惚けた遊び! 

タタタッ

抜粋 サイモン・シン『暗号解読』上下 青木薫訳 新潮文庫 平成二十七年

2019年01月09日 | ビジネス

 
 情報内容が敵に漏れるのを防ぐという点で、ステガノグラフィーよりもクリプトグラフィーの方が強力である。
 クリプトグラフィー、すなわち暗号自体にも転置式暗号と換字式暗号という二つの異なる方式がある。


 メッセージを暗号化する前に、わざと綴りを間違うという方法がある。


 シェルビウスの発明した機械は「エニグマ(謎)」と呼ばれ、史上最も恐るべき暗号システムになってゆく。


 しかしクルト・ゲーデルは、論理的証明の埒外にある問題、いわゆる決定不可能な問題が、少数とは言え存在することを示したのである。


 機械式暗号の真の強さと能力を示したのは、イギリスの陸軍および空軍が使用したタイペックス(またはタイプ・エックスとも呼ばれる)暗号機と、アメリカ軍が使用したシガバ(またはM-143-C)暗号機である。この二つはどちらもエニグマ機よりも複雑だったうえに、使い方も適正だったため、戦争中には解読されることが無かった。


 外部の人間にとってナヴァホ語がどれだけ難解かを熟知していたジョンストンは、ナヴァホ語が(他のどのアメリカ先住民の言葉でもよいが)解読不能の暗号になることに気が付いたのである。


 ナヴァホ暗号が難攻不落だったのは、ナヴァホ語がアジアやヨーロッパのどの言葉ともつながりをもたない、ナ・デネ系言語に属するからである。


 ハワード・コナー少将は、「ナヴァホ兵がいなかったら、海兵隊は硫黄島を占領できなかっただろう」と語った。


 ナヴァホ暗号の成功は、ある者にとっては母語であるものが、それを知らない者にとってはまったく意味をなさないという単純な事実によっている。日本軍の暗号解読者に降りかかった難題は、忘れられて久しい言語、もはや使う者のない文字で綴られた言語を解読しようという考古学者の仕事に多くの点でよく似ている。


 三つ目の障害は、キルヒャーの知的遺産だった。そのせいで考古学者たちは当時もなお、エジプトの文字は表音文字ではなく、表意文字だと思い込んでいた。ヒエログリフを表音文字として解読しようなどとは、考えてみることさえしなかったのである。


 事実、線文字Bの解読は、考古学上のあらゆる解読の中でも最も偉大な業績として広く認められている。


 ヴェントリスもまた、戸惑うほど多種多様な記号の中にパターンと規則性を認めることが出来た。この資質、表面的な混乱の中に秩序を見抜くこの力こそは、あらゆる偉大な人物の仕事を特徴づけるものなのである。


 コンピューターは暗号化のプロセスを様変わりさせたが、暗号分野における二十世紀最大の革命は、鍵配送問題を克服するテクニックが開発されたことだろう。実際、鍵配送問題の解決は、二千年以上前に単アルファベット暗号が発明されて以来最大の快挙とされているのである。


 「みんなと同じになんかなりたくないや」マーティン・ヘルマン


 しかしいずれにせよ、鍵を配送せずにはすみそうにない。二千年の長きにわたって、これは暗号作成法の(公理)――すなわち反駁の余地のない真理――だと考えられていた。ところが、この公理に疑問を投げかけるような思考実験があるのだ。


 別の例として、卵を割るという操作がある。卵を割るのは簡単だが、それをもとに戻すのは不可能である。このため一方向関数は、(ハンプティ・ダンプティ関数)と呼ばれることもある。


 根本的な問題は、政府は暗号を法律で禁止すべきか否か、という点である。暗号の自由があれば、犯罪も含めてすべての人が電子メールを安全に送れるだろう。一方、暗号の使用を制限すれば、たしかに警察は犯罪者の通信を盗聴できるかもしれないが、その代わりにわれわれ一般市民の通信まで、警察ばかりか誰にでも盗聴されてしまうだろう。


 会議の講演を聞いていたドイチェは、それまで見過ごされていたあることに気が付いた。すなわち、「すべてのコンピューターは、本質的に古典物理学の法則に従って作動する」という暗黙の仮定が置かれていることに気づいたのである。しかし、ドイチェは、コンピューターは古典物理学ではなく、量子物理学の法則にしたがうべきだと考えた。なぜなら、量子の世界の法則は古典の世界の法則よりもいっそう基本的だからである。


 つまり量子論は、現行のあらゆる暗号を解読してしまうコンピューターの母体である一方で、(量子暗号)という解読不能の暗号の心臓部にもなっているのである。





*二〇一九年一月九日抜粋終了。
*著者が『フェルマーの最終定理』と同一人とは知る由もなしに読み始めて、量子暗号の空間まで案内されたが、内容理解は歯がたたないままに終わった。
*こういう類いの頭脳明晰な人というのが世の中にはいるものなのだ。






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