程なくしてバスがやって来た。
バスの運転手はサングラスをかけて颯爽とした感じの女性だった。僕は念のため、目的地に着いたら声をかけてくれるよう、彼女に頼んだ。シュア、と運転手はやはり颯爽と簡潔に応じてくれた。バスの中で僕の隣に座ったおじちゃんがいろいろと教えてくれる。僕が目指している場所の近くに住んでいると言う。
途中でバスの運転手が交替するが、またしても女性だった。サングラスはかけていなかったが、すらっとした体つきで髪をひっつめにした、やはりきびきびとした印象を与える女性だった。彼女が僕の頼みを引き継いでくれたかどうか、ちょっと心配だったが、しばらくすると、運転手が僕の方に視線を向けながら、「キンデルダイク!」と印象通りにきびきびとした口調で声をかけてくれた。
そう、僕はまさしくオランダを象徴するキンデルダイクの風車を一度この目で見てみたかったのだ。いつか何かの写真集で目にした、夕日を浴びて真っ赤に染まる風車群の残像を忘れることができなかったのだった。
バスが停車すると同時に、彼女にサンキューとお礼の挨拶をしてバスを降りた。バスの中から僕の隣に座っていたおじさんが手を振ってくれているので、僕も手を返した。バスが行ってしまうと、僕は案内板のところまで行き、大体の地形を頭に入れて、川岸に沿って歩き始めた。
しばらく進んで行くと、写真集に載っていた風車群のアングルと思われる場所があった。念のために持ってきた写真のコピー(白黒ではあるが)を出して確かめる。間違いない、ここだ。
僕はデジタルカメラを取り出して、写真を撮ってみる。角度は大体合っているのだが、夕暮れにはまだ時間があったので、とりあえず、18世紀の面影を残す19基の風車をすべて見て回ってくることにした。
西の森の向こうに陽が落ちる頃、先程の場所まで戻って、写真撮影。カメラのさまざまなモードを駆使して何枚も撮ってみるが、写真集のような鮮やかな深紅の色はついぞ出なかった。プロの写真家たちは偏向フィルターか何かの着色技術を使用しているのかもしれないな。
僕は、とにかくキンデルダイクにたどり着けただけでも幸いだった、と自分に言い聞かせながら、バス停への道をとぼとぼと歩き始めた。 (了)

バスの運転手はサングラスをかけて颯爽とした感じの女性だった。僕は念のため、目的地に着いたら声をかけてくれるよう、彼女に頼んだ。シュア、と運転手はやはり颯爽と簡潔に応じてくれた。バスの中で僕の隣に座ったおじちゃんがいろいろと教えてくれる。僕が目指している場所の近くに住んでいると言う。
途中でバスの運転手が交替するが、またしても女性だった。サングラスはかけていなかったが、すらっとした体つきで髪をひっつめにした、やはりきびきびとした印象を与える女性だった。彼女が僕の頼みを引き継いでくれたかどうか、ちょっと心配だったが、しばらくすると、運転手が僕の方に視線を向けながら、「キンデルダイク!」と印象通りにきびきびとした口調で声をかけてくれた。
そう、僕はまさしくオランダを象徴するキンデルダイクの風車を一度この目で見てみたかったのだ。いつか何かの写真集で目にした、夕日を浴びて真っ赤に染まる風車群の残像を忘れることができなかったのだった。
バスが停車すると同時に、彼女にサンキューとお礼の挨拶をしてバスを降りた。バスの中から僕の隣に座っていたおじさんが手を振ってくれているので、僕も手を返した。バスが行ってしまうと、僕は案内板のところまで行き、大体の地形を頭に入れて、川岸に沿って歩き始めた。
しばらく進んで行くと、写真集に載っていた風車群のアングルと思われる場所があった。念のために持ってきた写真のコピー(白黒ではあるが)を出して確かめる。間違いない、ここだ。
僕はデジタルカメラを取り出して、写真を撮ってみる。角度は大体合っているのだが、夕暮れにはまだ時間があったので、とりあえず、18世紀の面影を残す19基の風車をすべて見て回ってくることにした。
西の森の向こうに陽が落ちる頃、先程の場所まで戻って、写真撮影。カメラのさまざまなモードを駆使して何枚も撮ってみるが、写真集のような鮮やかな深紅の色はついぞ出なかった。プロの写真家たちは偏向フィルターか何かの着色技術を使用しているのかもしれないな。
僕は、とにかくキンデルダイクにたどり着けただけでも幸いだった、と自分に言い聞かせながら、バス停への道をとぼとぼと歩き始めた。 (了)
