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餃子倶楽部

あぁ、今日もビールがおいしい。

哀愁でいと(2015渋谷篇)

2015-11-03 17:18:23 | 21世紀姉妹
まもなく9月が終わろうとする日曜の夕暮れ、
21世紀姉妹の長女と
渋谷ヒカリエで待合わせをした。



約束の時間よりも少し早く着いたので、
僕は9階のヒカリエホールへ。

西に向かって大きく見開いた全面開口の窓から
暮れなずむ渋谷のまちを眺めてみた。

背の高いビルが目の前にニョキリ、
うず高くそびえ立っていたが、
それ以外の混沌とした雑居さは
あのころと
あまり変わらないような気がした。

うーん…変わらない?

屋外広告サインの数と
きらびやかさは
その数と照度を確実に増しているし、
全体的にまちの密度が増したような気がする。

だけど
足元に見える黄色い銀座線が
JR渋谷駅の中に入り込む姿を見ると、
なぜだか少しホッとした。

そして
渋谷駅の向こうその先に見える
スクランブル交差点では
信号待ちをする僕と貴之の姿があった。

1984年12月、
スクランブル交差点で
僕と貴之は
リクルート『フロムエー』とゆう
アルバイト情報誌から取材を受けていた。

(君たち、クリスマスってどうするの?)

(もちろん僕たちはふたりで飲み過ごします)

クリスマスの日に発刊された
『フロムエー』巻頭グラビア特集では
「男同士でクリスマスを過ごす悲しい僕たち」
そんな情けないタイトルとともに
スタジャンを着て立ち並ぶ
僕たちふたりのアホな姿が掲載されていた。

そして僕と貴之は
ふたり笑いながら交差点を渡り、
31年前の記憶の彼方へと
消えていった。



約束の時間になって
1階エレベータ前の出入り口に降りていくと、
グレーのパーカーにジーンズ、
ナイキのスニーカーを履いた
21世紀姉妹の長女が
スマホを見つめながら
佇んでいた。

夏に会った時は
髪の毛を茶色に染め、
いまどきの化粧をした上に
いまどきのショートパン姿のいでたちで
そんな姿をみたパパは
ちょっとしためまいを覚えたのだが、
今宵の彼女のいでたちは
髪の色を元通り黒にもどし、
どこにでもいる普通の短大生のその姿。

すこしホッとした。

-何を食べたい?-

-お腹が空いた、肉、食べたい-

そんな彼女のリクエストもあって、
7階にあるビア・カフェに入った。

こちらのお店、
なんと普通の生ビールが置いていないらしく、
泡ノリの悪くて小さなタンブラーに注がれる
クラフトビールがメインだ、とゆう。

こちとら、
そんなこジャレたモノは
飲みつけやしない。
僕はメニューの片隅にあった
ハートランドビールをジョッキで頼み、
彼女はウーロン茶を頼んだ。



21世紀姉妹の長女の日常は
「と・に・か・く、超ー忙しい」
そうゆう。

ムシャムシャと肉をほおばりながら
バイトのこと、
ひとりで観に行った芝居のこと、
なんだかいろいろな話を
聞いたような気もするし、
それでいて
全く聞けていないような気もするし。

すると彼女は突然に部活の話をし始めた。

数日前は所属するフットサルチームの合宿で
伊豆方面に向かった、とゆう。

-は?フットサル?-

-そう、フットサル-

-できねぇじゃん、自分-

-できねぇよ、自分-

話をよくよく聞くと、
勉強とバイトが忙しくて
定期的に開かれるフットサルの練習には
一回も参加したことがないらしく、
いわゆる幽霊部員なのだが、
合宿には行ったのだ、
そして
袖を通したこともないユニフォームを着て
みんなで写真を撮ったのだ、
楽しかったのだ、
うれしそうにそうゆうではないか。

