先日,高瀬正仁訳『ガウス整数論文集』,ちくま学芸文庫を買った.他書も積み残しのまま,あれこれ手を広げていても仕方ないのだが,逸話としても残る数学の秘宝というだけに,実は,まだまだ指針を内蔵しているのではないか,そういう期待もあって,読み始めたところである.
特に,平方剰余の相互法則とその補助定理(第一および第二補充法則),高次冪剰余の探求というテーマが直接の内容だが,あるいは,その本当の目的は,真理のネットワークへの数論という小径の散策ガイドというものではなかろうか,などと思ったりする.まるで,相互法則が,高等的多様体論の高等的円分論の位置を占めているかのようでもあるから.ガウス『アリトメチカ研究』のアリトメチカは,私としては「高等的算数」という訳がぴったりなのだが,いろいろあるらしい.断定的に内容はこうだと言ってしまったが,もちろん,それを確かめるまで読み進んでないから,予備知識程度のつもりである(つまりそうアテにならない).
楕円関数論だテータ関数論だとか指数定理だとか,数学史的な経緯があるようだが,素人的には,算数へ遡行する旅のような感じがする.未知の世界への新たな遡行という感じで.内容もよく確かめないまま,感想をいっていても仕方ないが,読みはじめの勢いというものである.歳のせいか,だいぶ息切れも激しいが.ということで,ちまちまやっていくしかないのである.
最初の定理は,
定理.pを正素数,kをpで割れない任意の整数とする.1, 2,3, ..., 1/2(p-1)をA, 1/2(p+1), 1/2(p+3), 1/2(p+5), ... , p-1をBとする.kとAの個々の数との積(k・Aと書くとする)の法pでの絶対正剰余をとる.それらはすべて異なり,一部はAに,また一部はBに属するが,Bに属する剰余がμ個であるとすると,μが偶数ならば, kはpの平方剰余,μが奇数ならばkはpの平方非剰余である.
合同式 x^2 ≡ a (mod. p)が整数解をもつときaをpを法とする平方剰余,そうでないとき,平方非剰余という.pを法とするとき,x^2の剰余がaとなるようようなxが存在するかどうかということだろう.
仮に,p=13, k=20として,確かめてみる.p-1=12, 1/2(p-1)=6だから,
A={1 ,2, 3, 4, 5, 6},
B={7, 8, 9, 10, 11,12}.
k・A = {20, 40, 60, 80, 100, 120}で,法13での剰余は,それぞれ,{7, 1, 8, 2, 9, 3}.{1, 2, 3}はAに属し,{7, 8, 9}はBに属する.μ=3.
{7, 8, 9}の補値といわれる{13 - 7, 13- 8, 13- 9}={6, 5, 4}をとれば,{1, 2, 3}とあわせて,Aが覆われる.a=bq+rで|r|≦b/2となる剰余rを絶対的最小剰余というが,Aはb=13の絶対的最小剰余のあつまりになっている.
1・2・3・4・5・6=720≡5(mod. 13)
- 1・2・3・7・8・9=-3024≡5(mod. 13),(-3024=-233×13+5で13で割ると5余るから).
7, 1, 8, 2, 9, 3 は20, 40, 60, 80, 100, 120の法13に対する剰余だから,当然,
-20・40・60・80・100・120= -20^6・1・2・3・4・5・6≡ - 1・2・3・7・8・9 ≡ 5(mod. 13)
1・2・3・4・5・6≡ -20^6・1・2・3・4・5・6≡5(mod.13)
したがって,
-20^6≡1(mod. 13)
フェルマーの小定理から,kが法pに対する平方剰余である必十条件は,k^{(p-1)/2}≡1 (mod. p)だから,kは平方非剰余である.μ=3で奇数だから,定理の通りである.
補値(ここでは,a,b,cに対する)の積は,(p-a)(p-b)(p-c)=p^3+Sp^2+Tp-abc≡-abc (mod.p)だから, 4・5・6≡ (-1)^μ・ 7・8・9 (mod. 13). μの個数によって,abcの前の符号は+か-になるから.ここでは,μ=3だからマイナス符号.μ=2なら(p-a)(p-b)≡ab(mod.p)でプラス符号.S,Tはp^2, pの係数を簡単にかいたもの.
x^2 ≡ a(mod. p), aはpで割り切れない正負の整数.aが法pに対する平方剰余であることを (a/p) = 1, 平方非剰余であることを(a/p) = -1とかけば(ルジャンドルの記号),
(a/p) ≡ a^{(p - 1)/2} (mod. p)
がなりたつ(オイラーの規準).(a/p)=1の時,つまり,aが法pに対する平方剰余のときは,a^{(p - 1)/2} ≡ 1(mod. p)が成り立ち,(a/p)= -1なら,つまり,aが法pに対する平方非剰余のとき,a^{(p - 1)/2} ≡ -1(mod. p)がなりたつ.a=k=20, p=13のときは,kは法pに対する平方非剰余であるので,20^{(13-1)/2} = 20^6 ≡ -1(mod. 13)が成り立つ.
仮に,p=7, k=20のときは,(20 / 7) = -1.
ここで,多分,『アリトメチカ研究』(Disquisitiones arthmeticae(1801), 略してD.A.)
第108条
THEOREMA. Omnium numerorum primorum formae 4n + 1, -1 est residuum quadraticum, omnium vero numerorum primorum formae 4n + 3, non-residuum.
「pは奇素数とする.次数2の合同式
x^2 ≡ -1 (mod. p)
は,pが4n + 1型なら解を持ち,pが4n + 3 型なら解を持たない.」(「1.8 合同式の世界」(『ガウスの数論』))
という,無限性と素数の型(形状)のつながりがでてくるのだろう.
