橙色の南国風の花を咲かせるノウゼンカズラは、平安時代に到来したという。中国名は凌霄花で、天を凌ぐ花という勇ましい名前だ。そんなに高くなっている株はみたことがないが、勢いのある花なのだろう。「その子ずけずけ亡父を語るのうぜんかずら 金子兜太」という句はこの勢いと傲慢さをうたったものだろうか。もう花が終わった株が多いようだが、まだちらほらと見かける。日本には珍しい元気な花の色を楽しみたい。「のうぜんのもと踊り子の待ち合はす 大野林火 潺潺集 昭和四十年」。
(2019-06 川崎市 路傍)

ノウゼンカズラ
開花時期 6月、7月、8月、9月
花の色 オレンジ
名前の読み のうぜんかずら
分布 原産地は中国。
日本へは平安時代に渡来。
生育地 庭植え
植物のタイプ 樹木
大きさ・高さ 2~5m
分類 ノウゼンカズラ科 ノウゼンカズラ属
学名 Campsis grandiflora
花の特徴 オレンジ色の大きい漏斗状の花をたくさんつける。
花径は5~10センチくらいある。
雨や曇の日が続くと、花や蕾が落ちやすくなる。
葉の特徴 葉は向かい合って生える(対生)。
奇数羽状複葉(鳥の羽のように左右に小葉がいくつか並び、先に1つの小葉がついて1枚の葉が構成される)である。
3対~6対の小葉からなり、先に1枚の小葉がつく。
小葉の形は細長い卵形で、先は細長く尖り、縁には粗いぎざぎざ(鋸歯)がある。
実の特徴 花の後にできる実はさく果(熟すると下部が裂け、種子が散布される果実)である。
この花について 属名の Campsis はギリシャ語の「campsis(湾曲)」からきている。雄しべが弓形をしていることから名づけられた。
種小名の grandiflora は「大きな花の」という意味である。
その他 漢名は凌霄花(りょうしようか)で、凌には「しのぐ」、霄には「そら」の意味がある。
「天を凌ぐほど高く登る花」という意味になる。
「ノウゼン」や「ノウゼンカ」とも呼ばれる。
俳句の季語は夏である。
近年はアメリカ凌霄花(アメリカノウゼンカズラ)と交配した園芸品種が販売されており、赤のより濃いものや桃色、黄色などのものもある。
凌霄花 の例句
あしたより天の灼けつゝ凌霄花 百合山羽公 春園
おんばしら見むと凌霄咲き昇る 林翔
くろぐろと夜空なだるる凌霄花 岡本眸
この庵の尼の住まへる凌霄花 森澄雄
その子ずけずけ亡父を語るのうぜんかずら 金子兜太
ながあめの切れ目に鬱と凌霄花 佐藤鬼房
のうぜんかづら垣越えて旭の早し 大野林火 冬青集 雨夜抄
のうぜんのかさりかさりと風の月 下村槐太 天涯
のうぜんのもと踊り子の待ち合はす 大野林火 潺潺集 昭和四十年
のうぜんの吹かれて花をおとしけり 百合山羽公 春園
のうぜんの散る日の山の平かな 星野麥丘人
のうぜんの花の蔓より蟻のみち 百合山羽公 春園
のうぜんの花をいたゞき蝉涼し 百合山羽公 春園
のうぜんやけふ荒海の一とたひら 森澄雄
のうぜんや塔婆のごとく風垣立つ 角川源義
のうぜんや服薬暗く身に残り 岡本眸
のうぜんや真白き函の地震計 日野草城
のうぜんや道尋ぬるに煙草買ふ 森澄雄
のうぜんや遺りし者ら顔洗ふ 岡本眸
のうぜんや釘のとび出す塀の裏 古舘曹人 砂の音
ほふしぜみ凌霄かつら花を盡くす 百合山羽公 春園
むかし吾を縛りし男の子凌霄花 中村苑子
わが馬にしばしの陽射しのうぜんかずら 金子兜太
凌霄に井戸替すみし夕日影 西島麦南 人音
凌霄のかづらをかむり咲きにけり 後藤夜半 翠黛
