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はじめての哲学

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抜粋 三木成夫 『胎児の世界』人類の生命記憶 中公新書

2017年08月29日 | 読書
 
 ……これからお話しします「記憶」とは、臍の緒の切れる以前から、つまり生まれながらにしてそなわったものです。
 それは、三十億年もまえの〈原初の生命球〉の誕生した太古のむかしから、そのからだのなかに次から次へとり込まれ蓄えられながら蜿蜒と受け継がれてきたものであります。


 生命記憶


 たとえば、本の見開きの右のページは活字ばかりで、図などは左のページに載っていることが多い。


 わたしたち人間の感覚-運動器官は、このように、右側が文字やことばの、いわゆるロゴスの世界を、左側が絵や音楽の、いわゆるパトスの世界を、それぞれ得意として分担しているのですが、これらは、神経の交叉で反対側の脳と繋がっていますので、左脳=ロゴス、右脳=パトスという図式が出てくるわけです。


 つまり、電流を使って言語音と非言語音の脳内経路を民族のあいだで比較しましたところ、どうもわたしたち日本人は自然の音を左の言語脳で聞くらしい。(耳鼻科医師の実験)これは、欧米人が、たとえば虫の音を一種の〈雑音〉として右の音楽脳で受け止めるのと対照的です。


 韓国・中国も欧米型、ポリネシアが日本人と同じ型とのこと。


 懐かしさというものは「いまのここ」に「かってのかなた」が二重写しになったときにごく自然に湧き起ってくる感情であろう。印象像と回想像が重なり合ったときの情感といってもいい。


 やむなく友人の小児科医に相談すると、それは亭主が吸のだという。


 古生物学の教えるこの五億年にわたる脊椎動物誌
  序 古生代の〈魚類の時代〉
  破 中生代の〈爬虫類の時代〉
  急 新生代の〈哺乳類の時代〉


 それは、臍の緒の血管が子宮の〈血の池〉に無数の根を下ろして母体の血流に結ばれているのと同じだ。母子交流の原点をなす哺乳の世界には、こうした地球誌的な時の流れが秘められているのであろう。


 C・ベルナールの体液の恒常性「ホメオスターシス」の概念


 いきなり、「ずぼっ!」という音とともに、あたり一面に羊水が飛び散る。


 しかし、いずれの場合も、一億年の歳月はかれらに長い長い試行錯誤の期間を与え、その過酷の自然はかれらに絶妙の適応を遂げさせることとなった。


 夢にまで見た「脾の遊離」がついにここで現実となる。それは「鰓の退化」が始まる最初の一か月に見られるのであるが、脾臓はこのとき、胃の幽門部の尾根から、その場に〈新しい静脈〉を生み落として、ゆっくりと離れていく。


 それは決定的な出来事であった。脾の遊離はやはり現実にあった。脾臓はこのとき、造血機能を陸上歩行のための四肢の骨髄に譲り、みずからは今日の独立脾の姿に変わっていくのであるが、それは、動物が水から陸に向かって上陸を始める、あたかもその変態の初期におこなわれる。予想どおり、脊椎動物の「上陸」と密接不可分の間柄にあったのだ。


 ニワトリの卵殻内の小さな空間には、脊椎動物の悠久の時が閉じ込められていた。とくにその四日目から五日目にかけての二十四時間には、古生代の終わりの一億年を費やした上陸のドラマが見事に凝縮されていた。


 それは思考のアキレス腱を切断するに等しい止めの一撃だ。


 グラッと傾き、やがて液のなかをゆらゆらと落ちていく、そのゴマ粒の頭部……。わたくしは、しかしその一瞬、顔面が僅かにこちらに向いたのを見逃すはずはなかった。フカだ! 思わず息をのむ。やっぱりフカだ……。


 ……おれたちの祖先は、見よ! このとおり鰓をもった魚だったのだ……と、胎児は、みずからのからだを張って、そのまぎれもない事実を、人びとに訴えようとしているかのようだ。読者は、どうかこの迫真の無言劇を目をそらさないでご覧になってほしい。


