
電源開発株式会社 新井祐一(総合研究フォーラム67期)
実施日時:平成24年4月27日(金)
参加者:67期生14名
同行者:阿部滋朗事務局長
平成24年4月27日(金)の午後に、リポビタンDや発毛剤リアップで有名な大正製薬の工場見学会が催されました。場所は埼玉県さいたま市にある大宮工場、当地で勤務されている67期生の内藤さん(大正製薬)のご尽力によるもので、同期生14名プラス阿部滋朗事務局長の総勢15名にて参加させていただきました。
最寄り駅のニューシャトル今羽駅を下車し、あいにくの小糠雨の中、10分ほど歩くと大宮工場に到着しました。外側からの第一印象は、とにかく広い!の一言。その敷地の中には歴史のありそうな古い建物から、真新しい建物まで。入門してしばらく歩くと、建物の壁面におなじみのワシのマークがありました。
<机上説明>
最初にご案内いただいた共用棟の会議室で、まずは大正製薬と大宮工場の概要の説明がありました(ちなみにお茶請け?としてリポDが登場し、一同感動していました)。
大正製薬の本社は高田馬場(創業の地でもある)にあり、平成23年には持株会社制(純粋ではなく事業会社兼持株会社)に移行したそうです。年間の売上高は約2700億円、そのうち私たちが直接薬局で購入するなどのセルフメディケーション部門が62.2%、病院で使用される医療部門が37.8%との内訳とのことでした(生産高ベースでは医療部門は23%で、利益率はやはり医療部門のほうが高いとのこと)。
おなじみのワシのマークは昭和30年から使われているそうです。またリポビタンDの販売開始は昭和37年に遡り、今年でちょうど50周年とのこと。リアップは平成11年の販売開始ということでした。
平成23年5月時点で、販売している品目はOTC商品で251種類、医薬品で42種類あるそうですが、更にはパッケージされている個包装の数の違いなどを加えると(細別数というそうです)OTCは396種類、医薬品で99種類となるそうです。使用者のニーズに細かく応えている事情がうかがえます。
今回お伺いした大宮工場は、当初高田馬場にあった工場・研究開発施設が手狭になったことから、昭和38年にあった当地の工業団地の分譲にあわせて移転してきたそうです(東京ドーム3.6個分の敷地面積)。最近では平成2年に再開発し設備の充実を図ったとのことです。大宮工場ではリポビタンDなどのドリンク剤のみならず、錠剤やカプセル剤など主要な医薬品のほとんどを製造していて、現在では製薬工場としては東洋一の規模を誇っているそうです。他には埼玉県羽生市、岡山県岡山市にドリンク専用の工場もあるそうですが、規模は大宮工場がダントツのようです。
<製剤2号棟見学(ドリンク剤の製造)>
概要説明の後は、早速の製造設備の見学です。まずはドリンク剤を製造している製剤2号棟を見学しました。
工場は真新しい設備で、製造ラインを上から眺めることのできる見学者用通路が完備されています(これはこの後に見学した製剤1号棟、物流センターともに完備)。清潔感にあふれており、さすが製薬会社という印象です。地元の方の見学にも活用するなど、製薬工場が地域に受容されるよう努力されているとのことでした(余談ですが発電所は迷惑施設扱いが一般的ですが、製薬工場はどうなんでしょう)。
見学通路の両側に見学窓が設けられていて、大きくはビンへのドリンク充填機械、ビンへのラベル貼付機械、箱詰め機械、というようにエリアが分けられていました。ところで我々が到着したときには箱詰め機械のところで数名の方がラッピングする機械の調整中のようでして、機械の調整も直営でされているということがよくわかりました。
ビンへのドリンク充填機械は、なんというか、ごく精密かつ高速のメリーゴーラウンドがたくさん回っているという印象です。なんと1分間に1200本もの充填速度があるということで、充填速度は世界一ということでした。流れ作業でどんどんと空ビンが洗浄され、充填機械に流され、ドリンクが充填され、キャップが閉められ、ラベルが貼られ・・・と、余りに高速で最初は何がなんだかわからないのですが、目が慣れるにつれて徐々に細かい工程で何が行われているのかがわかっていくと、もう目が離せなくなります。工場マニアならずともいつまで見ていても飽きることはない光景です。
そうこうしているうちに箱詰め機械の修理も終わり、箱詰めのほうも順調にラインが流れ出していました。ライン間のコンベアには大量のビン詰め後のドリンクが滞留していましたが、設備トラブルに備えてラインを長く取ってバッファとしていることと、後工程のほうが早く処理できるような設計をしているとのことで、これで問題はないとのことでした。
見学通路にはドリンク剤の見本が置かれており、なるべくビンを軽量化するためにビンの肉厚を薄くしているが、自動販売機向けは衝撃に備えて従来通りの厚さとしているという説明をいただきました。そのような細かな違いがあることに皆驚いたようでした。
ちなみにほとんどの機械は日本製のもののようであり、日本専業メーカーの力はここにあり、というところでしょうか。
<物流センター見学>