凌霄の光に堪へぬ眼を洗ふ 橋閒石 雪
凌霄の花と羽抜けし鵜の貌と 百合山羽公 春園
凌霄の花に蝉鳴く真昼哉 正岡子規 凌霄花
凌霄の花の封印鉄の門 上田五千石『田園』補遺
凌霄の花凌霄の花の蟻 後藤夜半 底紅
凌霄の花落ちて魚棲まぬ水 橋閒石 雪
凌霄の落花に蕾まじりたる 右城暮石 散歩圏 補遺 頑張れよ
凌霄の蟻を落して風過ぎぬ 稲畑汀子
凌霄の高きより垂れ御師の家 能村登四郎
凌霄の鳥の巣ひひなかへりけむ 山口青邨
凌霄は妻恋ふ真昼のシャンデリヤ 中村草田男
凌霄やからまる縁の小傾城 正岡子規 凌霄花
凌霄や一つる垂れし花かつら 正岡子規 凌霄花
凌霄や刻を待たずに山の雨 岸田稚魚
凌霄や小銭欲しくて煙草買ふ 森澄雄
凌霄や暗き窓より人の顔 岸田稚魚 紅葉山
凌霄や朝の千曲へ虻唸る 森澄雄
凌霄や温泉の宿の裏二階 正岡子規 凌霄花
凌霄や煉瓦造りの共うつり 正岡子規 凌霄花
凌霄花したたか浴びし朝雫 能村登四郎
凌霄花に夕日まだあり水を打つ 星野立子
凌霄花に沈みて上るはね釣瓶 星野立子
凌霄花に蝉のたよむら隣りたる 百合山羽公 春園
凌霄花に鵜川もあつき日をあげぬ 百合山羽公 春園
凌霄花の咲き垂れし門父母います 加藤秋邨
凌霄花の朱に散り浮く草むらに 杉田久女
凌霄花の灼土に花のおびたゞし 百合山羽公 春園
凌霄花の窓より灼くる街のみち 百合山羽公 春園
凌霄花の落ちてかかるや松の上 山口青邨
凌霄花や思ひのいつか丈となり 鷹羽狩行
凌霄花や旦の蝉の啼きいづる 百合山羽公 春園
凌霄花咲いてゐたりしどこなりしや 安住敦
凌霄落花人を馘りたりしこと 日野草城
名も知らぬ木に凌霄のさかり哉 正岡子規 凌霄花
噴井あり凌霄花これを暗くせり 富安風生
塞の神のうぜんの花うちかぶり 飴山實 次の花
塵とりに凌霄の花と塵すこし 高野素十
夕立やのうぜんかつらたちさわぎ 百合山羽公 春園
夭逝の蕩児なりけり凌霄花 佐藤鬼房
子鴉に凌霄花日ごと咲きのぼり 松村蒼石 寒鶯抄
家毎に凌霄咲ける温泉かな 正岡子規 凌霄花
寧んぜば老いむよ雨の凌霄花 岡本眸
廃屋と見えて凌霄の残り花 能村登四郎
手の切れるやうな朝来て凌霄花 能村登四郎
旅に遭ふ岬のまつり凌霄花 能村登四郎
松高き限りを凌霄咲きのぼる 橋本多佳子
櫛のみね光らせ農婦のうぜんに 大野林火 潺潺集 昭和四十二年
武家屋敷の臆病窓に凌霄花 松崎鉄之介
湖のへに凌霄かづら咲きのぼる 角川源義
滝水を引きのうぜんの花咲かす 右城暮石 虻峠
百日紅となりにのうぜんかづらいま 篠原梵 年々去来の花 中空
笠雲の岩木間近に凌霄花 佐藤鬼房
花殖えてきて凌霄の燃え雫 能村登四郎
蔓枯れて姫凌霄の忘らるる 後藤比奈夫
藪裾の凌霄花は日をたかぶらす 角川源義
蜩といまのうぜんの遊び蔓 大野林火 方円集 昭和五十二年
蝉取の凌霄の花おとしゆく 高屋窓秋
蟻地獄のうぜんかつら花垂りぬ 百合山羽公 春園
見し夢の数ほど落ちてのうぜん花 石田勝彦 秋興
踊り子の少年少女のうぜんかずら 金子兜太
車窓いまのうぜんに燃ゆ野川も過き 大野林火 雪華 昭和三十四年
遠く見ゆ草山日照る凌霄花 松崎鉄之介
雨のなき空へのうぜん咲きのぼる 長谷川素逝 暦日
雨夜の空のうぜんかづら咲きのぼり 大野林火 海門 昭和七年以前
風の凌霄ここの覧(み)きれいな岩木山 中村草田男
風の凌霄楽の終曲高まりつつ 野澤節子 未明音
風の凌霄見し眼をつむり昼寝せり 野澤節子 未明音
鵜の宿の凌霄かつら晨の日に 百合山羽公 春園