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アイルランドへの金融支援決定(2010年11月28日)

 11月28日 欧州連合はIMFと共同でアイルランドへの総額850億ユーロ(約9兆4000億円)の金融支援を決定した。また欧州版IMF=ESMの骨格でも合意した。しかしこの決定により欧州の金融危機が収束するかは依然として不透明な状況にある。
 金融市場開放
 IT投資誘致
 輸出主導型モデルへの復帰を図っている。
 銀行システムと財政の問題が一体化
 (政府債務+金融機関債務)/GDP 英国とオランダ213% イタリア210% スペイン202% ポルトガル186%  (2009?)

 11月19日 アライドアイリッシュ銀行が預金流出額を発表(年初から17%)(すでにバンクオブアイルランドも預金流出を発表済み)
 11月21日 アイルランド政府 欧州連合と国際通貨基金に金融支援要請
 11月24日 S&P アイルランド国債をダブルAマイナス からシングルAに2段階引き下げ
 11月24日 アイルランド政府 4ケ年の財政再建計画(中期財政計画)発表 4年間で150億ユーロの財政赤字削減(当初予定の倍 この数値は10月26日にすでに公表済み) GDPに対する財政赤字を32(31.9)%から2014年までに3%に減らす 個人増税 社会保障削減 経済成長率を年2.75%と高め予想 この成長率は実現するか 公務員の削減 給与カット 歳出削減 増税が経済を下押ししないか(12.5%と先進国の中で最も低い法人税率を批判する声もある 付加価値税率が21%) この計画発表の意図はEUへの支援要請回避にある。
 アイルランド政府の財政赤字が膨らんだ理由は経営難の銀行への追加支援(これまでに230億ユーロの公的資金を注入)にある。すでに2009年1月に国有化しているアングロアイリッシュ銀行への公的資金投入は当面293億ユーロ、最悪時340億ユーロとの予想が9月30日に政府と中央銀行により発表された。
 11月24日 国債利回りは再建計画発表後 上昇 9.3%前後 南欧の国債利回りは0.2%
程度小幅上昇 ポルトガル7%強 スペイン5%強
 11月25日 下院補欠選挙で野党シン・フェイン党が勝利
 11月26日 スぺイン国債利回りが一時5%強
 スペインが破綻した場合 GDPがアイルランドの7倍 政府債務残高も3倍強 破綻の影響大きい
 11月26日  ポルトガル議会 2011年度予算案を承認。
 11月28日 欧州連合はIMFと共同でアイルランドへの総額850億ユーロ(約9兆4000億円)の金融支援を決定した。アイルランドは追加財政緊縮策を迫られるので国内には反発もあるとされる。2010年5月に決めた総額7500億ユーロの緊急融資制度*の最初の適用。このほかアイルランドの銀行に公的資金を注入できる資金枠350億ユーロを設定。アイルランド国内の銀行再建が今後の焦点とのこと**
 このほか英国とスウエーデンが別枠で支援を表明(英国はユーロ圏の外にあるが伝統的にアイルランドと関係が深い 金融危機に際して実質国有化した***ロイヤルバンクオブスコットランドRBSとロイズバンクが合せて1000億ドル規模のアイルランド向け融資を行っているとされる 外国からのアイルランド向け融資は2010年6月末で7311億ドル うちイギリスが1485億ドル ドイツが1385億ドル)
 、また欧州版IMF骨格(欧州安定メカニズムESM 緊急融資の期限が切れる2013年7月以降に発動)でも合意(その後12月16-17日の首脳会議でも合意:2013年に欧州版国際通貨基金設立)
 ムーディーズは12月17日にアイルランド国債を一気に5段階下げると発表(Baa1)。12月18日にはポルトガル国債格付け(A1)を引き下げの方向で見直すとした。 
 *EU予算裏付け600億ユーロの欧州金融安定メカニズム
  ユーロ導入各国政府(16ケ国)の政府保証をつけた4400億ユーロの欧州金融安定基金EFSF
  IMF融資2500億ユーロ
 *2010年5月のギリシャ支援はこの緊急支援制度とは別枠で1100億ユーロ支援
 ** 2009年1月に実質国有化したアングロアイリッシュ銀行(損失処理コスト250億ユーロから350億ユーロ)に続き バンクオブアイルランド アライドアイリッシュ銀行も国有化か。銀行は経営を急拡大 アイリッシュの総資産はGDPを上回る 大手3行 主要6行 アングロアイリッシュは国有化済み(経営悪化のため2010年9月末に公的資金293億ユーロ追加投入済み)

