それはいくつもの学問領域をまたにかけた覚醒の旅になるはずだ。その旅をきっかけに、読者が還元主義の井戸の中から踏み出して、ひとつひとつリンクをたどりながら、次なる科学革命であるネットワークの科学の探求に乗り出してくれることを願っている。
数学ではこれを「巨大コンポーネントの出現」という。物理学ではこれをパーコレーションと呼び、ちょうど水が凍るときのような相転移が起こっている証拠になる。社会学では、研究対象がコミュニティーを作ったという。
分野ごとに使う言葉は違っても、ノードをランダムに選んでリンクしていくと、ある時点で特別なことが起こるという点では意見が一致する。
リンクが臨界数に達したとき、ネットワークに根本的な変化が生じるのである。
閾値は1だ。ノードのリンク数が平均して1未満であれば、ネットワークは相互にコミニュケーションのない小さなクラスターに分裂する。
最近まで、絡み合ったこの宇宙を記述する理論に対案はなかった。そのため、ネットワークをモデル化しようとする我々の頭はランダム・ネットワークに支配されていた。複雑な現実世界のネットワークは、根本的にランダムだとみなされていたのである。
グラノヴェッターが描き出すのは、完全に内部連結されたクラスターが散在し、それぞれのクラスターは弱い絆を介して他のクラスターとつながるネットワークである。
シンクロを命じる密かな力は、自然界に広く認められる。
グラノヴェッターの社会像は、たくさんの緊密なクラスターが弱い絆で結ばれているというものだった。
コネクター、つまりずば抜けて多数のリンクをもつノードは、経済から細胞まで、複雑な系に幅広く存在している。
コネクターの存在は、大半のネットワークがもつ基本的特性であり、生物学、計算機科学、生態学など、様々な分野の科学者たちがこの性質に強い関心を寄せている。そして、科学者たちが様々な分野でなした発見は、ネットワークに関する既存の知識を根底から覆したのである。
ウェブには民主主義など微塵もないという現実である。
ハブは複雑に入り組んだこの世界の構成要素として、ごく当たり前に存在しているのだ。
ハブは、それが存在するネットワークの構造を支配し、そのネットワークを「小さな世界」にする。実際、ずば抜けて多数のノードにリンクされたハブは、システム内の任意の二つのノードを短い距離でつないでいる。
*ノードとは→通信ネットワークにおいて、ノード(英語: node)とは、再配布ポイント(データ回線終端装置など)かエンドポイント(データ端末装置など)のいずれかである。ノードの定義は、参照するネットワーク層およびプロトコル層により異なる。物理ネットワークノードは、ネットワークに接続された能動的な電子デバイスであり、通信チャネルを介して情報を作成・受信・送信することができる[1]。従って、配線盤(英語版)やパッチパネルなどの受動的な再配布ポイントはノードではない。出所ウィキペディア
この経験則は、「パレートの法即」または「80対20の法則」と呼ばれ、経営学におけるマーフィーの法則となっている。
その結果にわれわれは度肝を抜かれた。リンク数の度数分布は、数学でいうところの「ベキ法則」にピタリと合っていたからだ。
*ベキ法則とは→スティーヴンスのべき法則(スティーヴンスのべきほうそく、英: Stevens' power law)とは、物理的刺激の実際の大きさとそれを知覚する際の強さの関係を表す法則として提案されたものである。より広範囲の感覚を扱っているという意味でヴェーバー‐フェヒナーの法則を代替するものとよく言われるが、それぞれの感覚の実験での知覚の強さの測定方法に依存した偶然的結果の集積であって、妥当性に疑問を呈する人も多い。出所ウィキペディア
ベキ法則の目覚ましい特徴は、小さな事象が無数に存在することではなく、無数の小さな事象と一握りのきわめて大きな事象が共存していることである。それに対して釣り鐘型では、非常に大きな事象は絶対に興らない。
ランダム・ネットワークと、ベキ法則に従うネットワークでは、見た目も実際の構造も衝撃的なまでに違っている。
つまり、ハブは偶然の産物などではなく、存在すべくして存在していたのである。後に見るように、現実のネットワークの構造的安定性や、ダイナミックな振る舞い、頑健性、故障や攻撃に対する耐性などはすべて、ハブによって決定されている。ハブの存在は、ネットワークの進化を支配する重要な組織原理の現われだったのだ。
「ネットワークはベキ法則に従うことが明らかになった」などと言われて興奮するのは、一握りの数学者や物理学者だけだろうと思われるかもしれない。しかしベキ法則は、カオス、フラクタル、相転移など、二十世紀後半に成し遂げられた概念上の大躍進の中核にある法則なのである。
