Entrance for Studies in Finance

ヘッジファンド hedge funds and prime brokerage

はじめに

 ヘッジファンドはアクティブファンド(積極的運用)の代表格。ヘッジファンドの不調はそのリターンの低さに現れるとされる。単純にインデックスに負けるファンドが多い。市場の大きなトレンドはインデックスファンド(指数型ファンド パッシブファンド)へのシフトである。アクテブ運用はコストが高い(ヘッジファンドは2%の運用手数料 20%の成功報酬が一般的)と指摘されるなか、ヘッジファンドからの資金流出が続いていた。こうしたヘッジファンドの不調に対して、背景にある問題は何か。一つは8500にも及ぶというファンドの過剰競争。人気の手法や株式に資金が集中する結果、収益が低下するジレンマのなかにある。2015年はヘッジファンドの45%がマイナスの運用成績だった。2016年7月までの平均はプラス3%。これは同期間のS&P500の上昇率の半分以下だった。もう一つは世界の株式の売買の5-6割、国債市場では9割以上を占めるに至った高頻度取引HFTの増加。この結果、他人の裏をかく投資手法が、市場で通じなくなったとされた。ヘッジファンドの運用収益はその後2016-2017年と復調。運用残高も漸増を続けた。しかし他方でコストが安い、指数型のパッシブファンドが資金を集める傾向もあり、高頻度取引を活用する商品投資顧問CTAにも注目が集まっている。しかし市場の変動が大きくなると、英国のEUからの離脱や、トランプ政権の発足など、想定を超えたことが連続するなかでは、パッシブでは収益確保がむつかしくなり、積極型に資金が回帰する傾向もある。

1.ヘッジファンドとは何か
 ヘッジファンドについて、確定した定義があるわけではない。運用手法として理解することもできる。山内秀貴さんは、ヘッジファンドは、コモデティ(商品)、プライベート・エクイティ(非公開株:PEファンド、ブラックストーンG KKRコールバーグ・クラビス・ロバーツ)、不動産などとともに代替的投資(=オルタナティブ投資)の一つ(一般的な上場株式や債券と異なる収益性あるいは相関性を示す。伝統的な株式債券と相関ひくい。レバレッジの活用。派生商品に投資。成功報酬。マネージャーはファンドに自己投資。伝統的な投資に比べ高めの収益を期待できる 安定収益を目指す)であって、「運用の柔軟性」「絶対的リターン志向」「成功報酬制incentive fee」という3つの特徴をもつ運用手法だとしている(山内秀貴「ヘッジ・ファンド」宇野淳監修『アセットマネジメントの世界』東洋経済新報社, 2010年, p.112。山内秀貴さんは日本興銀を経て和製ヘッジファンドのCGIキャピタルを2000年に創業した方です)。
 たとえばロングショート(割安なものを買って割高なものは空売りする) イベントドリブン(買収・倒産など企業に関連するイベントを利用する デイストレストもあり) グローバルマクロ(経済予測により資産間のマクロ的不均衡に注目) レラティブバリュー(資産間の価格差に注目) マーケットニュートラル(買いと売りをバランスさせる。低リスクの安定収益めざす)。
 なおヘッジファンドの運用手法として、「リスクパリティ」という運用手法も近年注目されている。これは運用しているさまざまな資産のリスクを均等にすることで、安定した収益を目指す運用手法。ただし相場が荒れて株のリスクが高まると、リスクパリティでは、株の売却圧力が高まり株はさらに押し下げられるとの指摘がある。
 ヘッジファンドと運用の高速化、HFT取引との関係も注目されるが、ヘッジファンドにおいてもコストを抑えたAIを活用した方法 ATS自動売買システムが活用されるようになった。そうした流れの中で、伝統的なヘッジファンドと一線を画す形で登場してきたのが商品投資顧問CTAといわれるもの。その特徴はロボットによる高速度運用だというから、このATSや高頻度取引HFTを活用したもの(アルゴリズムを使ったHFT)だといえる。なお相場の方向性についてCTAは市場追随型とされる。CTAを(ヘッジファンドの一つの種類とみて)ヘッジファンドに入れるか区別するかは一つの論点だが、少なくとも、伝統的なヘッジファンドが減る中で、収益が堅調だったCTAが伸びたという言い方がある。

 個人向けヘッジファンド型投信(2010年1000億ドル超え 2014年3000億ドル超える)

