野の花 庭の花

野の花や山の花は心を慰めてくれます。庭園に咲き誇る花は心をはなやかにしてくれます。

長らく人々に親しまれてきたカラスウリ

2019年10月05日 09時07分47秒 | 

カラスウリの赤い実は誰もが知っているだろうが、白いネットのような花を開くことはあまり知られていないかもしれない。昼間はしぼんでしまうので、なおさらだ。赤い実をランタンにして遊ぶという風習は初めて知った。カラスが好んで食べるからカラスウリだと信じていたが、カラスがとくに好むという事実はないようだ。それでもこの植物が親しまれていることは、「玉章(たまずさ)・ツチウリ・キツネノマクラ・ヤマウリ」などの多数の別名をもっていることからもうかがえる。玉章は手紙のことだが、「種子の形が結び文に似ているところから」らしい。はて、あの実が結び文に似ているだろうか。もちろんこれほど親しまれている植物だから、俳句の世界でもなじみの季題だ。「烏瓜ともりひとりの園遊会 山口青邨」。

(2019-09 川崎市 道端) 

 

 

カラスウリ(烏瓜、唐朱瓜、Trichosanthes cucumeroides)はウリ科の植物で、つる性の多年草。朱色の果実と、夜間だけ開く花で知られる。地下には塊根を有する。

概要
原産地は中国・日本で、日本では本州・四国・九州に自生する。林や藪の草木にからみついて成長する。葉はハート型で表面は短い毛で覆われる。雌雄異株で、一つの株には雄花か雌花かのいずれかの実がつく。別名:玉章(たまずさ)・ツチウリ・キツネノマクラ・ヤマウリ。

生態
4月-6月にかけて塊根から発芽、あるいは実生する。花期は夏で、7月-9月にかけての日没後から開花する。雄花の花芽は一ヶ所から複数つき、数日間連続して開花する。対して雌花の花芽は、おおむね単独でつくが、固体によっては複数つく場合もある。花弁は白色で主に5弁(4弁、6弁もある)で、やや後部に反り返り、縁部が無数の白く細いひも状になって伸び、直径7-10cm程度の網あるいはレース状に広がる。花は翌朝、日の出前には萎む。こうした目立つ花になった理由は、受粉のため夜行性のガを引き寄せるためであると考えられており、ポリネーターは大型のスズメガである。カラスウリの花筒は非常に長く、スズメガ級の長い口吻を持ったガでなければ花の奥の蜜には到達することはできず、結果として送粉できないためである。

雌花の咲く雌株にのみ果実をつける。果実は直径5-7cmの卵型形状で、形状は楕円形や丸いものなど様々。熟する前は縦の線が通った緑色をしており光沢がある。10月から11月末に熟し、オレンジ色ないし朱色になり、冬に枯れたつるにぶらさがった姿がポツンと目立つ。鮮やかな色の薄い果皮を破ると、内部には胎座由来の黄色の果肉にくるまれた、カマキリの頭部に似た特異な形状をした黒褐色の種子がある。この果肉はヒトの舌には舐めると一瞬甘みを感じるものの非常に苦く、人間の食用には適さない。鳥がこの果肉を摂食し、同時に種子を飲み込んで運ぶ場合もある。しかし名前と異なり、特にカラスの好物という観察例はほとんどない。


栄養繁殖の状況
上に突き出しているのが、前年土中にもぐりこんだ蔓の跡
地下にはデンプンやタンパク質をふんだんに含んだ芋状の塊根が発達しており、これで越冬する。夏の間に延びた地上の蔓は、秋になると地面に向かって延び、先端が地表に触れるとそこから根を出し、ここにも新しい塊根を形成して栄養繁殖を行う。

名前については、カラスが好んで食べる、ないし熟した赤い実がカラスが食べ残したように見えることから命名された等、諸説ある。

昆虫との関係
ミスジミバエ
カラスウリ属の野生植物の雄花にはミバエ科のハエであるミスジミバエ Zeugodacus scutellatus (Hendel, 1912) の雌が飛来し、産卵する。ミスジミバエの幼虫を宿して落花した雄花はミバエの幼虫1個体を養うだけの食物量でしかないが、ミスジミバエの1齢幼虫の口鉤(こうこう:ハエの幼虫独特の口器で、大顎の変化した1対の鉤状の器官)は非常に鋭く発達しており、他の雌が産みつけた卵から孵化した1齢幼虫と争って口鉤で刺し殺し、餌を独占する。

