Entrance for Studies in Finance

大手証券会社の業務概況(2010年6月末)

Hiroshi Fukumitsu

伝統的には 
 ブローカー業務(委託売買)
 ディーラー業務(自己売買)
 引受(アンダーライティング)業務
 売り捌き(セリング)業務

この4つの区分だが、私自身は、株式市場を念頭において、どこから収益を稼いでいるかで分けた方がよいと考えている。順に委託売買手数料、売買損益、引き受け手数料、売り捌き手数料である。

(ブローカー業務とディーラー業務を証券会社が兼業することは顧客との関係で利益相反の恐れがあるというのは昔から指摘される論点である。この問題に関連して、辰巳憲一さんは『日本の銀行業・証券業』東洋経済, 1984年刊行のなかでしかし「継続的に営業している証券会社にとってディーラー業務は顧客間の証券売買をあわせ持つことも注意しなければならない。売買をしようとする顧客が市場の売買の相手をさがせないとき、証券会社が一時的にその相手となって売買を成立させ、後に証券会社自身が売買の相手をさがすことにより、市場における売買を円滑にしているからである」と述べている(p.30)。またディーラーにはマーケット・メーキングという公共性があるとして、あらかじめ定められた「すべての債券について売値と買値を市場に提示し、その価格で顧客からの売買注文に応じるのがディーラーのマーケット・メーキング機能である。そのためにはいつでも顧客の注文に応じられるように品揃えし十分な在庫をもつことが必要になる。価格付けされたどのような価格ででもどれだけの量でも売買に応じるというディーラー業務の必須条件はいってみればディーラーの公共的性格を構成する」(p.31)とされた。この辰巳さんの指摘は、まず債券市場を念頭に置いたものであること、証券会社の機能区分をどこから利益を得ているかではなく、どのような経済的機能を果たしているかで区分していることなどを指摘できる。そのために債券ディーラー間の売買にまで、ディーラーがマーケット・メーキング機能を負っているかのように、また表示された価格でどこまでも売買に応じるといった、現実にはありえないディーラーの姿が描かれている。
同じように証券会社の機能を考えるときに、債券市場を念頭に置き、証券会社の機能を説明しているものに丸淳子の『証券市場』新世社, 1990年がある。同書は教科書だが、多くの図版を用いて、数量的に証券市場の営みを紹介している点が優れている。つぎのように述べている。「ディーラーが積極的に取引仲介を行うのに対して、ブローカーは消極的に仲介する。すなわち、ブローカーは潜在的な取引を探知して、取引の成立を促進させるが、自己勘定で在庫を保有して取引の流動性を与えるということはしない。投資家が各自で取引相手についての情報を集めるにはかなりのコストがかかる。ブローカーによる探知に必要なコストが割安であれば、投資家は喜んでブローカーを利用し、探索コストである売買手数料を払う」(p.10).この丸さんの言い方には疑問が残る。ブローカーの手数料の本質は取引相手を探す探索コスト?なのだろうか。「ディーラーも投資家の売買を成立させるために行動するが、投資家の売買を成立させるために行動するが、ブローカーよりさらに積極的である。債券売買のように、売買注文が連続的でないとき、投資家は瞬時に売買できないばかりか、待ち時間中に生じる価格変動リスクも負担しなければならない。ディーラーは投資家の注文に対して、取引相手が見つからないときは、自分が相手になって取引を成立させる。このためには、デイーラーは自己勘定を保有している。」「ブローカーやディーラーのサービスは投資家による迅速な取引を提供するから、投資家はこのサービスに対してのフィーを支払う。ディーリングフィーの方がブローカレッジフィーより高いのはディーラーが在庫保有などに必要なより高いコストを負担しているからである」(p.107)この丸さんの書き方だと、ディーラーとブローカーの区別は、在庫をもつかどうかだけのようだ。またディーラーの収益源泉はそのフィーだとも取れる。
この丸さんの場合も証券会社の機能を債券市場からみるために現実とのかい離が生じていること、業務内容を経済的機能でまとめようとしたためブローカーとディーラーとの区別性が曖昧になっていること、など辰巳さんと共通する問題点を指摘できる。
近年のテキストから川北英隆さんの『テキスト 株式・債券投資 第2版』中央経済社, 2010年の説明は以下のとおりである。
「ブローカレッジとは、投資家からの有価証券注文を受け取り、取引相手を見つけ出す業務である」「ブローカーは売買が成立したときに委託売買手数料を受け取る。」(p.140)
「ディーリングとは、投資家から有価証券の売買注文に対して、業者が直接、相手方となる業務である。...債券店頭市場での取引、株式の取引所外取引はディーリングの形態をとることで成立する。」(同前)
「ディーリングでは、投資家が売りを注文した場合、それを買い取る必要が生じる。買い取らなければ機能の発揮ができない。逆に、投資家が買いを注文する場合、それに応えるためには買い注文の出そうな証券を日頃から保有しておかなければならない。逆に、投資家が買いを注文する場合、それに応じるためには買い注文の出そうな証券を日頃から保有しておかなければならない」(同前)
丸さんと川北さんの説明に共通する疑問を整理しておく。それはブローカーではなく、注文した投資家が探索していると思われること。そしてブローカーが提供しているのは、探索の手段(場所)であって、ブローカーが相手を探してくるわけではない、と私には思える。川北さんは別の株式流通市場の個所では、投資家の注文を証券取引所に伝達する証券会社の機能について「この証券会社の注文伝達機能はブローカレッジ機能と呼ばれる」と説明している(p.111)。この説明の方がブローカレッジの説明として、私には理解しやすい。またデイーリングでは、ディーリングする側の意思が問題であるはずなのに、まるでマーケットメーカーのように注文に応じることが義務であるかに説明されるのはどうも納得できない。川北さんの場合も債券市場から証券会社の機能をみるところがある。辰巳さんの指摘にもあったが、債券市場で証券会社は、自己勘定をもって顧客に向き合い、ディーラーとして顧客に金融仲介サービスを提供している。
「伝統的な債券店頭市場は電話回線で形成されている。投資家のほとんどは銀行や機関投資家などのプロである。その投資家が特定の債券を売買したいと思ったときには、複数の証券会社に電話をかけ、最も有利な値段を提示した証券会社と売買を約定する。
 一方、証券会社は投資家の買いニーズの多い銘柄を自己勘定で保有している。同時に、投資家が売却したいと希望した銘柄を一時的に自己勘定で購入することも多い。債券店頭市場における証券会社は、自己勘定を用い、顧客の売買注文に応じるデイーラーとして金融仲介機能を提供していることになる。」(p.127)他方で証券会社がほかの証券会社を相手にするときはbroker's bokerと呼ばれる仲介を専門にする証券会社が多用されているとのこと(pp.127-128))