 11月29日 アイルランド国債利回りは9%強 ポルトガル7%強 スペイン5%半ば
 2010年10月末 EU首脳会議 投資家負担打ち出す(国債保有者に負担求めるメルケル発言 民間投資家に責任分担要求)→市場混乱
 しかし逆に納税者負担は正しいか
 アイルランドでは
 銀行社債保有者 銀行再編により損失負担求めないこと そして
 民間の国債保有者 必ずしも自動的に損失負担を求めない ことの明確化
 民間負担は自動的に発生しない ケースバイケースで判断する
 再建の元本削減というヘアカットは最後の手段 を明確化 → 信用不安の鎮静化
 民間負担 まずは保有の継続
      つぎに債務再編について民間投資家と交渉(前提 ユーロ導入国の全会一致)
 CAC集団行動条項を2013年7月以降に発行する国債につける(保有する投資家の多数決で償還期限・金利などを変更できる)
 国債保有者の代表者と債務者が意思疎通を図ることを可能にする
 では国民は 増税 社会保障給付削減
 ロスシェアリングの仕組み必要
 12月7日 アイルランド議会 来年度予算採択予定日
 12月10日 欧州連合とインドがブリュッセルで首脳会議 FTA締結交渉加速 2011年春妥結を目指す
 12月21日 アイルランド国債9%突破 ポルトガル国債6%台半ば

導入予定措置含む財政再建策(ギリシャは財政赤字を09年の15.4%を2014年末までに3%以下に引き下げる)
ギリシャアイルランド
付加価値税引き上げ19%から23%へ 年金支給開始年齢を10年近く引き上げ 2014年まで公務員給与凍結 クリスマス及びイースター休暇時の公務員ボーナスの廃止 など付加価値税21%から23%へ 一定額を超す公的年金支給額を平均4%引き下げ 水道料金有料化 大学授業料引き上げ 児童手当の削減 など

日経2010年12月21日より抜粋

S&P格付けによる各国の信用格付け
AAAドイツ フランス オランダ 米国
AA(弱含み)ベルギー スペイン 日本
A+イタリア
A-(格下げ検討)ポルトガル
A(格下げ検討)アイルランド
BB+ギリシャ(格下げ検討)

日経2010年12月22日より抜粋

2011年
 2011年1月3日 中国の李克強首相 地元紙とのインタビューでスペイン(財政赤字のGDP対比率11.1% なおギリシャは13.6%)国債買い増しの意向示す
2011年1月6日 ポルトガル政府(財政赤字のGDP対比率9.4%)が高利回り覚悟で市場から資金調達を表明 最大12億5000万ユーロ(約1300億円)の入札実施を発表→国際金利上昇 1月7日に7%強に スペイン国債は5%台に高止まり
 2011年1月6日 中国政府がスペイン国債を約60億ユーロ(約6500億円)買い増す意向
 2011年1月11日 日本政府は、アイルランドを支援するため月内にも欧州安定基金が発行する欧州金融安定化債EFSF債を1000億円程度購入方針固める
 2011年1月12日 欧州連合が欧州安定基金の拡大検討に着手
 2011年1月12日 ポルトガルが予定の上限を市場調達(国債入札) 応札倍率3.2倍 平均利回り6.7%(期間10年)⇔利回りの低下は欧州中央銀行による買い入れ効果が大きい 投資家の構成は海外保有者が減るなどの変化あり  2010年後半 海外投資家の保有比率 89%(09年当初)→66%
2011年1月12日-13日 ポルトガル、スペインが中長期国債入札を予定
 ポルトガルは4月45億ユーロ 6月の50億ユーロなどの償還を乗り切れるか

