ヒデ系の瞳

平和憲法尊守

7月公開「風立ちぬ」 スタジオジブリプロデューサー・鈴木敏夫さん「宮さんは戦争をどう描くか」

2013-06-24 | 各界インタビュー
HAPPY BIRTHADY きっと忘れない


さまざまな分野で活躍する人が登場し、その道を語る「この人に聞きたい」。今回は、日本のアニメーションをリードするスタジオジブリのプロデューサー、鈴木敏夫さんです。世界に愛される作品はどうやって生まれるのか―。

宮さんは戦争をどう描くか。

スタジオジブリプロデューサー 鈴木敏夫さん ㊤

―東京都小金井市。静かな住宅街の一角にスタジオはあります。木立に囲まれツタに覆われた白い建物は、そこだけ別世界のような雰囲気です。
 
 この建物は、宮崎駿監督自身が設計しました。完成したのは「紅の豚」(1992年)の頃です。窓がたくさんあって、外気に触れながら仕事ができるのがいいと、みんな気に入っています。

―ジブリとのかかわりは?

 大学卒業後、徳間書店に入り、週刊誌の記者をしていたのですが、会社が、『アニメージュ』というアニメ雑誌をつくることになって、ぼくも参加しました。そこで取材を申し込んだのが、高畑勲と宮崎駿の2人。それが出会いでした。
 2人は東映動画以来の、先輩(高畑)・後輩の間柄。労働組合の活動をしたり、「太陽の王子 ホルスの大冒険」という長編アニメやテレビの「アルプスの少女ハイジ」などを作っていました。
 『アニメージュ』で連載した宮さんの「風の谷のナウシカ」を徳間が映画化(84年)して成功し、翌年、スタジオジブリを立ち上げた。間もなく私はジブリ専従になりました。
 「ジブリ」とは、サハラ砂漠に吹く熱風のことで、宮さんが名付けました。

5年ぶり作品

―7月公開の「風立ちぬ」は、「崖の上のポニョ」以来5年ぶりの宮崎監督作品です。
 
 「風立ちぬ」はゼロ戦の設計者がモデルです。堀越二郎という実在の人物です。
企画を持ちかけたのは僕です。彼のそばに35年間いて、ずっと気になっていたことがあるんです。それは、宮崎駿が戦争を描いたらどうなるのかっていうこと。
 
 彼は戦争にすごく詳しい。戦闘機や戦車を描くのが大好きです。
 その一方で、彼には平和への強い願いがあります。戦争が大嫌い。反戦デモにも参加する。
 そんな矛盾に答えを出すような映画をつくってほしいと思ったんです。
 宮さんは最初抵抗しました。「鈴木さん、どうかしてるよ」と言われました。「アニメーションは子どものためにあるべきで、おとなのためにやっちゃダメだ」と。
 でも、ぼくはどうしても見たかったから、説得しました。
 
 宮崎は、ご承知のようにファンタジーの優秀な担い手です。ファンタジーだったら、戦闘シーンがあったり、飛行機を飛ばしたり、人間が飛んだり自由自在です。ところが実際にあった戦争を扱うとなると、その得意技が封じ込まれるわけです。そうすると苦しむわけですよ。
 宮崎駿の戦争映画に派手な戦闘シーンは出てくると思います?。
 戦争映画の主人公は、たいてい国のためにたたかいますが、宮さんはどうするのか?。ぜひ見ていただきたいですね。こんなに苦労して作品をつくる宮さんを見たのは初めてです。

9条のすごさ

―鈴木さんは「映画人9条の会」に賛同しています。安倍首相になって、憲法96条や9条を変えようという動きが急です。

 憲法9条を変えるというのは、国民にとってとても重大なことです。そんな問題を扱うときに(自民党改憲案のような)国会の「過半数」じゃだめですよ。「3分の2」じゃなくちゃ。しかも96条改憲の先は、9条を変えるというのでしょう。
 もし、9条がなかったら、戦後、日本はアメリカのやる戦争に全部ついていかなければならなかったでしょう。そうなればずいぶんいろんな人が、若い命を戦争にささげなければならなかった。そうならなかったのは9条のおかげですよ。

 9条をなくそうとする人たちは、自分がひどい目に遭うという想像力に欠けているんでしょうね。日本が戦争放棄の憲法9条を持っていることをもっと世界にアピールするべきだと思いますけどね。恒久平和という人類の理想を形にしたものですからね。すごいと思いますよ。

残るのはお金じゃない ㊥

監督には思い切りつくってほしい

― 映画づくりの全体を統括するプロデューサー。責任は重大ですね。

 ぼくの座右の銘、書きましょうか。(裏紙に筆ペンで書き出す)
 「どうにもならんことはどうにもならん。どうにかなることはどうにかなる」
 お寺に張ってあった言葉です。『崖の上のポニョ』のとき、宮さんに教えてあげたら、気に入って、彼の机の前に張っておいてくれました。
 ものを作ることへの情熱や執念は、2人の監督があふれるほど持っていますから、ぼくまで熱くなっていたら、むちゃくちゃになります。離れたポジションから見ているのが自分の役割だと思っています。

ヒットを続ける

― ヒットが続くジブリ。なかでも宮崎監督の『千と千尋の神隠し』(01年)は、興行収入304億円。邦画・洋画あわせて歴代1位の記録です。

 興行成績がすごいといわれるけど、製作費がものすごい。これをまじめに受け止めてやっていたら、頭がおかしくなります。あの2人(宮崎駿、高畑勲両監督)はお金の計算はしません。ぼくもしません。
 だって、歴史的に考えれば、お金をどれだけかけたとか、もうかったなんて、どっちだっていいことでしょう。残るのは作品なんです。2人には思い切り作ってほしいと思っています。
 それで、お客さんに見てもらって、トントンまでいったら大成功です。
 ぼくに何か才能があるとしたら、すべての世代の人と話ができることかな。昔、取材記者だったから、人の話を聞くのが好きです。
 特に若い人と話すのは勉強になります。新鮮で、刺激を受けます。世代のギャップなんて関係ないですよ。自分に「自由」があるかどうか、だと思います。