 「古生物学」


 わたしどもはさらに「奇形」といわれているものの奥に必ず、この古代のかたちが隠されていることを述べずにはいられない。


 「奇」とは、凡人の価値観を超絶したものに与えられる形容でなくてはならない。


 このように見てくると、人間のからだに見られるどんな〈もの〉にも、その日常生活に起こるどんな〈こと〉にも、すべてこうした過去の〈ものごと〉が、それぞれのまぼろしの姿で生きつづけていることが明らかとなる。そしてこれを、まさに、おのれの身をもって再現して見せてくれるのが、われらの胎児の世界ではなかろうか。


 生物の二大本能として「個体維持」と「種族保存」があげられる。


 植物メタモルフォーゼは、ゲーテにとっては「自然の指図」――まさに「天の命」のしからしむるところであった。


 「宇宙交響」


 この問題の指針はただ一つ、それは、卵巣とは全体が一個の「生きた惑星」ではないか、ということだ。いや、この地球に生きるすべての細胞はみな天体ではないのか……。


 それは、先に示した食と性の波に乗った、たがいに双極的に聯関する二者一組のものでなければならない。



*平成二十九年八月二十九日抜粋終了。
*とんでもない本である。


Ⅲ 哲学の時代 一.ソクラテス來迎   出所「年金の行方」

2017年08月12日 | 哲学

(1)
ソクラテス コンニチハ!
A どうぞ、お座りください。えっ、ことによると、ソクラテスさんですか? 変装じゃないですよね。一段とヒゲが長くなりましたねぇ。
ソクラテス ソオネ。
A ええ、どうしたんですか、こんなところに現れたりして……。
ソクラテス チョット、ヨッテミタノヨ。最近ノ日本ノ様子ヲキキタクテ。
A そうですか……。ここは年金相談所ですけれどいいんですか? ……。
何がなんだか分からないけど、まあ、いいでしょう。なんでもありの世の中ですから。
ソクラテス トコロデ、貴君ワ、ドウシテ哲学ヲ志シタンダッタカナ。
A えっ、また、そんな突飛なことをお聞きになるんですか!
ソクラテス 単刀直入ダケノコトヨ。私は哲学徒ダカラ。
A でも、どうしてそんなことをご存知なんですか?
ソクラテス ナンデモ承知シテイルノヨ。天上ニ住ンデミルト、下界ノコトハナンデモ見エルンダカラ。
A そういうものですか。うるさくないんですかねぇ、森羅万象が見えてしまうのは。
ソクラテス 大丈夫。或ル見方ガアルンダヨ。
A そうなんですか、物事を透かして見るとか、
ソクラテス イヤ、違ウネ。
A 透かすんじゃないんですか。
ソクラテス ソウ。天上ニ来レバ分カルヨ。経験シナケレバ分カラナイモノッテアルンダヨ。
A そうですか。じゃ、楽しみですねぇ。
ソクラテス モウシバラク待ツンダネ。デ、キッカケハ?
A えっ、何でしたっけ。それより、どこかで聞いたことのあるフレーズですねぇ。
ソクラテス 何デモ知ッテイルンダカラ。
A そうなんですか。きっかけ……は何だったか、哲学を始めたのは、そお、夜間高校を卒業して就職先が無くて、雑踏の中の新宿駅のベンチで、「人生とは、何ぞや?」という大疑問に取り付かれたことかなあ。
ソクラテス ナルホド。
A 若いときって、皆、そんなものでしょう。
ソクラテス ソオ。デモ、ソレヲ真正面カラ問ウ人ト、生活ニ紛レ込マス人トアルデショウ。
A そうかもしれませんねぇ。
ソクラテス デ、貴君ハマッスグ哲学ノ勉強ニハイッタンダッタネェ。
A 真っ直ぐでもないんですけど、……。
ソクラテス 卒論ハ「ヤスパースノ暗号ニツイテ」ダッタネ。
A それもご存知なんですか。じゃあ、試すようなことになりますが、その中の一節が指導教授の『気分の哲学』という本に引用されたこと、……
ソクラテス アア、知ッテイマスヨ。アノコトハ万人共通ノ経験ナンダガ、ソレヲ記憶ニ残ス人ハ少ナイカモネェ。
A そうですか。まれなことですか。
ソクラテス デ、ソノ後、苦労シテ『情緒の力業』ヲ著述・出版シマシタネ。
A そこまでご承知なんですか。もう、お手上げです。私には、あなたはすっかりリアルになってきました。
ソクラテス マダマダ。デ、ソノ書評デ唯一、貴君ヲ理解シタ文章ヲ書イテクレタ人ガオラレタンダッタヨネ。
A ええ、それで私の目的は達成されてしまいました。
ソクラテス ソンナコトハナイデショウ。
A もう、いいんですよ。
ソクラテス ソオ、天上界ニ行クト、淡白ニナルンデ、コレ以上深入リハシナイケレド……出版ハ慶賀ナコトデシタヨ。ソノ著作ノ苦労モ含メテ。
A ありがとうございます。でも、なんだか変ですねぇ。お墨付きをもらったような……、幻のような……。
ソクラテス デ、貴君ハナゼ年金ノ仕事ガライフ・ワークニナッタノカナ。
A えっ、それはご存知ないんですか!
ソクラテス モチロン、知ッテマスヨ。デモ、自ラハ語ラナイノヨ。人ヲシテ語ラシメル ッテワケ。産婆術!
A そうでした。産婆術でした。年金の仕事は会社に勤めてからです。.たまたまの配置換えで厚生年金基金の仕事をするようになり、以後、会社からの再々の肩たたきを肩透かしして、二十五年間年金の仕事をさせていただきました。
ソクラテス ソオ、ジャア、理事ニハ
A 肩透かし屋には無縁の話です。
ソクラテス ソウダッタネェ。



