髭を剃るとT字カミソリに詰まる 「髭人ブログ」

「口の周りに毛が生える」という呪いを受けたオッサンがファミコンレビューやら小説やら好きな事をほざくしょ―――もないブログ

こねこねっこねこ SP (2)

2009-05-26 20:46:55 | 
その日は珍しくめぐちゃんが友達を家に呼んだ。母親はちょっと不安であった。トコちゃんはめぐちゃん以外の子供と接した事はない。無理に可愛がろうとして嫌がったトコちゃんが引っかいて怪我をさせてしまうなんて事は十分に考えられる。それに複数の子供が集まるというのは何が起こるか予測しづらいものだ。
「お邪魔しま~す」
「お邪魔します」
「・・・」
3人の女の子が入ってきたが一番後ろの子は何も言わずに入って行った。親に人のうちへの入り方を聞いてないのかそれとも恥ずかしくて声が出なかったのだろうかそんな事を考えているとめぐちゃんがトコちゃんの場所を聞いてきた。
「私のベッドの上で寝ていた気がするけど・・・」
「うん。分かった」
奥の方で子供達の声がする。
「これがトコちゃんだよ」
「わー!小さいカワイイ!!」
「撫でていい?」
「いいよ。でも、あんまり強く撫でると嫌がるよ」
キャッキャとはしゃいでいた。幼い女の子達にとっては当たり前の反応だろう。そして、これも当然の反応のようにトコちゃんが母親の前を横切って行った。
「ママ!外出しちゃだめだよ!」
「え?でも、窓が開いているから~」
窓を開けていたのでトコちゃんはそこから飛び出していった。
「もう!どうして、窓を閉めといてくれなかったの?」
めぐちゃんは小さな頬をぷぅっと膨らませて怒っている。
「ここ、最近暑いからね」
こうなる事は大体予想できたから、わざと窓を開けておいた。閉じ込められて追いかけっこをさせるのも可哀想だと思ったからだった。
「な~んだ。外に行っちゃったんだ」
「ちょっと待ってて~捕まえてくるから~」
外に出て動いている猫を捕まえるのは結構、難しい。
「走ってばかりいると危ないよ!めぐちゃん!」
そして、猫ばかりに気を取られているから空き缶を踏んづけてしまって転倒してしまった。
「あああぁぁぁぁ!」
大泣きする。走り回って道路に出てしまってコレが車だったらと考えるとゾッとする話であるが多少コブを作ったぐらいで済んでよかった。
「めぐちゃん大丈夫?」
友達が心配してくれるのが嬉しかった。
「ちょっと頭を打ったぐらいだから大丈夫よ」
主役のトコちゃんがいなくなってしまったので家の中で人形遊びに興ずるしかないのだが、めぐちゃんはずっと膨れっ面のままだった。
友達を見送るとめぐちゃんは母親に噛み付いた。
「ママが窓をしめておけばこんな事にならなかったのにぃ!」
「悪かったね。ごめんね。めぐちゃん」
トコちゃんを捕まえようとする執着して頑張った所は誉めてあげたい所であった。
「その事は謝るけど、トコちゃんは見世物じゃないんだからみんなで集まったらびっくりしちゃうよ」
「動物園では動物を見るもん!だからトコちゃんだって同じだもん!」
めぐちゃんが始めて口答えをした。それに、間違ってはいない。
「トコちゃんは私達の家族でしょ?動物園にいる動物とは違うよ」
「家族だけど、動物だもん!猫だもん!」
「うん。でも、トコちゃんの気持ちも考えてあげよう?」
子供の理屈であるから、正論を言って分からせる事も出来るが、そこまで強硬に教え込む事もないだろう。
「ふんだ!トコちゃんなんて嫌いだもん!気持ちなんて分からなくたっていいもん!」
「そう。きっとトコちゃん悲しむと思うけどな~」
「知らないもん!」
こうなったら後はめぐちゃん次第だろう。

さてここからは、母親からではなくめぐちゃんの視点に話を移す。
トコちゃんの事を避けるようになってしまっためぐちゃんであるが、それはトコちゃんを飼う前に戻っただけという気になろうとしていた。次の日、幼稚園に行き、友達とトコちゃんの話になる。
「トコちゃん可愛かったね~」
「そうそう!こんなにちっちゃくてお目目は大きくて、しっぽがクルッとしてて~」
「めぐちゃん。今度はトコちゃん触らせてね」
今のめぐちゃんにとってトコちゃんの話は禁句であった。あからさまに不機嫌になった。
「トコちゃん。どこか行っちゃったよ」
「ええ~!!」
「あれから帰ってこないの」
「探さないと!」
「いいの。勝手に出て行ったんだから~」
「でも、あんなにちっちゃくて可愛いから誰かにもらわれちゃうかもよ」
「もういなくなったから知らない!」
昨日までは、可愛いから見に来てと自慢げに言っていたのに今日は一転してどうでもいいかのように言うめぐちゃん。友達もトコちゃんの話題を挙げるとめぐちゃんがいい顔をしないので次第に猫の話もしないようにしていった。

