佐々木俊尚の「ITジャーナル」

佐々木俊尚の「ITジャーナル」

日用品化するインターネットの生き残り策

2004-12-13 | Weblog
 アスクジーブスという欧米では有名な検索エンジンがあって、今年の春から日本でもサービスを提供している。ヤフーとグーグルが市場を分け合っている日本で、知名度の低い検索エンジンが果たして割り込めるのだろうか? グーグル以外にも、ヤフーやMSNなどの強力企業がガンガン参入を狙ってきているというのに――。

 そんな疑問を問いただそうと、アスクジーブスジャパンの塩川博孝社長に取材した。インターネットマガジンの仕事である。

 渋谷のオフィスで塩川社長は開口一番、「僕らはグーグルをぶっ倒そうなんてことは、まったく考えてない」と言った。そして「グーグルを使ってもヤフーを使っても両方だめだったとき、最後の駆け込み寺の検索エンジンとして使ってもらいたい。そういう検索エンジンを目指したい」という。

 グーグルやヤフーと比べれば、アスクジーブスのエンジンはいくぶん「トリビア的、学術的」(塩川社長)のような特徴があって、じゅうぶんニッチとして検索業界で生きていくのではないか――それが同社の戦略のようだった。たとえば「クジラは何歳まで生きるの?」といった子供の疑問への回答を、アスクジーブスでは見つけやすいというのである。

 私は「ニッチということは、ユーザーのセグメントを絞るということなんでしょうか?」と聞いた。専門的なマニア層や特定の年齢層にターゲットを絞ることで、ニッチな生き残りを図っていくのではないかと思ったのである。

 だが塩川社長は、「エキサイトがF1層(20~34歳の女性)にターゲットを定めたように、ポータルサイトならセグメントを絞ることはできる。でも検索エンジンでセグメントを絞るのは難しいですね」と説明し、そして「でも子供を抱えているお母さんとかお父さんとか、そういう層には受け入れてもらえるかも」と話した。

 「でもそういう層にどうやってアクセスするのかは、難しいですよね?」
 「いくらでも方法はあると思いますよ。たとえば普通のテクノロジ企業が出稿しないようなメディアに広告を出すという方法もある。たとえば家庭画報とかミセスとか、あるいはコスモポリタン、VERYみたいな雑誌とか」

 検索エンジンを使っている人口は世界で8億人と言われているらしい。膨大な数だが、世界人口の総数を考えれば、まだまだ成長の可能性があるという見方もできる。コップ半分の水を、まだ半分しか入っていないと見るというわけだ。

 日本ではヤフーやグーグルが圧倒的な支持を誇っているのは確かだが、この支持がいつまでも続くという保証はない。検索エンジン市場がさらに拡大していけば、他社が市場を制覇できる可能性はじゅうぶんに残されている。現在の市場はまだまだコンピューティングやインターネットテクノロジに親和性の高い層に支持されているに過ぎないからだ。

 若い女性や中年主婦、高齢者といった層にはまだ検索エンジン市場はあまりリーチしていない。パソコンがコモディティ(日用品)になったと言われて久しいが、そうしたコモディティ化の波はテクノロジー分野をも覆いつつある。インターネットテクノロジも、どれだけ“非テッキー”な市場に切り込めるかどうかが勝敗を分ける要因になっている。

 そうした非テッキー史上に最初に目を付け、秀逸なマーケティング戦略を展開したのは、アップルコンピュータだった。同社は1990年代のかなり早い段階から、パソコン雑誌にはいっさい広告を掲載せず、ひたすら女性誌や総合誌などでの展開を進めていたのである。