(2)
ソクラテス デ、聞キタイノハネ、ドウモ雲ガカカッテハッキリ見エナイトコロガアルンダガ……。
A ええ、何でしょう!
ソクラテス 日本ノ政官財ノ意思決定過程ナンダガ、ドウナッテイルンダロウ。
A 難しい質問ですねぇ。そこがどうして雲に隠れるんでしょう。
ソクラテス サテ、ドウシテカネェ。天上ノ論理ニハ無イロジックガ働イテイルンジャナインダロウカ。
A そうですか。でも、さも、ありなんです。
ソクラテス ト、言ウト。
A われわれ、日本人は、渦中にありますから、渦中にあるを知らずで、意識しないところがあると思います。第三者的、客観的に見ると、多少、見えてくることがあります。
ソクラテス ソオダネ。
A それで、一言で言うと、日本の組織では誰一人として個人としての行動はないと言っていいのだろうと思います。
ソクラテス チーム・プレーミタイナモノ……。
A それに近いかもしれません。
ソクラテス 責任ハ誰ガ取ルノカナ。
A 誰がというより、組織、あえて言えば組織の代表者でしょうか。でも、その人は個人として責任を取るのではないんです。
ソクラテス フゥム。
A 日本のTVニュースをご覧になったことはありませんか。最近、日本では不祥事が多発して企業トップが謝罪している場面が多数放映されていますけど。
ソクラテス ソウナンダ。
A 日本のインフラはあらゆるところで機能不全をきたし、日本沈没を心配する人が増えています。
ソクラテス ドウシテソウナッテシマッタノカナ。
A さて、それを一言で言うのは分析力が鋭敏でなければできないのでしょうが、……。
ソクラテス ソレダケデハナイダロウケドネ。
A 言えることは、観念論ではないとだけでしょうか。
ソクラテス ソオネ。
A 戦後日本の復興は、ドイツ以上に成功したといわれています。
ソクラテス デ。
A そんな中で、日本のフレーム・ワークは成熟状態になり、ほころびが出てきました。五〇年にも及ぶ鎖国政策はグローバル経済の現実にアン・マッチになってしまっています。
ソクラテス デ、……。
A この状態は、一言で言うと、日本人の他者依存の性向にあるのだと思います。自分で切り開くというよりも、農耕民族の天候依存の体質、陽が出なけりゃ、豊作にはならないのです。
ソクラテス 他者依存……。
A ええ、日本の官僚はこういう民族の気質を巧妙に組成して、自らの政策展開に都合の良い裁量的フレーム・ワークを作り出したのです。ソビエト以上の計画経済フレーム・ワークを作ってきたのです。その典型が「護送船団方式」でしょう。
ソクラテス デ、……。
A 年金制度も、その意味では裁量的フレーム・ワークであり、数理計算に基づく計画経済なのです。社会保険方式とか、世代間助け合いとかの美辞麗句は官僚の常套手段でしかなく、旧来はそれでも機能しましたけれど、現実にはマッチしなくなっていると思います。
ソクラテス デ、……。
A ソクラテスさん、さっきから、デ、デ、ばかりですねぇ。
ソクラテス 気ガツキマシタカ。コレモ、一種ノ産婆術デショウ。
A そのようですねぇ。



