さかいほういちのオオサンショウウオ生活

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待つ男

2017年12月06日 11時08分18秒 | 小説

待つ男

廃線になった駅の写真を撮影するため、私は、この朽ち果てた駅の構内に入り込んだ。
休日には1人で、このようなひなびた建築物や風景を写真に撮るのを趣味としている。
こんな寂れた町に来たのには、母が昔住んでいたという理由以外に何もない。
病気で亡くなった父と母と私は、私が3歳の頃まで住んでいたという。
私には、その記憶がまったく無いのだが、どこか懐かしさも感じさせる町であり、駅である。
病気で亡くなった父の後、数年して母は再婚したが、私を実の自分子供のように可愛がり育ててくれた父も、7年前に他界した。
母親も間も無く亡くし、今は天涯孤独で気楽だが淋しい身分であった。

廃線の駅は、朽ち果てるのを待つばかりの遺跡のようだった。
ここの駅も、もう数年前に廃線になったのにも関らず、何百年も経過したような雰囲気を醸し出している。
ペンキの剥げてしまったベンチは、もう人が座ることもないであろうに、人の温かを欲しているかのようにも見える。
駅の内壁に貼ってあるディスカバー・ジャパンの高峰峰子のポスターは、日光で焼け、脱色されて2色刷りの白々したポスターと化している。
外を見れば、剥げ落ちたペンキの間の外壁に、水原弘や由美かおるのホーロー看板が懐かしいような微笑を浮かべていた。

駅前の雑貨店は、もうとっくに店を止め、空虚になってしまったガラスのウィンドーには、紫外線で脱色されて痛々しい土産物の人形などが飾ってあった。
寂れて久しいのであろう、あるいは鉄道が走っていた時から、もう寂れていた駅前だったのかもしれない。
人道りはまったく無く、私の押すデジカメのシャッター音だけが、ガシャッガシャッと廃駅に響いている。

 

使われなくなった駅の錆びた改札口を通り抜け、線路を撮影しようと、私は外に出た。
線路の枕木の回りには雑草が伸び放題に生い茂り、長い時の間、車両が通過していないのを物語っていた。
雑草は、私の腰までも伸びているものもあった。
よく見ると、薄紫色や濃い黄色の小さな花を咲かせている草も、あちらこちらに生えていた。

そんな小さな花や線路を写真に納めていると、突然に人の気配を感じた。
ギクリとして後ろを振り返ると、50メートルほど向こうのベンチに、老人が腰掛けているのが視界に入った。
今時珍しく、昔の文士でもあるかのように、古びた黒いインパネスのコートを着ている。
老人は、こちらが気づいたのを察してか、軽く会釈をした。
私も、軽く会釈を返した。

どうしてあのような老人がここに居るのだろう・・・・?
いぶかしく思い、私は、その老人に近づいていった。
そんな老人と話をしたりするのも、こんな撮影の旅の楽しみの一つでもあったりするわけなのだが・・・・
その前に、そんな風景もなかなか良い風景であるので、その老人を中心に1枚写真を撮影した。
ガシャッとシャッターの擬音が、老人にも聞こえてしまったようだった。

老人は、私に向かって、手をやさしく振った。
私もつられて、老人に近ずきながら手を振ってしまっていた。
どこか懐かしさを感じてしまう老人の顔であった。

老人の目の前にくると、老人は微笑みながら私に言った。
「ワシを撮っても写真に写らんよ」
何のことか判らない私は、曖昧に返事をした。
どうせ、老人の戯言であろうとしか思えなかったからだ。

「良い天気ですね、何をしているのですか?」
話題が見つからない場合は、天気の話にかぎる。
私は、よくある普通の会話できりだしてみた。
「汽車を待っているのですよ・・・」
老人は、またも微笑みながら言ったのだった。
「汽車・・・ですか・・・・」
こんな廃線に、列車が行行き交うははずも無く、認知症の老人かと、とっさに思った。
きっと、意志も無く徘徊しているのであろう・・・・
そうは思ったが、顔の表情や話し方がシッカリしている。

「列車は来ませんよ・・廃線になってますからね・・」
そんな当たり前の返事を私はしたのだが、何か馬鹿げた返答にも思えた。
老人は、うふふ・・とでも笑うかのように言った。
「知ってますよ、そんなこと。ボケちゃいませんよ、ワシは・・」
私の心の中を見抜いたように、老人は話している。
「ワシは、列車を待っていると言っただけで、列車が来るとは言ってませんよ」
老人は、きっぱりと私に言ったのだった。
「列車を待っているのですか・・・」私は、意味不明な言葉に戸惑い、独り言のように言った。

「ワシはね・・こうやって随分前から待ち続けているのですよ」
老人は、しみじみして言った。
「かれこれ、70年くらいになりますか・・・」
遠くに1点で結ばれたような線路を見つめながら、老人は話を始めた。

 

「ワシが、最初に列車を待つようになったのは、3歳の頃だった・・・
随分昔のことだが、心の中ではついさっきのことと同じ出来事です・・・」
老人が自分の手のひらを拝むように合わせながら言った。
「ワシの母が、ワシを置いて汽車に乗って行った・・・・
きっと連れ戻しに来るよ!と良いながら、結局は2度とワシの所へ戻ることは無かった・・・」

老人の、列車を待つだけの人生が、それから何十年も続いているという。
母親が去ってから、「必ず返る」と言葉を残したまま、実の父親も列車に乗って消えていったという・・・
老人は、青年になるまで、従兄弟と共に叔父に育てられたという。
その、叔父の家族も、「いつか戻る」と約束したまま、この駅から列車に乗って、どこかの町に去っていった。
成人になり、老人は結婚をしたらしい。
しかし、妻との折り合いが悪く、3歳になる子供と共に、この駅から去っていった。
老人は、何時までも列車の窓から手を振る、子供の顔が忘れられないと言う。

それらの人々を、この駅で彼は、何時までも待ってた。
毎日毎日、ここで家族の帰りを待つのが日課になっていったのだと、老人は遠くを見ながら言った。
そんな、列車を待つ日々が長く長く続いたが、あるとき不思議な出来事が起こったのだ。

その日も、いつものように列車を待っていた。
その時、聞きなれた声が後ろからしたのだ。
フッと振り返ると、そこに立っていたのは、もう一人の自分だったのである。
着ている服から髪の形まで、寸分たがわない自分がたたずんでいたのだ。
「俺は、これから去っていった家族を探しに行く・・・」
もう一人の自分は、そう言ったのだった。
老人は何も答えられず、もう一人の自分の話を聞いてたのだという。
「お前は、ここで、俺の帰りを待っていてくれ!」
そう言いながら、もう一人の自分も、この駅から消えていった・・・・・

 