幼稚園で遊ぶ。外にある遊具で遊んだり、ままごとをしてみたり、室内でごっこ遊びをしてみたり、おもちゃで遊んでみたり幼い子供達には何もかも新鮮であるから時間を忘れて遊んでいた。暫く遊んでいれば大体、仲のいいグループが出来てくる。この時期は男女問わずして仲がいいものだ。時には喧嘩する事もあるが仲直りして、また遊ぶ。そうする事で子供達は育っていく。
「ねぇ。めぐちゃん」
「なぁに?先生」
教室で遊んでいると先生に呼ばれたので先生の所に近付いた。
「あのさ。渡(わたる)君と遊んであげてくれない?」
「ええ~」
あからさまに嫌そうな声を上げた。本人がすぐ近くにいるのにお構いなしである。こういう言われた相手がどう思うか考えない無配慮な言動は社会生活にまだ馴染んでいない子供達には仕方ないのかもしれない。
「・・・」
先生の言葉は聞いてないためか周囲の声には耳を傾けず、こちらを見ることもなく渡と呼ばれた彼は教室の隅の方で黙々と粘土をこねていた。
自分以外の人との交流は家族だけだったと言う事から急に幼稚園という子供が集まる場所に連れてこられてもどうしたらいいか分からず集団生活に馴染めず1人でずっといてしまう子供というのも生まれてしまうものである。そういう子は大抵自分も楽しく遊んでいる集団の輪に入りたいといじいじしているものだが、彼の場合は違った。他人を避けているようで入園してから何人かの子が彼と遊ぼうと誘ったのだが彼は何も答えることなく無視して粘土をこね続けていたという話だ。だから、他の子も次第に彼を避けるようになっていくのはごく自然な流れだろう。
だからこそ、めぐちゃんも非難めいた声を上げたのだろう。そんな彼は先生にとっても悩みの種で、幼児期というのは1人の人間の成長にとって非常に重大な時期であり、集団生活にもまれないといつまでも経っても社会に馴染めず世間からの爪弾き者になってしまう可能性が高い。そのため、多少強引であっても積極的に先生も彼に話しかけていたが彼は何も答えなかった。無視されていてもずっと構っていても良いのだがそうすると他の子達が先生は贔屓していると子供達が非難するだろうから、彼の立場は更に危うくなるだろう。やはり最良は、同世代の子達と遊ばせる事なのだ。
「じゃぁ、渡君、私、用があるから行くね」
「・・・」
「じゃ、めぐちゃん、お願いね。本当に彼と遊びたくないのなら見ているだけでもいいからそれじゃ・・・」
先生はそう言い残して教室から出て行った。彼は相変わらず粘土に集中しているようでこちらを見る素振りすらなかった。
「先生に言われちゃったけどどうするぅ?」
「いいよ。アイツは・・・何がしたいか分からないし」
「だって一緒に遊んでいたら何か私達まで暗くなっちゃうよ~」
「それに何をして遊ぶの?私は粘土なんかで遊びたくないよ。触った後、手がベトベトするんだもん」
めぐちゃんはみんなに聞いたが既に拒絶されているのは明らかであった。
「先生も見ているだけでいいって先生も言っていたじゃない」
「そうだね。一緒に遊んでも楽しくなさそうだもんね」
めぐちゃんも結構、キツイ事を言うものだ。彼は聞いているのかいないのか粘土をこね続けていた。暫くして先生が戻って来た時には見ただけですぐに状況を察したようで一瞬だけとても残念そうな顔をした。
「先生、私達ちゃんと渡君の事見ていたよ~」
「うん。ありがとうね」
いつものように優しく微笑みかけてくれた。そして、帰りの時間。珍しく母親は遅かった。バス通いの子がいれば歩きや自転車で迎えに来てくれる子もいる。めぐちゃんは後者で既に陽も暮れてきてどんどん友達も迎えが来て減っていき、遂に友達は誰もいなくなってしまった。他に数人まだ残っていたが、あまり仲のいい子ではない。声をかけてみて話があるようなら友達になろうかなとも思ったが残っていた子達の中に渡君もいた。