水の分子は秩序とカオスの狭間にあって、壮大なダンスを踊っているのだ。
このように突然に起こる相転移には、「いかにして無秩序から秩序が生じるのか?」という、科学者も哲学者も等しく興味を持つ意味深い問いへの鍵が握られている。
一九六〇年代、物理学者は次々に実験的証拠を集めていった。そうするうちに、臨界点の近くではいくつか重要な量がベキ法則に従うことがわかつてきたのだ。
液体が過熱されて気体になるときも、鉛が冷却されて超伝導体になるときも、ベキ法則が姿を現したのだ。無秩序から秩序への相転移は驚くばかりの数学的一貫性を持っていた。
*抜粋者は『情緒の力業』(拙著)で、積習の薫重に発生するものを云々したが、あるいはそれは相転移のことかもしれない。
自然は普通、ベキ法則を嫌うものである。通常の系では、どんな量も釣り鐘型の分布を取り、指数法則に従って急速に減少する。ところが、系が相転移をしなければならない事態に追い込まれると、状況は一変してベキ法則が現われる。ベキ法則は、カオスが去って秩序が到来することを告げる明らかな徴なのだ。相転移の理論は声高らかに告げていた――無秩序から秩序への道は、自己組織化という強大な力によって切り開かれることを、そしてその道はベキ法則によって舗装されていることを。
それは複雑な系が自己組織化するときに見せるはっきりとした徴だったのである。
「度数分布も調べてみたのですが、ほとんどすべての系(IBM、俳優、送電線)で、分布の尻尾はベキ法則に従います」(レカ・アルバート)
ネットワークは成長と優先的選択という二つの法則に支配されているとう現実が見えてきた。
Inktomiという名前を聞いたことはないだろう。
ところがボーズは、原子内の粒子を区別できるというのは、日常生活の類推からもたらされた幻想にすぎないと主張したのである。光の粒子はどれもみなそっくりで区別できず、番号も振られていない。
「ボ―ズ・アインシュタイン凝縮」
「ネットワークの中にはボ―ズ・アインシュタイン凝縮を起こすものがある」というものだろう。
ほとんどのネットワークでは、競争があってもトポロジーに目立った変化は起こらない。しかしある種のネットワークではボ―ズ・アインシュタイン凝縮の徴である「一人勝ち」が起こるのだ。
このように、一人勝ちネットワークと、ベキ法則に従うスケールフリー・ネットワークとは大きく異なる。一人勝ちネットワークはスケールフリーではない。ハブが一つだけあり、残りはすべて小さなノードなのだ。この違いは重要である。
なるほど、Googleは適応度が最も高いハブのひとつではある。しかし、Googleはすべてのリンクをかっさらってスターになったわけではない。
実を言うと、ボ―ズ・アインシュタイン凝縮の徴である一人勝ちノードに、いやでも気づかされるネットワークがひとつある。そのノードの名はマイクロソフトだ。
だが、ウィンドウズはビル・ゲイツ最大の発明品ではない。ゲイツ=アレンの協力関係から生まれたもののうち、他の追随を許さない大いなる遺産は、ソフトウェアを売るという発想である。
「相互連結性の高いシステムは、天然資源の有効利用を助け、コストを下げるには役立つ。しかしその一方で、いったん問題が起これば、システムが雪崩をうって壊れる危険性がある。」(米国西部停電事故についてリン・ベーカーの発言)
相互連結性に起因する脆弱さ
自然はどうやら、相互連結性(インターコネクティビティ)によって頑健性を獲得しているらしい。
ところが、除去されたノード数がある臨界値に達したとたん、システムは突如として分裂し、バラバラの小さな断片になる。ランダムネットワークの故障は逆相転移の一例である――エラーの臨界値以下ではシステムにほとんど障害がでず、この臨界値を超えたとたん、ネットワークはあっさりバラバラになってしまうのだ。
頑健性と脆弱さが共存しているという事実は、複雑なシステムを理解する上で重要な鍵になる。
負荷の増加分が近隣のノードには背負いきれないほど大きければ、近隣のノードはその負荷をさらに周辺のノードに回すことになる。こうしてカスケード(雪崩)現象が起こる。
流行やウィルスのなかには、広まらずに消滅するものと広がるものとがある。その理由を説明するために、社会学者や疫学者は「閾値モデル」という非常に役立つ道具を作った。
LOVE-LETTER=FOR=YOUというメール
拡散モデルを使った研究は五十年にわたって続けられてきたが、その研究結果をすべて裏切って、スケールフリー・ネットワーク上を広がるウィルスには閾値がないことが明らかになった。これは事実上、ウィルスを食い止める手立てはないということだ。
