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抜粋 R・ペンローズ『ペンローズの<量子脳>理論―心と意識の科学的基礎をもとめて』竹内薫・茂木健一郎訳解説 ちくま学芸文庫 2006

2018年02月06日 | 読書
 ゲーデルの不完全性定理は、論理ではなく、理論についての定理である。(竹内薫)


 ゲーデルが証明したのは、世の中に完全な数学理論は存在しないということなのだ。(竹内薫)


 理論の不完全性と計算不可能性は、ほぼ同義語であり、ゲ―デルの証明したことは、「世の中にはスパコンでも計算できないことがあるのさ」ということだと思っても差し支えない。(竹内薫)


 周期的な五回対称の結晶が存在しないことは、結晶学の常識である。
 ところが、ペンローズは、
 「たしかに世の中に五回対称の結晶は存在しないが、準周期的な結晶ならあってもおかしくない」
 と主張して、実際に、「ペンローズ・タイル」と呼ばれる五回対称の平面充填モデルを提出した。
(竹内薫)


 意識というのは、……、部分の寄せ集めではなく、一種の大局的な能力で、おかれている全体の状況を瞬時にして考慮することができる。だから、私は意識が量子力学と関係すると考えるのです。
 量子力学でも、意識に似たような状態があるのです。大局的で、それ自体で存在していて、こまかい部分の結果ではないような状態が。(ペンローズ)


 それで、私は、今、その効果はマイクロチューブルで起こるのではないかと思っているのです。マイクロチューブルには、注目すべき特徴があります。すなわち、それは、中空の円筒状の構造物であるということです。この内部に存在するある特定の構造を持った水が、大きなスケールの量子的効果に関係しているのではないかという説があるのです。(ペンローズ)



 私が見るところでは、意識は、量子力学の収縮過程と関係していると思います。時々、量子的な状態が、他の量子的な状態へジャンプするわけです。もし、十分に大きな量子的な状態があって、それが、十分に複雑な外部のシステムと関係するならば、そこには意識が生ずると思うのです。もちろん、その際にニューロンが重要な役割を果たすことは疑いありません。(ペンローズ)


 私自身のアイデアの中心になるのは、「計算不可能性」(non-computability)です。現在知られている物理法則は、すべて計算可能なタイプです。つまり、私たちは、現在の物理学の描像の外側に行かなければならないのです。(ペンローズ)


 意識は、必ず物質的な基礎を持たなければならない (ペンローズ)


 ところが、今では、物質そのものが、ある意味では精神的な存在であるとさえ言えるのです。(ペンローズ)


 「客観的な波動関数の収縮」(objective reduction)=OR


 マイクロチューブルは、「チュープリン」(tubulin)と呼ばれる蛋白質のサブユニットから構成されている。(ペンローズ/ハメロフ)


 私たちのモデルでは、量子力学的な重ね合わせ状態が、チュープリンの中で出現し、そのままコヒーレントな状態(波動関数の位相がそろった状態)に保たれる。そして、ある質量―時間―エネルギーのしきい値(このしきい値は、量子重力理論で与えられる)に達するまで、他のチューブリンの波動関数を次々と巻き込んでいく。(ペンローズ/ハメロフ)


 こうしたプロセスの結果システムがしきい値に到達したときに、瞬間的に、波動関数の自己収縮、すなわち、「OR」が起こるのである。(ペンローズ/ハメロフ)


 私たちは、波動関数の収縮が起こる前のコヒーレントな重ね合わせの状態(すなわち、量子力学的な計算が行われている状態)を、「前意識的プロセス」と見なし、瞬間的に起こる(そして、非計算論的な)波動関数の収縮を、「一つの離散的な意識的イベント」と見なす。このような「OR」が次々と起こることによって、「意識の流れ」(stream of consciousness)が生ずるのである。(ペンローズ/ハメロフ)


 私たちは、このようなかろうじて見える輝きの一つが、意識的な思考プロセスに必然的に含まれる非計算論的要素であると主張する。(ペンローズ/ハメロフ)


*意識の流れ→波動関数の収縮が次々と起こることによって意識が流れる


 量子的状態の収縮


 人間の一生の間には、莫大な数の「OR」のイベントが起こることになる。(ペンローズ/ハメロフ)


 著者の一人のペンローズは、より深い記述のレベルにおいては、固有状態の選択は、今のところまだ知られていない「非計算論的な」数学的、あるいは物理学的な(すなわちプラトン主義的領域の)理論によって説明されるのではないかと主張した。(ペンローズ/ハメロフ)


 重力は、時空間の中で起こるイベント間の因果関係に影響を与える唯一の物理現象である。(ペンローズ/ハメロフ)


 アインシュタインによる一般相対論と、量子力学を統一すること、すなわち、量子重力をつくることは、未だに成功していない物理学の最重要課題の一つだ。そして、量子重力理論が完成した場合には、一般相対論と量子力学の両方が、根本的な変化を余儀なくされるだろうと考える強力な証拠がある。(ペンローズ/ハメロフ)


 量子重力を生物学と結びつけること、少なくとも、神経系と結びつけることによって、「意識」という現象の、全く新しい理解がもたらされる可能性があるのである。(ペンローズ/ハメロフ)