「ドッペルゲンガーというやつなんでしょうか・・・」
老人は、私の方を見ながら言った。
「あまりにも長い時間待ってばかりいたので、ワシの半分の存在も、痺れを切らしてどこかへ行ってしまったのかもしれん」
「今でも、もう一人のワシは、世界の果てまで家族を探していると思うよ・・・」
少し自嘲しながら、老人は言った・・・・

「もう一人の自分まで、見送ったのですね、この駅から・・」
私は、半信半疑のまま、老人の話を聞いている。
「君は、こんな話、信じてはいないのでしょうねぇ・・・」
老人は、私の目を見ながら、少し微笑みながら訊ねている。
「そうでもないですよ」と言おうとしたが、あまりにも嘘くさく聞こえるので、黙っていた。
黙っている私を眺めながら、老人は自分の手を、私に差し出した。

「うわっ!」
私は驚いて、1メートルほど後ずさりしてしまった。
ゆっくりと差し出された、老人の手は、薄っすらと透けて見えるのだ。
「自分の存在の半分が、何処かへ行ってしまったので、時々、ワシの体が、こうやって透けて見えてしまうのです。」
「もう一人の自分が、家族を探して戻ってくるまで、ワシはこうして待ち続けているのです。」
老人の体は、薄っすらと透けて見えたり、はっきりと存在したり、まるで風に揺らいでいるように見えた。

老人の話を聞いているうちに、私は、切ないような気持ちになっていた。
何かしてあげたいような気分だったが、私には何も出来ることはないだろうと感じた。
そう思うと、悲しくて、知らぬ間に老人の手をギュッと握っていたのだった。

ぎゅっと握った老人の手は、なんだか懐かしく、暖かだった。
ずっと昔に触ったことがあるような、心の奥底の悲しみを癒してくれるような・・・
そんな温もりであった。

「待ち続けた甲斐があったよ・・・・」
老人は独り言のように、ポツリと言葉を落とした。

 

黄昏が2人を包んでしまう頃、私は老人に別れを告げ、廃線駅から去っていった。
私は運転する車の窓から、老人を見た。
もう、人の顔の区別もつかないくらい、暗くなった廃線駅の構内で、古びたインパネスに包まれながら、老人は今も待ち続けている。


小説 路地裏の怪人

2017年12月06日 11時06分32秒 | 小説

その路地裏は、100メートル四方に切り取られた大きな羊羹のように昔のまま取り残され、時間が停止したようだった。
空がほんの少しだけ夕焼けに赤く染まりかけたころ、僕はその古い路地裏を抜け、家に帰ることにした。
いつもなら、こんな時間に薄気味の悪い場所を通ったりしない。
学校から家までの近道とはいえ、こんな時間にここを通ってしまった事を僕は後悔していた。
あたりは薄暗くなってきて、危険で不思議な雰囲気に満たされている。
時折、ヒューッと風が通り抜け、割れた窓ガラスをカタカタと揺らしている。

「ああ・・早く帰ればよかった・・・」僕の心の中は、心細くて小さく縮こまっていた。
さっきより風が強くなってきて、ごみの切れ端や枯葉を巻き込んで路地裏を勢いよく通りぬけていく。
はがれたポスターが幽霊の手のようにパタパタはためいていた。
そんな怖い気持ちが、僕の足を早足にしていた。
サッサッと急いで動かす足音が薄暗い路地裏通りに、他人の足音のように響いている。
こんな気分のときは、歩いても歩いてもここから出られないのではないかと、嫌でもそんな不安な気持ちになってしまうものだ。
カランッ・・・と、何かが落ちるような音が路地裏の奥に響いたので、僕はビックリして立ち止まってしまった。同時に、ニャーと、小さな声がした。
「なんだ、猫かぁ・・・」僕の心は、ほんの少しだけゆるんだ。でも、その時後ろに何か大きな人の気配が感じられた。
僕は、ギクリとして後ろを振り返った!
「うわっ~~~!」僕は、ありったけの驚きの声を張り上げ後ずさりした、そして、一目散に走りだした。
僕の後ろには、真っ黒な巨大なペンギンのようなタキシードを着、ハタハタと黒いマントをなびかせた、見るからに恐ろしげな男が立っていたからだ。
僕は後ろも振り返らず、一目散に走った。
ザッ!ザッ!ザッ!っと、僕のスニーカーの靴音が、無人の路地裏に木霊して、何人もの僕が一緒に逃げているようだった。
数メートルも行かないうちに、さっきの奇怪な路地裏の怪人が、僕の前に立ちはだかった。
頭には大きなケーキのような黒いシルクハットを被り、ギョロリとした輝く目が、心を見透かすように僕をにらんでいた。
とその瞬間、バサッ~~~!!っと、かび臭い大きく真っ黒なマントが僕の上に覆いかぶさってきた。
そして、僕の目の前は真っ暗になった!

一瞬の出来事だった、かび臭い匂いが無くなり、急に周りから賑やかな音がしてきた。
パフゥ~プィ~パァ~!ラッパのような音が遠くから聞こえてきた。
僕は何が起こったのかサッパリわからず、ユックリユックリ目を開いてみた。
そしてそこには、さっきまで居た路地裏が朱色の夕焼けに染まり、在った。
建物は変わりないのだが、さっきとはぜんぜん違った風景の路地裏が目に前に広がっている。
大勢の人たちが活気よく歩き、子供の声が近くや遠くでワイワイ聞こえている。
それはまるで放課後の運動場のようにも思えた。
どこからか味噌汁の匂いがフワァ~と漂ってきて、いい香りだ。
パフゥ~プィ~パァ~!と、遠くから聞こえたラッパのような音が近づいてきて、どこからか女の人の声がした。
「お豆腐屋さぁ~ん!待ってぇ~!」そうすると路地の向こう側から、自転車に大きな車輪の荷台を引っ張りながら、ラッパを首にかけた豆腐屋のおじさんが現れた。
そして、白いエプロンをしたおばさんが、1人、2人と、僕の前を走っていく。
僕は、頭がクラクラして立っているのがやっとだった。
「いったいここはどこなんだろう?わけがわからない!僕は、どうしてしまったんだっ?」混乱した気分で、僕はもう少しで泣きそうだった。
さっき路地裏の怪人に会って、何の理由も知らないまま一瞬のうちにこんな所に来てしまった。
景色は、さっきの廃墟の路地裏と変わらないのに、こんなにも人が一杯いて賑やかだ。
味噌汁の香りや、薪を炊く匂いや、草の匂いもしている。

突然に、棒切れを振り回しながら数人の幼稚園くらいの子供が、僕の横をキャアキャア叫びながらすごい勢いで走り去っていった。
「やぁぁ~い!俊夫ちゃんのバァ~カ!」数人の小さな子が、一人の男の子を追っかけながらからかっている。
逃げている子は、泣きながら追っかけられ走っていった。
「僕のお父さんと同じ名前だったな」泣きそうな気持ちだったが、僕はそんなことを考えていた。
なんだかジッとしていても心が不安なままなので、心細いけど少し歩いてみようと思った。
少し歩いていくと、眼鏡の下がったオジサンのついた古いホーロー看板があった。
もう少し行くと、見たことの無いような形のテレビが白黒のニュースを放送していた。
その隣には、見たことのような駄菓子が売られている小さな店を見つけた。
棚の上に並べられたガラス瓶の中には、いろんな色のお菓子が詰まっている。
美味しそうな煎餅や黒砂糖のついたたっぷり付いた麩菓子は、ビニール袋にも入っていなくって、そのままガラスケースの中に並んでいる。

