Coxeter『幾何学入門』上,下,約850ページの数学本の数多い項目を当たるのは,さすがに眠たくなるが,およそ最も基本的で初歩的な項目は,一応たどったことにしておいて,加群だの線形空間だの,微積分だのの基本的な事柄をまとめておく方が,再読するにも都合がいいだろうということで,メモ書きしていきたいと思う.こういう分野は,教科書や参考書の要約ノートをとるくらいしかまとめようがないのだが,地味な手間も必要なのが,理系の科目というものなのだろうと,慮ってみる.
ここまで参考にしながら拾い読みした文献や関連の強そうな文献で手持ちののは,
『基礎数学ハンドブック』森北出版
『代数学・幾何学精説』培風館
『曲線と曲面の微分幾何』裳華房
『解析概論』岩波書店
『空間と時間の数学』岩波新書
『現代数学概説I, II』岩波書店
『自然科学者のための数学概論』岩波書店
「数学辞典」岩波書店
ニュートン『光学』岩波文庫など岩波文庫や新書,ちくま学芸文庫などの理系の文庫本や新書,『アインシュタイン選集I, II』とか物理関係の本もいくらか買いためてあるが,理系でないので,細かい事情は知らないから,古典的名著とか必読というような謳い文句に促されて買ったものがほとんどである.うん10年前の本が多いのだが,趣味で買いためたものだから,紙束にしたままにもいかないので,使えるものは使うという方針でまとめたいと思う.これらの参考書は,専門家の書いた教科書あるいは啓蒙書だが,説明が丁寧なところが素人の理解には助かるのである.しかし,自分でまとめようとしたりすると難解きわまりないものになるから不思議である.
ユークリッド幾何学から,圏と関手(Category and functor)のように,対象領域を拡大して,写像の拡張概念(汎射)のようなものを使って,同値類を定めて,いろいろな性質を見ていくような理論を導き出すような構成を目的としているのかどうか,という問題も生じると思うが,Weylの「群論と量子力学」も「合成」を基本として理論を組み立てると最初の方に述べているのだから,趣旨が通じている感である.気になることの一つは,数論のような対象が,そのような理論の拡張の上に建てられる様子が,実際どういう感じで成されるのかということである.
「群の表現理論とともに,量子力学の演算の数学的な場(field)は,多次元アフィン空間あるいはユニタリー空間である. 公理的な方法が,そのような空間の幾何学を展開するのに,最も適切であることは間違いないが,見通しを良くするために,まず,純粋に代数的な方法で始めることにする.」(『群論と量子力学』)
「テンソル解析を展開するのに純代数的方法は,その簡明さと理解しやすさという点で優れている.これに対して幾何学的な方法は直感的という利点をもつ.」(パウリ『相対性理論(上)』)
「我々が乗法を加法に帰せしめることを断念するかわりに,これらの公理(ベクトルの公理)は我々に幾何学の論理的建設から把え難い連続性を全く追放する能力を与える.」(ワイル『時間・空間・物質』)
ユークリッド幾何学が,実数の連続性を,公理として要請する体系だということだろうか.算数でいえば,2×3=2+2+2=(1+1)+(1+1)+(1+1)=6というようには,いつも同じように考えることはできないということだろうか.
ベクトル空間は Fを(係数)体とするF-加群(体Fを台集合とする,Fの上の加群)である.一般に,Aを単位1をもつ環(単位環)とする.Mを加群とする.α∈A, x∈Mに対して,αx∈M(またはxα∈M)が定義されて
が成り立つとき,MをA-(左)加群という(xα∈MのときはA-(右)加群).A-加群で,Aが体Fのとき,F-加群をFの上のベクトル空間という.直感的には,「点Pから点Qへ線分が引けたとせよ.その線分の長さと,PからQへという方向を一組にしたもの,それをベクトルということにしよう」という感じだろうか.
