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日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

(続) 山と河にて 3

2023年11月26日 03時33分46秒 | Weblog

 寅太は、同級生とはいえ成績が優秀であったことと、大学生になって一段と大人らしい艶を増した美代子に対する畏敬で、内心では、大助と交わした約束もあり、いざ、この場に及んでも話すことを一寸躊躇した。
 それでも、日頃、彼女の元気のない表情を見るにつけ気になり、同情心から、やはり話してしまおうと腹を決めるや、重い口を開いた。
 彼は彼女の表情を伺いながら用心深く、そろりと小声で
  「美代ちゃん。大助君は新潟にいるよ」
  「俺、一瞬、他人の空似かと自分の目を疑ったが、思いきって近寄り話し掛けたところ間違いなく大助君だった」
  「この話しを、社長や老先生に話ししようかと、散々悩んだが、大助君の立場を考えた末、美代ちゃんも大学生だし、直接話す方が一番良いと思い、今、話すんだよ」
と、話し出した。 

 美代子は寅太の話を聞いた瞬間、驚いて青い瞳を輝かせて、彼の腕を掴んで
 「嘘でしょう!そんな筈ないわ。全然、信じられないゎ」
 「わたしを、からかわないでよ」
と震えた声で言うと、野原に寝転んでいた三郎も、寅太の意外な話にビックリして
 「お前、何か勘違いして言っているんでないか?」
 「そんなバカみたいな話を真面目腐ってするなんて・・」
と言って、起き上がり胡坐をかいた。
 寅太は、最初の言葉を切り出したことで、気が少し楽になったのか、何時もの彼らしく朴訥な話振りでトツトツと話続けた。

 『実は、先週の土曜日の夕方、大学の生協に何時もの通り生活必需品等を配達を終えて帰り際に、大学の校庭脇を通り過ぎようとしたとき、サッカーの練習を終えた数人の学生が、テニスの練習を終えたらしい、白いミニスカートを履いた女学生に囲まれて賑やかに話をしていたのが目に留まり、俺と同い歳の連中は仕事もせず気楽なもんだなぁ。と、暫く見とれていたんだ。
 そしたら、そのうちに女学生から膝に包帯を巻いてもらっている男が、どうも大助に似ているので、もしやと思い夢中で彼等の傍に近寄ったら、介抱を受けているのは間違いなく大助君だったので
 「オ~イ 大助君でないか」
 「横須賀の大学にいるとばかり思っていたが・・」
と声を掛けると、彼は突然のことに驚き
 「アッ! 寅太君でないか」
と、女学生がビックリするほど大きい声で答えたので、俺も偶然とは言え、まさか、大助君と逢えるとわ思っていなかったので、思わず互いに抱き合ってしまったよ』

と、一気に話すと、彼は美代子が涙ぐんで聞いている姿が気になり、まずいことになったと思って、その後、大助のアパートに無理矢理押しかけて話込んだこと等を話すのをやめてしまった。
 最も、大助から美代子には絶対に話さないでくれと言はれていたこともあり、その先の話は、大助の生活状態が凄く惨めで、とても正直に話せる気になれず、彼女を悲しめるだけだと思ったからである。

 寅太は、迷っていたことを話したことで、取り敢えず友情として自分の役割は終わった気楽さで
 「さぁ~話は終わった。弁当をたべようや」
と、声を掛けて幕の内弁当の蓋を開けると、三郎は待ちかねていた様に、早速旨そうにカツをほおばって食べ始めた。
 美代子は弁当の蓋を空けることもなく、蜜柑ジュースを一口含むと、寅太に対し
 「なにを言うのかと思ったら、突然、わたしの胸を針で刺すような話で、前後の事情がさっぱり訳が判らないゎ」
 「ネ~ェ。意地悪しないで、もっと詳しい話をして教えてよ」
 「何時もの寅太君らしくないわ」
と、不安と悲しみが混じった表情で、寅太の手から箸を取り上げて手を掴み、真剣な眼差しで頼むと、三郎も
 「そうだよ。このトンカツの肉の様に歯切れの悪い話だわ」
 「まるで、TVの恋愛映画のラブシーンを見ていて、二人の唇が接近した途端に、CMが入って興奮が覚めてしまったみたいだ」
と、旺盛な食欲で食べながらも
 「飯を食ったら続編を話してくれよ。この儘では消化不良になってしまうよ」
と、彼女を応援する様に加勢した。
 美代子も、寅太の顔つきからして、満更、造り話でもない様に思え、突然、思いもよらぬことを聞かされて、心が揺らぎ、瞬間的に、自分を取り巻く周囲の人達が、自分と大助君との交際を裂くために、彼が新潟にいることを承知していながら、知らない振りをしているのかしら。そうだとすれば、自分は孤立していると咄嗟に思い浮かべた。

