国民的アニメ、サザエさん。
この魚介類の名前の付いた一家のことを知らない日本人はほぼ皆無だろう。日曜の夜はサザエさんとちびまる子ちゃん。これを見終わると「あぁ、明日からまた仕事だぁ」と憂鬱になるとかならないとか。
さて、そんなサザエさん。
最近では些細なことにクレームとまでは言わないが、SNSなどでツッコミが入っている。サザエさんはなぜ働かないのかとか、登場人物の言動にいちいちツッコミが入ったりしてる。
まぁ、元は昭和の時代に朝日新聞(それ以前は西日本新聞社)で連載されてた漫画だ。今の若い人には理解できないことも多々あるだろう。
連載開始が昭和21年。太平洋戦争真っ只中。そして終戦。昭和の中頃の生活文化がよくわかる内容だけに、単行本のセットを全巻持っている俺としてはたまに読み返したりするのだが、「あぁ、昭和のこの頃ってこうだったんだなぁ」って思うもの。
教師、近所の人、親でさえ殴ったら問題になるこの時代の人に、カツオくんは哀れでしかないだろう。マスオさんと波平さんが酔っ払って帰ってくるだけでサザエサやフネさんが機嫌悪くなることが、女子会とか一人飲みとかしてる人に理解できるわけがない。三河屋さんが勝手口から「毎度〜」って入ってくるのが、そろそろamazonに変わるのではなんて言われてるくらいだ。未来からやってきたドラ焼きが好きな機械猫アニメでもそれは同じことかもしれない。もはや古典だな。
そんなサザエさんの3月24日の放送。
カツオ君が大きな桜の木がある空き地を通りかかったところ、悲しそうにその桜の木を眺めてる女性と出会う。花沢さんの父(不動屋さん)から以前あそこにあった家に住んでた人だと教えてもらう。そして今度新しく家が建つ際にはあの桜の木は切り倒されてしまうのだと。
それを聞いたカツオ君は波平さんに「あの土地を買ってください」と懇願する。そしてそれを聞いたサザエさんは意気揚々に地主のところへ直談判しに行こうとするが、波平に止められる。
「忘れたのか?新婚時代に借りてた家のことを」と。
そう、新婚時代まだマスオさんと二人で暮らしてた家の塀を、マスオさんがのこぎりで切ってるのを大家に見られ、「一方的に解約だ、出てってくれ」と告げられたとサザエに言われた波平は大家のところに行く。そこには傷だらけの大家が・・・。サザエが直談判に行くもどうやら頭にきてボコボコにしばいたみたいだ。
その内容についてネットでは「サザエさん頭おかしい」とか「マスオさん鬼畜」とか「二人とも思考回路がぶっ飛んでる」とか言いたい放題。
マンガを読めばわかるのだが実はこのエピソード、今回のアニメではマスオさんは棚を作ろうと塀をのこぎりで切ったことになっているのだが、漫画では“まき”にしようと思って切ってるのだ。ちなみにこれは2巻に収録されてるエピソードだから終戦後間もない頃の話だ。米や生活用品が配給の貧しい中、暖をとるための薪にするのと、ただ棚を作るのではまったく違う。
変に忖度して内容を弄るから今の若い人にこんな誤解を受けてしまうのだ。
夏目漱石の子孫がインタビューで言ってたが、ある出版社が「坊ちゃん」の文庫版の改訂版出版の話の際「女給」という言葉をウェイトレスに変えさせてくれと言ったので「言葉を変えるなら出版しなくていい」と怒ったそうだ。
誰に遠慮して、誰に気遣ってるのかわからないが、昔の文芸作品にいちいちそんなことやってたら、文化は滅びるぞ。司馬遼太郎の「竜馬が行く」も池波正太郎の「鬼平犯科帳」も初版と今の改訂版では語句も違うし言い回しも全然違ったりする。
ドカベンの初期の頃なんか改訂版ごとにどんどん酷くなってる。特に大阪代表の坂田投手のエピソードでは、路地裏で犬に石を投げ捕まえおばちゃんに売るシーンがあるのだが、これは台詞だけで迷い犬を保護した話に挿げ替えられてる。
俺は読んだことがないのだが、少女漫画誌「りぼん」で連載されてる「HIGH SCORE」という漫画の登場人物が持ってるキセルが描写NGになったらしい。
なんじゃそれ?って言いたくなるが、受動喫煙がどうちゃらとうるさい今、煙管から煙をくゆらせる描写はダメなんだとさ。じゃぁ「パタリロ」のバンコランも今後葉巻を吸えないのか?このまま行くと時代物で花魁や博徒の親分がキセル吸ってるのもダメになるだろう。なんか世知辛い世の中だね。
「表現の自由」とか「報道の自由」とか、やたらと自由と権利をスローガンに言うメディア・マスコミが自分たちで勝手に不自由になってやんの。変なの。時代考証はちゃんとしろよ。歴史認識をしろよ。捻じ曲げんなよ。
戦国時代は刀持ってたし、封建社会だ。あちこちで斬り合いがあった。江戸時代は太平だと言われてるがいろいろあった。幕末は内乱だ。日本人同士が外国の思惑に逆らい戦った時代だ。明治時代は外国の技術や知識を取り入れれた人と、あいなれなかった人の時代だ。
大正時代は西洋かぶれだ。誰もが豊かになりたいと思った。そのせいで昭和の初期は海外進出で無謀に広げていった。諸外国から睨まれ不安と混沌で戦争になった。終戦後は復興と混乱、団塊の世代がデモして偏差値教育があってバブルが崩壊して昭和は終わった。平成はテロと震災から始まりあと一ヶ月で終わる。明日には新しい元号が発表される。
でもさ、ちゃんと過去は過去として捉えておかないと、未来はないぞ。
文化も思想も理解できないぞ。
サザエさんは、今の便利な時代の人にはもう理解できないのだろうな。
ちなみにサザエさん第2巻の頃は、東京で家が40万円で買えた時代だ。
ガスト水道付きと言いながら井戸は共同・・・。