第390回例会(令和3年8月)報告
この例会もネット開催した。
話題 「プトレマイオス世界図の歴史的意義」 田上 智
近年、歴史学の傾向が、グローバルヒストリーと言って、単に当該国の歴史のみでなく、その時その時の周辺の国々の歴史にも目を向ける俯瞰的なものに変わってきた。自身、地図という物に興味を持ち、江戸後期、伊能忠敬よりも40年ほど前に、既に日本全図を完成させていた長久保安赤水に注目、懸賞論文に応募、顕彰会から優秀賞を頂いたのがそもそものきっかけであったが、考えてみれば、極東の日本という全世界から見るとあまり周辺に影響を与える出来事ではない。
それに対し、古代ローマ時代・アレキサンドリアのギリシャ人地理学者・プトレマイオスの世界地図はコロンブスのアメリカ発見のきっかけにもなり、世界史的意義は誠に大きいのだ。米中対立が激化しているが、旧世界の一方の旗頭中国と新世界の雄アメリカとは、そもそも、コロンブスの新大陸発見という誠に大きな事実が起因している。
クラウディオス・プトレマイオスは古代ローマの学者で数学、天文学、占星学、音楽学、光学、地理学、地図製作学と幅広く活躍した人物だが、そのプトレマイオス世界図の作者としての役割が現代的な意味では最も大きいが、意外と知られていない。
およそAD150年頃(日本の弥生時代)のこの世界地図は作成されたが、この地図をコロンブスが航海に携行したのだ。この地図とマルコポーロの「東方見聞録」の二つの武器を持って東洋の豊かな国であるインド・中国・日本を目指したのだ。地図の本物は無くレプリカが世界の各地に残っている。自分もヨーロッパのどこであったかは、記憶は無いが、英語でトレミー(プトレマイオスの英語読み)の地図を探しているのだと博物館の係員に行って見せてもらったことがある。コロンブスのアメリカ発見の航海は1492年だから、およそ1200年前の物を航海の手掛かりとして使ったわけだが、現代的意義としては、世界を約8,000のポイントで経線と緯度を示している。アフリカとアジアが大陸的につながっており、インド洋が内海だったり、スリランカが馬鹿でかかったり、もちろん大西洋も太平洋も描かれていない。東へシルクロードでたどるより、西への航海で直接・富の国やインドに行った方が手っ取り早いと考えたのだ。この航海なかりせば、今日的な、「米中対立」も無かったのだ。そういう意味では、この地図が歴史を変えた大きな原因にもなっていると言っても良い。 (完)