕べ、左遷された我が身の悲しみをやっと初めて自覚したのであった。それで、この七言古詩を作り、歌にのせて彼女に贈った。全部で因て長句を成し、歌つて以て之を贈った。凡そ六百一十六言、名づけて「琵琶引」という。
 
 
潯陽の長江岸辺で、夜、客人を見送った。
あたり一面、紅葉と白いおぎよしの花の穂がさわさわと風にそよぐ。
主人は馬を下り、客は船中にいて、酒杯を挙げて飮もうとするが、酒に伴う管弦の調べもない。
そんな酒は、酔っても一向に楽しくなく、痛ましい気持ちのままいざわかれようとしたが、その別れの時、果てしなく広がった長江は、昇ったばかりの月をその水面に浸していた。
すると突然、琵琶の音が水の上を渡って聞こえてきて、聞き入った主人は帰るのを忘れ、客も出発するのを止めてしまった。
その音の源を尋ね、弾いているのはどなたですかとそれとなく問いかけてみたところ、琵琶の音は止み、その人は口を開こうとして躊躇しているような樣子だった。
そこで船を動かして近づき、迎え入れて対面しようと、酒を追加し、灯火をぐるりと掲げ、再び重ねて宴を開くことにした。幾度も繰り返し呼んで、やっと出てきたその人は、なおも琵琶を抱えて半ば顔を蔽っている。
さて、絃の巻きを調節し、ばちで絃をはらって二、三回ほど試し弾きをすると、まだ音曲の調子をなしていないうちから、早くもえもいわれぬ余情がかもし出される。一絃一弦低く抑えた響きを奏で、その一音一音が深い物思いに沈んでいるような風情で、まるで志を得ない日頃の思いを訴えるようである。伏し目がちにうつむき、手の動くに任せて次から次へと弾じてゆきながら、その人は心中に無限に降り積もった思いを語り尽くしていた。絃を軽く押さえ、ゆっくりとひねり、音をかき消したかと思えば、また高くかき上げて、初めは霓裳羽衣曲を、後には緑腰の曲を演奏した。太い絃はざあざあと驟雨のような響きを上げ、細い絃はひそひそとささやくような音を奏でる。ざあざあ、ひそひそと樣々織り成して弾き出される音の樣は、大小の真珠が玉盤の上にぱらぱらと落ちるようであり、その多彩な音色は、ある時は声を転がす鴬の鳴き声が咲き誇る花々の中でなめらかに流れるようであり、またある時はむせび泣く泉水の流れが氷の下で滞るのにも似ている。凍った泉が冷たく滞るように、絃の響き凝結して途切れ、途切れて通ぜず、しばしの間、音が止んだ。
この瞬間こそ、深く秘められた愁いや恨みがひときわあふれ出て、こんな時は、音の無い方が音の有るより勝っているものだ。と思うと、張りつめた音が突如として再び弾き渡り、それはまるで、銀の瓶が打ち破られて水がほとばしり、精鋭の騎兵が突き出す刀や槍が触れ合って鳴り響くかのようであった。曲が終ってばちを収め、最後に琵琶の真ん中で一気にばちを横にはらうと、四本の絃が一斉にかき鳴らされて、あたかも絹帛を裂くかのような鋭い音を上げた。水上に停泊していた東の船も西の船も、その響きに打たれてひっそりと声もなく、ただ長江の中央に、秋の月が白く映じているのが見えるばかりだった。
琵琶を奏でたその人は、深い物思いに沈みつつ、ばちを手放して絃の間に差し挟み、乱れた衣装を整え、立ち上がってそのたたずまいを引き締めた。そうして、次のよなことを自ら語ったのである。
「私はもともと都出身の女で、蝦蟆陵のそばに住んでいました。十三歳で琵琶の技法を習得し、その長教坊のトップクラスにも連なるほどの腕前になりました。曲を演奏し終って、琵琶の師匠をすっかり感服させたこともありますし、化粧をし終れば、いつも並み居る美女たちに嫉妬されたものです。五稜あたりの若者は争って祝儀を寄せてきて、一曲ごとに寄せられる紅の綾絹は数知れぬほどでした。螺鈿づくりの雲形模樣のかんざしは、激しく拍子をとりつづけて砕け散り、深紅の薄絹のスカートは、酒杯をひっくり返してしみができるありさま。
