現在進行形の福島原発事故 犠牲を生まない社会を
柳 美里さん
東日本大震災と福島原発事故で被災した人々に寄り添い、その思いを発信するラジオ番組（福島県南相馬ひばりエフエム）でパーソナリティーをつとめています。ラジオ局は震災前まで農業に従事していた人などのボランティアで続けられています。柳さんの思い、生き方について聞きました。【熊倉綾子】
福島原発の事故後、半径２０キロ圏内が封鎖される前日（２０１１年４月２１日）、大熊町、双葉町、浪江町、富岡町を歩きました。原発が完全に廃炉になるまでこの地域に関わりたいと思い、週１回、地元の方と語るラジオ番組を提案しました。
２００人余から聞きとり
番組は始まって１年半になります。仮設住宅などにも通い、２００人以上に話を聞きました。失ったのは、どんな故郷で、どんな生活だったのか。話すことにより気持ちがほどけてくる面があると思うのです。
一人ひとりの思いを丹念に聞くと、「原発事故による被災者」とひとくくりにすることはできません。
福島原発事故は現在進行形です。問題はまったく解決されていません。
この間、大熊町や富岡町にあるお宅に何軒か上がらせていただきました。地震では被害のなかった家ですが、（居住者不在になって）ネズミが壁を破り、アライグマやハクビシンが入って、フンや死体がゴロゴロある。放射能よりも伝染病が怖いと言っていました。
雨漏りしたところが腐って床が抜けるなど、家の中に入ればどの家も住める状況ではないことがわかります。
避難区域から数メートル離れただけで補償金対象外になってしまうなど、理不尽な線引きによる共同体の分断も行われています。
除染にしても、汚染土を入れた黒い袋は畑に野積みされています。台風や雪で、あの袋は劣化しないのか。掃いて高圧洗浄をかけるだけで除染できるのか。
国が描いている「復興」の形を聞かせてもらいたいですね。「国土強靭化」と唱えていますが、まるで福島の沿岸部は国土ではないみたいです。もっと福島の一人ひとりの声を聞いて、実態を知ってほしい。そして、原発は国民がノーと言えばなくなるはずです。
原発と重なる沖縄基地問題
危険なものを一方的に押し付けるという点では、沖縄の米軍基地問題とも重なります。
政府は沖縄の側、国民の側に立ってアメリカと交渉しなければならないのに、沖縄に交渉に行き、「粘り強く説得する」と言います。
これはアメリカ側に立っているからです。沖縄が日本の国土であるならば、沖縄の人の立場に立って、アメリカと交渉するのが筋ではないですか。
マイノリティーの立場から
私は在日韓国人二世というマイノリティー（少数派）です。日本人でも韓国人でもなく、両国の間にいて、関係が悪くなると、居場所が狭められるというか、居場所を失うという感覚があります。ですから、それぞれ立場は違うけれども、福島や沖縄の人の気持ちを考えざるを得ません。
従軍慰安婦問題にしても、「でっちあげだ」「強制はなかった」という前に、被害を受けた方々がいるわけですから、まず被害者の話に耳を傾けるべきです。
選挙で政治家を選ぶときも、一人ひとりがなにを言っているのかを知らないといけない。「自民党は安定感があるから」と、雰囲気で選ぶのは無責任です。
私は、一部の人に犠牲を押し付けることで利益を得て、安穏としている社会は構造自体が間違っている、犠牲を生まない社会を目指すべきだと思います。
ゆう みり
１９６８年神奈川県生まれ。劇団「東京キッドブラザーズ」で女優、演出助手。９３年『魚の祭』で戯曲賞。９７年『家族シネマ』で芥川龍之介賞。０１年『命』で雑誌ジャーナリズム賞作品賞、これに続く『魂』などの『命』４部作は累計１００万部を超えるベストセラーに。近著に『自殺の国』『グッドバイ・ママ』
（全国革新懇ニュース ２０１３年７・８月合併号）
全国革新懇の３つの共同目標
① 日本の経済を国民本位に転換し、暮らしが豊かになる日本をめざします。
② 日本国憲法を生かし、自由と人権、民主主義が発展する日本をめざします。
③ 日米安保条約をなくし、非核・非同盟・中立の平和な日本をめざします。
全国革新懇ニュースのお申し込みは
℡０３（３３５７）５５１５
年間購読料１８００円・送料込
〒１６０－０００４ 東京都新宿区四谷３－８ 三橋ビル５Ｆ
℡０３（３３５７）５５１５ ＦＡＸ０３（５３６３）８９６５
