ひまわりてんびんへの道

会社は変われど、一貫して企業法務に携わってきました。思いつくまま、気の向くまま、気長に書き続けます。

続々・契約のひながたは、ありませんか?~契約交渉とバーゲニング・パワー

2007年12月30日 | 仕事
暮れも押し詰まったある日、相談を受けて契約書案を何回かやりとりしていた営業から、こんなメールが来た。
再三ご相談いただいていた○○○○社の○○○○業務の請負契約について、当方の主張にも関わらず、添付の内容で修正するよう指示がありました。
「これ以上いうなら、発注しないぞ!!」と。
もう先方のいうままに折れてしまうべきなのでしょうか???
というメール。

ひまてんも、気が短いので、「そんな会社の仕事なんぞ、断っちまえ。」とのどまで出掛かっているのを押さえる。
もう既に仕事には着手しており、向こうだって今更こっちが降りれば困るはずだからだ。
しかし、そんなことを言っても解決にならない。

そもそも、契約交渉は、本来対等であるべきだろう、と思う。
発注者は、請負代金を支払い、請負人はそれに見合った仕事の完成を約束するのだから。そこは、平等対等な関係であるべきだ。

しかし、現実は、商取引上は、どうもそうはいかないようだ。
世の中カネを払うほうが、どうやら力関係は強いらしい。
ややもすると、優越的地位の濫用にもなりかねないだろうとも思うのだが。

たとえば、最近少なくなってはいるが、解除条項は、発注者側の解除しか規定されていないことが多いし、成果物の著作権の帰属についても、引渡と同時に全部移転なんていう条項を見受けることがある。

後者の著作権の条項については、ひまてんの会社にとっては、自分の会社が創作者になることはまずないので、このような条項は他人の権利を云々することになり、関係が複雑になるばかりなので、容易に受け入れることはできない。
ひまてんの会社が創作したものであれば、こちらでハンドリングできるので、移転するにそれ相当の対価が支払われるのであれば、問題はない。

今回の場合、その引渡と同時に著作権を移転するとの条項があったので、これについて、全部ではなく「第三者の利用許諾を受けて成果物に利用しているものを除き」甲(発注者)に帰属するとさせて欲しいと主張したところ、これは了承された。

しかし、だったら、
「乙(受注者)は、本業務の遂行方法および成果物につき、第三者の権利を侵害してはならない。万一、これらを侵害した場合には、第三者にその損害を賠償するものとし、甲に一切迷惑をかけてはならない。」という条項を新たに追加するようにとの修正が入った。

これに対して、「当該第三者の権利の利用が、甲の指示による場合にはこの限りではない。」という文言を追加したい、と主張したところ、冒頭のメールが来たという次第。

いかがだろうか?当社は理不尽な主張をしているだろうか?もとより、そんなつもりはない。

冒頭のメールには、次のような追加がある。
ただ、第○○条○項(著作権条項)について、最後に加えた「甲の指示による場合は、この限りではない。」に対し、たとえ甲の指示があっても、プロとしてできないというアドバイスをするのが当然。プロなのに断る分別を付けられないのはおかしいという見解から、削除の要請がありました。
でも、どうしてもということならば「乙のアドバイスにも関わらず、甲が強制的に指示した場合は」というようなことは仕方ないから入れてもよいということでした。
もちろん、当社もプロである以上、たとえ甲の指示があるといっても、その権利を使うのは適当ではないというつもりだ。
しかし、「この権利を使わないと、仕事を発注しないぞ!」と言われたら、どうすればいいのか?

この発注者は、このメールのように、権利を使わなければ発注しないぞという可能性が非常に強く、(メールからもそう推認できる。)だからこそ、甲の指示により権利を使用した結果、第三者の権利を侵害することとなった場合には、当社としては免責を得たいと思ったに過ぎない。

相談者には、幸い、向こうは、当社の意見を全部が全部否定しているわけではなく解決策を示唆してくれているようなので、悔しいかもしれないが、これにそのまま乗るよう助言した。
そして、こういう場合があるから、この文言を追加させていただきたいと言ったのだと、嫌味の一つも言ってやれと言った。

今回の場合、発注者側の担当者の気持ちを忖度するに、おそらく、その社内の内部事情もあったのかもしれない。

法務で作った定型的な契約であれば、稟議などの複雑面倒な手続が要らないのに対し、これを修正するとなると、法務にお伺いを立てて、稟議を立ててなどという手続があって、そもそも法務と面倒な交渉をしたくないために、うだうだ言ってくる請負先に腹を立てたのかもしれない。

契約交渉は対等であるべきだといっても、所詮、「泣く子とクライアント」には勝てないのがひまてんの業界なのである。(苦笑)



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