エイズを蔓延させているのはスケールフリー・トポロジーなのだ。
コンピュターをつなぐというアイデアを思い付いた人物→インターネットの誕生
ボブ・テイラー(1996)
ドナルド・ディヴィス(1997)
最大の障壁は、個々の細胞の内部には何層にもなった組織があって、それぞれの層が複雑なネットワークになっていることだ。
タンパク質相互作用ネットワークがもつスケールフリーという性質は、すべての生物に見られる一般的な性質であることが示唆される。
細胞は小さな世界でありながら、さまざまな非生物ネットワークと同じトポロジーを持っている――生命を作った建築家には、そのデザインしか選択肢がなかったかのように。
細胞は、自らの内容物をコピーして、二つに分裂することにより自己の複製を作る。
細胞複製のプロセスがきわめて巧妙にできているおかげでDNAの塩基配列は驚くべき忠実さで受け継がれてゆくけれども、二十万年ごとに一千字に一字の割合でランダムな変化が生じるのである。
放射線などの影響を受けて細胞が傷つくと、p53が普通よりたくさん作られ、その細胞が細胞分裂によりガン化するのを阻止する。こうして細胞の損傷が修復されるまでの時間稼ぎをし、正常に機能しない細胞を作らないようにしているのである。
この三人の主張は、p53分子のことばかり考えるのはやめて、「p53ネットワーク」すなわちp53分子と相互作用する分子や遺伝子の総体に焦点を合わせなければならないということだった。彼らの言葉を引用すれば、「p53ネットワークを理解する一つの方法は、それをインターネットになぞらえることである。細胞はインターネットと同様に、〈スケールフリー・ネットワーク〉であるらしい。」
p53分子を取り巻くネットワークを破壊することなく、この分子の機能を回復させる薬を見つけるのである。
このような進展の基礎にあるのは、生命から病気まであらゆるものに対する見方の根本的な変化だ。これらの進展は、さまざまな化学物質の詰め込まれた袋としてではなく、ネットワークとして細胞を眺めることによりもたらされるのである。
一九九六年、酵母ゲノムの解読は科学界に衝撃を与えた。酵母には、六千三百もの遺伝子が含まれていたからである。
二十一世紀は複雑さの世紀となるに違いない。そして、ネットワーク思考がが引き金となって革命がおこる分野があるとすれば、それは生物学だと私は考える。
また、組織の内外から人材を集めたプロジェクト・チームやアウトソーシングが盛んにおこなわれている。急速に変化する市場で生き残ろうとする企業は、静的で最適化の進んだツリー構造から、動的に進化するネットワーク構造へと組織を変革し、より柔軟な指令系統をつくろうとしているだ。この流れに逆らえば、すぐさま底辺に滑り落ちてしまうだろう。
このように重みと向き付けのあるネットワークの構造と進化が、あらゆるマクロな経済プロセスの帰趨を決しているのである。
カスケード故障は、ネットワーク経済から直接的に引き出される事態であり、グローバルな経済においては、自分だけ故障して他には影響を及ぼさないような組織などひとつもないという事実がもたらす相互依存性の結果なのである。
シスコは新奇で過激な製造システムを採用し、年成長率30%~40%を達成したのだった。その製造システムとは「同社が売るものは何ひとつ作らない」というものだ。シスコは自分で作る代わりに、シスコのロゴをつけて売られるものを作ったり組み立てたりする多数の製造会社と強い絆を結んだのである。
*シスコシステムズ(英: Cisco Systems, Inc.)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼに本社を置く、世界最大のコンピュータネットワーク機器開発会社。Cisco(シスコ)の略称で呼ばれることが多い。
1984年に、当時米国スタンフォード大学でコンピュータオペレーターとして働いていたレン・ボサック(1990年解雇)とサンディ・ラーナー(1990年退職)の夫妻により、シスコシステムズとして設立された。(ウィキペディア)
*・アトランテック・ファインナンシャル社は、社員三人だけの企画会社(プレゼンテーションを我々にしたのは三〇代の社長)で、実務はクリアランスハウス(決済事務代行会社)に委託しています。アメリカにはこの手の専門のクリアランスハウスが多数あるようであります。幾つもの会社のバックオフィスを兼ねているということ。例えば、日本でも各社 共通の業務(給与計算・社会保険・労災・安全衛生・納税・採用・資金決済等々)というのはたくさんあるのですから、バックオフィス専門の会社があってもいいのですが。垂直統合的に社内に抱え込む雇用確保を目的とした会社(?)が多すぎます。
