Entrance for Studies in Finance

ネット証券 online brokers

Hiroshi Fukumitsu


2007年には個人売買の9割がネット経由に
 インターネットを通じた証券売買を仲介する証券会社をネット証券と呼んでいる。ネット証券は1999年に登場(背景には1999年10月の株式委託売買手数料自由化)。格安手数料を武器に成長した。米国ではonline discount brokersという言い方がある。米国では1970年代後半に、投資のアドバイスまでするfull service brokerに対して、discount brokerがまず登場し、続いてインターネットの普及とともにonline discount brokersが登場する。
 2007年度上期07/04-09)をとると個人売買代金に占めるネット経由売買比率は90.4%(135兆円のうちの122兆円。06年度下期06/10-07/03は87.4%)であった。またネット投資家の2割ほどは携帯で取引しているとされている。
 大手証券でも手数料を店頭より安くして、個人については明らかにネットへの誘導を図っている(07/04-06。大和で8割 日興で75% 野村で57%という)。(09/04-06では大和86% 日興82% 野村61%)

ブロードバンドの普及
 もちろんこの背景には、ブロードバンド(高速大容量)通信の普及がある。2007年6月末のブロードバンド(毎秒数メガビット 100万が1メガ)の世帯普及率は全国平均で52.5%に対し関東一都七県では61.8%(前年同期56.2%)でいずれの数値も半数を超えている。なかでも東京都は70.1%(64.1%)、神奈川県は64.5%(59.0%)などと高くなっている。また光回線の普及率は、全国平均が18.7%に対して関東一都七県では23.7%(16.0%)となっており、超高速の光回線が全国平均でも5分の1の世帯にすでに普及している。
 国際電気通信連合ITUのブロードバンドの定義では毎秒256キロビット以上で人口普及率をとっている。2007年末でデンマーク36.0%、韓国30.5%、ドイツ23.7%、オーストラリア23.3%、米国23.0%に対して日本は22.1%。なお中国は5.0%。
 韓国と日本は高速(毎秒100メガビットの光回線の比率がおよそ半分と高い。ドイツやイギリスはDSL[ADSL:電話回線を使ったデジタル高速回線]の比率が高い。米国やオランダはケーブルの比率が高い)。

スマートフォンの普及
 スマートフォンの普及もネット証券取引の拡大にはある程度寄与するであろう。
 スマートフォン(主要メーカーはフィンランドのノキア、ブラックベリのカナダのRIM research in motion、iPhoneのアップルなど 台湾のHTC 韓国のサムソン電子が追う スマートフォンの普及によりデータ通信利用が増えるとみられる 国内はシャープ、パナソニックモバイル、富士通、NEC、京セラの順 なおNEC カシオ 日立が携帯電話事業を2010年4月に統合 NECカシオモバイルコミュニケーションズは発足時国内2位になる予定)の普及(日本では2008年7月にソフトバンクがiPhone3G発売したことが画期 2005年のiPOD上陸によりネットコンテンツ市場が拡大 2007年のネットコンテンツ市場の規模は約1兆円 また2008年の携帯ビジネス市場の規模は1兆3524億円)とともに高速無線通信網(次世代高速無線技術WiMAX:KDDI系UQコミュニケーションズが2009年7月開始では毎秒受信で40メガ、送信で10メガビットで接続できるとのこと ただしエリアになお問題残る 2010年後半以降 光ファイバーなみの毎秒100メガビットの受信が可能なLTElong term evolution:3.9世代携帯3.9Gも射程に入っているがこちらも基地局の整備が課題)の整備が課題になっている。
第2世代G2 デジタル方式
第3世代G3 音楽・映像もやりとりできる 2001 NTTdocomo FOMA
 光ファイバー自体の大容量化技術も開発が進んでいる。KDDIなどは現在の9倍の容量のものを開発、2012年の実用化を目指している。

口座数などの変化
 ネット証券の大手5社とされるのはSBIイートレード証券(07/10 SBI証券を吸収合併)、楽天証券(楽天と連携)、松井証券(三菱UFJの出資15%を受け連携へ07/07)、カブドットコム証券(三菱UFJ系 2011年10月中にも私設取引終了に。投資家の利用が伸び悩んだとのこと)、マネックス証券(2004年に旧日興ビーンズを統合 2010年10月に旧オリックス証券を完全子会社化 2011年4月 米国のネット証券トレードシテーションGを4.1憶ドル、339億円で買収へ)の5社。
大手5社の2007年度上期の売買高は89兆9200億円であった。ネット売買に占める大手5社の占有率は73.7%である。2008年1月末の5社の口座数は447万6000(07年10月末で442万口座 07年3月末で406万口座 07年2月400万超え400万8000 06年2月末300万超え318万7000 20005年12月末で267万口座 05年6月末200万超え)。その後、口座数は08年11月末には485万。09年3月には500万を超えた(証券売買が実際に発生する口座は2006年以降あまり変化がないとされる)。その他の証券会社分を合わせるとネット口座数は2009年3月末で1500万口座を突破している。