わぁぁぁ~~~!っと、また、あの子供たちの声が近づいてきた。追っかけられていた一人の男の子が僕の後ろにサッと逃げ込んだ。
続いて数人の子供達が、その子を囃し立てている。
「やぁ~い!俊夫ちゃんの弱虫!」「やぁ~い!」一人の鼻水を鼻からたらした子が、棒切れの先にバッタの死骸を突き刺し、僕の後ろの子供の顔にくっ付けようとしていた。
「ほれほれ!」「死んだバッタだぞっ!」僕の後ろの男の子が、泣けば泣くほど数人のいじめっ子は、調子づいて囃し立てている。
「大勢で、いじめるのは止めろ!」僕は、妙に腹が立って強く怒ってしまった。
「わぁぁ~~っ」「ばぁ~か!」そう叫ぶと、いじめっ子達は、どこかへ走り去っていった。

後ろの子は、まだウェンウェン泣いてばかりで、いっこうに泣き止む様子はない。
「しょうがないなぁ・・・」そう思った僕は、ここの駄菓子屋でこの子にお菓子を買ってやることにした。ポケットの中には十円玉が3個しかなかったので、たいしたお菓子は買えないだろうが、なんとか泣き止んでくれればと、僕は考えていた。
「ごめんくださ~い!」駄菓子屋の店の前で、大きな声で僕は言った。
すると奥の部屋から、店のおばあさんが出てきた。
僕はサイコロの形の箱に入ったキャラメルと、赤いイチゴの形の飴を買い、その子に渡した。
ヒックヒックいいながらも、その男の子は泣き止んだ。
駄菓子屋のおばあさんは、男の子を見ながら言った「また、俊夫ちゃん、泣かされたんだねぇ、もうすぐお母さんがくるから待ってるといいよ」
いつも、この俊夫ちゃんと呼ばれた男の子は、いじめっ子に泣かされているのかもしれないと、僕は思った。
夕日で赤く染まった駄菓子屋のお菓子は、なんだか夢の中のようなお菓子に見えた。

そして、しばらくすると、その子のお母さんがやってきた。
「俊夫!また泣かされたのかい?」そう言うと、その子の頭を軽くコツンと叩いた。
すると、その子は、またグスグス泣きそうになっている。
「あんたが、うちの子を助けてくれたんかい?」おばさんがそう言ったので、僕はうなずいた。
「助けてくれてありがとうね!それから、お菓子もありがとうね!」そうお礼を僕に言いながら、おばさんとその子は路地を歩きながら帰って行った。

後ろ姿を見ていたら、急に僕のおばあちゃんを思い出した。
そうだ、さっきのおばさんは、僕のおばあちゃんにそっくりだった。
お父さんの名前の俊夫と、おばあちゃんにそっくりなおばさん!

「ここは、何十年か前の僕の町だ!そうだ、そうに違いないのだ!」僕は、確信したのだった。
あの路地裏の怪人は、僕を昔の路地裏に連れてきてしまったんだ!
あの怪人の黒い大きなマントはタイムマシーンのようなものなのかもしれない。
なんで僕が連れ去られてしまったんだろう。
あんな時間にこんなところへ来なければよかった・・・・・
後悔の気持ちが、僕の心の中を一杯にしていく。

もう自分の居た町には戻れないと思ったら、僕は急に泣きたくなってしまった。
夕焼けの淡い光が、僕の影を長く長く伸ばして地面に写し出している。
空には、カァカァと烏が寂しげに鳴いている。
すると突然に、僕の長い影にシルクハットの影がスゥーッと重なったかと思った瞬間に、僕はまたあの怪人のカビ臭い大きなマントにスッポリ覆われていたのだった。
バサッ!マントが風を切る音が響いた。
僕の目の前が真っ暗になり、一瞬静かになった。
かと思った瞬間、次には元のあの僕の町に戻っていた。

遠くでは、自動車のエンジンやクラクションの音が小さく聞こえてくる。
周りを見回したが、路地裏の不気味な怪人はどこにも見当たらない。
「ああ、さっきのは夢見たいなもんだったのかなぁ?」そう思いながら、不安な気持ちが無くなってホッとした気分だった。
廃屋だらけの路地裏は、夕焼けに染まって真っ赤になっている。

僕は急いでその路地裏を抜けると、なんだか気になって後ろを振り返った。
するとそこには真っ赤な夕焼けの空を背に、シルクハットを被った路地裏の怪人の長い影のシルエットが、一瞬見えような気がした。
とても恐かった。
でも、今ではあの路地裏の怪人が良い奴のような気がしているのだ。

・・・・なぜって?
昔のお父さんは泣き虫だった。
僕には「男は泣くんじゃない!」と、いつも言ってるくせに、自分は泣き虫だったんだ。
それに、僕には優しいおばあちゃんなのに、お父さんにはちっとも優しくなかった。
でも今は、僕はお父さんやおばあちゃんが、前よりずっと好きになっている。
何故だかわからないけど、さっきみた昔の町が、僕の心を優しくしてくれたのかもしれない。
遠くに見える路地裏は、夕焼けに染まりユラユラと揺れているように見えた。

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昭和猫町五丁目 ダイハードはつらいよ!昭和猫町人情篇

2017年12月06日 11時03分34秒 | 小説

昭和猫町五丁目
ダイハードはつらいよ!昭和猫町人情篇

ペンキ絵作家の狐の権座エ門さんはゴンザさんと呼ばれている。
映画館の看板や銭湯の富士山などを描くのが仕事である。
青空さんという絵描きさんに飼われていた狐で、今はもう十年以上生きて人間に化けれるようになった。
飼い主の見よう見まねでゴンザさんも絵が描けるようになった。
青空さんは、空の絵を描くのが上手い絵描きさんで、ゴンザも空の絵を描くのが好きなのだ
しかし、空の絵を描くチャンスは少なく、富士山の絵を描くときぐらいしか腕を発揮できないのを残念がっている。

今日の仕事の依頼は、町で唯一の映画館”猫町シネマ館”の映画の看板だった。
シネマ館の映画は1週間ごとに変わるので、ゴンザさんの仕事はけっこう忙しい。
映画はたいてい2本立てでやっていた。
昭和の古い映画と新しい映画との2本立て、と言う場合もあった。
たとえば”男はつらいよ”と”ブルース・ウィリスのダイハード4.0”とかの抱き合わせである。
”男はつらいよ”などは48作もある昭和の映画なので、ほとんど毎週のように上映されていた。

