Re:SALOON & VBA

あのひと

あのひとにあげられるものは
わたしには残っていなかった

過ぎ去った歳月は
次々にくぐり抜けるのに

手渡さなくてはならなかった
ひとつの言葉を
他のひとにあげてしまったので
夜の街のコーヒー店で
砂糖を入れることができない
コーヒーを飲んだ

なつかしむ言葉のひとつひとつが
わたしの心を少年に戻してゆくほど
あなたを
あのひとと呼び換えた日の冷たさが強まり

愛していたのにという
つぶやきを
砂糖のかわりに溶かしこんだ
コーヒーの味は
なおさらにがく心にしみとおった


塚原将『消せない時間』より
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