ネット証券は格安手数料で支持されている
 これらの中で手数料の点でSBIイートレードが支持を集めているとされる。2007年の個人売買代金265兆円9.6%減のうち、SBIイートレードは92兆円4.1%増。24.8%(4.6%増)。口座数は07年末で154万(06年末135万口座)。2位は13.7%の楽天証券。(2010年の個人株式売買シェアはSBIが35%、楽天が15%、松井が8%、マネックスとカブコムがそれぞれ7% 大手5社の株式券の中でイートレードに支持が集まるのも業界最低とされる手数料率にある。大手5社の株式売買代金のピークは2006年でおよそ200兆円。それが2009年には半減。2010年には2006年の57%減の86兆8000億円余り。)
 SBIイートレードは現在は圧倒的だが、松井が三菱の出資を受け入れたことから、松井とカブコム(三菱UFJ系)が一体化してイートレードを追撃する可能性も排除できなくなっている。SBIイートレードとカブコムがぶつかっていることを示す今一つが、夜間取引市場をめぐる両社の綱引きである。
 ネット証券全社が扱うのは、現物株のほか、外貨MMFそしてFX。松井は、投信や外国株は扱わず、コールセンターを充実させるなど、顧客の中高年を意識した体制。カブコムは売買注文で最も多数の注文種類を並べている。カブコムは投信は扱うが、外国株、海外ETFは扱わない。SBI,マネックス、楽天は、投信、外国株、海外ETFのすべてを扱う。
 投信の販売については、大手と顧客の奪い合いをしている。
ETS(PTS)について 

  5社平均料率
2002年度 0.125%
2005年度 0.074%
2006年度 0.058%


社名 2006年度の料率
マネックス 0.107%
松井 0.091%
カブコム 0.079%
楽天 0.045%
イートレード 0.033%



 なお2006年の個人売買代金は321兆円19%増であった。
 口座開設は容易であるので当然ながら複数のネット証券に口座を持つ人が多い。2007年5月におこなわれた調査によると平均口座数は2.5。

2007年にネット証券は売買高の減少を初めて経験した
 この間、大手5社の株式売買代金(売り買い合計ベース)は毎年伸びてきたが、2007年は2006年比で8.3%減の185兆円(2006年は202兆円 2006年度も2.5%減の187兆円)。初めての減少は注目される。このような売買代金の変化の中で、収益源の多様化が、ネット証券についても求められる。たとえば信用取引による金融収益。投信の販売手数料など。信用取引では株下落時も収益のチャンスがあるとすることで、下落時に売買を促すこともできる。投信は販売手数料が得られ、その後は信託報酬を得られ安定収入となる。


逆風下での業績格差
 2007年度上期の連結業績をみるとマネックスと楽天が減収減益。イートレード、松井、カブコムが増収増益と業績格差が顕著にでた。イートレードととカブコムは株式売買の落ち込みを投信販売で補った。イートレードは信用取引で自己融資の比率を上げたことで金融収益を改善し、カブコムは投資有価証券売買益も利益に加えた。松井は投信を扱っていないが、2006年9月に行った信用取引の手数料無料化を2006年12月に有料に戻した結果、増益を確保した。
手数料で劣位にあるマネックスは個人売買の減少の影響が大きく、楽天はシステム関連損失(システム障害が多発しているにも関わらず適切な防止策をとらず金融庁から行政処分を2度にわたって受ける失態を演じ評価を落とした)が大きく、それぞれ減益となった。

2009年夏の手数料値下げ競争の再燃
2009年7月13日午前に業界2位の楽天(シェア1割超)が値下げを発表(2009年8月3日から最大58% 7月11日報道)。これは業界1位の(シェア4割超)ぼSBIに対抗して顧客を囲い込む作戦とされた。これに対して同日午後業界1位のSBIがさらに低い料率を提示した。再度、楽天は引き下げ方針を示すと、7月16日、一段と低い料率を打ち出した。これは業界最低水準の手数料という看板死守を図ったもの。
 この動きに対して、松井は静観の構え。また株式売買のシステム契約を見直して利益率の改善を図った。
 これに対しカブコムは2009年9月1日から信用取引の手数料無料とする範囲を、前営業日取引残高あるいは新規取引額が9000万以上から8000万以上に引き下げ、信用取引に焦点をあてて顧客囲い込みの作戦に出た。

2010年度前半 減益に苦しむネット証券
しかしながら株式売買が低迷したこともあり、2009年から2010年にかけて、ネット証券は減益に苦しむことになる。収益源として外国為替証拠金(FX)取引や投資信託の販売の収入などの拡大が貢献したものの、株式委託手数料の減少の影響を補いきれなかった。外国為替証拠金取引については2010年8月からの規制強化により取引が減少したことも響いた。
 2010年4-6月期、大手ネット証券5社は株式売買の低迷がたたり、営業利益で黒字であるが松井を除く4社は前年同期比で減益。純利益では純利益で黒字であるが、SBIと楽天を除く3社は前年同期比減益だった。
 2010年7-9月期、株式売買低迷の影響は続き、営業利益、純利益ともに5社すべてが前年同期比減益となった。
 ネット証券各社では、投資信託、外国為替証拠金取引、デリバティブなど株式売買以外の取引の強化に取り組んでいる。

ネット証券での月間売買高は2005年12月の25兆円をピークに減少。2006年1月のライブドア事件は投資家を離反させた。08年8月には8兆8400億円と3年3ヶ月ぶりの低水準。口座を開いたものの、株安で様子見で取引しない個人投資家が増加する結果になっている。その後月10兆円台が平均。しかし2009年9月には7兆円台、さらに2009年11月に売買は6兆5597億円まで落ち込んだ。その後2010年3月に8兆5082億円まで回復しものの2009年度売買高は106兆5350億円(2009年は106兆3605億円)と低水準。
 この状況でネット証券は収益事業分散のためFX(個人外国為替証拠金)取引仲介を広げている。また野村証券がジョイベスト証券を2009年11月に吸収。2010年5月にはマネックス証券(3位)とオリックス証券(7位)が合併するなど(SBIに次ぎ業界2位へ 3位が松井 4位が楽天 5位がカブコムに変化)、再編も進んでいる。株式売買低迷の原因としては、円高による企業業績の悪化、企業による公募増資の強行で、株価が落ち込んだことが大きい。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Mar.13, 2008.
Corrected and reposted in May 1, 2010 and Dec.10, 2010.
 
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