日経新聞社「Fintech Data Championship」の協賛企業メッセージに、こんな記述がありました:
三菱UFJ信託銀行:「FinTech」は信託銀行にこそ必要な手段 信託銀行だから生み出せる価値がある
「FinTech」というキーワードが日本の金融ビジネスの現場でも語られるようになったのは、わずか数年前のことです。
そのため、当初は国内金融機関の中でも、いったい何から手をつけるべきなのか戸惑いがあったことは否めません。しかし、労働人口が減り続ける我が国にあって、これまで以上にサービスの質を向上し続けるには、最新のテクノロジーを活用することが求められます。
三菱UFJ信託銀行がFinTechの一つであるAI技術の積極的導入を進めたのは2016年の春頃であり、翌年2017年2月にはビッグデータとAI技術を組み合わせた投資信託「日本AI(あい)」の運用を開始しました。
2018年7月には情報信託機能を担うプラットフォーム「DPRIME(仮称)」の提供に向けて実証実験の開始を発表するなど、社会・お客様の課題を解決するために、デジタルも活用した「信託ビジネスのイノベーションへの取り組み」という戦略を打ち出しています。
信託銀行が、デジタル時代において取り組むFinTechは、新ビジネス創出や既存ビジネスの高度化と、多岐にわたります。
http://ps.nikkei.co.jp/fdc2019/contents/01/index.html
2016年春頃に運用業務へのAI技術の本格的な導入を進め、翌年の2017年2月にはAIとビッグデータを活用した資産運用を行うファンド、
「AI日本株式オープン(絶対収益追求型)(愛称:日本AI(あい))」
を提供するなどFinTech分野で、いち早く貢献し、誇るべき実績を残してきたと、企業アピールしてありました。
ちなみに、以前にも、同様のアピールをしていました:
ただ、その時にも指摘しましたが、件のAIファンドは、欠陥品とも言える非常に稚拙なものでした(としか、私には思えませんでした)。
その理由(検証期間を恣意的に選択して都合の良い結果だけを抽出している、複数のモデルを合成する時の比率の決め方が恣意的など)については、
過去に何度も指摘して来ました:
☞ アクティブファンドは、インデックスファンドの取り組みを見習って欲しい
cf.上図の「ゴキブリ」の絵の意味ついていは、 「バフェットからの手紙」に学ぶ、投資信託選びで失敗しないための注意点 を参照ください。
提示された結果は、まさに、品質・性能偽装が行われたと言っていいレベルの内容でした。
(この点については、先程のリンク先の記事などを読んでいただければ、納得いただけるのではないかと思います。)
企業実績(「他社に先行する形でAI運用を実現した」という歴史)を残すために、“AIファンド”の商品化自体が最優先にされてしまったのです。
日経新聞(2016.5.8)「三菱UFJ信託、AIが運用する投信 16年度内にも」
三菱UFJ信託銀行は人工知能(AI)が自動で運用するファンドを、このほど国内で初めて組成した。近く機関投資家から資金を募集し、今年度内には個人投資家向けの投資信託として商品化することを検討する。
脳科学の研究成果を導入したAIが毎日200弱の指標をチェックし、その日の運用を決める。具体的には高配当の株式50~100銘柄に投資し、株価が下がりそうなら先物を使ったヘッジ取引を増やす。
このAIを使ったシミュレーションでは2008~15年度のすべての年で利益を確保できた。三菱UFJ信託銀によると国内で米金融危機の08年度にプラスの運用成績を上げたファンドはない。
「顧客の利益」を考えれば、もっと検証を重ね、実用性があると確認できるまで、商品化すべきではなかったと思います。
現在、同ファンド(性能偽装が行われた欠陥ファンドと私は断じます)の運用結果は、完全に「運用に失敗した」と評価されるレベルになっています。
(絶対収益追求型のファンドにも関わらず、シャープレシオは▲1.0を優に下回っています。設定来のパフォーマンスは▲7.71%)
そして、この結果は、起こるべくして起きた結果と言えます(オーバーフィッティング、つまり、商品に欠陥があったことを意図的に無視して、実用化したためです)。
補足:語録:AI日本株式オープン、この一言(no.3)『最大の売り』
「時代の求めに応じて、いち早く、先進的で高度なFinTechの活用を行っている」ということのようですが、
いくら時代が移り変わろうとも、変わることなく、求め続けられるものがあります。
「お客様の信頼を第一とし、お客様の大切な資産をお預かりするのだ」という精神です。
古臭いようですが、決して、色あせることはありません。
「顧客本位」
この言葉の重みを忘れた企業に、いったい、「デジタル時代」は、何を求めるというのでしょうか?
企業のイメージ戦略のために、顧客の利益を平然と蔑ろにするようなビジネスは、改めて欲しいと切に願います。
eMAXIS Slimの商品化ような、本当に素晴らしい顧客本位の取り組みが一方ではなされているだけに、本当に残念です。