ka
最近では
 マーケット業務
 投資銀行業務
  M&Aのアドバイザリー(助言)
  プリンシパルインベストメント 

トムソンロイターのリーグテーブル

野村證券組織機構図(2011年12月1日現在)
金融市場本部 エクイテイ本部 企業金融本部 業務管理本部 グローバルリサーチ本部
大和証券組織図(2011年10月1日現在)
管理系10部1室 商品本部 営業本部 ダイレクト本部 SMA本部
  ⇒ラップ口座 SMA 
三菱モルガンスタンレー証券本店組織図(2011年11月24日現在)
事業法人部第一部~第七部 金融法人部 公共法人部 事業法人営業部 法人営業部 公共公益法人部 
  営業部第一部~第四部 お客様サービス部 プライベートバンキング部 総務管理部 

2010年6月末 証券会社の数は302社 そのうち取引所参加者は117社 資本金で100億円以上は27社 本店を含む店舗数は2236ケ所。従業員数は94,186人であった(日本証券業協会統計情報参照)。
主要5社という言い方がある。これは野村、大和、三菱UFJ、みずほ、日興コーデイアル。このうち三菱UFJと日興コーディは非上場である。この5社では野村の存在感は大きい。営業収益でみると大和、三菱UFJ、みずほの倍近く。日興コーデはさらに大和などの半分。2008年秋 野村がりーマンのアジア太平洋部門と欧州中東部門を買収したこと(資産を引き継がず、雇用を引き継ぐ形で人的資産を買収したことは興味深い 前者が3000人 後者が2500人 IT関係の人材を含めると8000人が合流し、野村の社員数は1.4倍に膨れたとされる)、またやはり2008年秋に三菱UFJとモルガンが組んだこと、2009年秋には日興コーデが三井住友の傘下に入ったこと、など、大きな変化が相次いで起こっている。

4-6月期の推移(2008年 2009年 2010年)
2010年については 投資銀行業務 個人営業 有価証券売買の主要3部門が不振だった。
社名、営業収益(各年)、最終損益(各年)の順。単位は億円
社名200820092010200820092010
野村2,5783,6352,598-756 114 23
大和1,6531,321 71658 178 -11
三菱UFJ* 1,4341,028 664-69 132 227
みずほ1,471 953 553511,295 4
日興コ―デ*855 424 55068 82 102
岡三150 188 1577 17 16
SMBCフレンド*138 190 14227 51 20