 カラスウリ類の結実後の実にのみ産卵する種がある。例えばキカラスウリの果実にはカボチャミバエ Dacus (Paradacus) depressus Shiraki の幼虫が寄生して内部を食害する。
利用
種子はその形から打ち出の小槌にも喩えられる。そのため財布に入れて携帯すると富みに通じる縁起物として扱われることもある。中国では医薬原料として活用されており、果実・種子・塊根ともに生薬として利用されている。かつては日本でも、しもやけの薬として実から取れるエキスが使用された。若い実は漬物にするほか、中身を取り出し穴をあけてランタンにする遊びに使われる。また、カラスウリの根を煎じて、ぜんそく薬にしたり、果汁を手足などのひびに塗ったりするという伝統的民間療法が長野県阿智、喬木村などに残っている。近年ではインテリアなどの用途として栽培もされており、一部ではカラスウリの雌雄両株を出荷する農園も存在する。

烏瓜 の例句 

あきもやゝ黒みに入ぬからす瓜 夏目成美
いつの間に空き家となりし烏瓜 飴山實 句集外
うす~と霜の降りたる烏瓜 清崎敏郎
うれしさもこどものくれしからすうり 森澄雄
かつてなき女によき世からすうり 森澄雄
かなしけれ一つ並びに烏瓜 中村汀女
からすうりびつしり思ひとどまるか 飯島晴子
からすうり大方読めぬ芭蕉句碑 百合山羽公 樂土以後
からすうり瓜人先生住ひけり 百合山羽公 春園
からす瓜そも~赤きいはれなし 松窓乙二
からす瓜有にまかせてながめけり 寥松
からす瓜珱珞となり高野道 阿波野青畝
からす瓜舌切婆の切りしもの 鷹羽狩行
この道は亡びゆくみち烏瓜 鷹羽狩行
しくるゝやいつまで赤き烏瓜 正岡子規 時雨
つる引けば遥に遠しからす瓜 酒井抱一
てのひらに捨つるつもりの烏瓜 燕雀 星野麥丘人
ひぐれはじめのひつぱりきれぬ烏瓜 加藤秋邨
ひたひたと跣足に来れば烏瓜 中村汀女
ぶらさがつてゐる烏瓜は二つ 種田山頭火 草木塔
みづから青き水傲慢や烏瓜 中村草田男
むかしかの優婆夷なりしか烏瓜 橋閒石 和栲
わが乳は烏瓜よと告白せよ 平井照敏 天上大風
マツ赤になつて烏瓜踊つてるばかり 尾崎放哉 小豆島時代
何か鎖ゆるみし如く垂れ烏瓜 山口青邨
何ごともなき日の暮の烏瓜 岸田稚魚
冬ざれや天より垂るる烏瓜 山口青邨
冬枯や賤が檐端の烏瓜 正岡子規 冬枯
別るるや野分がゆする烏瓜 野澤節子 未明音
十二橋橋のたもとの烏瓜 阿波野青畝
十五夜のこそつく風や烏瓜 阿波野青畝
只一つ高きところに烏瓜 正岡子規 烏瓜
名鐘や藪烏瓜よごれつつ 岡井省二 鹿野
向う岸なに焚きをるや烏瓜 飴山實 句集外
堤の木ひよろと立つなり烏瓜 河東碧梧桐
夕日して垣に照合ふ烏瓜 村上鬼城
夕映を賜りし孤の烏瓜 林翔
大峰の照り直すとき烏瓜 岡井省二 明野
女の手からす瓜までとどかざる 燕雀 星野麥丘人
子供とも遊ばずなりぬ烏瓜 相生垣瓜人 微茫集
山の間を雁の渡りし烏瓜 森澄雄
山川のうらぶれしるく烏瓜 飴山實 句集外
恵まれて未知の天より烏瓜 古舘曹人 能登の蛙
抛り捨てある烏瓜蔓ながら 清崎敏郎
掌の温み移れば捨てて烏瓜 岡本眸
提げ来るは柿にはあらず烏瓜 富安風生
数へ日のもののひとつの烏瓜 石田勝彦 秋興以後
旅恋うて旅が重しよからすうり 岡本眸
日は墓の家紋をはなれ烏瓜 古舘曹人 能登の蛙
明史来ぬ飄と提げきて烏瓜 石川桂郎 四温
暮れかけて遠嶺くつきり烏瓜 加藤秋邨
曼珠沙華烏瓜また猫の話(丹波にて二句) 細見綾子
木の実らにはじき出されて烏瓜 斎藤玄 雁道
枯るる前すでに痩せたるからすうり 能村登四郎
染上て蔓やそろ~烏瓜 三宅嘯山
梵妻を恋ふ乞食あり烏瓜 飯田蛇笏 山廬集
橘寺うら爛熟の烏瓜 石田勝彦 雙杵
武家屋敷から電線へ烏瓜 飴山實
殉教の碑に垂れさがり烏瓜 有馬朗人 母国
