喜劇 眼の前旅館

短歌のブログ

完璧な野宿

2015-05-31 | 連作



あんなにいた子供たちが一人になって河のほとりを歩いてるきみは



北極のすごいところをすべて挙げみちたりた気持ちの繁華街



横断歩道をむりにつなげて明け方の冬の地鎮祭の出口へと



電車の中が馬鹿な息でくもっていく夜の続きと朝の手前に



高いところから飴玉をわたすのも変わりやすい今日の天気よ



かんぺきに安全な野宿死ぬことはあらゆる靴紐がほどける



ひこうきは頭の上が好きだから飛ばせてあげる食事のさなかに



これは絵はがきですと地面に足で書く なんという雨の球場だろう



踏切をゆっくり渡ってみたくなる むこうの声の中の鳥たち



あばら家にセクハラ日本一にかがやく盾と五分咲きのゼラニウム



他人のディズニーランドが夜のはまなすを飾るのが見えたすぐ来てくれ



帽子ってあなたが買えば似合うから夜には街灯に照らされて



デパートをゆっくり星にあけわたす 星はどこにでもやってくる



とびはねる表紙のバッタうれしくてくるいそうだよあの子とあの子



鳥の群れになったつもりであるいてる夜、夜、夜とかぞえられつつ






とび抜けて顔の青いようこ(3)

2010-01-02 | 連作
旅の日は頭痛持ちばかりの主婦たちがいっぱしの音頭歌手をかかえて


ホテル・マッシュルームよりかつて抜け落ちた廊下は蔭に尾のように振る


くちぐちに好きに繁らす麦のうちにとび抜けて顔の青いようこ


水曜日、姉のくすりをぼくたちは分けあったことまでは一致している


個人映画と個人タクシーむすびつくひかりを未明の崖に合わせて

とび抜けて顔の青いようこ(2)

2009-12-29 | 連作
キャンディーを穴があくほど転がして舌からスタジアムになればいい


鏡のなかの公園も人だかりしてややうれしくなるときがくるのか


こんな部屋には住人が必要、と言って靴をそろえる背中から欠ける


運命にさからうビュフェに跳び乗れば窓をながれるかげみな帽子


ひとりでは蛇口に蒲公英つめこんで終らせた気でいたんだろうね

とび抜けて顔の青いようこ(1)

2009-12-25 | 連作

街はあかるい窓が照らす貸自転車のゆがんだ籠いっぱいの蛇口


Tシャツの胸しろく汚して魘されている姉をみんなに見えるように


灰皿のようにつめたい手があればわたしたちであるひつようはない


ヘアブラシに人を撲ったあとのある機嫌はかつて損ねたまんまで


「ようこ。啜るのはやめなさい」声の穴。「ようこ。行きがかりの否定を続けなさい」

実録・校内滝めぐり (6)

2007-11-29 | 連作

屋上が滝なす手摺りしがみつきそれなのにまばたきの音がする


拍手のなか滝があなたの書きすぎた手紙洗ってくれるのを見た


ぼくたちが文字のかわりに文字盤にならぶ時代がきっといつかね


体育館よりも小さな月をもつ惑星がこの町を通過する


朝露をすべらせていく屋根 胸に侏儒のつけた踊るあしあと

実録・校内滝めぐり (5)

2007-11-24 | 連作

ターミナル越しに夕日のいくつかは顔をゆがめて笑わせるのだ


バスと枝道がカメラの中にあるひどい嘘つきと別れたあとに


ほの寒いセーラー服の入り口で泣き叫ぶ誰かと行きちがう


あばら浮く学生服の団体の挨拶はひきつづき小窓から


屋上を果てまで知ると繋いでる手にこめてくるちからうれしい

実録・校内滝めぐり (4)

2007-11-20 | 連作

先生と大きな墓に入りたい夜明けまで蠅に逐われながら


授業中電話に出ても下駄音が歩くだけ耳を廊下のように


みずいろのとかげを踏むと消えている 教室がその隙にふえている


更衣室から火の匂い届くけど風向きは逆 はためく並木


歯に睫毛つくようなことしてきたとごめんなさいの後でささやく

実録・校内滝めぐり (3)

2007-11-16 | 連作

落葉にぎりつぶす音でもないよりはましな二人の遊ぶ静寂


トンネルに出口を作る計画をあなたの声がはなしつづけた


木星似の女の子と酸性雨似の男の子の旅行写真を拾う


どぶの匂い梨の匂いとまじりあい坂はくるくる下るさすがだ


先生に私たちだけのスイッチもつける 迷路の施錠のように

実録・校内滝めぐり (2)

2007-11-15 | 連作

星にひび よろけたピアノ止む前に眠れるといいな歩きながら


楽譜読める人なら誰でも尊敬する売春婦に馬鹿にされたかった


黒板にグラビアモデルの輪郭が消えずにたどりつく朝の門


草に水遣る旅だけど教壇を通らなきゃあの草に行けない


行き止りや隙間に咲いたコスモスが敏感だった今朝の散歩は

実録・校内滝めぐり (1)

2007-11-14 | 連作

釣り人を近頃みない橋をゆく 川風が髪に残す花びら


私には宛て名のようにドアがあり笑うときかるくほぞがひきつる


鍵は落葉にまじって踏まれてるきみが次のフェイズを見にゆく前に


遮断機のむこうで降る夕立ちをつい凝視する点滅がまだなのに


線路には線路の滝があることを誰か手紙に書いて丸めた

連作三十首

2007-08-26 | 連作
「自転車用迷路」 (短歌研究新人賞落選作品)