ドリンク工場の後は、物流センターの見学です。ここではピースという、小売店向けの商品仕分け機械を見学しました。ベルトコンベヤラインの両側にシュートが並んでいて、それぞれに小売店個別からの受注品が落ちていく仕組みでした。大正製薬では歯ブラシ一本から注文を受け付けるということで、昔は全て人手で仕分けとパッキングをしていましたが、効率的に配送ができるようにこの機械を導入したそうです。
ちなみに機械が仕分けを間違えることはないそうですが、最終的な箱詰めは人手となっているため、ここで間違いが起こり、○×薬局から、「頼んだ商品が入っていない」と苦情が来ることもあるそうです。
<製剤1号棟見学(錠剤の製造)>
最後は製剤1号棟で錠剤の製造の見学です。まずは空ビンへの錠剤の充填と箱詰めまでです。最初に見たのは空ビンを箱から出すロボットです。ゆっくりと慎重に箱を切り、空ビンをラインに押し出しています。動きはドリンク工場と比べてずいぶんとゆっくりしていますが、これで十分だそうです。
次にビンの洗浄から錠剤のビン詰め、緩衝材の封入、キャップ締めまでの一連の工程です(ここでも日本製の機械が多数使われていました)。ビンの洗浄は水を使えないということで、エアー洗浄となっていました。ここでも基本は円運動で、ドリンク工場ほど早くはありませんがたくさんのメリーゴーラウンドが組み合わさりながら回転しているという印象を受けました。スピード自体はドリンクよりも遅いものの、ドリンクとは違って作業工程が複数あり、いつまで見ていても目が離せない光景です。ちなみにカプセル剤については、キャップの上下方向を揃えてビン詰めしているそうで、これをやっているのは大正製薬が唯一とのことでした。
その次は梱包です。目の前にあるのはたくさんの紙の束。なんだろうと思っていると、これは薬の説明書でした。説明によると、目の前にはざっと5000枚程度あるとのこと。これが順次送り出されながら折りたたまれ、薬ビンに重ねられて個包装の箱に詰められていくのを見ていると、一体どういう人間がこういう巧妙な機械を思いつくのだろうかと、ただただ感心するのみです。
引き続き製錠現場の見学です。一粒あたり約1トンの力をかけて粉薬を錠剤の形にしているそうです。有名なパブロン錠を作る機械では、1分間に1500錠、1日で60万錠も打ち出すことができるそうです。錠剤も打ち出して終わりではなく、最近では飲み間違い防止のため、錠剤の一粒一粒に名前を印刷するとの細かな仕事がなされます。薬価が上がるわけではないのに製造コストは上がることになり、なかなか大変だと思いました。
製錠現場で驚いたのは、製造不具合のチェックに機械処理(カメラ撮影)だけではなく人間の目が使われていること。しかも機械よりも人間のほうが精度が高いと聞き、二度驚きです。こういうチェックをできるのは女性だけとのことで、やはり男というのは忍耐力の必要な作業は苦手のようでした。作業に従事されている方はこれ専門で就職しているわけではなく、普通に採用された方のなかから適性ありということで抜擢されるそうです(工場の一般的な仕事もこなされているそうです)。毎年サンプル品を用いた検定試験を受けた上で従事しているとのことで、「言われても傷があるようには見えない」ような傷でも発見できるそうです。ちなみに「この作業のための手当てなどはない」とのことでした。
製錠工場の見学途中、窓から今は使われていない工場の建屋を眺めることができました。屋根に段差があり、不思議な形をしていますが、これは当時の社長の強い意向により、ワシのマーク(羽を広げた様子)をかたどったためとのことでした。
<見学を終えて>
はじめて見た製薬工場は驚きの連続でした。思った以上に機械化が進んでいるというのに、全てを機械に委ねるのではなく、ロットが少ない商品などは引き続き人手でパッキングを行うなど、硬軟取り混ぜて製造コストを下げる努力されていることがよくわかりました。一方で、人の命に直結することもある医薬品ということで製造工程等を変えるにしてもいちいち国の承認が必要となることを考えると、機械化にあたっては十分な検討と検証が必要だということも想像できました。
東日本大震災を受け、事業継続プランの策定にも力を入れているとのことで、原料メーカーもなるべく分散させるようにしているそうで、メーカー毎の微妙な成分の調整などもまさにノウハウの塊なのだなと思いました。製薬業界への新規参入などはおいそれとできるものではない、と強く感じました。
見学会の最後は大正製薬御用達の大宮にあるもんじゃ焼き店で懇親会です。もんじゃ焼きという名前とは裏腹に、出てくる料理は鉄板焼き屋といわれても通じるようなものばかり。こういう店が会社の近くにあればみんな入り浸るのは間違いなしというおいしい料理ばかりでした。大正製薬のみならず、大宮の懐の深さを知ることができた見学会でした(その後有志の方々はさらに大宮の奥地に分け入っていかれたようです)。
最後に、お忙しい中今回の見学会実施にご尽力いただきました大正製薬の内藤さん、現場での見学や質疑での対応をしてくださったフォーラムOBの方々、大正製薬 大宮工場の皆様に厚く御礼申しあげます。