・スピーチワーク社とのパートナーシップにより音声認識テクノロジーも提供。
・定年退職に向けての社員教育や種々の資産管理・形成に関するプランへの参加を促すようにサポートもしています。(拙著「401kの百聞は一見に如かず」1999)
アウトソーシングと呼ばれるそのシステムを採用するにぴたりとは、供給業者をしっかりと取り込み、すべての部品がぴたりとタイミングを合わせて到着するようにしなければならない。そのせいで、コンデンサーやフラッシュメモリーのような基本部品を配達できない業者が出てきたとき、コンパックのネットワークは麻痺することになったのだった。
シスコもまた、コンパックとは別だが、同じくらい大きな問題に直面した。注文が来なくなった時点で供給チェーンを切りそこね、原材料の在庫が三百%まで膨れ上がったのである。
アウトソーシングを採用した十二の大手企業(シスコ他)の2000年3月~2001年3月までの市場価値の下落を合わせると、なんと一兆二千億ドルを越えるのだ。これらの会社と投資家たちの痛ましい経験は、ネットワーク効果を考慮しないとどういうことになるかを生々しく教えている。自社の直接的損得だけしか考えない自己中心的なスタンスでは、ネットワーク思考はできない。
ネットワーク思考は、人間活動のあらゆる領域に広まり、人間が手がけるほとんどすべての研究分野に浸透しつつある。ネットワーク思考は、単に役に立つ視点や便利な道具などというものではない。ネットワークはまさにその本性により、ほとんどの複雑系に見られる構造なのであり、ノードやリンクの存在は、複雑に絡み合ったこの宇宙の姿を明らかにしようとするあらゆる戦略に深く影響をおよぼしている。
細胞や社会のような複雑な系の背後にあるネットワークを見るために、われわれは細部を隔した。
ノードとリンクのみを見ることによって、複雑さのアーキテクチャーを捉える特権を手に入れたのだ。そして細部から距離を取ることにより、複雑な系の背後ある普遍的な組織原理を垣間見た。隠すということが、クモの巣のようなこの世界の進化を支配する基本法則を明らかにし、複雑に絡み合ったアーキテクチャーが、民主主義からガンの治療まであらゆるものに影響する様子を知るために役立ったのである。
われわれの目標は、複雑性を理解することにある。そのためには構造とトポロジーの段階から踏み出し、リンクを伝わって起こるダイナミクスに焦点を合わせなければならない。ネットワークは複雑性の骨組みであり、この世界を活気づけている多様なプロセスへのハイウェイに過ぎない。
(訳者あとがき・青木薫)
本書の中では、……など、さまざまな分野のホットな話題が脇を固めている。単独に見ても十分に興味深いこれらの話題を追ってゆくうちに、「ハブ」や「ベキ法則」といったキーワードが頭にたたき込まれ、複雑なこの世界の中にネットワークを見つける目が養われることだろう。
メモ
ベキ法則と普遍性が導きとなって、二十世紀後半になされた最も興味深い発見のうちの二つがもたらされた。その二つとは、カオスとフラクタルである。
統計力学の一領域である自己組織化臨界。
頻繁に取り上げられる自然界の頑健性をもたらしているのは「冗長性」である。冗長性は、すべてのネットワークが本来的にもっているが、人間がデザインしたもののほとんどはこれが欠落している。
冗長性は、冗長性とエラー耐性の重要な出所なのである。すなわち、自然界のシステムの大半においては、いくつかのノードがうまく機能しなくなっても致命的ではないが、それは、それらのノードが除去されても別の多数のルートで補完できるからである。
*平成三十年一月十六日抜粋終了。
*多様なトピックスの展開に連れて流れ出すもの=世界の仕組みを見ることができた。
*エキサイティングな読書であった。
*「頑健性」、「ベキ法則」、「冗長性」、「細部を隔す」などは衝撃的な知見であった。
補遺
「情報経済」と名付けられた脱工業化時代の新しいビジシネス環境に対応できるよう、モデルを根底から考え直さなければならないのだ。
作り直しのなかで一番わかりやすい部分は、木からクモの巣へ、すなわちツリー組織からネットワーク組織への移行だろう。物理的資産から情報資産へと価値がシフトするにつれ、行うべきことも、垂直方向に組織を一体化することからバーチャルな組織の一体化へと変化した。ビジネスの視野も国内からグローバルに広がり、商品の寿命は数か月から数時間へと短くなり、ビジネス戦略はトップダウンからボトムアップに変化し、労働条件も従来の雇用形態から自由契約に変わっている。
*従来の日本の「製造業国家」は、「情報業国家」へのシフトが避けられないのかもしれない。