そら耳の玄関ブザー降り積もりゆく穴を心に持ち墓場まで

春ののち団地に木々は滲み込んで百科事典の売られるワゴン

外廻り用自転車の前籠にたまる花 発てる旅の少なさ

サンダルを夏用に買う散歩には日陰が少なすぎる道を来て

ゆめに訪ねた靴屋を染める土間で吹く扇風機のうすみどりの羽は

緑道がとぎれて握る掌の中にいつの切符だろう刺さるのは

ワイシャツに生白き腕ぶらさげて炎天をバス停からあゆむ

去年まで坂道だった階段に人を待たせています今朝から

埋め立てた川が海までつづいてる そういうことって誰にでもある

首飾りきみが引き摺る坂道をまぶしくて開けられない目蓋

来るはずのきみと市バスは間引かれて入日がいつもより長かった

まばたきに群れのひまわり閉じ籠めてくだる畑みちに石を蹴る

ジャンボ機が揺する街の灯 くだりつつこの丘を恐怖しはじめる

祭りでもないのに明るい森を見てなぜか黙っていようと思う

この部屋に死ぬまで暮らす心地するあけぼの憶えなき壁のしみ

電話でも雨だと知れるほどの降り 聞いてよ、から後が聞こえない

写真にはレンズを向けて手を揺らすきみを映した壁の姿見

赤いベスパがトンネルで鮮やかに転ぶ 見てきたような真夏の中で

鍼灸師だったんだって死ぬ前は もちろんしんだひとは蒼いが

女の子がキャンパスの青芝でするパントマイムに纏うはねおと

「自転車用迷路出口に先回りしてきたの切り花を捧げに」

目が合うと視える線路が滝になるパノラマ ひとことも云うまえに

網棚へのせて帰れば片付けてもらえるだろうその自転車も

この歯痛いつからだっけと呟けばそばであなたが横に振る首

コーラから泡以外のもの噴き上げるように虚ろな小便が漏れた

甲子園出場 人身事故により列車が遅れております おめでとう

「白線につぶれてる猫ありがとうわたし今年で十二になるわ」

からっぽなエレベーターをひとひらの 逃げまわるけど蝶に見えない

サンダルが手紙を履いて沓脱にぬれる拝啓さようなら敬具

畦道へ軽トラックが荷台から指示する人をバックで搬ぶ



連作20首:自転車用迷路集002

2006-12-20 | 連作
 「助からなくちゃ」  我妻俊樹


住む町は時計の広さがあればいいそれくらい痩せた魂になる

傘立てに花束たてて雨宿りしてるあなたも見ている林

天井がみるみる低くなる意味を不思議な罰として見上げつつ

明け方にかみなり雲の運ぶ雨 どうしてここにいたと分かるの

ペダルから浮かせた足で草を蹴る ヒントの多いクイズがすべて

どの野にも飼い主の声するゆえに親猫くるったように遊ぶ

百年で変わる言葉で書くゆえに葉書は届く盗まれもせず

じゃあまたねとは云うけれどまたはない友だちをやめる途中だから

目の赤い酔っ払いたちいいことを口々にいう花粉のように

坂が坂をよこぎっていき戦場の西のはずれにすべてつながる

たっぷり二人分はあるスーツに身を隠す 私は自転車乗りだから

こんな十年見たことないし変わり果てた君に会うのもはじめてだった

蝶が口から出てこない今何時何分、国道何号線かも訊けない

引越しは徒歩でするので長くなるその行列を分かつ朝霧

アパートの番地はさっき聞いたけどメモしたシャツをあげてしまった

手帳からちぎった紙にあて先と切手 ぼくらのしてきたすべて

今日からは意志のひかりの消えた目で見つめる 浴びたように着飾る

バス停の先の日なたに置いてきたワゴンがとりあえずの目的地

帰るだけなのに浮かれておしゃべりが過ぎたと思うけど黙れない

腋の下に挿んだままで玄関を見てきたらただの風 七度二分

連作20首:自転車用迷路集001

2006-12-10 | 連作
 「いらないものあげる」  我妻俊樹


坂ばかり 私は錆びた自転車が好きだと君に思われている

トンネルを騒がしくする一団のいちばん前をゆくしゃぼん玉

猿ぐつわされてる猿の横顔を(写真はイメージです)愛してる

三分間写真に朝まで閉じ込めておくために買ってきた生野菜

消えたまま襖を映す大きすぎるテレビいらない あげる いるなら

自転車はどこに捨てても何度でも帰ってくると母が云うから

階段をのぼっていたら歯車で回りはじめる ような気がした

首都高を台車が進むサングラスはずしたことがない歌手揺れて

本当は百年前から待っていたバスだから乗れただけかもしれない

遺伝子はなにも見てない窓の外ながれる屋根も浮く雨雲も

顔のない(あるべき場所に椅子のある)男が目の前に立っている

「ごめんね人間はもう終ったんだ そう云うぼくも間にあわなかった」

若者が食べる花しか咲かせないつぼみを鳥たちが食べてしまう

夜道から帰ってくると快速に飛び込むひとの気持ちに近い

屋根裏がよくないことを考えているのでぼくも汗ばんでいた

Tシャツがはためくほどの南風吹く あればだがお金をわたす

振ればまた点くいつのまに消えている懐中電灯が壁に吐く環

壁紙が剥がれかけてる 人生を棄てる夢から誰かが覚めて

君を妊婦にしておくのはなんか惜しいね そんなこと別に思ってない

あのことで文句があって玄関で待ってたけれど空き家だった