 2015年後半 運用に低迷傾向 運用総額伸び悩み(2012年4-6月以来の減少 2015年4-6月 3兆ドルに9迫っていた 2009年1.5兆ドルから増加)運用残高はその後漸増を続け、2017年12月末には3兆2000億ドルに達した。つまり2013年のあと2014年2015年と運用収益が低下を続け、ヘッジファンドの将来も心配されたが、2016年2017年と運用収益は回復を続け、運用残高も次第に増えた。

 2015年 高い手数料(運用委託報酬2% 成功報酬20%)にもかかわらず運用低迷が目立つようになった。市場平均に劣後することも→ カルパース(カリフォルニア州職員年金) ヘッジファンドでの運用停止()運用総額の1.3%に当たる40億ドルを運用)を発表 公的年金のヘッジファンド離れ(2014年11月)カルパースはもともと慎重。11年9月に新設ファンドへの投資始める。テキサス州教職員退職年金 カナダオンタリオ州教職員年金基金などははるかに積極的(2011年11月時点)

 しかしヘッジファンドがその割高な手数料に見合った収益を上げていないとの批判は強く、指数連動型のパッシブ型に資金が流れる傾向はその後も続いている。こうしたパッシブ型が支持される今一つの理由は、株価が基本として右上がりだということだ。そこで逆にこの「右上がり神話」が崩れるとパッシブから資金が流出する、全く逆の現象も考えられる。事実、2018年に入り株価が下がると、パッシブ型からの資金流出も確認されるようになった。

 ヘッジファンドは影の銀行shadow bankingとしても批判される 銀行以外の金融業態を広くさす場合があるヘッジファンドのほかSPV ETF(上場投信)

 投資対象は株式、債券、商品、通貨など幅広い。投資手法は先物、オプションなど派生商品取引をはじめ、金融取引の先端的手法が活用される。高度な金融技術を用いて機動的に収益機会を対処することで、相場の上げ下げに関わらず一定の収益獲得を目指す。ロング(買い持ち)とショート(売り持ち)を組み合わせて絶対リターンを追及する。一般的には、私募であること、投資のリスクを判断できる人のみを相手に大口資金を受け入れること、税金が安い租税回避地(tax haven)などに住所を置いていることなどから、開示や運用についての規制を回避して実態がわかりにくいファンドでもあること。
 ヘッジファンドの大きさは従って推計の数値があるだけである。よく引用されるHedge Fund Research社の資産残高数値は、1990年頃の極めて小さな数値から2000年の頃には5000億ドルに成長。2005年末には1兆ドル近い(8000本)。2006年3月末に1兆2000億ドル(9000本)。さらに2007年前半に1兆5000億ドル近くまで成長。ピークは2008年6月末の1兆9511億ドル。その後解約急増。2009年4月末1兆2888億ドルが底(1兆3000億ドル割れ)。その後 残高を回復しつつある。
三井物産の浅川博人さんは、つぎのように述べています。2007年時点の市場規模は約140兆円、ファンドの数は8000以上に及ぶ。日本でも2006年時点で約7兆円の投資残高があると(浅川博人「新しい投資ファンドの動き」三好秀和『ファンドマネジメントの新しい展開』東京書籍, 2009年, p.172。)。なおオルタナティブインベストメントでヘッジファンドとほぼ同じ規模があるのはプライベート・エクイティで2005年時点の市場規模は約130兆円、日本の規模は約1兆5000億円。その次がおそらく不動産で、そのうち不動産投資信託の規模はピークの2007年で約90兆円だったと紹介しています。前掲書, pp.174,176.
 ヘッジファンドにお金を出しているのは、アメリカでは年金基金、銀行、生保、個人富裕層だとされる。また欧州では、個人富裕層と年金が主体だとされる。しかし最近では数多くのヘッジファンドに分散投資するファンズオブヘッジファンドが、投資の主人公になり、こうした間接投資には、比較的堅実な投資を好んできた個人や年金のお金が巻き込まれつつある。
 ヘッジファンドの報酬は、資産価格上昇の2割といった形での成功報酬体系であるので、投資家と運用者の利害が一致しやすい(このほかに年1.5%程度の管理報酬management feeを要求します)。
 ヘッジファンドについては2006年9月に米国でアマランスアドバイザーズというファンドが天然ガスの運用で約60億ドルの巨額損失を出し破たんし解体に追い込まれたことから、再び社会の注目が集まった。2007年にかけては、先進国首脳会議(サミット)が、ヘッジファンド規制に熱心な社会民主党政権下のドイツで2007年6月に開催されることもあり、ヘッジファンド規制に関わる議論も盛んになったが、背景にはヘッジファンドの資産規模の急増があった。

