テイカカズラ

今はもう廃業して更地になり、コインパーキングに生まれ変わった駅前の銀行傍の一等地に、古めかしい園芸店があった。

鉢物、苗もの、その他には土と肥料を置いている程度の、断じて花屋ではない園芸店。
それほど遠くないところにホームセンターがあるので扱っているものがかぶる。　個人商店だけあって数も知れているし値段も決して安くはない。

でも、前を通りかかるたび覗いていたし、愛想の良いおばちゃんがいつもにこにこ笑っていた。

いつだったか伊勢志摩を旅した時、パルケエスパーニャの素敵な建物の壁面をびっしりと小さな葉がつたい、その葉の間に白いスクリューのような形をした花がたくさん咲いていた。
建物に近づく前から良い香りがする。
なんという植物かもわからず、帰ってからパルケエスパーニャに電話して「あの花はなんという名前ですか？」と聞きたいほどだった。

やっとのことで調べがついて、和名でテイカカズラ（定家葛）、スタージャスミンだというのが分かった。

ジムの帰りに「テイカカズラが欲しいんですけど」と告げたのは、いつものおばちゃんではなく娘さんのようだった。
彼女は取り寄せられるものなら取っておきます、と言った。
「よくここを通りかかるので、2～3日したらまた寄りますね」

実は期待していなかった。　あれが欲しい、これが欲しいといっても規模の小さな個人商店が果たして取り寄せてくれるのかどうかも分からないし、名前も電話番号も聞かれなかったので。

３日後、ダメ元で尋ねたら「テイカカズラ・・・」と言いかけたところで、いつものおばちゃんが入荷してますよと２苗持ってきてくれた。
「娘がお名前も連絡先も聞かずにすみません、叱ってたんですよ」

私の為に２苗取り寄せてくれていた。

それが今、時季になると可愛らしい花をつけて羽衣ジャスミンのほどの強さではなく、もっと奥ゆかしくて品のある香りを漂わせている。
あの店主は今頃どうしているかなぁ。　元気でいてくれたら嬉しいんだけど。

開花まであと3日ぐらい