「僕が描く映画の看板は特別なので、満月の夜は気をつけないといけないなぁ・・」
独り言を言いながら、ゴンザさんは映画の看板を描いている。
「楽しい映画ならいいんだけど、悪者なんか出る映画だと危険なんだよねぇ」
渥美清の顔を描き終えて、次はブルース・ウィリスの顔を描きはじめた。

この町は化け猫や狐や狸の妖気の漂う町である。
妖気といっても”陽気な妖気”なので、恐くも無く怪しくもなく楽しくなってしまう陽気な妖気である。
狐のゴンザも化け狐の仲間なので、特別な力を持っていた。
ゴンザが描いた絵は、満月の夜になると絵から浮き出て、一時的に本物の人間にように動いてしまうのだった。

「そーいえば、飛騨の匠の左甚五郎の彫った眠り猫も、夜になると起き出すっていうらしいね」
後ろで看板を眺めていたシネマ館のタマオがゴンザさんに言った。
「そーいえば、今日は満月だね・・・大丈夫かな?」
ゴンザがチョイト心配しながら言う。
「まぁ、ゴンザさんの妖力はランダムだから、出たり出なかったりですよ」
タマオが呑気に言う。
「青い山脈と男はつらいよの2本立てにしないかい?一番安全そうな映画だよ!」
とゴンザが言ったが、予定どうりの上映をしないと観客がうるさいのだ。
そうして、不安なまま男はつらいよとダイハードの看板が出来上がってしまった。

猫町シネマ館も、土曜の夜はオールナイト上映である。
満月の夜、男はつらいよとダイハードの2本立てに、観客は満員だった。
あのシガラキさんとタマ子さんも2度目のデートで、映画館に来ていた。

パァァ~~ン!パァァ~~ン!
突然、映画館の外で銃声の音が数発鳴り響いた!
「ガブリエル!動くな!」
ジョン・マクレーンがテロリストに向かって、銃を向けている。
「お前みたいなアナログ人間に、俺は捕まえられん!」
そう叫びながらテロリストのガブリエルは、シネマ館の中は逃げていく!
ジョン・マクレーンは、パァァ~~ン!パァァ~~ン!と数発拳銃を撃った。
その一発が車寅次郎の鞄をかすめた。
「マクレーンさん、そんなに拳銃撃ちまくっちゃあぶねえよぉ!」
寅さんがジョン・マクレーンに言った。
「寅さん、危ないぜっ!どいててくれ!」
ジョン・マクレーンがテロリストを追ってシネマ館の中に入っていく。
寅さんもつられて館内に入っていった。

シネマ館の中は大騒ぎになっていた。
テロリストのガブリエルに、シガラキさんとタマ子さんが人質になってしまっていたのだ!
「ジョン・マクレーン!近づくとこいつらの命は無いぞっ!」
銃口をシガラキさんに向かってテロリストが叫ぶ。
ジョン・マクレーンは拳銃を両手で持ち、狙いをガブリエルに向けたまま沈黙している。

「僕は殺されてもいい!タマ子さんは離してくれっ!」
シガラキさんがテロリストに言う。
「いいえ!あなただけ一人にはしないわ!」
タマ子さんも言った。
「うるさい!お前ら、黙ってろ!!」
テロリストが人質に向かって言った。

そこへ、にこやかに現れた車寅次郎が、テロリストに向かって諭すように言った。
「ガブリエルさん・・・そんなことしたって、世の中良くならないよ。
まぁ、ピストルなんか物騒なものはやめにして、一杯やらないかい?」
「お前は誰なんだ!」ガブリエルが言う。
「俺かい?今日の2本立てのもう一本の映画の主人公よっ!」と寅さん。
「虎屋の風来坊だなっ!」ガブリエルが言う。
「こんなことやってちゃ、草葉の陰でおっかさんが泣いてるよ・・・」寅さんが言う。
「母親の顔なんか忘れたぜっ!」ガブリエルが吐き捨てるように言った。
「そんあこたぁねぇよ!あんたのおっかさんは今でもきっとあの世であんたのこと心配してるぜっ!」寅さんが言う。
「・・・・・」ガブリエルの目に涙が一筋こぼれたように見えた。
ジョン・マクレーンが言う。
「今なら、まだ間に合う、人質を放せ!」
「わかったよ、寅さんには負けたよ・・・」ガブリエルが人質を解放し、持っていた拳銃をジョン・マクレーンに渡した。

ジョン・マクレーンに手錠をかけられたテロリストが、寅さんに肩を抱きかかえられて映画館の外に出て行く。
シガラキさんとタマ子さんは、抱き合って泣いている。

満月の夜も終わりかけ、白々と夜が明けるころ、寅さんとジョン・マクレーンとガブリエルは映画館の看板の中へ吸い込まれるように消えていった。
  


パラレル濃姫子ちゃんストーリーズ エピソード3

2017年12月06日 06時33分24秒 | 小説

その邪悪な生物は宇宙からやってきたのでした。
そうです、この生物も異次元黒魔女が魔法で呼んだのでした。
最初はゴルフボールくらいのゼリー状の生き物でしたが、人間のネガティブな感情を餌にして成長する悪の”マインドイーター”の亜種なのでした。
マインドイーターは人々が気づかない無臭の邪悪ガスを放出して人間同士を争わせ、憎しみや嫉妬や怒りを餌にしてどんどん成長していきます。
商店街は、おじさんやおばさんの喧嘩や争いごとでパニック状態になってしまいました。
その間にもマインドイーターは巨大化し、今では2階建てのビルくらいの大きさになっています。

濃姫子はと濃濃姫子と淡姫子は、マインドイーターと戦おうとしますが、手に負えません。
濃姫子ゴージャスに変身しましたが、マインドイーターの邪悪なガスにやられてラメラメのドレスがボロボロにされてしまいました。
ハイブリッコ濃姫子に変身してブリッコしましたが、マインドイーターのせせら笑いをされてしまいスッゴク落ち込みました。
三段腹ではなく、三段変身のサンシャイン濃姫子に変身しましたが、光りよりも邪悪なパワーにに負けて、すぐにへたれてしまいました。
「どーせ私なんか何の役にもたたないのよ・・・」
濃姫子は厭世的な気分にさせられ、マインドイーターの思う壺にはまっています。
淡姫子も邪悪なガスを吸い込み、路上に唾を吐いたりペットボトルを分別しないで普通のゴミ箱に放り込んだり、ダーク濃姫子に戻ってしまいました。
濃濃姫子もやる気をなくし、昼間から酒をあおって飲んだくれています。
商店街の救世主も、もはやこれまでかもしれません。
マインドイーターはそれほど邪悪な宇宙生物だったのです。