1日中こねている彼が気になったからちょっと声をかけてみることにした。
「何、作っているの?」
彼は色んなものを作っていたが一体何を作っているのかはわからなかった。手のひらに載るサイズで3つぐらいあって形は平べったいものや四角いものや丸いもの。まるで統一性がないし、動物ではないようであった。
「石」
無視せず話してきた。今、先生もおらず教室に二人しかいないからだろうか?
「え?何て言ったの?」
「石」
「石ぃ?」
「うん」
彼は粘土で石を作ろうとしていた。普通なら動物や乗り物や建物を作るものである。にもかかわらず地面に落ちている石を作ろうなどとは思わなかった。彼は明らかに他の子供とは発想が違っていた。だからこそ、輪に入れなかったのだろう。めぐちゃんは粘土の事を聞いても支離滅裂な答えが返ってくると思って質問を変えた。
「楽しい?」
「うん」
「明日は外でみんなと遊ぼうよ」
「やだ」
「どうして?」
「やだからやだ」
彼は何事にも片言しか言わないが嫌がっている様子を見て前に何かあったのだろう。仕方ないので別のことを聞いてみた。
「ふ~ん。じゃ、私にも粘土やらせて?」
「やだ」
「ええ?どうして?ケチ~」
断られると思わなかったが仕方ないので自分の道具箱からクレヨンを取ってきて彼の横で絵を描いていた。粘土は持っているもののあまり好きではない。手は汚れるし、色が同じだから面白みがないのだ。それだったらクレヨンで絵を描いていたほうが楽しい。少し経つと赤いチューリップが出来た。
「出来た!チューリップ!ねぇ。お絵かきはしないの?お絵かきの方が楽しくない?」
「つまんない」
「ええ~。じゃぁ良いですよ~だ。折角、誘ったのに」
横でチューリップをいくつも描いてお花畑という所だ。大小、色が違うチューリップを描いてちょうちょも描く。とても賑やかな絵になってきた。
「ほらほら~。絵ならこんなにいっぱい。何、これ?」
彼は何も答えなかったが彼はさっきのものとは違う何かを作ってみた。なにやらワイングラスのように見えたが下の方にちょっと出っ張っている。角度を変えて横から見ると分かった。
「あ!コレ、チューリップだ!凄い凄い!」
粘土が絵と違うのは物を立体的に創作出来ると言う事だ。勿論、絵で立体的に描く事は可能であるが幼稚園ぐらいの子にそれを求めるのは少々、難しいだろう。めぐちゃんは粘土をこねていても絵のように平べったく二次元的にしか作れなかった。一色で手も汚れる。そう言う事もあってめぐちゃんは粘土はあまり好きではないのかもしれない。だから彼のように粘土で三次元的に作れるのはうらやましかった。
「・・・」
彼は何も答えず無表情でまた何か作っているがほんの少し、頬が赤いような気がした。
「先生!渡君の粘土がすごいよ!」
外で子供達が遊んで放置したおもちゃを片付けたり掃除をしていたり先生を呼び出した。
「何が凄いの?」
「渡君が凄いのを作ったんだよ」
先生の手を引っ張ってくるとめぐちゃんは止まった。
「あれ?さっきの粘土はどうしたの?」
「壊した」
「どうして?」
「他のを作るからもう壊した」
先生を呼ぶ声は教室からでも聞こえたはずである。なのに、粘土を壊していたと言う。空気が読めないというか自己流が強すぎると言うか・・・
「先生!さっき渡君、粘土でチューリップを作ったんだよ!とっても上手でね~。でも、今はないけど・・・本当に上手だったんだよ!本当に!」
何故、自分が彼の弁解をしなければならないのかイライラしてきた。先生はにこやかに一生懸命話しかけてくるめぐちゃんを見て、頷いていた。
「めぐちゃん。遅れてごめーん!」
ママがようやく迎えに来た。
「ママ、遅いよ~」
「ちょっと買い物に行ったらバッタリ友達に会っちゃったもんだから・・・じゃぁ、帰ろう」
「うん。じゃぁね。渡君。また明日」
その時、彼は振り返ってこちらを一瞥したが特に何も言わず、粘土をこねていた。