-チャライね~、おまえ-

-チャラくないよ、ぜんぜん。
そうゆう自分はどうだったのよ-

もちろん、
そんな野暮な質問は聞き流すに限る。



2杯めのハートランドビールを飲み干すと、
ぼくはやおら、こう聞いてみた。

-札幌ってどう思う-

21世紀姉妹の長女は
フライドポテトをケチャップにつけながら
しばらくポテトの先端を見つめたあと、
ポソリ、
こう答えてポテトを口に含んだ。

-平和なまちだね-

そうだよな、
地方都市ってったってさ、
田舎なんだよ、
札幌なんて…
そんな風に答えることもなく、
僕はもう一杯、
ハートランドビールを頼んだ。

本当はもうひとつ、
聞きたかった質問がある。

しかし、
その質問はこの日最後まで
僕の口を告いで出てくることはなかった。



店を出ると、
渋谷のまちはすっかりと夜になっていた。

246をまたぐ歩道橋にさしかかると、
21世紀姉妹の長女は
『アイブー!』
通り過ぎざま、数人の女子に声をかけられた。

-は?誰よ-

-同じ寮の子たち-

-アイブーって、誰よ?-

-あたし-

全くをもって意味不明だが、
21世紀姉妹の長女は
渋谷で
アイブーなるものに進化していた。



この日、
彼女との食事以外にもうひとつ、
しておきたいことがあった。

年の瀬になると必ず行っている
21世紀姉妹ツーショットの
年賀状用写真撮影である。

もしかしたら
今年はツーショットが無理かもしれない、
そう思われたので
長女は渋谷で撮影を
次女は恒例の札幌旭山公園で撮り、
合成しようと考えていた。

いつも並んでいるふたりの写真が、
今年は離れ離れになっている。

それはそれで
2015年のふたりの状況を表していて
なかなか良いかもしれない、
ちょっと寂しくもあるが、
そう思われた。

代官山に向かう
道の途中途中で、
背後に広がる夜景を気にしながら、
パシャリ
パシャリ
パシャリ
パパは彼女の写真を撮り続けた。

21世紀姉妹長女は
決して嫌がるそぶりも見せず、
カメラに目線をあわせた。



彼女が暮らす住まいの前で、
パパはこう言って、
きびすを返した。

-じゃぁな、またな-

21世紀姉妹の長女は
1.5秒の間をおいて
こう返答した。
-じゃぁな、またな-



I say,
bye-bye 哀愁でいと
あざやかな

bye-bye 哀愁でいと
笑顔みせてよ

bye-bye 哀愁でいと
冷め過ぎた

罪な奴
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5月に想う (3)

2015-05-30 13:36:33 | 21世紀姉妹
3月が終わろうとしていた日、
僕は21世紀姉妹の長女と渋谷で待ち合わせをした。

まずは、
みずほ銀行渋谷支店で預金口座の開設である。

月末日の昼日向、
窓口は数多くの人であふれかえっており、
長女の預金口座開設までなんと、
1時間もかかってしまった。

その後、
渋谷ヒカリエ6階にあるイタリアンで
僕たちはパスタを食べた。

ハイカウンターに座ってランチプレートを待つ間、
長女が語るには、
まだ会ってはいない同級生の面々とは
4月の入学式を待たずして
既にラインでの会話が始まっているらしく、
そのうちのひとりは大分出身の女の子なのだ、
とゆう。

へぇ…

ってゆうか、
まだ会ってもいないのに、
なぜ同じ学校に通うってことがお互いにわかったのよ?

そう訊ねると長女はにべもなく

『今はそうゆう時代だから』

クルクルクルとフォークでパスタをまるめながら
そう言うのだ。

へぇ…そうゆう時代だから、ね。

そぅ(クルクルクル)

へぇ…そうゆう時代なんだ、な。

そぅ(モグモグモグ)



銀行での口座開設に手間取ってしまい、
おもいのほか遅くなった昼食を食べ終わると
僕たちは
長女がこれから暮らすことになる寮へと急いだ。

集合時間がせまっていた。

たいした距離ではないのだが、
ピンクのキャリーケースもあることだし、
ここは贅沢にもタクシーに乗ろう。

いくぶんか道に不慣れな様子の運転手に
道を指示しながら
ベージュ色の建物に到着した。

昨日は
頑なに閉ざされていた重々しいゲートだが、
今日の日はゲート横の黒いトビラが
中に向って半開きになっていた。

730円の初乗り料金を支払い終わると、
足元においていたキャリーケースを外に出して
まず僕が最初にタクシーから降りた。

その先の建物玄関前には
折りたたみ式のテーブルが置かれ、
女性スタッフが2人、
笑顔でこちらを見つめていた。

僕は
続いて降りてきた長女にキャリーケースを渡し、
(あっ、そういえば)
な風を装って
ふたつの封筒を手渡した。

長女は困ったような顔をして首をかしげた。

…?