2.ヘッジファンドをめぐる3つの事件
 ヘッジファンドが注目されるのは、これで3回目だとされる。最初にヘッジファンドが注目されたのは、1992年9月にジョージ・ソロスGeorge Soros(1930-)がしかけたポンドの空売りであった。ソロスが運用していたのはクオンタムファンドと呼ばれるファンド。歴史的にはこのファンドの歴史は1969年までさかのぼれるとされる。つまりこの空売り事件までは、ヘッジファンドの問題は、社会の大きな関心事項ではなかったともいえるのである。
 この事件が起こる前の1990年10月に一方では東西ドイツの統一が実現し、他方ではこれも長年の懸案だったイギリスのERM(ヨーロッパ為替相場メカニズムexchange rate mechanism 1999年1月にEUROになるものの前身)への参加が実現した。イギリスはもともとERMへの参加を避けることで金融政策の独自性を確保してきたので、これは大きな政策変更だった。ところがドイツには東ドイツの復興需要の期待から多額の資金が流入しインフレ傾向となったので、ドイツ政府はこれを高金利で抑えようとした。ERMにより為替相場の変動幅を制約されているヨーロッパ各国は、この結果、ドイツに合わせて高金利政策を取らざるをえなくなった。そしてイギリスは国内の景気の悪化にも関わらず、ERMに参加しているため高金利政策をとるという矛盾に落ち込んでいった。
 そうした矛盾が高まっていた1992年秋にソロスが仕掛けたのが、90億ドルとも言われる大きさのポンドの空売りだった。これは当時としては大変巨額だった。イギリスやイングランド銀行は、ポンド買いで防戦し、ついには9月16日1日で公定歩合を10%から12%、さらに12%から15%に2回引き上げるという強硬手段に出たが、防戦買いに失敗。翌日ERM離脱に追い込まれソロスは巨額の利益を得た。これはヘッジファンドの存在がいかに大きくなっているかを社会に示す事件になった。
ヘッジファンドが世間の注目を集めた2度目の事件は、1998年9月のアメリカのヘッジファンドLTCM(Long Term Capital Management)の破たんである。破たんの直接の原因は、1998年8月ロシア政府が行ったモラトリアム(支払停止宣言)にある。ロシアでは当時国内ではガイダールというエコノミスト出身の副首相の指導のもととられた価格自由化政策によって、歯止めのないインフレが進行していた。そして200%を超える高金利になっていた。国外からロシアへの投資は、ロシアルーブルの暴落と高金利の二つの面でもうかったはずである。ところが1996年から1998年にかけて国際石油価格がほぼ半値に暴落したことで、ロシア政府は対外的支払能力を失いモラトリアムに至ったのである。
 LTCMはSolomon BrothersのProprietary Trading部門のヘッドであったJohn Meriwether(1940-)がノーベル賞受賞者のP.MertonやM.Scholesを役員に迎えて1994年に始めたヘッジファンドで、設立当初から10億ドルを超える巨額資金を集めた話題のファンドであった。運用失敗の原因ともいえる運用のコンセプトには、信用リスクスプレッドの縮小を見込んでいたという大きな誤算があった。その結果、ロシア国債を買って日本国債を売る、MBS(米住宅抵当債券)を買ってトレージャリー(米国債)を売るといったポジションを取っていた。しかし実際に起こったことは、スプレッドの異常な拡大だった。1998年7月に40億ドルといわれたその資産は、ロシアのモラトリアム宣言後には6億ドルにまで減少破たんした。米連邦準備制度理事会の指導で大手銀行が総額36億ドルを出資しLTCMを破たんから救済したと伝えられる。つまり中央銀行が介入して破たんを防がざるを得ないほど、この破たんは金融システム全体に大きな影響を与える可能性があったということである。
 なおヘッジファンドの運用資金額はすでに巨大になっているが、市場でその影響力がさらに強まる理由は、資金の借り入れや、先物・オプションなど金融派生商品取引を活用して、「レバレッジを効かせた」つまり自己資金より比べて数倍大きな取引を行っているからである(この数値をレバレッジの倍率といい、レバレッジは何倍となっているというように使う)。
 そして3回目が今回2006年9月に生じたアマランスの事件になる。これは2005年から2006年にかけて生じた原油価格急落、そして天然ガス相場急落により、天然ガス相場に著しく偏った運用をしていたアマランスが巨額損失を抱えたというものであって、8月末に90億ドルといわれた資産に対し、9月に明らかになった損失は56億ドル。アマランスの幹部は資産を売却して損失を確定させる道を選択。同ファンドは解体された。
 天然ガス市場というのは小さな市場。そこにこれだけの巨額資金をつぎ込み、ハリケーン襲来により価格が高騰することを狙った買い建てを大量にして失敗したとされている。アマランスの事件は、巨額損失事件ではあるが事件内容としては、ソロスのファンドの事件や、LTCMの事件と比べて、単にファンドが破たんしたという事件である。しかし国際的な金余りの中でヘッジファンドの規模が大変大きくなっていることを警告する意義があったし、ヘッジファンドに対する監視強化の議論が続く中での巨額損失事件という点から、注目されることになった。