参照 
"The euro crisis:a contagious Irish disease?"in The Economist, Nov.27, 2010, pp.14, 18, 29-31.
Suzy Hansen, "Ireland Reckoning" in Bloomberg Businessweek, Nov.28, 2010, pp.82-92.
"The future of the euro:don't do it" in The Economist, Dec.4, 2010, pp.14, 55-56, 75-77.
「アイルランドを追い込んだ銀行不良債権の根深さ」『エコノミスト』2010年12月7日, pp.18-19
"France loses ground to Germany: Power shift" in The Economist, Dec.11, 2010, pp.51-53
田中理「ユーロ圏の防波堤 スペインをめぐる攻防に発展」『エコノミスト』2010年12月14日, pp.30-31
伊藤さゆり「アイルランド、EU・IMF監視下で銀行改革に挑む」『金融財政事情』2010年12月20日, pp.30-31
田中禎三「アイルランド支援を決定 ポルトガルも要請 ソブリン危機に発展も」『エコノミスト』2010年12月21日, p.16
佐久間浩司「欧州 ソブリン危機 ユーロ防衛の最終ラインはスペイン」『エコノミスト』2011年1月4日, pp.39-41
林秀毅「年明けも予断許さぬ欧州情勢」『金融財政事情』2011年1月17日, pp.32-35
朝倉慶「終わらない欧州危機」『エコノミスト』2011年1月18日, pp.84-86

イギリスについて
アイルランド救済に関連してイギリスについての議論
 ***イギリスでは大手英銀2行を実質国有化 2008年秋と2009年11月とに公的資金を投入した。RSSについては最初に200億ポンド。2009年に追加で255億ポンド(このほか状況による追加投入之約束が最大80億ポンド)。累積で455億ポンド。投入を受けた銀行は資産売却による規模縮小を迫られる。2008年秋以降のイングランド銀行の金融緩和姿勢も断固たるものだった(20081106 1.5%下げ:20081204 1%下げ:量的緩和視野20090109:20090109 0.5%下げ 政策金利は1.5% 1694年以来1%台突入は初めて2008年10月以来利下げ幅は計3.5% 利下げ回数は4回 この時点で米国はゼロ金利 日本は0.1%)。2008年秋いち早く銀行への資本注入決定。2009年3月には量的緩和策。国債 信用度の高い企業ガ発行するCP 社債など1250億ポンドの資産買い取り計画(2009年8月まで 250億ポンド追加可能 実際には7月まで計画を達成 6月に買い入れ対象を資産担保CPにまで拡大)。スウェーデンが1990年代前半の金融危機で直ちに銀行国有化を実施して1994年までに景気が回復したことと、日本の失敗が対比されている。
 背景には金融関連サービスはGDPの2割近く(3割とも)を稼ぐ英国経済の基幹産業だという側面がある。大規模の資金投入で不良資産処理を加速することで金融部門の再建を急いだとみられる。2010年5月の総選挙で労働党は敗北。保守・自由民主党による連立政権(5年間議会を解散しない合意)が生まれる(キャメロン首相 金融業偏重の是正 金融監督・譲渡益課税の強化などを表明 2010年5月28日演説 その後の6月22日の緊急予算案ではGDP比で10%(10.1%)之財政赤字の削減 2015年度に1%台(1.1%)にするを目指して 付加価値税の引き上げ2.5%上げて17.5%→20% 銀行新税 子供手当3年間停止 福祉給付抑制 公務員賃金の凍結 各省庁一律25%の歳出削減 他方 法人税の基本税率は14年までに28%から24%に引き下げるとした。その後、10月6日 保守党党大会でキャメロン首相は今後4年間 毎年平均7%の予算削減をして福祉の大幅なスリム化をするとした 失業手当の削減 児童手当での所得制限 VATの引き上げなど)

originally appeared in December 5, 2010
corrected and reposted in January 17, 2011

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