 気楽で陽気な三郎が、彼女の沈んだ表情をチラット見るや、寅太に対し
 「お前、呼び出しておいて、話の途中で止めるのは卑怯だよ」
 「そんなことだから、ラーメン屋の真紀子に振られるんだ」
と、美代子の心配そうな気持ちを和らげるかの様に、寅太が秘かに思いを寄せているアルバイトの真紀子の勤める店に、二人で足繁く通っているラーメン屋で、或る日、三郎にそそのかされて、彼女の尻を悪戯ぽく撫でたとき、彼女が怒ってお盆で彼の頭を思いきり叩いたエピソードを話し、なんとかその場をとりなそうとした。

 寅太は、美代子が元気になると思ったことが逆になり、その態度に面食らって、三郎の話に照れながらも
 「コノバカヤロウ お前のお陰で俺の青春が滅茶苦茶になってしまったわ」
と本気で怒鳴ったので、美代子も可笑しくなり、機嫌を直し
 「貴方達は相変わらず乱暴なのネ」「それでいて、結構仲がよいのが不思議だわ」
と言って、その場が少し和らいだ雰囲気になった。
 三郎は、場が和んだとみるや間髪をいれず、絶妙な口調で、寅太に対し
 「お前のことだから、その時、無理矢理うまいこと言って、大助の宿に押かけただろう」
 「お前の顔に書いてあるわ。正直に白状しろっ!」
 「大助君の、宿の町名番地とアパートの名称、それと電話番号を正確に言えよ」
と、普段、携行しているメモ帳を出して命令調に言ったので、寅太は
 「おいっ!。俺は不審者や犯罪者はでないっ!。警察官の倅とは言え、職務質問みたいな聞き方はよせ」
と、苦りきっ顔で答えて三郎を睨みつけた。
 美代子は、三郎の加勢に力を得て、寅太に対し
 「ねぇ~、意地悪しないで全部教えてょ。一生恩にきるゎ」
と、彼に両手を合わせて願んだが、寅太は
 「知らん、知らん。これで全部だ」
と、頑なに返事を拒んだので、彼女はしびれを切らして
 「いいわ。こうなったらお爺ちゃんが知らぬ訳はないと思うので、今晩、諍いになっても聞き出すゎ」
と、思いつきだが本気でその気になり話した。
 彼女は、二人の漫才みたいな話を聞いていて、男の人って、皆、恋愛を遊び半分で楽しんでいるのかしら、まさか、大助君までも・・。と、不安な影がチラット頭を掠め、こうなったら自分の目で確かめなければ絶対に納得出来ないと覚悟を決めた。

 寅太は、美代子のただならぬ決心を聞くと、彼女以上に驚き
 「美代ちゃん、それはないぜ。俺は美代ちゃんのために良かれと思って教えたんだよ、その様なことをされたら、俺の立場がないよ」
 「大学生らしく考えてくれよ」「そう約束したんだろう」
と苦々しく言うと、三郎が
 「美代ちゃん、俺はその考えに賛成だな。念のため頑固爺さんに聞いてみるがいいわ」
 「中途半端な話は、寅太らしくなく卑怯だよ」
と彼女を応援し、寅太には
 「爺さんが怒って店が潰れたら、老人介護施設に来いよ」
 「若い人手が足りず、お前は体格も良く、大歓迎されるよ」
と、彼のことも本気で心配してアドバイスしていた。
 寅太は、二人に執拗に攻められて返答に窮し、この分では彼女は必ず老医師に話すだろうと思い、彼女に対し
 「美代ちゃん、全部話すから爺ちゃんに聞くことだけはやめてくれ」
 「大助君の話では、爺ちゃんにも話してないと、はっきりと言っていたから・・」
 「皆の幸せの為だ」
と、思い留まることを懸命に説得し、その代わり老医師に内緒で案内することを約束してしまった。
 寅太は、美代子に対し渋々と、自分が偶然遭遇した様子を、普段の彼らしくなく歯切れわるく断片的に

 『宿の住所なんて聞いていないないのでわからんわ。
  兎に角、大助君は古臭いアパートの一室に自炊で住んでいるよ。
  部屋を覗いたら雑然としていたので、俺もビックリしてしてしまったわ。
  美代ちゃんを案内すれば、彼との約束違反でブンナグラレルかも知れないが、俺は無抵抗で我慢するので、今度こそ約束を絶対に守ってくれよ。
  だけれど、問題はそのあとだなぁ。
  美代ちゃんも、彼を思うなら、あまり無茶苦茶なことを言って彼を困らせないでくれよ』

 と、眦を決して話した。そのあと
 「今度の配達は土曜日なので、行きたければその日に連れて行くから、昼頃、店の前に来てくれ」
 「果たして、その日に大助君がグランドに居るかどうかはわかんないが・・」
と告げ、三郎にも
 「お前にも、こうなっちまったた責任があるので、大助君に殴られることを覚悟して一緒に来いっ!」
と言って、芝草の上に仰向けになって寝ころがえり、大きく溜め息をついて
 「えらいことになってしまったわい」
と呟いて、空を仰いだ。

 そよ風に揺れるススキの穂先には赤トンボが心地良さそうに戯れていた。

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