【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【危険な新年祭】

2010年08月02日 | オムコイ便り
 
  今日をはさんだ3日間は、わがポーカレン集落の「新年祭」である。

 今年は雨不足で遅れているものの、例年は田植えが終わってひと息つく時期であり、そのねぎらいと秋の豊作への祈りを込めて、年の区切りをつけるわけである。

 この山奥の村でも、かなり早い時期から山裾に棚田を拓いて農耕に取り組んできたことを示す伝統行事と言えるだろう。

 かといって、取り立てて特別な催しがあるわけではない。

 前夜の大晦日から各家で宴会が始まり、古老たちを中心に伝統的な歌が夜通し歌われる。

 翌朝にはそれぞれに豚や鶏をつぶし、仏様にお供えしてから、古老による家族や親戚に対する糸巻きが行われる。

 あとは、ひたすら宴会とのど自慢である。

 わが家が巻き込まれた一昨日の騒動は、まさにそのめでたい前夜祭のさなかに勃発したことになり、なんとも罰当たりなことであったのだった。

     *

 もちろん、ラーは村の伝統に従って、鶏をつぶし、隣家のプーノイに糸巻きをしてもらおうと願ったのであるが、前夜の馬鹿馬鹿しい騒ぎにうんざりしていた私は、この伝統行事への不参加を宣言した。

 あの騒ぎのあとで、朝からまたまた焼酎というのが気にいらない。

 なにしろ、プーノイの家で宴会を始めると、伝統に則った「エロ話」が延々と続く。

 しまいには、酔った家族どうしで決まって諍いが始まるのである。

 従兄のベッの家は5メートルも離れておらず、このいさかいが飛び火して、また前夜の騒ぎが再燃し、近隣の親戚を巻き込んだ言い合いに発展するおそれもある。

 まあ、こうした下ネタや怒鳴り合いは日頃の重労働の鬱憤を晴らす「ガス抜き」の役目も果たすのであるが、今日はもう勘弁してほしい。

 そこで、私は店に居残り、ラーには焼酎を飲まない別の親戚の家で糸巻きだけをしてもらうように勧めた。

       *

 昼どきに戻ってきたラーの報告によれば、さっそくふたりの老人が喧嘩を始めたという。

 なにしろ、彼らは前日から飲み出して、一睡もしないで歌を歌っていたのである。

 そりゃあ、乱れるはずだ。

 予想どおりに、わが家のまわりの親戚の間でも、「ラー派」と「ベッの女房派」に別れて、激しい論戦が始まったらしい。

 「ラー派」の先陣を切ったのは、従兄のマンジョーと隣家のプーノイ。

 女房を守るべきベッはすでに泥酔していたので、この論戦は「ラー派」の圧倒的な勝利に終わった。

 それどころか、その後元村長宅での宴会に紛れ込んだベッは、若い衆に担ぎ上げられて家の外に強制排除されたという。

 これは、実質的な村八分宣言である。

 そういえば、以前ヤーバーを吸って女房(ラーの同級生)に手を出し、仲裁に入ったラーにノックアウトを喰らった男は、同じように村八分宣言を受け、今では薬をやめてすっかり元の“ニコニコ旦那”に戻ったらしい。

「ところで、お前さんはおとなしくしてたんだろうな?」

「もちろんだよ。相手に怪我させたことをクンターに叱られたから、今日は反省して囲炉裏のそばでじっとしてたよ」

 本当だろうか?

      *

 夕方になって家に戻りかけると、顔見知りの老人が泥酔してふらふらと歩きながら、顔をしかめてなにやら喚いている。

 普段は、おだやかな顔でニコニコしている人なのに、彼もまた酒に飲まれてしまったようだ。
 
 隣家のプーノイの家では、店の冷蔵庫にあった食材をあらいざらい持ち込んだラーが、従姉のメースアイと一緒に正月料理(といっても、いつもの鶏鍋や焼豚)を作っている。

 炉辺には、ベッの母親が座り込んでいた。

「クンター、あたし勝ったよ」

「は?」

「だって、この叔母さんが悪いのは自分の息子と嫁だと認めてくれたんだよ」

 やれやれ。

 これで、大勢は決したようだ。

      *

 すぐに、焼酎の献杯がきた。

 村の焼酎はやたらと強いので、飲む前には「本日のモード」を決める必要がある。

 今日は「酔っぱらわないモード」を選び、適当に切り上げて飯を食い始めた。

 そこで、バリバリッ、ドタンという激しい音がした。

 顔をあげると、さっき「帰る」と言ってふらふらと立ち上がった老人が、背中から廊下の外に倒れかかっている。

 とっさに駆け寄って引き寄せたが、2メートルに近い高床の家である。

 間に合わなければ、後頭部から真っ逆さまにコンクリートたたきの上に落ちるところだった。

 “酔っぱらわないモード”にしておいて、よかった、よかった。

       *

「ラー、なんともナッケーな(困った)正月だなあ」

「だって、一年に一度のカレン正月なんだから仕方ないよ」

「死んじまったら、正月も何もないだろうに。これじゃあ、こっちの血圧にも悪いよ」

 村の衆は、正月最後の今日もまた、ひたすら焼酎を飲み続けるのだという。

 これじゃあ、死人が出てもおかしくないぞお。

*写真は、売れ行き好調のパッカチョン(花野菜)。マカームの酸っぱい実で煮込んで食すカレン族の定番料理に欠かせない。

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2 コメント

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質問 (バンコクジジイ)
2010-08-02 16:49:07
カレン族というか、タイでは水不足で稲が植えられない時の代替植物、例えば蕎麦とかサツマイモとかを植えることはしないのでしょうかね?

タダあきらめちゃうだけってのはどうも日本人的には納得がいかんです。

芋なんかちょっと植えておけば飼料にもなると思うのですけどねえ
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代替作物 (クンター)
2010-08-04 11:58:43
バンコクジジイさん

 他の地域は知りませんが、わが村ではご指摘のような本格的な代替作物は見たことがありません。ラーの話によれば、昔は各家庭でバナナ、トウモロコシ、根芋(ふかすとサツマ芋のような味でうまい)などを植えて不作に備えていたそうです。しかし、近年は政府の保護政策で、いざとなればチェンマイから援助米が運ばれてくる。そこで、備えも甘くなっているようです。
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