Weylの公理系ということで,
[ベクトルの公理]
n次元線形空間R^nのベクトルvec{x}は,n個の順序付けられた数の組みである.ベクトル解析は,そのような順序付けられた組みの計算法である.基本となる2つのベクトル演算は,ベクトルxにある数aを乗じるというものと,2つのベクトルx, yの加法である.
という表記を導入すれば,これら2つの演算は,次の等式で定められる.
これらの演算が,次の公理に従うとき,R^nはベクトル空間であるという.
『空間と時間の数学』(岩波新書)では,III(計量の公理),IV(次元公理), V(アフィン公理)と続くのだが,IVのベクトル空間Vの次元は,Vのn個のベクトルが一次独立で,どのようなn+1個のベクトルも一次従属となるとき,あるいはベクトル空間Vがベクトルを元にもつ列(vec(a1) vec(a2) ... vec(am))(ベクトル系)のサイズ(ベクトル列の長さm)が最小でも$n$のベクトル系で生成されるとき,ベクトル空間の次元は$n$であるという公理,IIIは,ベクトルの内積の性質を一般的に見て,計量を定める公理として採用して,計量ベクトル空間を定義するもの.Vは点の集合である空間Eとベクトル空間Vを結びつける役割をすると考えられる公理で,アフィン空間を定める公理である.
[双対ベクトル空間]
任意のベクトルxの関数L(x)が,
(1)
という形に表されるとき,線形形式(一次形式)という.アフィン幾何学においては,この概念は不変であり,
という関数特性で定義される. 式(1)がこれらの性質を満たすことは明らかである.また,逆に,座標系e_iを導入して
とおけば,
が従う.
任意のベクトルxの成分x_iを(座標の)変換法則にしたがって変換して,座標を取り替えたときには,線形形式は
となるが,もともとのα_iに対応するα'_iは,
という等式で結びつけられている.線形形式の係数α_iは,変数x_iに対して,反傾的に(contragrediently)変換されるという.
しかしながら,α_iを定数,x_iを変数と考える必要はない.α_iのすべてが0というわけではないとき,方程式L(x)=0は一つの''平面''を定める.すなわち,(n-1)次元部分空間である.その成分がこの方程式を満たすならば,ベクトルxはその平面に含まれるという.また一方で,すべての平面の方程式は、非ゼロベクトルx^0を与えることによって求められる.x_i=x_i^0はそのとき定数で,α_iは変数である.なので,2つの組
を並行的に考えるのが最も適当である.
そこで,空間Rに加えて,第2のn次元ベクトル空間, 双対空間Pを導入しよう.Pのベクトルξの成分とRのベクトルから,内積あるいはスカラー積
(2)
を作ることができる.この積は,明らかに,不変的な特徴を持っている.Rがx_iの変換によって新しい座標系に参照されるとき,双対空間Pの変数ξ_iは,反傾変換を被る.この双対空間は,実は,反傾変換を各一対一変換に結びつけるために導入されたのだった.くり返して述べれば,二つの線形反転変換
x = A x', ξ= Aξ' (3)
は, (2)を不変に保つならば,
(4)
ならば,互いに反傾である.
RのベクトルxとPのベクトルξは,それらの積(2)が0となるならば,対合(involution)の関係であるといわれる.Rの射線はPの平面を定める.すなわち,与えられた射線と対合の関係にあるベクトルからつくられる平面であり,その逆も成り立つ.双対性は相反関係(reciprocal relationship)である.
(以上,『群論と量子力学』から)
( O1×O2×...×On)×RからRへの対応で多重線形関係を保つようなものを考えることが,双対空間とか転置空間と呼ばれるものをとる目的であるということなのだろう.同型射を定めるという表現だろうか.類(型)射を定めるという感じにも思えたりする.これは,私の単なる言葉遊びで,数学的に正確な話ではないが.
続けて訳すと,
[アフィン・ベクトルに関する基本的な事柄について,簡単にメモ(『基礎数学ハンドブック』から)]
アフィン成分表示でのベクトルa, bの内積や外積は,内積に関する分配則,外積に関する分配則が成り立つことから,計算できる.