大間々を12時過ぎに出発する列車へと乗り込む。単行のディーゼルカーは観光客で既に満席となっていた。
仕方なく車内最後尾の運転席付近に立つが、とにかく車内が暑い。冷房は入っているハズなのだが、外の気温が暑過ぎるせいなのか全く効いていない。
それと…
ガキ共がうざい(笑)
まあ夏休みシーズンと言うことで親子連れの行楽客が多いのは仕方無いのだが、正直、子供嫌いな僕にとってはツラい…。お願いだから静かにしててくれ!!
そんな中、列車に揺られることしばし。途中、水沼の駅でかなりの下車があり、席が空いたので座る。五月蝿いガキ達もいなくなり、ホッと一息つく。
大間々を出てから30分か40分ほどで、次の目的地、神戸に到着。
ちなみにこの[神戸]、「こうべ」ではなく「ごうど」と読むのだ。
さて。この神戸では、先ほどタクシーの運転手さんに猛烈に勧められた[富弘美術館]へ行く予定なのだが、実は元々、この駅自体には来るつもりだったのだ。
と言うのも、この駅には、構内に珍しい「列車レストラン」なるものがあるらしく、そこを見学&食事する予定だったのだ。
が、そちらを後回しにして、富弘美術館へ行くことにする。
最悪、時間が無ければ列車レストランの方は諦めるしか無い。
神戸の駅は、降りて外に出てみると、ひなびた駅舎がなんともイイ味を出している。
木造の小さな駅舎は、いかにも「一昔前の日本の田舎の駅舎」と言った風情だ。銚子電鉄の[笠上黒生]や[外川]にも通ずるものがある。
駅前に停車していたバスに乗り込む。運転手さんにバスの運行時刻を尋ねてみる。と、美術館まではここから約10分。そして約45分後に戻りのバスが美術館を出発し、神戸駅へ到着すると大体2時くらい。
僕が次に乗る予定の列車は2時40分過ぎに神戸を出るから…駅についてから時間は40分ほどの余裕がある。と言うことはつまり、列車レストランの方も充分に楽しめる計算だ!!
バスは神戸駅を出発し、山道を登って行く。10分ほどで富弘美術館に到着。
富弘美術館は、こんな田舎の山奥にあるとはとても思えない(失礼)、モダンで清潔、設備の整った美術館と言う印象だ。
すぐそばには湖もあり、ロケーションも抜群だ。
チケットを買い、早速美術館の中へと入る。
この富弘美術館、星野富弘と言う人の作品を収蔵した美術館で、この星野富弘と言う人は、手が不自由なのだが、口で絵筆を握って作品を創っているのだとか。
花々を描いた作品はどれも素朴な雰囲気ながら非常に美しいもので、とても口で描いたとは思えない。そしてその絵の一つ一つに詩が添えてあり、詩と絵とを併せて鑑賞するとなんとも味わい深いものがある。
この日は特別展で、原田泰治と言う人の作品展も行われていた。この原田泰治と言う人は、日本全国をくまなく旅してはそこで見た風景を描いているらしく、作品はどれもがまさに「古き良き日本の風景」とでも言うべき景色が素朴極まりないタッチで描かれていて、こちらの作品達にも非常に強い感銘を受けた。
僕は昔ながらのこういった「日本の原風景」が好きで好きでたまらないのだ。そんな風景に出会いたくて、僕自身も日本のあちこちを旅して回っているのかもしれない。
何にせよ、この富弘美術館。来て本当に良かったと思える美術館だった。お勧めしてくれたタクシーの運転手さんには改めて感謝。
さて。美術館でのひとときを過ごした後は、再びバスで駅へと戻る。ここで、かねてより気になっていた「列車レストラン」でちょっと遅めのお昼を取るとしよう。
神戸駅構内、ホームの一角にたたずむ列車レストラン[清流]。
この「列車レストラン」とは一体何か?
木々の中からちらりと覗くその姿を見るに、何か列車の車体をそのままレストランの建物に利用しているのだろうと言うことは分かる。が、その元車が何かは外見からだけではちょっと分かりにくい。
だが、車内(車内…なのか?)に入ると、鉄道好きである一定の年齢以上の人ならば誰もが驚愕してしまうハズ!!
なんとこの列車レストランに使用されているのは、「デラックスロマンスカー」(通称DRC)として一世を風靡した、東武鉄道の名車1720系だったのだ。
僕くらいの年齢の人間がかつて、「鉄道好きの少年」だった頃。そんな少年達皆の憧れの的だったこの車両。
僕自身、結局乗ることは叶わなかったこの車両だが、まさかここでこんな形で出会ってしまうとは…。
ずらりと並んだリクライニングシート。その座席は向かい合わせに固定され、座席間に大きなテーブルを付けられてはいるものの、それ以外は往年の姿のまま。
今となっては少々古臭い感もあるアコモデーションだが、それが逆に、懐かしき「昭和」の時代ならではの豪華さを感じさせる。
座席へと腰掛ける。昔の、ちょっと裕福な人達は皆、この座席にくつろぎながら日光や鬼怒川温泉への旅を楽しんだのだろう。…などと、ちょっと感慨にふけってみたりもする。
が、正直言うと、ちょっと座席が小さい。この車両が造られた頃の日本人の平均体格から言えば、これ位で問題無かったのだろうが、今の日本人にはちょっと小さ過ぎるよなぁ。これはこの1720系に限らず、この頃に造られた車両全てに言える様な気もするが。
さて。いい加減腹も減っているので、昼食を取るとする。
僕が注文したのは「舞茸そば」。DRCの車内で蕎麦を食べると言うのもなんだか妙な感じだ。
蕎麦自体はまあ、「田舎蕎麦」と言った感じだったのだが、舞茸の天ぷらが非常に美味くて降参。揚げたてアツアツ、サクサクカリカリの衣をかじると、中からジュワっとジューシィな舞茸が顔を出し、口中に独特の風味が広がる。きのこ好きにはたまらない。
こんな美味い天ぷらを食べれば当然ビールも進むと言うもの。
と言うか、この時飲んだ生ビールが本当に美味過ぎた。久々に心の底から「美味い」と思えるビールだった。
日本の豊かな四季折々、様々なシチュエーションに合う酒はそれぞれ色々あると思うが、やはり真夏の暑い最中にはよく冷えたビールが一番と言うことか。