ホームページhttp://www.kakushinkon.org/ Ｅメールzenkoku@kakushinkon.org
柳 美里さん
東日本大震災と福島原発事故で被災した人々に寄り添い、その思いを発信するラジオ番組（福島県南相馬ひばりエフエム）でパーソナリティーをつとめています。ラジオ局は震災前まで農業に従事していた人などのボランティアで続けられています。柳さんの思い、生き方について聞きました。【熊倉綾子】
福島原発の事故後、半径２０キロ圏内が封鎖される前日（２０１１年４月２１日）、大熊町、双葉町、浪江町、富岡町を歩きました。原発が完全に廃炉になるまでこの地域に関わりたいと思い、週１回、地元の方と語るラジオ番組を提案しました。
２００人余から聞きとり
番組は始まって１年半になります。仮設住宅などにも通い、２００人以上に話を聞きました。失ったのは、どんな故郷で、どんな生活だったのか。話すことにより気持ちがほどけてくる面があると思うのです。
一人ひとりの思いを丹念に聞くと、「原発事故による被災者」とひとくくりにすることはできません。
福島原発事故は現在進行形です。問題はまったく解決されていません。
この間、大熊町や富岡町にあるお宅に何軒か上がらせていただきました。地震では被害のなかった家ですが、（居住者不在になって）ネズミが壁を破り、アライグマやハクビシンが入って、フンや死体がゴロゴロある。放射能よりも伝染病が怖いと言っていました。
雨漏りしたところが腐って床が抜けるなど、家の中に入ればどの家も住める状況ではないことがわかります。
避難区域から数メートル離れただけで補償金対象外になってしまうなど、理不尽な線引きによる共同体の分断も行われています。
除染にしても、汚染土を入れた黒い袋は畑に野積みされています。台風や雪で、あの袋は劣化しないのか。掃いて高圧洗浄をかけるだけで除染できるのか。
国が描いている「復興」の形を聞かせてもらいたいですね。「国土強靭化」と唱えていますが、まるで福島の沿岸部は国土ではないみたいです。もっと福島の一人ひとりの声を聞いて、実態を知ってほしい。そして、原発は国民がノーと言えばなくなるはずです。
原発と重なる沖縄基地問題
危険なものを一方的に押し付けるという点では、沖縄の米軍基地問題とも重なります。
政府は沖縄の側、国民の側に立ってアメリカと交渉しなければならないのに、沖縄に交渉に行き、「粘り強く説得する」と言います。
これはアメリカ側に立っているからです。沖縄が日本の国土であるならば、沖縄の人の立場に立って、アメリカと交渉するのが筋ではないですか。
マイノリティーの立場から
私は在日韓国人二世というマイノリティー（少数派）です。日本人でも韓国人でもなく、両国の間にいて、関係が悪くなると、居場所が狭められるというか、居場所を失うという感覚があります。ですから、それぞれ立場は違うけれども、福島や沖縄の人の気持ちを考えざるを得ません。
従軍慰安婦問題にしても、「でっちあげだ」「強制はなかった」という前に、被害を受けた方々がいるわけですから、まず被害者の話に耳を傾けるべきです。
選挙で政治家を選ぶときも、一人ひとりがなにを言っているのかを知らないといけない。「自民党は安定感があるから」と、雰囲気で選ぶのは無責任です。
私は、一部の人に犠牲を押し付けることで利益を得て、安穏としている社会は構造自体が間違っている、犠牲を生まない社会を目指すべきだと思います。
ゆう みり
１９６８年神奈川県生まれ。劇団「東京キッドブラザーズ」で女優、演出助手。９３年『魚の祭』で戯曲賞。９７年『家族シネマ』で芥川龍之介賞。０１年『命』で雑誌ジャーナリズム賞作品賞、これに続く『魂』などの『命』４部作は累計１００万部を超えるベストセラーに。近著に『自殺の国』『グッドバイ・ママ』
（全国革新懇ニュース ２０１３年７・８月合併号）
全国革新懇の３つの共同目標
① 日本の経済を国民本位に転換し、暮らしが豊かになる日本をめざします。
② 日本国憲法を生かし、自由と人権、民主主義が発展する日本をめざします。
③ 日米安保条約をなくし、非核・非同盟・中立の平和な日本をめざします。
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