*非上場 上から5社が主要5社である。2008年のみずほは旧新光と旧みずほの合計。ネット証券はこれらの主要証券より下位になる。ネット証券はネットを通した個人ビジネスが中心。営業収益水準でみると、外資系証券は主要証券の4分の1程度の規模のものとして、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレーの各日本法人。5分の1程度の規模としてドイツ証券、UBS、メリルリンチ、リーマンブラザース、クレディ・スイス、JPモルガンなどがある。その特徴はM&A、不動産ファンド、証券化業務など投資銀行業務を中心とする点。外資系では2007年後半以降2008年にかけて大幅な人員削減があった。このうちリーマンが2009年9月に破綻したのであった。
 株式低迷 投資信託の収入が株式の委託売買手数料より大きくなっている(主要5社では投信の手数料は株式の手数料の1.6倍)。ネット証券ではFX関連の収入が株式委託売買手数料の伸び悩みを補っている。しかし投資信託の販売は2010年7-9月に入ると低迷。投信に依存した収益にも限界が出てきた。そこで外国為替証拠金取引に取り組む動きはあるものの、投資家の株式離れが深刻な状況にあるとの認識が広がっている。

2010年4-6月期の手数料収入 単位:億円
社名投資信託株式
野村678621
大和302160
三菱UFJ25864
みずほ100105
日興24370


  2009年の公募増資 2008年の10倍強 
  2009年の普通社債 11年ぶりの高水準 

上場会社における主幹事企業数
社名2008末2009末
野村 1,416 1,389
大和 810 772
日興 694 624
みずほ 308 307
三菱UFJ 246 259


主幹事証券
 大和証券 三井住友との合弁解消(2009末)による負の影響 大和は三井住友の出資比率引き上げの申し出を断り合弁解消へ 信用力低下 顧客離れ 大和の読みは銀行と証券を分離する規制強化 大和の読みはその後 アメリカの規制強化によりあたったものの合弁解消による法人事業の弱体化が目立つ 大和CMは独立系として再出発→発行企業に有利な低い利回りで主幹事証券を得ようとと努力 危機感あり 2010年5月 香港 インド シンガポールで増資を実施。韓国でも2010年度内に増資予定。   
 日興コーディアル証券 2009 シティGによる売却方針
 2009年10月三井住友FG傘下に入る 関係薄かった三井住友系を開拓 三井住友の支援を得て、欧米アジアに再進出(日興は旧トラベラーズG:現シティGと提携後、順次海外から撤退した)。公募増資や債券発行では海外の投資家からも資金を募るほか、債券引き受け 円建て債起債支援のほか、日本企業の海外企業の買収などで仲介助言を行ううえで海外展開は不可欠。2010年10月にロンドンの拠点を12年ぶりに復活。2010年度中に香港、NYに拠点設置へ。
               三井住友FGの公募増資で主幹事獲得   
               三菱系から離れる
 みずほ           2009年5月 新光証券と旧みずほ証券が合併
               2010年夏 インドに現地法人設立とも

金融庁の孤立した業務分野規制緩の継続姿勢
2009年6月 金融庁は、サブプライム危機後の環境のなかで、既定方針に従い、銀行と証券の兼職規制を緩和、顧客から拒否されなければ銀行証券間の情報の共有(1999年には包括同意書を前提に情報共有を認めた 共同訪問も解禁)を認めた。
 これは2004年に銀行に証券仲介業務を解禁。1998年の金融持ち株会社解禁、1993年の相互参入解禁などと並ぶ、金融証券の業務分野規制緩和の歴史的な一歩ではあるが、サブプライム危機後、金融機関に対する厳しい視線を全く考慮しない決定といえる。
 欧米では金融危機を踏まえて、資本規制と業務分野規制のいずれも強化の方向にある。狭義の自己資本比率は現状で2%に対し、7%。大手行に対してはこれより厳しい規制を上乗せすることは確実。日本の銀行の自己資本比率は、依然として国際的にみて低い。金融機関に自助努力を促す国際的動向とこのようにかい離していると、日本は金融機関に自助努力を促さず、公的資金で救済するつもりなのかと批判を浴びかねない。加えて業務分野規制をなお緩和しようとする金融庁の姿勢には、違和感が強い。
 金融庁の業務分野緩和方針を受けて、みずほは、2009年7月 兼職制度を導入 みずほコーポ内の営業に兼職者(ダブル・ハット)を配置した。三菱UFJはこの情報共有制度を採用した。しかし銀行と証券の間の情報の共有に対して企業側には抵抗感がある。また米国で進展した規制強化と金融庁の規制緩和方針は正面からぶつかっており、金融庁との規制緩和方針は、金融機関の国際的展開と齟齬を生ずる可能性も高い。 
 たとえば三菱UFJ証券。2008年秋 三菱UFJがモルガンに90億ドルを出資 当初 モルガンの日本国内の証券子会社を三菱UFJ証券と全面統合する計画を立てた。しかし監督規制の点で問題が生ずることがわかり、結局、2010年5月に、三菱UFJモルガンスタンレー証券とモルガンスタンレーMUFG証券とを発足させた。前者や個人向け+投資銀行業務、後者が法人向けだが、顧客と業務の重複を懸念されている。しかしこのような矛盾が露呈した一因は、規制強化が流れを無視して安易に統合の利益を追求した点にあるのではないか。

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