抜粋 山本周五郎『ながい坂』新潮文庫上下巻 昭和六十三年 2018年01月28日 | 小説 海の汐は満ちるとまもなく退くものだ、 朝の露、夕べの霧、澄みきった山の気、そして朽ち木や洛陽の中で育つからこそ、それぞれの薬効がそなわるのだ。 「いったい人間はどうしてこんな徒労を重ねているんだ」 ――人間の一生とはどういうことだろう。主水正はあたたかい夜具の中で、熱いほどのななえの躰温に包まれながら思った。死ぬまで生きる、というだけなのか、それともなにか意義のあることをしなければならないのだろうか。 *山本は、人間、人間とうるさい、「人」が適当であろう。 人の生き方に規矩はない 兵部はまた、樹が呼吸することに気づいた。陽が登ってから森へ入ると、檜も杉も、その幹や枝葉から香気を放つが、その匂いかたには波があり、匂わなくなったり、急にまた匂いはじめるのである。 *平成三十年一月二十八日抜粋終了。 *ななえとつるの書き分けは見事なものである。 *と思ったが、口にしなかったという手法は再々に過ぎなかったか。 *次々の展開に、上下巻を一気に読んでしまった。