「あれが渡君?」
「うん」
「粘土が友達って言われている子ね」
「知っているの?」
「うん。他の子のママもあの子は粘土をこねているところしか見たことがなくて彼のお母さんが来るのも遅いって話で、今日も私より来るのが遅いみたいだし・・・色々、話題に上がる子ね。何を考えているのか分からないって」
「ふ~ん」
主婦達にとって変わった子や親は格好の話題になる。ただの話の種にでもしていればいいものだがそれを変に憶測など立てるから噂が噂を呼び、証拠も無いのに相手を貶める事になる。それを子供が聞いていたら最悪、いじめにつながるケースもあるというのに殆ど木にしてないようだ。

さて、それから暫く渡君を意識しない日々が続く。彼は相変わらず粘土をこねていて、めぐちゃんの方は仲が良い友達と遊び、遊ぼうと誘うといった事はしなかった。彼もそこにいても殆ど存在感がないというのも忘れさせる一因となっていた。
夏休みに入り、ある暑い日、友達のうちに行くと暑さで調子が悪いと言う事で遊ぶ事を断られて帰り道であった。母親に夏の太陽は怖いと強く言われ、麦藁帽子と水筒を持って行動している。水筒の中には氷が入って頭が痛くなるぐらいに冷たい麦茶が入っている。
「・・・」
水風呂で遊ぼうと言う事で水着も持ってきたがただ邪魔になっていた。
周囲に目をやるとコンクリートで固められた駐車場内の奥で誰か動いているように見えた。
気になってみてみると薄暗い駐車場内で子供が粘土をこねているようであった。駐車場に入ると少しひんやりする。
「あ、渡君だ」
「ん?」
「何してるの?」
「粘土をこねてる」
それは見れば分かる話である。めぐちゃんの質問の仕方が悪かったのがあるが、何故こんな所で粘土をこねているのか気になった。
「今日も粘土をこねているの?」
「うん」
「私はね~」
そう言って、今日起きた出来事やどうしてここに来たかを話し始めた。渡君は聞いているのかいないのか手を止めることなく粘土をこねていた。
「家に帰っても誰もいないから見ていていい?」
母親は買い物に行くと言っていたから1時間は帰ってこないだろう。友達のうちへの往復時間から考えて最低、後30分は帰ってこない。
「うん」
黙って粘土をこねるのを見ていたが1分も経たない内にめぐちゃんが話し始めた。
「いつもここに来ているの?」
「うん」
「たまにはどこか行かないの?」
「うん」
「本当に粘土好きなんだね」
「うん」
「ちょっと公園に行こうよ」
「うん。え?」
「今!うんって言った!公園にもベンチも水道もあるし、滑り台や砂場もあるよ。行こう!」
「う・・・うん」
渡君はずっと話しかけてくるめぐちゃんを鬱陶しそうしていたが、自分でうんと言ってしまった以上行くしかなかった。太陽は雲に隠れていたがすぐに雲から抜けて厳しい日差しがあたりに降り注ぐ。アスファルトは陽炎で歪み、丁度日陰になっている公園のベンチに座った。
「ふぅ・・・麦茶飲む?」
「うん」
蓋に麦茶を注ぎ渡君に手渡そうとした瞬間であった。
ペトッ・・・
「わっ!」
めぐちゃんは驚いて麦茶を注いだ水筒の蓋を手離してしまった。麦茶が周囲にぶちまけられた。渡君はキョトンとしていた。渡君の手が触れてしまった。それに驚いた訳ではない。その渡君の手は粘土を触っていた手であり、ヌルッとしたのだ。その感触が気持ち悪くて驚いたのだ。特にこの時期は汗をかきやすいというのも手を滑りやすくする要因だろう。
「あ、ごめんね」
「うん」
蓋を慌てて拾い、ちょっと付いた砂を汗拭きタオルで拭いて麦茶を注いだ。その間、じっと右手を見つめている渡君。次に手渡そうとすると今度は渡君の手は触れなかった。めぐちゃんが蓋の側面を持っているのに対し、渡君は飲み口と底の分で持ったからだ。
「つめたっ!」
「え?ハハハハハハハ!」
「・・・?何だよ。ふん」
普段、驚くような事はしない渡君が冷たさにびっくりした事が面白かった。渡君は笑われてちょっとすねているようであった。それもまた面白い。めぐちゃんも麦茶を飲み、これからどうするか考える。
「また粘土するの?たまには他の事してみない?えっとね・・・」
「お」
渡君は草むらの方に動いていってしゃがみ込んだ。
「どうしたの?」
「虫、虫」
そこにはバッタがいて、渡君が手を出すと勢い良く跳ねた。
「キャ!」
めぐちゃんは虫が大の苦手であった。蝶やてんとう虫などの見た目が可愛らしいものは好きなのであるが触覚が長いもの、緑系のもの、節が露骨に動くような虫は全てダメであった。特に急に物凄い速さで跳ぶなど予期せぬ動きをするバッタなどの生き物は特に嫌いである。
「あ・・・肩に止まった」
「取って!取って!わぁぁぁぁぁ!」
バッタがめぐちゃんの肩に止まって手で払いのけたくもないのでどうしたらいいかわからず泣き出してしまった。
「ホイ」
渡君はパッとめぐちゃんの肩に手をやってバッタを取った。
「取って!取って!取って!」
既に取ったというのに、めぐちゃんはまだ騒いでいた。
「おい。取った!」
「え?」
渡君が手を開くとバッタがいた。そのバッタは勢い良く飛び出していった。
「え?う、うぅ~。ありが・・・」
「あ!この木にいるのクワガタだ!」
ありがとうと言う前に、渡君は木の方を見ていた。かなり高い所にいたのだが、木を蹴っても落ちてこなかった。周囲に長い物はない。木を上ろうにも枝も伸びていない木なのでどうする事も出来なかった。
「うわぁ~気持ち悪い~」
めぐちゃんは男の子が挙ってカブトムシやクワガタを好きなのか理解に出来なかった。黒光りし、6本の足を動かすその姿は動きがゆっくりになっただけの大きいゴキブリではないかという認識をしていたからだ。
クワガタを暫く見ていて、それからまた草むらを見ている。
「他の事しようよ~。砂場遊びしよう」
滑り台などの遊具は夏の強烈な日差しに照らされ触ると火傷するほどなので遊びたくなかった。
「やだ」
「どうして?」
「砂は崩れやすいから・・・」
「今日は砂場で遊ぶの~」
強引に砂遊びを誘って遊んでいた。山を作ったり、お団子を作ったり、遊べる事は多い。まず、水を使ってサラサラの砂を固めようと思ったが今、バケツなどの水を運ぶ容器がない。砂場は水道の真横にある。蛇口を指で押さえて勢い良く水を出し、それを砂場に流し込む事にしたのだがそれが渡君にかかった。
「おおぅ!」
「はははは・・・ごめんね~」
今度は調節して砂場に水を流し込み、一緒に砂場で遊んだ。やはり崩れる砂に対して渡君は苛立っているようであった。それでも、真剣な顔をして砂で遊んでいた。やがて日は傾き、夕方になって来たので水道で手を洗って帰ることにした。
「それじゃ、渡君。バイバ~イ」
「お、おう・・・」