3.ヘッジファンド監視強化論の台頭
 そもそもヘッジファンドは自らについてもほとんど情報を出さないものである。通常は投資家に対してすら月1回ファンドの時価について報告するだけである。投資家の側からみても、ファンドの中身が日々悪化しているのかも分からない存在である。
 アマランスの場合にもそのことが出ているが、こうしたファンドが巨額の資金を市場で動かし、それが市場の動向を左右するようになっていることを黙認していてよいのかというのが、金融機関監督機関や中央銀行の問題意識である。
 たとえば日本についてみると、株式市場の場合、いわゆる外国人売買とされるもののおよそ半分は、ヘッジファンドによるものとされている。つまり東証の売買の4分の1は今やヘッジファンドによるもの。株式や円相場で投機筋といった言い方は、ヘッジファンドの動きであることを暗に指している。
 この問題がやや前進しそうになったのは、2006年2月に長年の議論の末にSEC(米証券取引委員会)が、ある要件に該当するヘッジファンドについて登録制を導入したことである。その要件とは運用資産で3000万ドル以上、顧客数で15以上というもの。これでヘッジファンドの実態が浮かび上がることが期待された。ところがヘッジファンド側は訴訟で抵抗。2006年6月ワシントンの連邦高裁は、顧客数15という基準は恣意的な基準だとして、この登録制度を違法とする評決を下しこの登録制度は頓挫した。
なおこの登録制度の一時的実施によってあぶりだされたヘッジファンドの規模はおどろくべきものであった。ファンドの本数が1万3876。その運用資産規模は2兆40000億ドル(約280兆円)に達した。要件を満たしたものだけで、運用資産規模は一般に信じられていた規模の2倍あったのである。しかし残念ながらこの評決のあと登録を取り消すファンドが相次いでいる。ファンドの実態を明らかにする機会が失われたのである。
 イギリスでは2005年5月末に、金融サービス機構(FSA)がヘッジファンドを監視する特別チームを設置している。これはロンドンを拠点とする約200のヘッジファンドから、運用額が大きいあるいはリスクの高い投資戦略をとっている25社を選び、定期的に投資内容の報告を求めて、海外金融子会社の投資動向も含めて監視するというもの。
 またドイツ政府はヘッジファンドに対する監視強化を、先進国首脳会議の議題に加えることを提案したが、米連邦政府は、金融機関の監督を通じて間接的な監視ができているとして抵抗。2007年6月のハイリゲンダム・サミットは、ヘッジファンド問題は取り上げたものの、個別のファンドの資産内容や取引履歴の開示強化など具体的な提案には踏み込めなかった。
 しかしながら2007年8月に表面化したサブプライムローン危機においても、ヘッジファンドが危機を増幅させたとの指摘があり、監視強化に向けて今後も議論は続くだろう。