僕は
軽く左手を上げて
『じゃあな』
長女にそう言うと、
ふたつの封筒を受け取った長女は
ひらりと背中を向け、

『じゃぁねぇ~』

そう言って
振り返ることのなく
(ガラガラガラ)
キャリーケースを引きずりながら
待ち構えた女性スタッフの方へと
歩いて行った。

僕はとゆうと、
2秒ほど彼女の後姿を目で追うに任せたが、

まぁ…

そう呟いて
道に続く背の高いゲートを左手で触りながら
代官山駅の方面に向かって歩き始めた。

長女に手渡した封筒のひとつには1万円札が、
もうひとつには書きなぐりの手紙が入っていた。



前夜は実家に泊まった。

手狭な部屋でうまく眠れなかった僕は
朝早く家を出て両国を目指した。

両国では江戸東京博物館で時間をつぶし、
博物館にあった土産屋で
招き猫の絵が描かれた
てのひらサイズの小さな便箋と封筒を買った。

そして
両国駅前のサンマルクカフェで
コーヒーを飲みながら
僕は長女に宛てた手紙を書きはじめた。

ただし
しみったれた文章にはしたくない、
強くそう思った。

なので伝えたいポイントを3つに絞り、
箇条書きで文章を書き始めた。



ひとつ、友達を大切にすること

これから出会うであろう友達とは
一生のつきあいになるかもしれない
だから友達を大切にしてほしい

ひとつ、旅に出よう文化芸術に触れよう

いろいろなところに旅にでかけて
見聞を広げてほしい
美術館に行ったり本を読んだり
文化芸術に触れてほしい
今、しかできない時間を有効に使うこと

ひとつ、お金を貸さない

これから会う様々な人の中には
ズルい輩もたくさんいて
そいつらは
人を騙そうとしたり
嘘をついて人を傷つけたり
そうゆうことが平気だったりするので
気をつけてほしい
特にお金は貸さない
やむを得ず貸す場合は
返ってこないと思うこと



そんなことだ。

実はもうひとつ、
本当は書きたいことがあった。

男子大学生には気をつけろ、
と。

と、
ゆうか、
一切信用するな、
アイツらは間違いなくアホだ、
ボケだ、
クソだ、
強くそう書きたかったのだが、
この時はなぜか拒まれた。

う~む…

そしてお財布から一万円札を一枚引き抜き、
折れ目がつかないよう、
やわわと3つ折にして
もうひとつの封筒に入れた。



21世紀姉妹の長女と待ち合わせした
渋谷にむかうために総武線に乗っていると、
信濃町を過ぎたあたりでケータイが鳴った。

長女からだった。

千駄ヶ谷駅で途中下車すると
急いで折り返し電話をした。

どーした

あのね
もう渋谷に着いちゃったんだけど

渋谷のどこよ

昨日パパと別れた場所
地下鉄の入口あたり

わかった
そこを一ミリたりとも動くなよ
そして待ってろよ
わかったな

わかった

あと15分で行くから

わかった

絶対に動くなよ

わかった

パパが行くまで待ってろよ

うん

今すぐにパパが行くからな

うん、わかった



僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る
ああ、自然よ
父よ
僕を一人立ちさせた広大な父よ
僕から目を離さないで守る事をせよ
常に父の気魄を僕に充たせよ
この遠い道程のため
この遠い道程のため


高村光太郎 『道程』
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5月に想う (2)

2015-05-05 09:16:33 | 21世紀姉妹
3月が終わろうとしていたその日の午後、
僕は小春日和の羽田空港にいた。

飛行機は定刻よりも5分ほど早く到着したようだが、
彼女はなかなか姿をみせない。

(She hasn't shown up yet)

ターミナルに置かれたプラスチックのイスに腰掛けて足を投げ出し、
それでも待つしかない僕はメガネを外して到着ゲートを見つめていた。

すると
ピントがあわなくてぼやけて見える数多くの旅客たちの中からひとり、
ピンクのキャリーケースをズルズルと引きずりながら
こちらにやってくる女性がいた。

(She's coming)

ドキっとした。

あんなに小さかったのに、
いつまでも子供だと思っていたのに、
うっすらと化粧をした出で立ちの彼女は
ツンと澄ました顔で僕の前に立ちはだかった。

4月から
青い山の裾野にある学校へ通うことになった
21世紀姉妹、長女である。

(She's leaving home)