みんながあきらめかけていたそののとき!!
空のかなたから銀色のスーツを着た、スペース濃姫子が現れました。
「この世に悪があるかぎり、濃姫子は宇宙のどこにでも現れるのよ!
私はスペース濃姫子!この邪悪なマインドイーターを追っかけてアンドロメダ星雲からやってきました!
このマインドイーターは闘争心も餌にします、だから戦えば戦うほど大きく成長してしまうのです!
この生き物と戦ってはいけません・・・」
そう言うとスペース濃姫子は濃姫子はと濃濃姫子と淡姫子を強く抱きしめました。
濃姫子たちに愛の力がよみがえってきました。
「そうよ!私たちはみんな地球の仲間!ウィ・ア・ザ・ワールドよ!!!」
濃姫子がそう叫ぶと、商店街の人々はハイタッチをしてハグし始めました。
「さあ皆さん!怪物の周りを囲んでフォークダンスを踊りましょう!マイムマイムを踊りましょう~~~!」
商店街にマイムマイムの曲が響き流れました。
宇宙怪物マインドイーターの回りを手をつなぎながら、商店街のおじさんやおばさん、おにいーさん・おねーさんが踊ります。
「楽しい気分を盛り上げて!愛し合うのよ!」
だんだん楽しい気分が盛り上がり、マインドイーターは少しずつ小さくなっていきます。
「もっともっとテンションあげて!!」
商店街はお祭り気分で、楽しさ一杯です!

そして、とうとうマインドイーターは消滅しました。
「やったのね!濃姫子ちゃん!」
スペース濃姫子は言いました。
「どうもありがとう!スペース濃姫子ちゃん!」
「唐突だけどお願いがあるの・・・」
スペース濃姫子が言います。
「実は・・・宇宙船の燃料切れで宇宙に帰れなくなってしまったの・・濃姫子ちゃんの所へ下宿させてくれない?」
「いいわよ!」
濃姫子は快くOKしました。

「オーッホッホッホッ!!!深イイ話で終ろうったってそうはイカ飯よ!」
黒魔女がどこからともなく現れて叫びました。
「魔法でダメなら科学の力よ~ん!見なさい!全財産を使い込んで作った”メカ濃姫子ちゃん”よ!!」
メカ濃姫子は全長10メートルはあろうかと思われる、超合金製のロボットです!
メカ濃姫子は勝利の喜びに浸っている商店街を再び阿鼻叫喚の世界に落とし込んだのでした!
ビルを破壊しゴミ箱を蹴飛ばし、黒魔女が操縦するメカ濃姫子が暴れまくっています。
「今度こそ、だ、だめだわ・・・・!」
濃姫子たちはドヨヨ~ンと落ち込みました。
もうパワーも使い切ってしまったし、メカ濃姫子の攻撃になすすべもありません。

ドヨン状態の濃姫子たちの前に唐突に大山椒魚のさらまんくんがやってきkました。
「みなさん何を落ち込んでいるんですか!こんなことで負けては駄目ですよ~!」
「だって、あのメカ濃姫子ちゃんにはかないっこないわ!」
「そんなことはありません、伝説のからくり大仏をご存じないですか?」
「伝説のからくり大仏??聞いたことないわ・・・・」
「飛騨の匠・左甚五郎が作ったといわれる、伝説の巨大からくり人形ですよ!」
「どこにそんなものがあるっていうの?」
「なんでも、岐阜公園の近くにあるっていう噂ですよ!」
「そういえば・・・あそこに大きな大仏が・・・」
「行ってたしかめましょう!」
「そうしましょう・・・メカ濃姫子ちゃんが地球征服を終わらせる前に!!」

濃姫子ご一行様とさらまんくんは岐阜公園の近所に寺にある大きな大仏を見つけたのでした。
「ひょっとして、この大仏が伝説のからくり大仏・・?」
そう言いながらや農姫子は大仏の背中の部分の操縦席を探しました。
「在ったわ!」
濃姫子は観音開きの入り口を見つけ、扉を開けました。
大仏の中は、色々な歯車や計器があって今にも動きそうです。
「ずいぶんと昔のロボットなので、動くのかしら・・・?」
濃姫子は中に入り椅子の横にあるレバーをガチャンと押してみました。
ゴゴゴゴゴッ~~~!と音を立てながら大仏は動き始めました。

暴れながら悪行三昧のメカ濃姫子の前に、巨大からくり大仏が立ちはだかります!
「もう暴れるのは止めなさい!黒魔女にもお仕置きよ!!」
「そんな骨董品のからくりで、この超合金のメカ濃姫子ちゃんが倒せるもんですか!」
黒魔女が操縦するメカ濃姫子が右手からパンチを出した!
からくり大仏はそのパンチをバシッと、無傷で受け止めました。
「なんですとぉぉ~~!?」
からくり大仏の体は、実は江戸時代に不時着したアンドロメダ星人の宇宙船の一部からできていたのです。
大仏のメカも左甚五郎が宇宙人から伝授されたものだったのです。
「ご先祖様のご加護ちゃんですわ!!」
スペース濃姫子が叫びました!
「大仏ビーム!大仏パァ~ンチ!大仏スペッシャルロ~リングアタック!!!」
からくり大仏のスペシャル攻撃にメカ濃姫子は機能停止してしまいました。
「えぇ~い!おぼえてらっしゃい!!」
黒魔女はそそくさと逃げていってしまいました。

「やった~!濃姫子ちゃんたちの勝利だぁ!」
長良温泉商店街の人たちは大喜びです。
そこへ突然、光の白魔女が現れました。
「濃姫子ちゃんよくやったわ!えらいわ!感動したわ!」
「みんな白魔女さまのパワーのおかげです!」
「いえいえ・・不思議パワーだけではここまで勝利できません!みんなの愛と勇気と友情の力よ!
愛の戦士・濃姫子!希望の戦士・淡姫子!勇気の戦士・濃濃姫子!友情の戦士・スペース濃姫子!
戦隊ヒーローにはもう一人足りないわね・・・」
そう言うと白魔女は倒れていたメカ濃姫子に光の呪文を唱えました。
「アナクタラサンミャクサンボダイ!!」
すると、メカ濃姫子はみるみる小さくなり、人間くらいのサイズに変化しました。
そして起き上がりながら言いました。
「ここはどこ?私は誰?」
「あなたは、心を持った郷土愛の戦士・メカ濃姫子となったの!
さぁ!行きなさい!5人の娘たちよ!美濃戦隊濃姫子レンジャ~~~!
これからもみんなと力を合わせて商店街と地球を守るのよ!!」


さっき逃げ帰ったと思われた黒魔女が電柱の影から、このいきさつを見ていました。
「くっそぉ~~~!白魔女め~!自分だけカッコつけちゃって!!くやしいったらないわ!」
「あ~、お前悪い黒魔女だべ!」
「誰よ、あんた!」
「通りすがりのパンダだべ」
「なんで、こんな所にパンダがいるのよ~!」
「あんまり深く考えないほうがいいっぺよ!」
「パンダは笹食ってりゃいいのよっ!」
「あ~!パンダを馬鹿にしたな!」
そういうとパンダは黒魔女をぶっ飛ばしました。
黒魔女は、どこか遠くへふっとんでいきました。


