まもなく9月が終わろうとする日曜の夕暮れ、
21世紀姉妹の長女と
渋谷ヒカリエで待合わせをした。
*
約束の時間よりも少し早く着いたので、
僕は9階のヒカリエホールへ。
西に向かって大きく見開いた全面開口の窓から
暮れなずむ渋谷のまちを眺めてみた。
背の高いビルが目の前にニョキリ、
うず高くそびえ立っていたが、
それ以外の混沌とした雑居さは
あのころと
あまり変わらないような気がした。
うーん…変わらない?
屋外広告サインの数と
きらびやかさは
その数と照度を確実に増しているし、
全体的にまちの密度が増したような気がする。
だけど
足元に見える黄色い銀座線が
JR渋谷駅の中に入り込む姿を見ると、
なぜだか少しホッとした。
そして
渋谷駅の向こうその先に見える
スクランブル交差点では
信号待ちをする僕と貴之の姿があった。
1984年12月、
スクランブル交差点で
僕と貴之は
リクルート『フロムエー』とゆう
アルバイト情報誌から取材を受けていた。
(君たち、クリスマスってどうするの?)
(もちろん僕たちはふたりで飲み過ごします)
クリスマスの日に発刊された
『フロムエー』巻頭グラビア特集では
「男同士でクリスマスを過ごす悲しい僕たち」
そんな情けないタイトルとともに
スタジャンを着て立ち並ぶ
僕たちふたりのアホな姿が掲載されていた。
そして僕と貴之は
ふたり笑いながら交差点を渡り、
31年前の記憶の彼方へと
消えていった。
*
約束の時間になって
1階エレベータ前の出入り口に降りていくと、
グレーのパーカーにジーンズ、
ナイキのスニーカーを履いた
21世紀姉妹の長女が
スマホを見つめながら
佇んでいた。
夏に会った時は
髪の毛を茶色に染め、
いまどきの化粧をした上に
いまどきのショートパン姿のいでたちで
そんな姿をみたパパは
ちょっとしためまいを覚えたのだが、
今宵の彼女のいでたちは
髪の色を元通り黒にもどし、
どこにでもいる普通の短大生のその姿。
すこしホッとした。
-何を食べたい?-
-お腹が空いた、肉、食べたい-
そんな彼女のリクエストもあって、
7階にあるビア・カフェに入った。
こちらのお店、
なんと普通の生ビールが置いていないらしく、
泡ノリの悪くて小さなタンブラーに注がれる
クラフトビールがメインだ、とゆう。
こちとら、
そんなこジャレたモノは
飲みつけやしない。
僕はメニューの片隅にあった
ハートランドビールをジョッキで頼み、
彼女はウーロン茶を頼んだ。
*
21世紀姉妹の長女の日常は
「と・に・か・く、超ー忙しい」
そうゆう。
ムシャムシャと肉をほおばりながら
バイトのこと、
ひとりで観に行った芝居のこと、
なんだかいろいろな話を
聞いたような気もするし、
それでいて
全く聞けていないような気もするし。
すると彼女は突然に部活の話をし始めた。
数日前は所属するフットサルチームの合宿で
伊豆方面に向かった、とゆう。
-は?フットサル?-
-そう、フットサル-
-できねぇじゃん、自分-
-できねぇよ、自分-
話をよくよく聞くと、
勉強とバイトが忙しくて
定期的に開かれるフットサルの練習には
一回も参加したことがないらしく、
いわゆる幽霊部員なのだが、
合宿には行ったのだ、
そして
袖を通したこともないユニフォームを着て
みんなで写真を撮ったのだ、
楽しかったのだ、
うれしそうにそうゆうではないか。