*   *

山手線が五反田に到着すると、
となりの手すりにつかまる長女に

あのね、
昔ここには升屋とゆう古びた居酒屋があって、
よく行ったんだ。
そしてこの第二京浜を上がっていくとね、
明学があってさ…

そう声をかけようと思ったが、
スマホに熱心な長女には声をかけずにいた。

山手線が目黒に到着すると、
となりの手すりにつかまる長女に

あのね、
この駅の改札を抜けた右斜めには伝言板があってね、
そこは明学のさまざまなサークルの伝言板になっていてさ、
飲み会がどこで開催されているのかがわかるのさ…

そう声をかけようかと思ったが、
窓の外を見つめる長女には声をかけずにいた。

日の丸自動車で免許を取った僕は
窓の左外を眺め、
サッポロビール園でよく飲んだ僕は
窓の右外を眺め、
様変わりした恵比寿の時空を彷徨った。

山手線が恵比寿に到着すると、
となりの手すりにつかまる長女に

降りるぞ

今度こそ声をかけて、
長女のキャリーケースを運んだ。

*   *

西日を浴びながら駒沢通を進み、
坂を上って代官山までテクテクと歩いてみる。
そして
彼女が暮らすことになる建物を確認。

へぇ…

なるほど…

このセキュリティなら名うての侵入者IやKでも
そうはヤスヤス・ヒロヒロと突破できまい…
ましてやアンジーだって苦労するに違いない…

しばしの間、佇んでみる。

30年も前、
猿楽町には純さんが暮らしていて、
鶯谷町には伊藤さんが暮らしていて、
とても懐かしい場所なのだ。

だが、
まぁ、
そんな野暮ったい30年も前の話を
彼女に聞かせても仕方がない。

僕は
後ろから彼女がついてきていることを確かめると、
郵便局の前坂道をスタスタと下って行った。

*   *

この日、
長女は市川に住む僕の妹の家に泊まることになっていた。
そして(NHKで仕事がある)
という妹と渋谷で待合わせすることにしたのだが、
中途半端に時間が空いてしまったので
昔僕がアルバイトをしていた店に行くことにした。

店の名前は
ルエル・ドゥ・ドゥリエール。

*   *

以前と変わることなく西麻布にその店はあった。

お店で、
僕はアイスコーヒーを頼み、
長女はシフォンケーキを頼んだ。
飲み物は要らないという。

ドゥリエールはガラスの窓扉を開け放ったオープンカフェだった。
シフォンケーキが有名で、
その多くがお茶とケーキに興じるカップル客だったが、
奥まったキッチンとそのカウンター、
そして壁に隔たれて喫茶席からは見えないテーブル席では
お値段お高めのイタリア料理も提供されていた。

昔と変わらない白いシャツに黒いエプロン姿の
スタッフの方と話をしたが、
料理が提供されていたことも知らなかったし、
星条旗通にあったパティスリー・ドゥリエールも
知らないという。
そして今では固く窓扉は閉ざされてしまい、
(虫が入りますから)
オープンカフェにすることはない、とゆう。

当時は店のオーナーが芸能プロダクションも経営していたから、
たくさんの芸能人がやってきたことを話すと、
女性スタッフの方は何年くらい前の話ですか、と聞いてきた。

何年くらい前の話?

そう、
昭和60年の頃、
つまり30年も前の話だ。

30年も前。

そのことを告げると、
女性スタッフは天井を見上げながら、
30年前ですね、
そうつぶやいた。

30年も前、
テレビでは玉置浩二が“悲しみにさよなら”を歌っていて、
TBSでは“金曜日の妻たち”というドラマが放映されていた。
芸能人たちは
店の前においた高級車で使っていた車載・携帯兼用型自動車電話
(ショルダーフォン)を使って仕事の話をしていた。

21世紀姉妹の長女は、というと、
シフォンケーキを口に運ぶのに忙しくて
そんな話に耳を傾ける様子すらを見せなかった。

30年も前、
ドゥリエールでバイトをしていた僕は、
30年の後のドゥリエールで
自分の娘とお茶することになろうことを
果たして想像したことがあっただろうか。


[つづく]









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5月に想う (1)

2015-05-03 14:39:18 | 21世紀姉妹
2015年となって早5ヶ月。

白い雪のまちは若葉からの陽射しが眩い季節をむかえ、
おだやかな陽気となった5月のこの日に
僕は
GRAVELとゆう気持ちの良いフラワーショップで観葉植物を、
佐藤珈琲で深煎のドリップコーヒーを買い、
誰もいないリビングでコーヒーを飲みながら
久々の餃子倶楽部を更新している。

