朱禪-brog

自己観照や心象風景、読書の感想
を書いてます。たまに映画も。

焼鳥屋③

2021-09-21 03:26:05 | 雑記
有明のビックサイト国際展示場の
自社ブース内での
アテンド(説明員)を終えた
打ち合わせ以外では、
ほぼ丸一日立ちっぱなしで足が
棒になっている。

臨海線に乗り大井町経由で帰ろうか…

そうだ龍に行こう

---

「いらっしゃい」

(こんばんは)

いつものL字型カウンターの奥に
チンと座る

おや?見慣れん人がいるな?

「やぁ朱禪さん、初めてですね
うちのかかぁなんです。ちょいと体を痛めてちまって、つい先頃まで入院してたんで、へい」

そうかどうりで店の雰囲気に馴染んでいると思った

「こんばんは。主人からよくお話聞いてました。俺より酒飲みで、焼鳥を70本一人で食べるお客さんがいると。(微笑)」

いささか赤面しつつ
(どうも初めまして、朱禪と申します)

これ以降、奥さんのことは「ママ」と言うのだが、年の頃はそう
60代前半だったと思う。

肌がつやつやして、よく笑う
優しい女性だった。

「何にします?」

(瓶ビールとせせり(鶏のネック)とねぎまを塩で2本ずつお願いします)

親爺は定番の藍染作務衣と
ねじり鉢巻に雪駄
本人曰く、「正装」で背中を向けて
大団扇で時に強く、時に弱く
風を操り、炭を仕込む

炭火焼の味わいは
肉汁が落ち、それが炭と反応し
燻しとなって香りがつくことと
団扇で扇ぐことで、灰がネタに
ふりかかること
灰はミネラルであるので微妙に
ネタと絡むことも味わいのひとつだろう。

皮やぼんじり、背肝(腎臓)、ちょうちん(卵管)などは、脂を含む

脂で炭が死ぬことは前回にお伝えしました

親爺は、脂で炭が燃えても
決して水で鎮火しようとはしなかった

「水は手っ取り早いでしょうけど
水で火を消すと、水蒸気がネタに移り、味が死にやす」と言う

大団扇を巧みに操り、炭の配置をこまめに替えて、燃えすぎた炭は鋳物製の
炭壷で鎮火させていた

これで一串/80~/120だった

(くろうまお願いします。
あ、ママさん退院されたばかりですけど、なんか飲まはります?)

「あらっ、いいのかしら
(ママさんの体調が良ければ何か飲んで下さい)
「ありがとう。ではビールを頂くわ」

その時、焼き場の親爺が
「よし!今日はもういいや!閉めちまおう(笑)」

すかさず、ママさんが
「あんたが飲みたいだけでしょ。
まったくもう」

親爺は外に出て
「龍」と白地に黒で染められた
提灯と暖簾を店に仕舞う

「さぁ朱禪さん、かかぁの快気祝いだ。 今日は飲みましょう」
と愛飲の白馬錦と私用のくろうまを
でんとカウンターに置く。

(まったくもう)
ママさんは、困ったようなそれでいて
慈愛の目で親爺を見つめる。

(ママさんもよければ、ご一緒にどうですか?)

三人だけのささやかな快気祝いが
始まった。

---

初めてママと出会った日の事でした。

注)この独白での、親爺とママさんは
すでに物故されています。
故人を晒すためではなく
私の故人への感謝の思いで綴っています。

ここまで読んで頂き
どうもありがとうございます。







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