

今日は暑かった。30度を超えたという。しかも湿度も高かったようで、蒸し暑かった。こんな時、いつも子ども時分を思い出す。蚊帳を吊った布団の中で、寝苦しいのでゴロゴロしながら薄暗い蚊帳の中に放した蛍の光を見つめていた。
2~3匹の蛍が光を点滅させながら、蚊帳の中を静かに飛んでいる。なにか幻想の世界を見ているようで、いつの間にか眠りの世界へと入って行った。
蛍、ほたる、ホタル――どの文字であっても、夢の世界の案内人のような風情を感じる。しかし、現実には蛍を見る機会がほとんど無くなってしまっている。昔、あんなに飛んでいた蛍はどこへ行ってしまったのか。
私の生まれた田舎の家は、東裏に沢が流れていた。一年中、流れる水は枯れることがない静かな沢である。それが時には本性をむき出しにすることがある。大雨が降れば暴れ沢となって、ゴーゴーと小さくとも濁流となって流れ下っていた。
その沢には沢ガニが住み、蛍は乱舞していた。それが、いつの日にか沢はコンクリートで固められてしまい、カニはいなくなり、蛍は姿を消してしまった。少年の幻想は思い出の中に閉じ込められ、蛍の放つ点滅するほのかな光はシャボン玉の泡のごとくに消えてしまった。
地域でも、あちらこちらで蛍を復活させようと一生懸命努力されている。蛍も少しずつ増えているようだ。今朝の新聞にも、遠くの村の住民有志が蛍の復活運動している先進地を視察に見えたとか。
昔の思い出、幻想の世界で乱舞していた蛍を現実の世界に取り戻そうということであろう。すこしずつ破壊されてきた環境を、できるだけ自然の世界に戻そうということは大賛成である。
沢にカニが住み、暑い夜には蛍が乱舞する――そんな世界がまた戻ってくれることを祈りたい。ただ、心配がまだある。せっかく自然が戻ったにしても人間を取り巻く環境が激変している。特に、子どもたちの置かれている状況は昔とまったく違う。
蛍やカニが戻ったにしても、現代の多くの子どもたちは、昔の子どもたちのように蛍やカニと楽しく遊ぶことができるだろうか。むしろ、こちらのほうがもっと心配である。
ああ、ホタルは夢の中から飛び出せないのであろうか……