誰もいない、
そう書いた途端になんだか不安になったが、
そうではない(どう、そうではない?)。

妻は日頃の過労から風邪をこじらせてダウン。
次女はバレーボールの試合で朝の6時半に出かけたのだ。



毎日毎日が仕事で忙しく、昼夜違わず仕事をしている。
本当に言訳がましいのだが、
忙しくて忙しくて餃子をUPできないでいた。

否、言訳だな。
道場には通っているわけだから。

まぁ、
そんな5ヶ月の間に、
僕の暮らしの中ではさまざまなコトが起こった。

そして
すべてのコトのひとつひとつには大きな意味が浸み込まれている。

それは
いつか使おうと思って買っておきながら、
引出しの奥で長い間眠りについていた
真新しいノートのようだ。

新しいはずなのに、なぜか懐かしい。



この春、
産業カウンセラーという資格を取得した。

産業カウンセラーとは、
働く人たちが抱える問題や悩みを自らの力で解決できるよう、
社会・心理学的な理論と方法に基づいて援助する行為者のことである。

会社から数十万円の借金をこさえ、
昨年の春から土日祝日を使って学科と実技を学び、
図書館にひきこもっては黙々と勉強を続けてきたのだ。

学科の範囲は多義にわたる。
臨床心理学から精神医学、産業社会学と労働関連法規などなど。

学びの中で、
狭まれた僕の価値観はおよそ1センチ、前景的に広がった。
その拡張は「自己理論」という人格適応理論を提唱した
カールロジャーズという臨床心理学者によって行われた。

受検結果を告げる封書が届いた3月の土曜日、
細めた目に『合格通知』の文字が飛び込んできたときの喜び、
そして「合格した」という僕の声を聞いた時の家族の笑顔。

新しいはずなのに、なぜか懐かしい。



仕事では、
数年ぶりに営業セクションへ異動となった。

広報PRや商品開発、プランニングといった
広告と密接な関係にある業務領域の仕事を数年続けてきたのだが、
新しい経営体制になっての、営業復帰命令である。

春になって
僕は特段の気負いもなく粛々と業務をこなしていく。

しかし、
この数年の内に経験した広告以外のさまざまな業務と、
そして産業カウンセラー資格取得のための勉強の時間、
さらには齢50をむかえる加齢感が、
今までとは違う得意先への向き合い方スタイルにならしめている、
そんな気がしている。

もう少し具体的に言うと、どうゆうことか。

つまり、人の話をしっかりと聴くようになったのだ。

カウンセリング用語で言うところの、
・傾聴する
・かかわる
・寄り添う
である。

新しいはずなのに、なぜか懐かしい。



そしてもうひとつ。

この春から長女は
青い山の裾野にある学校に通うことになった。

彼女は
(じゃぁねぇ~)
そう言って家を出て行ってしまった。


[つづく]

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腕時計、春

2014-03-30 17:45:28 | 21世紀姉妹

21世紀姉妹の次女が、高校受験に挑んだ。

君は試験日3週間ほどの前より
夜型の勉強生活から朝型へとシフト。
ずいぶんと早い朝から勉強をしていたようだ。

試験当日の朝、
洗面台で顔を洗っていたパパは
中学校の制服に身を包んだ君が
パパの後ろに佇んでいたことに気がついた。

ゴシゴシと顔を拭き終わると、
パパは後ろを振り返って『使うの(洗面台を)?』と聞いた。

すると君は細い左腕を差し出してきて、こう言った。

『腕時計をつけて・・・』

生まれて初めての腕時計は
第一志望とする公立高校受験のその日、
はじめて君の腕に装着されることになった。

きっとママがどこかで買ってきたのだろう、
とても高価とは思えない
白くてシンプルな
女性用の小さな腕時計。

パパは君の左手首を左手で軽く抱え持ちながら、
きつくならない程度に
ゆるくならない程度に
そして
(どうぞこの子の努力が報われますように)
心の中でそう祈りながら
10数年ぶりに触れた君の左手の感触を確かめつつ、
腕時計をつけてあげた。

この春から高校生になる君へ。

君の望むものは、
君の手の届くところの範囲に全て配置されている。

弛まぬ努力と
ほんの少しの勇気さえあれば、
全ては手にすることができる
パパはそう信じて疑わない。

中学卒業、おめでとう。
そして
高校入学、おめでとう。

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