ヒデ系の瞳

平和憲法尊守

『なぜ平和闘争を労働組合がとりくむの?』

2011-06-25 | 労働
 戦争は労働組合の目的を阻害する最たるもの

 日本において労働組合の存立の前提は日本国憲法です。第27条『勤労の権利と義務)、第28条(労働基本権)がそれにあたります。これらの条文が憲法第3章『国民の権利および義務』のなかにあることに注目してください。
 つまり、そもそも労働組合は、労働者の基本的人権を守り発展させるための組織なのです。基本的人権とは、人間らしく生きる権利、幸福を追求する権利です。一度しかない人生を何よりも大切にする、そのためにこそ労働組合は存在しているのです。基本的人権には『平和のうちに生きる権利』(憲法前文)もふくまれます。大量殺人、大量破壊行為である戦争は、労働組合の目的を阻害する最たるものです。
 二度にわたる世界大戦において6千数百万もの人命が奪われるという悲惨な体験をつうじて、人類は、戦争という手段そのものをなくさないと自分たちが絶滅してしまうということを痛感し、『戦争の違法化』原則を確立・発展させ、『紛争の平和的解決』を基本精神とする国際連合を誕生させます。反戦平和は、戦後世界秩序の土台となっているのです。
 戦争が起こされれば、国民の多数を占める労働者が最大の犠牲者となります。平和闘争は、命と暮らしを守る運動とともに、労働組合の当然かつ最大の任務です。


 組合活動と平和問題の結びつきが見えにくくなっている

 平和闘争が労働組合の『当然かつ最大の任務』であるのであれば、なぜ、このような疑問がくり返しだされるのでしょうか。
その理由の一つは、現在の労働者・国民にとって、職場の労働条件改善などの日常的な組合活動と平和問題との結びつきがみえにくくなっていることにあるのだと、私は思います。
 今年は古い日米安全保障条約(日米安保条約。いまの安保条約は1960年に改定されたもの)の調印から60年です。私をふくめた現役世代の大半は、生まれたときから安保条約の存在のもとで成長し、生活していることもあり、日米安保を自然に受け入れる傾向が強いように思います。また、まともな近現代史教育を受けていなかったり、親も直接戦争を体験していない世代が多くなり、戦争の生々しい実態に触れる機会に乏しいということも重要です。
 現在の多くの労働者・国民は、一方で『日本の平和憲法は理想的ですばらしいものだ』という思いをもちつつも、他方で、過去の侵略戦争・植民地支配など戦争と平和の問題にきちんと向き合うことから遠ざけられてしまっているのではないでしょうか。
 また、1980年の『社公合意』も重要です。当時、最大のナショナルセンターであった※総評司令部の強い要請のもと、※日本社会党と公明党が日米安保条約や自衛隊を容認し、日本共産党を排除する連合政権構想に合意しました。これにより、労働組合における安保問題のとりくみが大きく後退することになります。
 総評は、組合員の政党支持の自由や『政党からの独立』に反する社会党支持の方針をとっており、社会党も総評への依存を強めていました。このような、労働組合と政党の性格の違いをふまえない歪んだ関係が、労働者・国民の要求に一定程度応えていた社会党と総評の双方に重大な変質をもたらしたのです。


 『要求から出発する』という原則を忘れずに
 
沖縄には日本にある米軍専用基地の75%が集中し、殺人・強姦などの米兵犯罪、ヘリ墜落や騒音などの基地被害が県民の生活と権利を脅かしています。日米安保条約と憲法違反の自衛隊の増強、基地国家化の現実が、沖縄には集中的にあらわれています。
 しかし、先にのべたような事情から、そのことを労働者一人ひとりが重要だと認識できているわけではありません。あなたとこの疑問をだした人が一緒に沖縄に行ければ一番いいのですが、すぐに実行できるとは限りません。その場合、当面は対話が大事です。
 対話のさいには、『何が重要か、ということと、何からとりかかるか、ということは別だ』ということをおさえておくことが大切です。『何が重要か』を理解してもらうためには、媒介、手がかりが必要です。媒介、手がかりを活用することによってこそ、一致できる具体的な要求をつくりあげることができます。『要求から出発する』という労働組合原則から離れて、大事だからということで『安保反対』などの課題を頭からかぶせるのは正しくありません。
 安保問題に接近するためにも、『軍事費を削って社会保障や福祉を充実させる』など、一致できる要求をねりあげることが大切です。同時に、行動と学習・討論をつうじて平和のとりくみをひろげる努力も怠ってはなりません。


 貧困が青年を軍隊に追いやっている

 媒介、手がかりになり得る事例として、貧困と戦争がどのように結びついているのか、具体的にみてみましょう。
 『構造改革』の推進によって貧困と格差がひろがり、雇用不安が深刻になるなか、青年たちの自衛隊入隊が急増しています。自衛隊の方も『平和を、仕事にする』というキャッチコピーで、軍隊的な面を表にださず、徹底して平和のイメージで募集活動を強化しています。以下は、就職難が深刻な北海道の高校教員の話です。
 「学内で説明会を開くが、軍隊的なことはいっさい言わない。給料や待遇の話以外は、災害救助でこんなに現地の人に感謝されたというような話ばかり」「衣食住つきで16万円の仕事なんてこの辺ではありません。民間企業だと13万程度、税金や国保、年金などを払ったら手元に6~7万しか残らない。そりゃあ自衛隊がよく見えますよ」。
貧困が青年を自衛隊、軍隊に追いやっているのです。雇用問題のとりくみなどと結びつけて、労働組合がはたすべき役割は大きいと思います。
 

 労働者の生活と権利を守るためにこそ平和闘争が重要

 戦後の日本は、とくに原爆体験の影響が平和運動の発展の基礎になっています。労働者・労働組合も平和闘争を中心課題の一つに位置づけてきました。60年安保闘争やベトナム反戦運動ではストライキもとりくまれました。
 とくに重要なのは、60年安保闘争の時期に春闘で大幅賃上げを実現したように、平和闘争・政治闘争と経済闘争と結合してたたかうなかで、賃金や労働条件を改善してきたことです。基地国家の現実のもとでは、平和闘争・政治闘争と経済闘争を結合させないと労働者の生活と権利を守れなくなっているのです。


(よしだ ふみお/労働者教育協会・勤労者通信大学部長)


※日本労働組合総評議会。
 1950年7月結成。労働者・国民の要求によって春闘や60年安保闘争などで一定の積極的役割をはたしました。1989年、日本労働組合総連合(連合)への吸収合併をきめて解散。

※日本社会党
 現在の社会民主党。当時は野党第一党で衆議院では100を超える議席をもち、地方政治においても日本共産党とともに革新自治体を担う勢力の一角を占めていましたが、『社公合意』によって革新統一が分断されました。

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