パラレル濃姫子ちゃんストーリーズ エピソード2 

2017年12月06日 06時31分35秒 | 小説

ある日唐突に異次元の黒魔女から挑戦状が濃姫子の下宿に送られてきました。
「呼ばれず!飛び出ず!ドンドロド~~~ン!
濃姫子をつくる前に、実験的に濃姫子Ver.0を作ってみたよ。
濃姫子Ver.0は、お前のお姉さんにあたる姉妹だよ。
金華山の麓の洞窟の信長ダンジョンの中に隠れているはずよ。
くやしかったらさがしてみな!」
挑戦状は物凄くへたくそな文字でそう書かれてありました。
「私にお姉さんがいたのね!探しに行かなくては!」
「でも信長ダンジョンってどこにあるの?」
淡姫子がいいました。
「金華山の麓にあるらしいわ」
「じゃあ、今すぐに金華山へ行きましょう!」
2人は金華山へ直行しました。

信長ダンジョンは織田信長が部下を訓練するためにどこかの洞窟の中に作られたらしいのです。
金華山麓の信長住居跡を探していると、おおきな穴が見つかりました。
「濃姫子ちゃん!ここに大きな穴があるわ!」
「ここが信長ダンジョンにちがいないわ!」
そういうと2人は穴の中へ入っていきました。
穴の中は真っ暗で何も見えません。
でも何かの気配がします。
穴の中を歩いていく2人の周りで何かがウロチョロしています。
「何かいるわね!」
濃姫子が手探りで何か生き物のようなものに触ってしまいました。

「はじめまして、ボクは大山椒魚のさらまんサンたろうです。ここのダンジョンの中に住んでいます、さらまんくんと呼んでね!」
さらまんくんは松明に火をつけ、真っ暗な洞窟を明るく照らしました。
「私たちは、濃姫子と淡姫子よ!お姉さんの濃姫子Ver.0を探しているのよ!」
「それなら僕がこのダンジョンの中を案内しましょう!」
「お姉さんは私たちと同じ顔をしているの、見たこと無い?」
「その顔には見覚えが・・・・・」
さらまんくんが言いました。
3人が暗闇を歩いていくと祠のようなものがあり、中に戒壇巡りがありました。
谷汲山華厳寺にあるような戒壇巡りでした。
卍形の真っ暗な通路を歩いていくと御本尊につながる極楽の錠前があって、触ると極楽にいけるというものです。
もし触ることができないと犬になってしまうとも言われています。

「こんな真っ暗な中を、また歩くのは怖いわ!」
「大丈夫ですよ、僕がついていますから!右手を壁につけて歩いていけばたどりつけます」
と、さらまんくんが元気づけます。
3人は卍形の通路を歩いていくと、濃姫子の手が極楽の錠前に触れました。
「やったわ!極楽の錠前に触ったわ!」
「えっ?どこどこ??」
淡姫子があわてています。
長い通路の終わりには、出口の小さな明かりが見えました。
濃姫子とさらまんくんが出口へ出ると、足の下を一匹の犬が走っていきました。
極楽の錠前に触れなかった淡姫子が犬になってしまったのでした。
「心配ありません、時間がたてば元に戻りますよ!」
さらまんくんが濃姫子に言いました。

戒壇巡りの出口には江戸時代の美濃の街並みが現れました。
その町はダンジョンをクリアできなかった人々が、昔から住み着いてしまった異次元の町だったのです。
大きな城下町の真ん中に大きなお城が建っています。
町はいろんな店があってにぎわっていました。
でもなんだか騒がしいのです。
毎年ナマハゲのような鬼が現れて、町一番の美人の娘をさらっていくのでした。
それが今日だったのです。
「まぁ!私が一番狙われるわね!」
濃姫子が言いましたが、みんなは聞いてないふりをしました。

「町一番の器量よしといえば蕎麦屋のおみっちゃんが、今年は狙われているそうだ!」
「おみっちゃんも災難だな・・・」
「しかし鬼には誰も勝てないよ!」
それを聞いていた濃姫子が言いました。
「その鬼を私が退治てくれよう桃太郎、ポポポポポ~~ン!」
いきなり大阪弁のおっさんが言いました。
「あんたは桃太郎侍でっか?」
「違いまぁ~す!濃姫子ちゃんでえぇ~す!」
「あんさんみたいな女の人が、鬼を退治できるんでっか?」
「鳴かせてみよう!ホトトギス!!」

草木も眠る丑三つ時、犬になってしまった淡姫子が遠吠えしています。
蕎麦屋のおみっちゃんの所へ、ナマハゲ鬼がやってきました。
「悪い子はいねがぁ~~!!」
そう叫ぶとナマハゲ鬼はおみっちゃんを連れ去っていきました。
「さぁ!匂いを嗅いで鬼を追跡するのよ!」
濃姫子は犬になった淡姫子に言いました。
「わんわん!」と吠えながら、淡姫子犬は鬼を追跡します。

鬼のアジトへつきました。
鬼はナマハゲのお面ををはずしました。
なんと、そのナマハゲのお面のしたの顔は濃姫子そっくりの顔だったのです!
「お姉さん?!」
濃姫子は影から飛び出して叫びました。
「そうよ!私は濃姫子Ver.0よ!濃姫子のお姉さんだから”濃濃姫子”と呼んでね!」
濃濃姫子はそう名乗ると濃姫子を抱きしめました。
「お姉さん!」
「妹よ!」
「でも、なんでナマハゲの格好なんかしているの?」
「これには深い訳があるのよ!」
「どんな深い桶?」
「桶じゃなくって、訳よ!」

濃濃姫子はナマハゲになったわけを話ます。
「ここの城主はすごくスケベでエロイの!毎年町一番の美人が手篭めにされてしまうの、だからナマハゲになって美女たちをすくっているのよ!
つれてきた娘たちは、裏山の隠れ里で平和に楽しくやってるわ!」
それを聞いて濃姫子は言いました。
「じゃあ、悪いのは城主なのね!では、城主にお仕置きしてやりましょう!」
濃姫子ちゃんは鮎菓子1個を食べ、濃姫子ゴージャスに変身!
町の真ん中のお城へ行き、城主に懇々とお説教を10時間もしました。
城主は、濃姫子のお説教にうんざりして改心しました。
そしてエロ城主を返上して、真面目で民思いの名君になることを人々に誓いました。

お城の裏には、岐阜の町へと続く大きな門があります。
「さらまんくん!ありがとう!おかげでお姉さんに会えたわ!」
濃姫子はさらまんくんにお礼をいい、そこから3人は長良温泉商店街へ帰ることにしました。
淡姫子も時間がたって犬から元の淡姫子に戻りました。