 高められた覚醒状態。たとえば、感覚入力の増加によって、コヒーレントな量子的重ね合わせの発展が速くなる。(ペンローズ/ハメロフ)


*コヒーレントとは、波動が互いに干渉しあう性質を持つことを表す言葉で、二つまたは複数の波の振幅と位相の間に、一定の関係があることを意味する。
電磁波であるラジオやテレビの電波は、その周波数や位相、波面がきれいに揃った波であるのに対し、光は電磁波の一種であるが、それらが揃っていない。しかし、レーザ光は完全ではないが、かなりコヒーレント性の高い光であり、コヒーレント光と言われることもある。コヒーレント光は拡散しにくく、遠方まで届きやすい性質を持つことから、レーザ光は光ファイバを使った長距離通信などに使われる。(ウシオ電機)


 結果として生ずる波動関数の自己収縮、すなわち「OR」が、時間的に不可逆なプロセスとして起こる。これが、意識における心理学的な「今」を決定する現象なのである。このような「OR」が次々と起こることによって、時間の流れと意識の流れが作り出される。(ペンローズ/ハメロフ)


 仏教においては、意識が一つ一つ独立した、離散的なイベントのつながりであるという考え方がある。修養を積んだ瞑想者は、現実の経験において、「ちらちらする瞬間」を経験するという。
 仏教の経典は、意識を、「精神現象のある瞬間における集合」や、「明瞭な、お互いに独立した、永続しない瞬間が、生成したと同時に消滅する過程」として説明している。(ペンローズ/ハメロフ)


 それぞれの意識的な瞬間は、次々と生成し、存在し、消滅する。その存在は瞬間的て、時間的な継続はない。なぜならば、点には長さがないからだ。(ペンローズ/ハメロフ)


*映画のフィルムの流れ コマの連続が時間を生み出す


 いくつかの仏教の経典の中では、意識の瞬間の頻度について定量的な記述さえ見られる。たとえば、サルヴァースティヴァーディン(説一切有部)では二十四時間の間には六四八万個の「瞬間」があると言われている。つまり、平均すると一つの瞬間は一三・三ミリ秒だということだ。
(ペンローズ/ハメロフ)


 別の仏教の経典は、瞬間を〇・一三ミリ秒としている。(ペンローズ/ハメロフ)


 一方、ある中国仏教の伝統の中では、一つの「思念」が二〇ミリ秒続くとされている。(ペンローズ/ハメロフ)


 このような記述は、瞬間の長さの変化も含めて、私たちが提案した「Orch OR」と矛盾しない。(ペンローズ/ハメロフ)


 私たち人間の意識下での知性には、非計算的要素がある。したがつて、計算的プロセスに基づくデジタル・コンピューターでは、意識も、知性も実現できない。その非計算的要素は、未解決の量子重力理論と関連している。(ペンローズ『皇帝の新しい心』)


 「すべては数学で書くことができる」(ペンローズの信念)


 数学的言語に基づかない、「言葉」=自然言語に基づく議論は、いくら積み重ねても限界があるということになる。(茂木健一郎)


 ……プラトンは、思考が形式化できるものだとは、一度も考えたことがなかった。「意味」が、思考において欠かすことのできない役割を果たしていると考えていたのだ。(茂木健一郎)


 ここに、あるプロセスが「計算可能」であるとは、それがアルゴリズムとして実行できることを指す。アルゴリズムとは、一連の規則に基づいて、シンボルを操作する手続きのことである。
(茂木健一郎)


 ペンローズの人工知能批判の核心
   コンビューターには、計算可能なプロセスしか実行できない
   意識は、計算不可能なプロセスが実行できる
   したがって、意識は、コンビューター以上のことができる
(茂木健一郎)


 ペンローズは、現在主流のニューロンの発火を通しての精神現象の理解は、より深いレベルでの細胞骨格の活動の「影」をなぞっているにすぎないと主張する。……ニューロンの発火は、精神現象を支える「本当の世界=マイクロチューブルを始めとする、細胞骨格の世界」のほんの一部の属性を反映する、「心の影」にすぎないというわけである。(茂木健一郎)


 量子力学は、過去と未来が非対称な理論なのだ。これはとても重大なことで、決して忘れてはいけない! (茂木健一郎)


 私たちの言葉の意味の「理解」も、数学的真理の発見も、結局は脳の中のニューロンの発火によって支えられているのである。(茂木健一郎)


 私に言わせれば、「宗教」が「意識」や「心」の問題を解決できる可能性はほとんどない。
 「科学」にこそ、「意識」の問題を解決できる可能性がある。……。
 つまり、一定の手続き(=「論理的整合性」や、「実験による検証」などの条件)にさえ則っていれば、どんなに革命的な理論でも、科学は、それを自分のシステムの中に取り入れてしまう。
(茂木健一郎)





*平成三十年二月六日抜粋終了。
*かくのごとく、神仏を信じた時に、そこに感応道交ということが起こってくるのは、その神仏と自分の間に入我我入という現象が生じて来るからである。(林屋友次郎『祈願の籠め方』)




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1 コメント

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マルテンサイト千年 (サムライグローバル)
2024-08-03 18:51:42
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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