かくして、そんあ奔放な笑いさざめきが、今年、そしてまた来年と続いてゆき、月の美しい秋の夜も、暖かな風の吹く春の日も、当たり前のようにしてのんきに過ぎてゆきました。
ところが、弟は軍隊にとられ、おばんさんは死んでしまい、日月は朝晩となく過ぎ去って、若々しかった容貌も次第に老け込んできました。門前はひっそり閑として、鞍をおいた馬に乗って訪れる豪奢なお客もほとんどいなくなり、かくて年をとってから嫁にゆき、商売人の妻となったのです。だが、商売人は利益を重んじて、別れて暮らす女の情などは軽んじていますので、先月に浮梁へのお茶の買い付けに行ったきりです。夫が行ってしまってからというもの、長江への入り口あたりで主のいない船を渡し一人で守っていますが、船の周りを取り囲んで、月は明るく輝き、長江の水は寒々と流れています。夜が更けて、ふと若かった頃のことを夢に見ることがありまがすが、夢の中で声を上げて泣けば、化粧した頬に、紅に染まった涙がとめどなく流れ落ちます。
私は琵琶の音を聞いてすっかり感嘆していたところに、その上このような言葉を聞いて、更に重ねて嘆息をついたのであった。ともに最果ての地に落ちぶれた者どうし、お互いの境遇を悲しみあるのに、別に昔からの知り合いである必要はない。
「私は去年、都に別れを告げてから、潯陽の町で、流罪人としてひっそりと病に臥せっていました。潯陽は小さないなか町で、音楽と呼べるようなものもなく、一年の間、管弦楽の調べは耳にしたことがありませんでした。住まいは湓江に近く、土地は低くて湿気が多く、黄色く枯れた葦や苦竹が家の周りを取り囲んで茂っています。そこで、朝晩に何を耳にするかといえば、悲しく哭するような杜鵑のさえずりと、悲しげな猿の鳴き声ばかりです。春爛漫の花咲き乱れる水辺の朝、冴え冴えとした月が照る秋の夜には、しばしば酒を手に取り、またいつものように一人で盃を傾けたものでした。もちろんひなびた民謡や村人たちの吹く笛の音が無いわけではありませんが、それらはわあわあぺちゃくちゃと騒々しいばかりで聞くにたえません。ところが今夜、あなたの弾く琵琶の音を聞いて、まるで仙界の音楽を聴いたかのように、しばしの間、耳がすっきりとしました。どうか、再び腰を下ろしてもう一曲弾いてくださいませんか。あなたのために、その琵琶の音を言葉に移して琵琶行を作りたいとおもいます。」
その人は、私のこの言葉に心を動かされ、ややしばらくの間立ち尽くしていたが、つと身を翻して腰を下ろし、絃を速い調子でかき鳴らし、その絃はいよいよテンポを上げていった。冷ややかなまでに研ぎ澄まされたその音色は、先ほどの余情あふれるそれとは打って変わり、満座の人々は、彼女の奏でる琵琶の音を重ねて耳にして、みな顔をおおって泣いたのである。その中でも、誰が最も多く涙をながしたかといえば、それは江州司馬の私であって、青い一重の官服は、涙でくっしょりと潤ったのであった。

コメント一覧

jikan314
トナトラ君
ごめんごめん🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️
ドラマで、まひろさんが、書写していた漢詩をそのまま載せたので、漢字ばっかりになっているね😵
読み下しなどを明日修正するね。
小松音楽教室 トナトラ
こんばんはでごじゃります🐯
すみませ〜ん!漢字ばっかりで、ひらがながないんだけど💦
言葉と言葉を繋ぐ助詞もないよ〜(^◇^;)
jikan様忘れちゃったのかなぁ😆(笑)
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