宣伝で悩んだ

 最近こんなことがありました。NHKで『仕事ハッケン伝』(総合)という番組があります。芸能人がいろんな仕事に入門するのですが、オリエンタルラジオ(お笑いコンビ)の中田敦彦君がぼくの元に来ました。放送はこれからですが、彼に新聞広告をつくってもらう仕事を頼みました。
 実は、『風立ちぬ』の宣伝で悩んでいたことがあったんです。それは全体の大きなあおり文句。『もののけ姫』のときに、糸井重里さんにこんなキャッチコピーを作ってもらいました。
 「『風の谷のナウシカ』から13年、天才・宮崎駿の凶暴なまでの情熱が、世界中に吹き荒れる!」
 今回、「宮崎駿」の頭にどんな言葉をくっつけるかが問題でした。ぼくには見つけられなかった。でも、あっちゃんが考えた言葉を見て、ぼくは驚いた。何だと思います?
 「人間・宮崎駿」
 目からウロコですよ。忘れてた!って。
 宮さんも高さんも、天才、巨匠といろんな肩書がつくけど、悩んでいるのはいつも人間的な問題なんです。当たり前のことですが、ぼくは忘れていました。

― 鈴木さんの目に、今の時代はどう映るのでしょう。

 過酷な時代ですよね。でも、転換期にあると思います。
 19世紀は需要と供給のバランスがとれていた。生産者はみんなが必要とするものをつくっていた。20世紀は必要のないものをつくって広告の力で売りまくる時代。この商業主義が世の中をややこしくした。
 21世紀はその価値観が変わると思う。必要じゃないものは、いくら宣伝しても消費者に届かない。もう一度、本当に必要なものをつくる時代に戻るんじゃないか。そのプロセスの混乱期が現代じゃないかと思っています。


理想を失わない現実主義者 ㊦

正社員300人の町工場

 ジブリは宮崎、高畑両監督が考えたことを、みんなでよってたかって作り上げようという会社です。
 いまだに家内制手工業の町工場。やれることは全部自分たちでやってしまう。たとえば、映画のタイトル文字も普通は外部のプロの頼むけど、自分たちで作るし、宣伝のキャッチコピーも自前です。
 みんなを見ていると、純真で明るく仕事をしているから、客観的に見たら楽しい職場なんでしょうね。

3人から出発

 最初は、社員3人でした。企画ごとに契約を結んで、終わったら解散というふうにしていた。
 でも、それは金銭的な余裕がなかったからです。余裕ができたらちゃんと雇用するのは当たり前だと思っていました。
 『魔女の宅急便』(宮崎駿、1989年)が成功して、『おもひでぽろぽろ』(高畑勲、91年)を製作していたとき、スタッフを社員化しました。現在、三鷹の森ジブリ美術館とあわせて300人の正社員がいます。
 よく、多様な雇用形態があったほうがいいっていうでしょう。特に経営者側がね。インチキだと思う。安定して働ける正社員がいいに決まっている。
 ジブリの給料は全部、基本給です。いろんな人に話を聞くと、基本給が半分とか、半分以下というところが多いよね。手当によってあるように見せかけるなんてインチキだと思う。総務から、社会保険料が高くなるって文句が出たけど、ぼくは「払うものは払え」って言ったんです。要はシンプルにしたかった。

保育園つくる

 ジブリには保育園もあります。アニメーションの現場はもともと女性が多い。ジブリも社員の半分は女性です。
 だけど、保育園を作った本当の理由は、宮崎監督の趣味。彼はずっと、保育園の経営に憧れてたんです。
 『崖の上のポニョ』(2008年)は当初、保育園が舞台の物語でした。製作の最中に、宮さんがどうしても本物の保育園を作りたくなっちゃった。それで、「鈴木さん、協力してくれないか」と話があった。奥さんからも「宮崎の夢なのでお願いします」と頼まれて。
 本物ができたおかげで、『ポニョ』は保育園の物語でなくなりました。
 ここの保育園は、あれやっちゃだめ、これやっちゃだめというルールがない。多少のけがをしても親は文句をいうな、っていうのが一番の特徴ですね。最初に宣伝したんですよ。「親のためにつくるんじゃない。子どものためにつくるんだ」って。
 保育園の隣に宮さんのアトリエがあって、彼は毎日、子どもたちが騒いでいるのを見ています。
 ぼくたちは、理想を失わない現実主義者です。
 毎回、傑作ができると決まっているわけではないけれど、新作の『風立ちぬ』も『かぐや姫の物語』も傑作だと思っています。でも、周りをみていると、今回は(興行的成功は)無理だろう、って顔をしているんですよね(笑)。それをなんとかするのがぼくの役目。製作費は両作品とも『千と千尋・・・』をはるかに超えているので。でも、楽しいですよ。そういう人と出会っちゃったんだから仕方がない。作ったほうが勝ちですよ。
 きっとあの2人は、死ぬまでつくり続けるんでしょうね。
(おわり)

(しんぶん赤旗日曜版 2013年6月9日・16日・23日号)


宮崎駿監督最新作
映画「風立ちぬ」
2013年7月20日全国公開


高畑勲監督最新作
映画「かぐや姫の物語」
2013年《秋》全国公開

スタジオジブリ
http://www.ghibli.jp/

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