金華橋の欄干から、望遠鏡でこの様子をうかがっていた異次元黒魔女はくやしがりました。
「くそぉ!またちょっといい話で終わろうとしてるのね!くやしいわ!」
そこに欄干にへばりついていたコアラが言いました。
「あんた、なにやっとりゃーすの?悪もんとちがわへん!」
「いや・・わたしはただの通りすがりの黒魔女ですわ!オッホッホッ・・」
「でりゃー怪しいでかんわ!」
そういいながらコアラは黒魔女に頭突きをくらわせました。
黒魔女は橋から落ちて、長良川にドブンと落ちました。
「濃姫子め~!おぼえとりゃ~よ!!」


小説 パラレル濃姫子ちゃんストーリーズ エピソード1

2017年12月06日 06時29分13秒 | 小説

ここは長良温泉商店街。
この商店街の隅っこに、織田信長の正室・濃姫の掛け軸が飾られているお寺がありました。
そこへ唐突に多次元宇宙からやってきた異次元黒魔女が現れました。
「呼ばれず、飛び出ず!ドンドロド~~~ン!」
「ウヒョヒョヒョ!世界征服の大きな野望も、小さな一歩から、この商店街を征服してやるよ~~!」
そう叫びながら濃姫の掛け軸に向かって怪しげ~な光線を発射しました。
ボヨヨヨヨ~~ン!と紫色の煙が立ちこめ、濃姫の掛け軸は濃姫子ちゃん変身しました。
「お前の名前は濃姫子だよ!この商店街で悪さをしておいで~!」
異次元黒魔女が濃姫子に悪事を働くように命令しました。
「はい、わかりました!ご主人様のご命令のままに!!」
そう言いながら、まだ自我の目覚めていな濃姫子は商店街で悪事の限りをつくしました。

ああ神様!仏様!なんたる極悪非道なんでしょう!
パン屋ではクリームパンとアンパンを全部ならべ替えてしまいました。
靴屋さんでは、靴の紐を全部硬結びにしてしまいました。
洋菓子屋さんではバームクーヘンの焦げ目の部分だけを食べてしまい、ただの円柱のカステラのようにしてしまいました。
映画館では、一番泣ける場面でスクリーンの前に出てきてアッカンベーをしました。
洋服屋さんでは、買いもしない服を全部試着しました。
あれもこれも、目を覆わんばかりの悪さです!

時間がたつうちに、濃姫子は自我に目覚めていきました。
「私は何でこんなことをしているの?」
「商店街に迷惑ばかりかけて、もう死んでしまおう!!」
そう思った濃姫子は、長良川の岸辺にやってきました。
「この川でおぼれて死んでしまいたいわ・・・」
濃姫子が長良川に飛び込もうとした瞬間に、光り輝く異次元白魔女が現れました。
キンキララメラメのドレスを身にまとった美人の白魔女は言いました。
「濃姫子ちゃん!死んではダ~メダメよ!」
「あなたは本当は長良温泉商店街を救うために生まれてきたのよっ!」
光り輝くその白魔女は、やさしく濃姫子にいいました。
「私が世界の救世主?」
濃姫子は自分のことが信じられない様子で言いました。
「世界の救世主とはいってないけどね・・・!
そうよ、あなたはアヘンシャーズのハルクンよ!特攻野郎Bチームよ!はくちん大魔王よ!
混迷したこの世の中に光をあたえるのよ!」
光の白魔女は魔法の杖を振り回しながら言いました。

「わたしにそんなことができるかしら?」
濃姫子は半信半疑で答えます。
「大丈夫よ!私が不思議パワーを与えますからね!
鮎菓子を1個食べるとや濃姫子ゴージャスに!
鮎菓子を2個食べるとハイブリッドじゃなくて、ハイブリッコ濃姫子に!
鮎菓子を3個食べるとサンシャイン濃姫子に変身することができるの!」
そう言いながら白魔女は、濃姫子に光の呪文をかけました。
濃姫子は不思議な光に包まれて、力がわいてくるのを感じました。
「白魔女様、なんだかパワーがみなぎってきた感じがしますわ!」
「さぁ商店街へ行きなさい!そして商店街を救うのよ~!!」
「パラポラピラリ~ン~!」
そういうと異次元の白魔女は光とともに異次元へ消えました。


商店街は大混乱しています。
濃姫子の行った悪事のせいでした。
「すみません、みなさん!みんな元に戻します!」
そういいながら鮎菓子を1個食べ、ラメラメのロングドレスを着た濃姫子ゴージャスに変身しました。
ものすごいスピードで、濃姫子はすべてを元に戻していきました。
硬結びの靴紐も、並べ替えたアンパンも、あっというまに元に戻します。
「みなさんごめんなさい!私は異次元黒魔女にあやつられていたのです!!」
「いいんだよ!濃姫子ちゃん!」
商店街の人々は、濃姫子を許しました。

そこへ突然、黒魔女が現れました。
「濃姫子!何をまったりと和気アイアイと和んでいるんだい!
はやく悪事を働かんかい!はやくやらないとお仕置きだよっ!」
そういうと黒魔女は濃姫子にむかって黒い煙を浴びせました。
ゲホッゲホッ!!
濃姫子と商店街の人々は、真っ黒な煙に包まれ苦しみました。
「苦しい!濃姫子ちゃん!助けてくれ!」
商店街のオジサンオバサンが叫びました。
濃姫子は鮎菓子を2個食べ、ピンクのフリルいっぱいのドレスを着たハイブリッコ濃姫子に変身しました!
「は~い!濃姫子ちゃんですぅ!ウフッ!!」
ウインクをしながらハイブリッコになった濃姫子は、高速で回転し商店街に充満した黒煙を吹き飛ばしました。
「は~い!濃姫子ちゃんはこんなこともできちゃうのよん!ウフフのルンルンよ!」
ハイブリッコ濃姫子はブリッコしました。

「え~い!こしゃくな奴めっ!こんなこともあろうかともう一人の濃姫子を作っておいたんよ!」
そういうと黒魔女は呪文を唱え、魔法の杖から黒い煙を出しました。
その煙からダーク濃姫子が現れました。
「この濃姫子は、お前のダークサイド・・・悪い心から作った濃姫子だよ!
能力も力も同じだけど、悪いことしかできないいんだよ!
ドンドロド~~~ン!」
そういいながら黒魔女はダーク濃姫子だけを残して消えていきました。