水車場を圍む小藪や烏瓜 正岡子規 烏瓜
流寓のわが目に縋るからす瓜 百合山羽公 寒雁
灯籠に二つは多し烏瓜 山口青邨
烏瓜あかねの雲の落し子か 鷹羽狩行
烏瓜くれたる人の夜寒かな 石橋秀野
烏瓜しんじつたかきところより 飴山實 辛酉小雪
烏瓜つついて種の佛かな 岡井省二 有時
烏瓜つづる藪ゆき祈り捨てず 山田みづえ 忘
烏瓜ともして山河むつみあふ 飴山實 句集外
烏瓜ともりさびしきお縁日 山口青邨
烏瓜ともりて人を案内す 山口青邨
烏瓜ともりひとりの園遊会 山口青邨
烏瓜は短かく糸瓜長き哉 尾崎放哉 大学時代
烏瓜まつ赤な嘘の自句自註 鷹羽狩行
烏瓜もてばモジリアニイの女 有馬朗人 母国
烏瓜われに顔あるめでたさよ 岡井省二 前後
烏瓜一夜の顔のありにけり 岡井省二 山色
烏瓜三つほどが見えあとは暮れ 岸田稚魚
烏瓜五六箇下げて重さなし 後藤比奈夫
烏瓜人知れずこそ紅を得ぬ 山田みづえ 草譜
烏瓜地蔵に似たる石ばかり 山田みづえ 手甲
烏瓜幾日溺れし潮を吐く 木村蕪城 寒泉
烏瓜引きし分だけ景色減る 後藤比奈夫
烏瓜引くや子地獄一歩出て 伊藤白潮
烏瓜手がかりもなく残りけり 阿波野青畝
烏瓜提げたり蝶も付き来れ 相生垣瓜人 明治草
烏瓜提げても来よと人を待つ 後藤夜半 底紅
烏瓜朱なり水ゆく無明かな 加藤秋邨
烏瓜松の高さに熟れゐたり 細見綾子
烏瓜氏神様のなつかしや 阿波野青畝
烏瓜沼へ傾く午の道 角川源義
烏瓜海に拾ひて海の裔 木村蕪城 寒泉
烏瓜減りゆくまゝにかゝりけり 百合山羽公 春園
烏瓜滅多に赤し姥の道 斎藤玄 雁道
烏瓜炊ぎげむりのすいと伸び 阿波野青畝
烏瓜烏は食はぬ御苑かな 阿波野青畝
烏瓜生りゐし崖の上に出づ 山口誓子
烏瓜畳押さへて嫗起つ 中村草田男
烏瓜老の手力あまりけり 阿波野青畝
烏瓜莟をあげて垣越ゆる 山口青邨
烏瓜蔓したたかの好機なり 平畑静塔
烏瓜蔓切れ切れに残りたる 右城暮石 上下
烏瓜藪からめ伊賀には忍町 福田蓼汀 秋風挽歌
烏瓜見つけしからに取らでやは 相生垣瓜人 明治草抄
烏瓜言葉何やら聞きもらし 中村汀女
烏瓜赤き日向の山へゆく 森澄雄
烏瓜赤しと子らの触れゆきね 定本亜浪句集
烏瓜離れず住んで片便り 飴山實 句集外
烏瓜高き曇りに入ることも 岡井省二 鹿野
生飯台のめしに日あたる烏瓜 岡井省二 明野
畑焚火烏瓜さへ投げこまれ 上田五千石 琥珀
異人館跡てふ高さ烏瓜(八王子奥に昔の絹の道あり) 細見綾子
白き蔓白き枯葉の烏瓜 後藤夜半 底紅
盆に菓子なく赤き烏瓜をおく 山口青邨
石神の首が坐る烏瓜 古舘曹人 樹下石上
禰宜よりは社家の好みの烏瓜 平畑静塔
竪縞のしやれてゐし青烏瓜 後藤比奈夫
竹林に蔓掛け渡す烏瓜 右城暮石 虻峠
竹藪に一つる重し烏瓜 正岡子規 烏瓜
竹藪に入音しけり*からすうり 惟然
笑ひこけたりしは縞の烏瓜 岡井省二 大日
絶壁の青苔の縁剥がれさう 佐藤鬼房
考へつつ歩きつつふつと赤いのは烏瓜 種田山頭火 自画像 落穂集
聞かれたる旅の寝言の烏瓜 加藤秋邨
色も失せ重さも失せて烏瓜 山口青邨
色見せてよりの存在烏瓜 稲畑汀子
蔓といふ真剣なもの烏瓜 後藤比奈夫
螳螂の首くゝりけり烏瓜 正岡子規 烏瓜
行く秋のふらさかりけり烏瓜 正岡子規 烏瓜
見る見るに暮れたるものに烏瓜 中村汀女
赤革が殻になるまで烏瓜 百合山羽公 樂土以後
車窓よりさやにも見たり烏瓜 相生垣瓜人 負暄
近づいてみて見失ふ烏瓜 稲畑汀子
邊見隊守りし嶮ぞ烏瓜 水原秋櫻子 殉教
食卓にあり食べられぬ烏瓜 山口誓子
騒しく引かれて烏瓜の蔓 後藤夜半 底紅
騒然たるわが半日と烏瓜 加藤秋邨

 

 



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