-チャライね~、おまえ-
-チャラくないよ、ぜんぜん。
そうゆう自分はどうだったのよ-
もちろん、
そんな野暮な質問は聞き流すに限る。
*
2杯めのハートランドビールを飲み干すと、
ぼくはやおら、こう聞いてみた。
-札幌ってどう思う-
21世紀姉妹の長女は
フライドポテトをケチャップにつけながら
しばらくポテトの先端を見つめたあと、
ポソリ、
こう答えてポテトを口に含んだ。
-平和なまちだね-
そうだよな、
地方都市ってったってさ、
田舎なんだよ、
札幌なんて…
そんな風に答えることもなく、
僕はもう一杯、
ハートランドビールを頼んだ。
本当はもうひとつ、
聞きたかった質問がある。
しかし、
その質問はこの日最後まで
僕の口を告いで出てくることはなかった。
*
店を出ると、
渋谷のまちはすっかりと夜になっていた。
246をまたぐ歩道橋にさしかかると、
21世紀姉妹の長女は
『アイブー!』
通り過ぎざま、数人の女子に声をかけられた。
-は?誰よ-
-同じ寮の子たち-
-アイブーって、誰よ?-
-あたし-
全くをもって意味不明だが、
21世紀姉妹の長女は
渋谷で
アイブーなるものに進化していた。
*
この日、
彼女との食事以外にもうひとつ、
しておきたいことがあった。
年の瀬になると必ず行っている
21世紀姉妹ツーショットの
年賀状用写真撮影である。
もしかしたら
今年はツーショットが無理かもしれない、
そう思われたので
長女は渋谷で撮影を
次女は恒例の札幌旭山公園で撮り、
合成しようと考えていた。
いつも並んでいるふたりの写真が、
今年は離れ離れになっている。
それはそれで
2015年のふたりの状況を表していて
なかなか良いかもしれない、
ちょっと寂しくもあるが、
そう思われた。
代官山に向かう
道の途中途中で、
背後に広がる夜景を気にしながら、
パシャリ
パシャリ
パシャリ
パパは彼女の写真を撮り続けた。
21世紀姉妹長女は
決して嫌がるそぶりも見せず、
カメラに目線をあわせた。
*
彼女が暮らす住まいの前で、
パパはこう言って、
きびすを返した。
-じゃぁな、またな-
21世紀姉妹の長女は
1.5秒の間をおいて
こう返答した。
-じゃぁな、またな-
*
I say,
bye-bye 哀愁でいと
あざやかな
bye-bye 哀愁でいと
笑顔みせてよ
bye-bye 哀愁でいと
冷め過ぎた
罪な奴
21世紀姉妹の長女と
渋谷ヒカリエで待合わせをした。
*
約束の時間よりも少し早く着いたので、
僕は9階のヒカリエホールへ。
西に向かって大きく見開いた全面開口の窓から
暮れなずむ渋谷のまちを眺めてみた。
背の高いビルが目の前にニョキリ、
うず高くそびえ立っていたが、
それ以外の混沌とした雑居さは
あのころと
あまり変わらないような気がした。
うーん…変わらない?
屋外広告サインの数と
きらびやかさは
その数と照度を確実に増しているし、
全体的にまちの密度が増したような気がする。
だけど
足元に見える黄色い銀座線が
JR渋谷駅の中に入り込む姿を見ると、
なぜだか少しホッとした。
そして
渋谷駅の向こうその先に見える
スクランブル交差点では
信号待ちをする僕と貴之の姿があった。
1984年12月、
スクランブル交差点で
僕と貴之は
リクルート『フロムエー』とゆう
アルバイト情報誌から取材を受けていた。
(君たち、クリスマスってどうするの?)