(3)
ソクラテス デ、日本ノ年金ノ社会保険方式ハドイツヲモデルニシタヨウダガ、……。
A そのようです。
ソクラテス ドイツトイウコトデアレバ、理念先行ノ方法論ダネ。
A ええ、イギリス経験論のマドリング・スルーのような経験の蓄積という考え方はないようです。
ソクラテス ハジメニイデーアリキダカラ、ファッショニナリガチダネ。
A ええ、ドイツにも日本にも、そのような不幸な戦争時代がありました。
ソクラテス ソウダネ。社会保険方式ヲ金科玉条ニシテイナイカネ。
A その気がありますねぇ。日本の年金は社会保険方式を堅持していますが、これを疑うことはしません。
ソクラテス ファシズムノ盲点ハ国民自体ノ自主性ヲ簒奪スルコトダカラ……。
A それで、他者依存の風潮が蔓延するんですよね。
ソクラテス ソオ。
A 国家とか、お上とか、お役人が前面に出て、唯々諾々の、その他大勢の国民が付き従う構図になるんですねぇ。そうしていたほうが利益になるから安易に走るんです。
ソクラテス ソウ、自分デ考エナクナルワケ。
A そもそも日本人は自分で考えたことが無いんじゃ、無いでしょうか。生活のすべてがお仕着せで足りていましたから。
ソクラテス フゥム。ソコマデ言イマスカ?
A 言い過ぎですかねぇ。日本人もいろいろですからねぇ。
ソクラテス ソンナニ自己放棄ガ徹底シテイルノダロウカ、ソウナンダ。
A 悪い意味でですよ。
ソクラテス ソレデ、成功シテキタンダ。日本経済ノ復興ハ。
A それだったからなんでしょう。……でも、それって成功ですかねぇ。
ソクラテス サテネ、見方シダイダネェ。デ、今後ハ、ドウシヨウトシテイルノカナ。
A あらゆる面がグローバルな状況になった、今となっては、アンシャン・レジームでは立ち向かえなくなりましたねぇ。経済界は、ここ一〇年、「失われた一〇年」を過ごしてきました。
ソクラテス ソオ。
A 年金の世界でも、終身雇用が崩れ少子高齢化の時代に突入して、社会保険方式というイデーが、はたして年金に不可欠な機能かと、問われ始めたようです。
ソクラテス デ。ソレッテ遅々タルモンナノ。
A ええ、国民の気質が変わるなんてことは一〇〇年や二〇〇年の話じゃないですか。
ソクラテス ソウネ。デ、……。
A 方向の、経路の集約っていう動きはあると思います。胎動っていう程度ですかねぇ。
ソクラテス カスカニ、ソウイウノハ感ジラレルンダ……。
A ええ、そのようですねぇ。