4.日本における監視強化と規制反対論の意味
 こうした中で日本では2007年9月の金融商品取引法施行に合せて、50人以上の一般投資家を出資者とする主に一般投資家を対象にするファンドについては登録を、またそれ以外の主に機関投資家を対象にするファンドについては届け出を、それぞれ義務付けた。日本で投資家を募集するファンドについては幅広く検査対象とした上で、主に一般投資家を対象にするファンドについては、金融商品取引法を根拠に包括的検査を行うとした。
 ヘッジファンドの募集金額が大額であることは、すでに見た通りだが、ファンズオブファンドの仕掛けを使うFOHF(fund of hedge funds)の中には1万ドル程度から受け入れているものもある。
 これまでファンドは事実上野放しであったことから、これは前進として国際的にも評価できる措置である。しかし市場の一部からは、このようなファンド規制は東京市場の振興と矛盾するという指摘がある。こうした市場関係者の指摘はどう考えるべきだろうか。
 私はこうした発言は、市場の側の利害にとらわれた発言で市場の望ましいあり方を熟考した発言ではないと考える。
 市場は実際のところはヘッジファンドの動きに振り回されそれへの対応が業務の大きな部分になろうとしている。すでにヘッジファンドなくして市場の売買は成り立たないともいえる。
 たとえば市場が求められている売買執行の迅速化や、大量の小口注文への対応。これにはネットを通じた個人取引の増加も反映しているが、ヘッジファンドなどによるアルゴリズム取引algorithmic tradingの影響が中心だとみてよい。この取引では1秒の数分の1といった速さで取引が執行されることが重要になってくる。そのことから証券会社とこのような取引を行う顧客との関係に変化が生ぜざるを得ない。間にいる証券会社はかえって取引速度の迅速化にはじゃまになるのである。そこで解決方法として登場したのがdirect market accessDMAと呼ばれるサービスである。証券会社は顧客に対して、顧客が取引所に直接アクセスできる環境(softwares & platforms)を提供する。そしてこのサービスの利用に対して利用料金を請求する。従来とは取引のスピードや量に基本的な違いが生じてきているといえる。
 このような変化への対応が取引所に求められている。
 最近話題になるヘッジファンド支援業務。プライムブローカレッジ*と呼ばれるヘッジファンド向けの施設や便宜を提供する業務(Dave Kansas, The Wall Street Journal. Complete Money & Investing Guidebook, Three River Press, 2005, pp.100-101.)。あるいはトレーダー経験者などが、ヘッジファンドを起業する場合の設備、資金集めなどを手伝い、そこを貪欲に自らの品揃えにつなげ、手数料を取得するビジネスだが、この中にDMAも含まれている。
 *prime brokerage の中核は以下のようなサービスとされている(Essvale Corporation, Business Knowledge for IT Investment Banking, Essvale Corporation:2006, p.48)。1)global custody 2)securities lending 3)financing 4)customised technology(provide hedge fund managers with portfolio reporting neede to effectively manage money) 5)operational support(prime brokers act as a hedge fund's primary operations' contact with all other dealers)

 ファンドの誕生から関与して収益化まで導くこのビジネスによって、証券会社とヘッジファンドの境目も低くなっている。ヘッジファンドに投資案をだしてもらうシンセティックブローカレッジもある。
 市場関係者の中に自らヘッジファンドに出資したりヘッジファンドを設立する者もいることまで考えれば、両者はかなり一体化している。市場関係者の一部から自らの首を絞めるヘッジファンド規制論を牽制する声が出るのは理解できる。
 しかし市場の透明性や公正性を確保するためには、ヘッジファンドの活動実態について開示を求めることや、ヘッジファンドに対して法律の順守(コンプライアンス)を要求することに、遠慮の必要はないと私は考える。
この点でもう一つの注目点は企業買収ファンドとヘッジファンドの仕切りが曖昧になってきていることである。従来、ヘッジファンドの株式投資は企業支配に関心をもたない短期投資だとされ、それが企業買収ファンドとの違いだとされていた。
 ところがヘッジファンドの中に、増配・自社株買い要求、部門や資産の売却、経営者の交代など経営改革の要求を掲げるものが増えてきた。背景にはファンドの乱立から従来の投資手法では利益を上げにくくなっている問題がある。
 しかしこのようなヘッジファンドの変身は、ヘッジファンドに対して、ほかの市場のプレイヤーと同じ規制に入る圧力を強める結果になっている。
アメリカで問題になっていることが日本でも参考になるだろう。たとえば証券会社からヘッジファンドに企業買収の内部情報の提供があるのではないか。企業買収における入札価格がファンド間で共謀して(ファンドが買い手連合を形成するものでクラブディールとよばれる手法で)入札価格を抑えることはないか。なお日本でも経営者が買収側となるMBOの場合、TOB価格が株主にとり不利だと問題になるケースがある。大量保有報告書の提出を意図的に遅らせていることはないか。
 実際に証拠も上がっている。2006年3月1日付けのフィナンシャルタイムズは英国のFSAが、2003年春の三井住友FGの優先株発行に際して、発行に関わったゴールドマンサックスから英ヘッジファンドのGLCは事前に情報を入手、不正な取引を行ったとして罰金を科すことにしたというのである。これは日本の市場でヘッジファンドが行っている数多くの不正のあくまで氷山の一角に過ぎないのではないか。
 2007年に入って、ニューヨーク証券取引所にまずフォートレスインベストメントが(2月)また続いてブラックストーンが上場している(6月)。日陰の存在であったヘッジファンドが、自ら公開の場にでてきて資金調達を図ったわけである。もはやヘッジファンドに対する規制を遠慮する必要はないのではないか。

参照
政府系ファンド(SWFs)

自己資金投資
 

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. 
originally appeared in April 26, 2008.
corrected and reposted in August 5, 2018.

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