(もちろん僕たちはふたりで飲み過ごします)
クリスマスの日に発刊された
『フロムエー』巻頭グラビア特集では
「男同士でクリスマスを過ごす悲しい僕たち」
そんな情けないタイトルとともに
スタジャンを着て立ち並ぶ
僕たちふたりのアホな姿が掲載されていた。
そして僕と貴之は
ふたり笑いながら交差点を渡り、
31年前の記憶の彼方へと
消えていった。
*
約束の時間になって
1階エレベータ前の出入り口に降りていくと、
グレーのパーカーにジーンズ、
ナイキのスニーカーを履いた
21世紀姉妹の長女が
スマホを見つめながら
佇んでいた。
夏に会った時は
髪の毛を茶色に染め、
いまどきの化粧をした上に
いまどきのショートパン姿のいでたちで
そんな姿をみたパパは
ちょっとしためまいを覚えたのだが、
今宵の彼女のいでたちは
髪の色を元通り黒にもどし、
どこにでもいる普通の短大生のその姿。
すこしホッとした。
-何を食べたい?-
-お腹が空いた、肉、食べたい-
そんな彼女のリクエストもあって、
7階にあるビア・カフェに入った。
こちらのお店、
なんと普通の生ビールが置いていないらしく、
泡ノリの悪くて小さなタンブラーに注がれる
クラフトビールがメインだ、とゆう。
こちとら、
そんなこジャレたモノは
飲みつけやしない。
僕はメニューの片隅にあった
ハートランドビールをジョッキで頼み、
彼女はウーロン茶を頼んだ。
*
21世紀姉妹の長女の日常は
「と・に・か・く、超ー忙しい」
そうゆう。
ムシャムシャと肉をほおばりながら
バイトのこと、
ひとりで観に行った芝居のこと、
なんだかいろいろな話を
聞いたような気もするし、
それでいて
全く聞けていないような気もするし。
すると彼女は突然に部活の話をし始めた。
数日前は所属するフットサルチームの合宿で
伊豆方面に向かった、とゆう。
-は?フットサル?-
-そう、フットサル-
-できねぇじゃん、自分-
-できねぇよ、自分-
話をよくよく聞くと、
勉強とバイトが忙しくて
定期的に開かれるフットサルの練習には
一回も参加したことがないらしく、
いわゆる幽霊部員なのだが、
合宿には行ったのだ、
そして
袖を通したこともないユニフォームを着て
みんなで写真を撮ったのだ、
楽しかったのだ、
うれしそうにそうゆうではないか。
-チャライね~、おまえ-
-チャラくないよ、ぜんぜん。
そうゆう自分はどうだったのよ-
もちろん、
そんな野暮な質問は聞き流すに限る。
*
2杯めのハートランドビールを飲み干すと、
ぼくはやおら、こう聞いてみた。
-札幌ってどう思う-
21世紀姉妹の長女は
フライドポテトをケチャップにつけながら
しばらくポテトの先端を見つめたあと、
ポソリ、
こう答えてポテトを口に含んだ。
-平和なまちだね-
そうだよな、
地方都市ってったってさ、
田舎なんだよ、
札幌なんて…
そんな風に答えることもなく、
僕はもう一杯、
ハートランドビールを頼んだ。
本当はもうひとつ、
聞きたかった質問がある。
しかし、
その質問はこの日最後まで
僕の口を告いで出てくることはなかった。
*
店を出ると、
渋谷のまちはすっかりと夜になっていた。
246をまたぐ歩道橋にさしかかると、
21世紀姉妹の長女は
『アイブー!』
通り過ぎざま、数人の女子に声をかけられた。
-は?誰よ-
-同じ寮の子たち-
-アイブーって、誰よ?-
-あたし-
全くをもって意味不明だが、
21世紀姉妹の長女は
渋谷で
アイブーなるものに進化していた。
*
この日、
彼女との食事以外にもうひとつ、
しておきたいことがあった。
年の瀬になると必ず行っている
21世紀姉妹ツーショットの
年賀状用写真撮影である。
もしかしたら
今年はツーショットが無理かもしれない、
そう思われたので
長女は渋谷で撮影を
次女は恒例の札幌旭山公園で撮り、
合成しようと考えていた。
いつも並んでいるふたりの写真が、
今年は離れ離れになっている。
それはそれで
2015年のふたりの状況を表していて
なかなか良いかもしれない、
ちょっと寂しくもあるが、
そう思われた。
代官山に向かう
道の途中途中で、
背後に広がる夜景を気にしながら、
パシャリ
パシャリ
パシャリ
パパは彼女の写真を撮り続けた。
21世紀姉妹長女は
決して嫌がるそぶりも見せず、
カメラに目線をあわせた。
*
彼女が暮らす住まいの前で、
パパはこう言って、
きびすを返した。
-じゃぁな、またな-
21世紀姉妹の長女は
1.5秒の間をおいて
こう返答した。
-じゃぁな、またな-
*
I say,
bye-bye 哀愁でいと
あざやかな
bye-bye 哀愁でいと
笑顔みせてよ
bye-bye 哀愁でいと
冷め過ぎた
罪な奴