(4)
ソクラテス デ、ソノヨウナ状況デノ解決策ハ何ダト考エテイルノカナ?……。
A そういう解決策って言うのは無いんじゃないですか。それではイデー先行の方法論になるだけじゃないですか。でもイデーと言わず信念は必要ですが、信念が形成されるには経験の蓄積が欠かせないでしょうねぇ。
ソクラテス 貴君の言うマドリング・スルーな……。
A ええ、そういう経験の総和から抽出される原理・原則っていうのはあるかもしれませんねぇ。常に見直される原理、フレキシブルな原理、柔らかな原理ってありえるんでしょうか?
ソクラテス ソレガ信念ナノカモネェ。
A なるほど、そおか、そうかもしれない。そうなのか。
ソクラテス デ、
A 知恵の総和としての信念ってわけだ。
ソクラテス ソオ。
A きっかけは、ではなく、解決策は?
ソクラテス ソウ、デ。
A 現行フレーム・ワーク下の現実にマッチした改善という手法は限界ではないでしょうか。過去の改善パッチワークの結果、今では年金制度は複雑になってしまい、国民には理解できないものになり、支払い者側の取り扱い事務ミスも多発しています。こういう現象面にとどまらず、制度根幹の年金財政方式についても検討を加えるべき時期だと考えられます。
ソクラテス ソウイウ動キハ有ルノカナ。
A 公的年金についてはいろいろ議論が始まった段階でしょうか。
ソクラテス ソウナンダ。
A 私的年金、企業年金では、厚生年金基金の三〇年余に及ぶ実験の結果、完全事前積立方式でもどんぶり勘定である限り機能しないことが判明し、代行返上や基金解散に至っています。その後を受けて、新たな実験がセットされました。それが、確定拠出年金の個人勘定です。この制度が定着するまでには様々な試行錯誤が繰り返されることになりましょう。政府も企業もさらに一層のインセンティブを提供しなければならないでしょう。国民サイドも資産運用の面で数段のレベル・アップが必要不可欠だと思
います。なにしろ、日本人は資産運用などしたことも無い民族ですから。コツコツ、勤勉に、ものづくりに励んできただけなんですから。
ソクラテス デ、……。
A こういう民間の実験がどういう成果を出すかは未知数ですが、必ずや、国民意識の覚醒は実を上げると思います。基金が達成した「退職金の年金化」という考え方のように、国民の間に定着するものと考えられます。
ソクラテス ソレデ、国ノ年金デ考エラレル別ノ方式ッテ。
A そうですねぇ。今、注目されているのはスゥエーデン方式でしょうか。他に、イギリスの適用除外方式、アメリカのブッシュの提案、そお、それに中南米の年金動向等幾つかあります。
ソクラテス ナルホド。
A そんな中で、わたしが方法論として注目しているのはポーランドの動向です。ある本に、次のような文章があります。

「バルツェロビッチは「斬新的な改革」はかならず失敗すると確信するようになる。広範囲な改革を急速に実施しなければ、経済の方向を変えられる「臨界量」には達しない。」

ソクラテス ソレハ面白イネェ。
A イギリスのサッチャーも似たよう考えなんでしょう。
ソクラテス ソウ。遅々タル行動トハ別ノ考エ方ダネ。
A ええ、私の「積習の薫重」も近いかもしれません。
ソクラテス ソウ。一度、読ンデミマスカ。貴君ノ本。
A 光栄です。ただし、眠くなられても怒らないでください。


(5)
ソクラテス トコロデ、ヤスパースノ暗号ハ
A えっ、またまた、突然ですねぇ。
ソクラテス 神ノ言葉ノ読ミ解キニツイテ……。
A ええ、それを「暗号解読」といいました。
ソクラテス 貴君ノ卒論モ、ソノコトヲテーマニシタノダッタカナ。
A はい、もう四〇年も前のことですねぇ。十三 歳のときの経験、夏の中学校の校庭で友人たちの Y シャツが旗のようにバタバタ揺れている様子に見ほれて固まったとき、突然、他者の存在を強烈に叩き込まれたのでした。Y シャツのバタバタが、暗号だったのです。意味が読めずに固まっていたのです。
ソクラテス ソオ、オソラク意識ノ別次元ヲ垣間見タノデショウ。
A 実は、私の義母は修験道の信者で、行者の一歩手前の人ですが、山の尾根に一晩中座禅して、般若波羅蜜多と唱える行をしているのですが、その義母が言うのには真夜中の行の最中に意識は無限の拡大をして光さんざめく領域に侵入するそうです。
ソクラテス ソオ。ギリシャニモソウイウ一派ガイタネェ。
A 日本では、そういう荒行をする人が多いですよ。
ソクラテス ソウ。
A 密教修行者、空海とか……。
ソクラテス デ。
A ソクラテスさん、空海に会われると話が尽きないかもしれませんねぇ。
ソクラテス ソウ。帰リニ寄ッテミヨウカナ。ドコヘ行ケバ、会エルカナ?
A 高野山の上じゃないですか。
ソクラテス ソオ。デ、貴君の『情緒の力業』で、言っているのは……。
A またまた、ドラスティックですねぇ。私の考えは「積習の薫重」といいまして、多様な経験の情緒が薫重して、ある時点で力業が発することがあるということを言っているだけです。計画とか意図とか作為とかが到達できない地点の話ですが。
ソクラテス ソレハ理性的思弁デハナインダネ。
A ええ、私はその理性にはおのずと限界があると考えています。感性も然りです。
ソクラテス ナルホド。
A 突然ですが、アメリカン・カフェ・チェーン創始者の R・ジアモという人が興味深いことを言ってます。
「似たような状況において蓄積された経験であり、いわば内面から沸きあがってくる推測のようなもの」
「直感そのものは内なるロジックを持っているが、そのロジックは言葉で表現できるものではない。それは内在している数多くの情報であり、その人の中にある何かによって、その内的情報が互いに結びつけられて経験へと変換していく。その経験とは、問題解決に向けての分析の統合でもある。」
ソクラテス 苦労人デスネ。経験ノ至宝デショウ。
A そうですねぇ。