参考: アンドレ・ヴェイユ『初学者のための整数論』,ちくま学芸文庫
高木貞治著『初等整数論講義』,共立出版
特に,平方剰余の相互法則とその補助定理(第一および第二補充法則),高次冪剰余の探求というテーマが直接の内容だが,あるいは,その本当の目的は,真理のネットワークへの数論という小径の散策ガイドというものではなかろうか,などと思ったりする.まるで,相互法則が,高等的多様体論の高等的円分論の位置を占めているかのようでもあるから.ガウス『アリトメチカ研究』のアリトメチカは,私としては「高等的算数」という訳がぴったりなのだが,いろいろあるらしい.断定的に内容はこうだと言ってしまったが,もちろん,それを確かめるまで読み進んでないから,予備知識程度のつもりである(つまりそうアテにならない).
楕円関数論だテータ関数論だとか指数定理だとか,数学史的な経緯があるようだが,素人的には,算数へ遡行する旅のような感じがする.未知の世界への新たな遡行という感じで.内容もよく確かめないまま,感想をいっていても仕方ないが,読みはじめの勢いというものである.歳のせいか,だいぶ息切れも激しいが.ということで,ちまちまやっていくしかないのである.
最初の定理は,
定理.pを正素数,kをpで割れない任意の整数とする.1, 2,3, ..., 1/2(p-1)をA, 1/2(p+1), 1/2(p+3), 1/2(p+5), ... , p-1をBとする.kとAの個々の数との積(k・Aと書くとする)の法pでの絶対正剰余をとる.それらはすべて異なり,一部はAに,また一部はBに属するが,Bに属する剰余がμ個であるとすると,μが偶数ならば, kはpの平方剰余,μが奇数ならばkはpの平方非剰余である.
合同式 x^2 ≡ a (mod. p)が整数解をもつときaをpを法とする平方剰余,そうでないとき,平方非剰余という.pを法とするとき,x^2の剰余がaとなるようようなxが存在するかどうかということだろう.
仮に,p=13, k=20として,確かめてみる.p-1=12, 1/2(p-1)=6だから,
A={1 ,2, 3, 4, 5, 6},
B={7, 8, 9, 10, 11,12}.
k・A = {20, 40, 60, 80, 100, 120}で,法13での剰余は,それぞれ,{7, 1, 8, 2, 9, 3}.{1, 2, 3}はAに属し,{7, 8, 9}はBに属する.μ=3.
{7, 8, 9}の補値といわれる{13 - 7, 13- 8, 13- 9}={6, 5, 4}をとれば,{1, 2, 3}とあわせて,Aが覆われる.a=bq+rで|r|≦b/2となる剰余rを絶対的最小剰余というが,Aはb=13の絶対的最小剰余のあつまりになっている.
1・2・3・4・5・6=720≡5(mod. 13)
- 1・2・3・7・8・9=-3024≡5(mod. 13),(-3024=-233×13+5で13で割ると5余るから).
7, 1, 8, 2, 9, 3 は20, 40, 60, 80, 100, 120の法13に対する剰余だから,当然,
-20・40・60・80・100・120= -20^6・1・2・3・4・5・6≡ - 1・2・3・7・8・9 ≡ 5(mod. 13)
1・2・3・4・5・6≡ -20^6・1・2・3・4・5・6≡5(mod.13)
したがって,
-20^6≡1(mod. 13)
フェルマーの小定理から,kが法pに対する平方剰余である必十条件は,k^{(p-1)/2}≡1 (mod. p)だから,kは平方非剰余である.μ=3で奇数だから,定理の通りである.
補値(ここでは,a,b,cに対する)の積は,(p-a)(p-b)(p-c)=p^3+Sp^2+Tp-abc≡-abc (mod.p)だから, 4・5・6≡ (-1)^μ・ 7・8・9 (mod. 13). μの個数によって,abcの前の符号は+か-になるから.ここでは,μ=3だからマイナス符号.μ=2なら(p-a)(p-b)≡ab(mod.p)でプラス符号.S,Tはp^2, pの係数を簡単にかいたもの.
x^2 ≡ a(mod. p), aはpで割り切れない正負の整数.aが法pに対する平方剰余であることを (a/p) = 1, 平方非剰余であることを(a/p) = -1とかけば(ルジャンドルの記号),
(a/p) ≡ a^{(p - 1)/2} (mod. p)
がなりたつ(オイラーの規準).(a/p)=1の時,つまり,aが法pに対する平方剰余のときは,a^{(p - 1)/2} ≡ 1(mod. p)が成り立ち,(a/p)= -1なら,つまり,aが法pに対する平方非剰余のとき,a^{(p - 1)/2} ≡ -1(mod. p)がなりたつ.a=k=20, p=13のときは,kは法pに対する平方非剰余であるので,20^{(13-1)/2} = 20^6 ≡ -1(mod. 13)が成り立つ.
仮に,p=7, k=20のときは,(20 / 7) = -1.
ここで,多分,『アリトメチカ研究』(Disquisitiones arthmeticae(1801), 略してD.A.)
第108条
THEOREMA. Omnium numerorum primorum formae 4n + 1, -1 est residuum quadraticum, omnium vero numerorum primorum formae 4n + 3, non-residuum.
「pは奇素数とする.次数2の合同式
x^2 ≡ -1 (mod. p)
は,pが4n + 1型なら解を持ち,pが4n + 3 型なら解を持たない.」(「1.8 合同式の世界」(『ガウスの数論』))
という,無限性と素数の型(形状)のつながりがでてくるのだろう.
参考: アンドレ・ヴェイユ『初学者のための整数論』,ちくま学芸文庫
高木貞治著『初等整数論講義』,共立出版