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2012経労委報告を叱る 高木 光(労働ジャーナリスト)

2012-03-04 | 労働
― 「定昇凍結」だけが問題じゃない

 経営側の春闘指針となる経団連の『経営労働政策委員会報告』(2012年版)が発表されました。ベースアップ(賃上げ)を論外と切り捨て、8年ぶりに定期昇給の「延期・凍結」にも触れました。人件費コストは安ければ安いほどよい、という姿勢です。もう一つ、この報告には日本経済や労使関係、国民生活をどうするのかといった大事な視点が完全に欠落しているのが大きな特徴です。
 
8年ぶり定昇凍結に言及
 報告のポイントは、こういうことです。
・企業は円高や東日本大震災の影響、原発事故によるエネルギー制約などがあり、大変厳しい状態。
・企業はグローバル経済に勝ち抜くため、国際競争力を強めなければならない。
・そのためには企業への制約を取り外すこと。世界で最高水準の賃金水準や高い法人税・社会保障費、労働法制の強化などには大いに問題がある。
・春闘では、ベアは論外。定昇の延期・凍結を含め厳しい交渉を行わざるを得ない可能性も。労使は企業の収益力・競争力を高めるための話し合いをすべきだ。

社会的コストにさえ反対
 企業が収益拡大とコスト削減を追及するのは、ある意味では当然でしょう。しかし、「国際競争に勝つ」ことを錦の御旗に、必要な社会的負担・コストにさえ反対するという極端な姿勢は、いただけません。
 しかも、経団連というのは日本の財界を代表する団体です。個別企業の人事労務テキストのような文章を発表して恥ずかしくないのだろうか、と思います。
 財界団体なら、今の日本経済の停滞をどう見て、打開するつもりなのか。国民生活の窮状をどう考えているのか、労使関係のありようをどうするつもりなのか。指針やビジョンを示すべきところですが、そんな問題意識はまったくありません。
 例えば、日本経済のデフレ問題です。先進国でデフレに陥っているのは日本だけ。国内で消費が低迷し、中小企業をはじめ、苦境が続いています。
 デフレの原因は国内需要の停滞です。非正規労働者を増やすなど企業が人件費を削り、下請け中小企業の単価を下げるなど、コスト削減を最優先にしてきた結果です。物の売れない国内市場にしてしまったのです。税収も落ち込むはずです。大企業を中心とする、こうした行いには反省もなく、「大事なのは海外市場だ。グローバル経済だ」と叫ぶのは、あまりに無責任でしょう。
 日本経済の再生をめざす気があるなら、大企業の蓄えを社会に還元することが求められます。200兆円を超す内部留保の一部を回すだけで、日本経済に大きな貢献ができるはず。財界団体としての責任ある振る舞いが必要です。
 
健全な労使関係とはいえない
 労使関係に対する意識の希薄さも際立っています。かつては、労使関係は日本社会安定の要だとか、雇用は守るとか、一応は主張していました。そんな文言はもう見当たりません。
 それでいて、「国内外の従業員が一丸となり、個々人の持てる力を最大限に引き出すことが必要」などと強調しています。過労死するほど従業員を働かせておいて、賃金は上げず、定昇にも手をつけようとしながら、よくもこんな調子のいいことが言えたものです。労働者に能力を発揮してほしいなら、それなりの処遇改善をはじめ、労使の信頼関係づくりに努力するのが筋でしょう。人の横面を張りながら協力を求めるというのは、健全な労使関係とはいいません。

たたかわない連合大手労組
 最後に連合系の労組にも一言。
 連合本体は経労委報告に批判的な見解を発表しました。内容は正論です。問題は、金属関係などの大手労組の姿勢です。今年も自動車や電機の大手労組は賃上げ要求を見送りました。他産業でも、多くの大手労組は「賃金カーブ維持」というベアゼロ方針を掲げているのです。
 連合本体が「1%の配分獲得」を求め、デフレ脱却を訴えても、肝心の企業内組合が要求しないのでは、経団連に足元を見られても止むを得ません。
 マスコミに「今年は定昇をめぐる攻防が焦点」と書かれてしまう責任の一端は、連合系大手労組にもあるといえるでしょう。

高木 光(労働ジャーナリスト)
学習の友
http://www.jah.ne.jp/~gakusyu/tomosya.html

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