(6)
ソクラテス デ、最近ノ哲学ノ方面ハドウナッテイルンダロウ?
A それって、哲学史ということですか? それは大事ですねぇ。私の任にあらず、です。私なりのものになりますけど、アット・ランダムに関心のあるものを上げますと、哲学ばかりじゃないですけど。
ソクラテス デ。
A まず、空海、道元禅師、それに鈴木大拙でしょうか。プラトンも読み直したいですねぇ。ユダヤ教のショーレム、井筒俊彦、イギリスのミル、複雑系文書、日本の数学者、あと、年金関係ではサッチャーの政治手法、ポーランドの政治改革、中南米の従属理論、ボリビアの年金基金、アメリカの『果たすべき約束』……等々、たくさんあります。
ソクラテス ソレハイイデスネェ。死ンデル暇モ無イワケダ。
A ええ、別に生き急いでいるわけじゃないですけどね。
ソクラテス 時間ハ限ラレテクルカモシレナイネェ。
A 覚悟はしていますけど。そうなると、毎日が勝負ですねぇ。これまでも、これからもそうなると思います。
ソクラテス ソオ。デ、貴君ノコレマデノイロンナ経験ノ結果ノ最終メッセージハ何?
A 大げさですねぇ。でも、常々「哲学から始めよう!」と、考えています。というのも、日本人は、自分で考えるということをあまりしてこなかったですから。習慣とか、伝統とかの力が強く、自分で考える必要が無かったとも言えるかもしれませんが。
ソクラテス ソノヨウダネ。
A ということは、自分が無かった。というより、他人と自分とが存在していなかった。もっと言えば、融合状態で未分化のままであった……。要するに、意識的には幼児のままだったということでしょう。
ソクラテス デ。
A 島国、日本で足りていたのが、そうは行かなくなってきていますよね。眼前に展開する現実は。
ソクラテス ソウダネ。私ミタイナモノモ飛来スルシ、……。
A ええ、なんでもありで、いままでの振る舞いでは収まらなくなってきています。政治、経済、司法、行政、企業、それに年金も、その他、生活全般について言えると思います。
ソクラテス ソオ。大分話シマシタネ。デ、……、貴君ノ最後ノ望ミハ何ナノカナ。
A そんな、今すぐ死ぬわけじゃないですよ。最後じゃないと思いますが、当面の個人的な望みはあります。
ソクラテス マアマア、ソレデイイケド。
A いままでに、ギリシャは二度訪問しましたけど、もう一度行きたいんです。
ソクラテス ソウダッタ。
A ええ。で、デルフィの丘で沈思黙行、座禅して、二〇〇〇年の時の経過の事象に身を晒してみようと考えています。ヘロポネス半島に吹き降ろすデルフィの風に身をなぶらせるのが当面の望みなんです。
ソクラテス ソオ、ジャ、ソノトキ、マタ会イマショウ。アソコハ神域デスカラネ。
A ええ、ぜひ、そのときはデルフィにいらしてください。
ソクラテス ソウシマショウ。……デハ、マタネ。