夏休みも終わりに差し掛かる頃、友達のうちにいく途中でにわか雨が降ってきた。
雨宿りしようと思ったときに、駐車場の事を思い出して、そこまで少し濡れながらもパタパタと走っていった。
「あ、今日もいたの。渡君。こんにちは」
相変わらず粘土をこねていた。同じ事ばかりで良くも飽きないねと言った事があり渡君はそのまま粘土をこね続けていた。
「おぅ」
渡君は、小さく挨拶する。雨は降っているが遠くの方は晴れているのですぐに止むだろうと思っていたのでその間、話でもしようと思った。
「今日は何を作っているの?」
「なめくじ」
前の『石』という変わったものではないが何故、なめくじをチョイスしたのかその渡君のセンスに少し引いていた。
「なめくじだったら殻を作ってでんでんむしにしたら?」
「殻?うん」
普通ならここで粘土を細長く伸ばし、それをロールケーキのようにまいて殻にしてしまうものだろうが渡君は殻を平べったくして棒などで削って殻を作っていた。ロールケーキ状の殻よりもより殻らしくなってきた。
「凄い似ているね~」
「・・・」
渡君は特に何とも言わないが、頬が少し赤らみ、目がキョロキョロと動き落ち着かない様子であった。
「そんなに似ているのなら虫以外にも作れない?」
「どんな?」
「そうだね~。ケーキとか・・・後はチューリップ以外にお花は作れる?そうしたらおままごとでも使えるから」
「う~ん・・・」
粘土に触ろうと両手を構えたがそのまま目を瞑ったまま動かなくなってしまった。
「な~んだ。出来ないんだ」
それだけ粘土が好きならアッという間に作ってしまうと思ったのに少しガッカリしてしまった。
「次。それ作る」
「本当?」
「うん!」
そんな約束をした頃には雨は上がった。それからさよならを言って分かれようとしたら途中まで一緒に行くと言い出した。それから近くの原っぱに差し掛かると渡君はそこで立ち止まった。小さな花を見つけたようだ。それを手に取ってじっくりと観察していた。





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