「おまえが明るく健全な濃姫子ね!ドヨ~~~ン攻撃を受けてみよ!!」
ダーク濃姫子は、ドヨ~~ンオーラを大量に吐きながら濃姫子と商店街をドヨ~ンとした暗い気分に変えていきます。
商店街のおじさんやおばさんはやる気を奪い取られ陰気な気分になってしまいました。
「もう駄目だ・・・やる気がしない・・・」
「人生おしまいだ・・」
濃姫子も何にもできない暗い気分に落ち込んでいきそうになりました。
「だ・・駄目だわ!こんなときには鮎菓子3個よ!!」
濃姫子は光り輝く金色のスーツを着た、サンシャイン濃姫子に変身しました。
「ううっ!まぶしい!!」
ダーク濃姫子ひるんだ隙に、濃姫子はダーク濃姫子を抱きしめました。
「大丈夫よ・・なにも恐れることはないのよ!世の中悪いことばかりじゃないのよ、いいことも一杯あるわ!!!」
濃姫子はやさしくダーク濃姫子の邪悪なオーラを自分の光のオーラで消していきました。
「もう大丈夫よ!あなたのダークサイドはもう光で中和されたわ!」
ダーク濃姫子は黒い色から、灰色の濃姫子”淡姫子”に変わっていました。
「そうよね、私がんばるわ!」
ちょっと暗い性格ですが、ダーク濃姫子は、良い”淡姫子”に改心しました。

「私たち清く正しいく生きて行きましょうね!」
濃姫子と淡姫子は、手を取り合って涙をながしました。
それを聞いていた八百屋のおじさんが言いました。
「濃姫子ちゃん、俺のところの2階の部屋が空いてるから、そこに住むと良いえーがね!」
「ありがとう!八百屋のおじさん!」
そうしてこうして、濃姫子たちの下宿先も決まりました。

それを電柱の影から黒魔女はコッソリ見ていました。
「おのれ・・・ちょっといい話的に終わりにしようって魂胆ね!!おぼえていなさい!!」
ののしりながら杖をふろうとしたとたん、足元にいた犬のジョンにほえられました。
「ワンワン!!怪しいやつめ!ワンワン!」
犬のジョンは魔法の影響で言葉が話せるようになってしまっていました。
「きゃぁ~~!犬は嫌いだよ!」
黒魔女は、近くにあったごみバケツをひっくり返して、やっとのことで逃げていきました。


さらまんサンたろう in 乙姫公園 Salaman-Santaro in Otohime-park

2017年12月05日 10時34分02秒 | 動画

さらまんサンたろう in 乙姫公園 Salaman-Santaro in Otohime-park


さらまんサンたろう in 東白川 つちのこ館 SAN-Dance with Tuchinoko

2017年12月05日 10時33分34秒 | 動画

さらまんサンたろう in 東白川 つちのこ館 SAN-Dance with Tuchinoko


さらまんサンたろう in 桃太郎神社 SAN-Dance No.3

2017年12月05日 10時33分15秒 | 動画

さらまんサンたろう in 桃太郎神社 SAN-Dance No.3


短編小説 虹ボーイ

2017年12月02日 10時04分50秒 | 小説

虹ボーイ

女は日曜日の昼近くになってベッドから起き上がった。
目の下には隈が濃く浮き出て、髪の毛もボサボサだった。
気分は最低で、日曜日というのに出かける気分にもならないくらい疲れきっていた。
会社では失態をしでかし、先月恋人にも愛想を付かされて、もう生きているのが精一杯の気分だった。

「もう、なにもかもうんざりだわ・・」
女は顔を洗いながら、そんなことを考えていた。
昼ちかく遅くおきた日は、いつもコンビニの弁当で昼食を済ます。
女は、くたびれた白いジャージ姿で近所のコンビニへと向かう。

マンションからコンビニに行く途中に公園がある。
雨上がりの公園の雰囲気は、女の故郷にある公園に似ていた。
「・・よく遊んだあの公園は、今もあるのかしら・・・」
女は、故郷のことを取り止めも無く思い出している。

コンビニでいつもの弁当を買い、同じ公園の前の道を女は通り過ぎようとしている。
いつも子供がいない都会の公園に、今日は一人だけ子供が遊んでいた。
「さっきは居なかったのに」
と女は少しだけ気にしながら思った。

子供は小学校低学年くらいの少年で、白いバケツの中を覗いていた。
「ザリガニでも採ってきたのかな?この辺に小川なんかないのに・・・」
女はちょっと気になって子供に近寄っていった。

「何かいるの?」
子供の後ろから、女は聞いた。
「・・・いや、なんにも・・・」
子供は女にはほとんど無関心な様子で答えた。
「じゃあ、なにやってるの?」
女は聞く。
「虹を描いてるのです・・・」
子供が答える。
「・・・・・虹・・・・・」
女は返答に困っている。

「僕は虹ボーイです、雨上がりの空に虹を描いているのです。」
少年は、たどたどしい敬語で、女に話はじめた。
「今日のような雨上がりの日には、僕が虹を描いて空を綺麗にするのです」
「雨上がりの虹は、みんなを幸せにします」
「お姉さんも幸せでしょう?」
少年は、女に屈託無く言う。

女は、突然幸せか?と聞かれ、ドキッとした。
「・・・幸せよ・・・」
女は心の中とは反対のことを答え、ちょっと後ろめたい気持ちになってしまっている。
「そうでしょう」
子供は、女の顔を見つめながら嬉しそうに言った。
その笑顔を見ながら、女も無理やり微笑んでみた。

「虹を描くのは楽しい仕事なのです。お父さんもお母さんも、僕のことを誇りに思っていてくれます」
大人びた言葉で、少年は女に言った。
「虹は、自然現象でしょう、光の屈折で出来るものよ」
女は、子供に教えるように言う。
「違いますよ、僕が空に虹を描いているんです」
子供はそう言いながら、バケツの中のペンキの刷毛を空中にサッと半回転させた。

動かされた刷毛の軌跡の後方に、キラキラと輝く七色の光のベクトルが形成された。
「ほらね!」
子供は楽しそうに、女に向かって言う。
「もう一つ!」
少年はもう一度、公園の何も無い空間に手を広げ、大きく大きく虹を描く。
少年を包み込むように虹が輝く。

「マジックかしら・・」
不思議な気分になって、虹を手で触ってみた。
女の手に虹が纏い付き、女の手は虹色に染まった。
七色に染まって光る自分の手を見ながら、女は楽しい気分が満ち溢れてくるのを感じている。

虹ボーイは、いつのまにか公園中に、はしゃぎながら何十という虹を描き出していた。
雨上がりの公園の空間は、いくつもの虹のアーチで目も眩むばかりになって輝いている。
女は大きな虹のアーチを潜ってみたり、触ってみたり、いつしか少女にもどっていった。

空は晴れ上がって気持ちがいい。
雨上がりの空気が、さわやかな風を運んでくる。
サァーッと吹き抜ける風が、女の髪の毛をサワサワと揺らしていく。
一瞬に、公園の小さな虹の群れも、虹ボーイもかき消すようにいなくなっていた。

雨上がりの晴れた上空には、今まで女が見たどんな虹よりも大きく綺麗な虹が光輝いていた。
そして、女のくたびれた白いジャージの服にも、光り輝く虹の文様が染め付けられていたのだった。