 Amazon 「Q&A年金の行方





抜粋 三木成夫 『内臓とこころ』 河出文庫

2017年08月08日 | 読書
 
 いずれにしても、そのように非常に鋭い精巧無比の触覚によって、われわれ脊椎動物の祖先は、営々と五億年の間、食物を取り込んできたわけです。


 「この精巧無比の内蔵触覚の機能は、正常な哺乳によって日々訓練されてゆく」


 やはり赤ん坊の時には、まず哺乳動物であることの最低の条件を満たすためにも、母乳を経験させないといけない。それで育ってきた赤ちゃんと、なんだかモルモットに水をやるようにして育てた赤ちゃんと、いったいどちらが幸せだと思いますか。


 イヌ、ネコがお産をしますと、胎盤をおいしそうに食べます。催乳物質が含まれているからです。あの食べる時のキッチャキッチャ、という音はなんともいえない音です。


 内臓波動


 つまり動物というものは、子供を産む場所と、餌をとる場所と、はっきり分かれているんです。生まれてからの前半生を、ずっと餌場で過ごして、ここで大きくなり、ある一定の時期がきたら、突如として、その生命形態を変える。


 しかし、生命の流れというものは、ちゃんと「食の相」「性の相」に分かれているのです。


 私ども人間は、とくに男性はもう、〈食い気〉も〈色気〉も、ごっちゃ混ぜ(爆笑)ですから、こういった分け方は、まったく理解できない。


 じつは、植物の世界で理想的なすがた(位相)が見られるのです。田んぼに出て、あのイネの育ちを見れば充分です。春が来たら苗床から、芽が吹き出してくる。それから、夏に向かって葉っぱを茂らせて大きくなってゆく。「成長繁茂」の相です。やがて夏至が過ぎて日が短かくなってゆくと、そこでポイントが完全に切り替えられる。つまり、個体の維持から種族の保存に向かって、いわば生きざまが変わってしまう。あの秋の黄金の波。それは「開花結実」の相です。


 このようなわけで、私どもは、宇宙リズムがもつとも純粋な形で宿るところが、まさにこの内臓系ではないか、と考えているのです。


 私たちの内臓系の奥深くには、こうして宇宙のメカニズムが、初めから宿されていたのです。「大宇宙」と共振する、この「小宇宙」の波を、私たちは〈内臓波動〉という言葉で呼ぶことにしております。


 感覚と運動はたがいに聯関する。


 それは腸管系と血管系と腎管系で、「植物器官」と呼ばれています。


〈アタマ〉が前者の体壁の世界に属したものであるとすれば、あとの〈ココロ〉は、あくまでも後者の内蔵の世界に根を下ろしたもの……と、こうなるわけです。


 この「遠」に対する強烈なあこがれ――これこそ人間だけのものです。


 それは、いいかえれば「心で感じること」と「ものを話すこと」の両者が、まさに双極の関係にあるということです。あの感覚と運動の同時進行の関係――すなわち内臓の感受性が高まった、それだけ言葉の形成も的確になる。逆にいえば、すぐれた言葉の形成は、豊かな内臓の感受性から生まれるというものです。


 「ドウシテ」と「ナー二」


 つまり私たちの頭の働きには二種の異なったかたちが識別される。そのひとつは素朴な指差し(指示思考)、他のひとつは意欲的な把握(概念思考)――この二つですが、後者のつまり概念思考が、ここからやがて新しい世界を産み落とすのです。


 この三歳児の世界に桃源郷のおもかげを見た――という、ただそれだけの話なのです。


 私たちの遠い祖先は、古生代の終わりに、それまでの長い波打際の生活を捨て、上陸を敢行したといわれる。この一億年に及ぶ上陸のドラマが受胎一ヵ月後の一週間に子宮の羽二重の褥を、いわば檜舞台として演じられる。


 三木先生の話が心を打つのは、そこに強い情動があって、それを理性がよく統御しているからであろう。(養老孟司)





*平成二十九年八月八日抜粋。